内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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日曜日からの日間総合ランキング24位に驚愕しました。嬉しいですがどうしてそうなった()


episode 139 種族

 

 

 

―アクセルの街・ウィズ魔法店―

 

 

「それはそれとして、今日はアリスさんの為に取っておきの魔晶石を入荷したんですよ♪」

 

早速の商売タイム。ウィズさんは何気ない会話の最中にもこうして商品を勧めてくる時がある。魔晶石となると私の求めるフレアタイトの魔晶石はあるのだろうか、そう期待していると、ウィズさんは店の奥から宝石箱のようなケースを持ってきてカウンターの上に置くと、その箱を開けた。

 

「…これはまた見事なフレアタイトの魔晶石ですね…」

 

「…確かに…、以前買ったものと光沢が違う気がします」

 

それは豪華な宝石箱に収まってて相応しいと思える輝きを見えていた。明らかに以前購入したフレアタイトとは違う、別物のようにも見えてしまう。

 

…しかしこれはあまりにも準備が良すぎではないだろうか。普通に考えたら私が既に持っているフレアタイトの魔晶石を買う可能性は低い。それにアンリの対応も的確すぎる、あくまで普通の少女と接するようにしていて、まるでこちらの事をほとんど把握しているようだ。

 

…と、ここまで考えたら何故そうなったのか、その答えは単純にして明確。

 

「…ウィズさん、バニルさんですね」

 

「…あ、あはは…やっぱり分かっちゃいましたか?」

 

バニルの名を出した事で苦笑するウィズさん。つまりアンリへの対応も、このフレアタイトの魔晶石の用意周到さも、バニルによる差し金なのだろう。まあこちらとしては手っ取り早く事が解決するので悪い事ではない。

 

「こちらのフレアタイトはですね、以前アリスさんがお買い上げしてくださった物とは純度が異なります。これだけ高純度のものはとても珍しいので、それなりにお値段はかかりますが……」

 

純度については以前ウィズさんからフレアタイトを見せてもらった際に説明を受けた事がある。魔晶石の純度は単純に高いほどあらゆる性能が上がる、私が以前買ったフレアタイトの魔晶石の純度はそこまで高いものではない。それでも今回の私のように半年足らずで壊れてしまうことは通常ありえないのだけどそれは私の魔法そのものの威力が大きいせいだろう。だからこそ必然的に私が扱う魔晶石は高純度のものが求められてしまう。戦いの大事な場面で壊れてしまってはこちらの命に関わってしまう、守るべきものが守れなくなってしまう、そんな局面だけは迎える訳にはいかない。

 

「…なるほど、では買いましょう」

 

「値段も聞かずに!?」

 

声をあげたのはカズマ君。めぐみんやゆんゆんも絶句している。これは確定的に私がお金使いの荒い子扱いされているだろう。私もカズマ君達の立ち位置ならそう思うかもしれない。

 

だが今このフレアタイトの魔晶石は既に私の杖にピッタリ収まる大きさに加工済なのである。これがどういう事なのか、それは単純にバニルがそう見通したからであろう。…私がこのフレアタイトの魔晶石を購入すると。ならめんどくさい事を言う前にさっさと購入を決めた方がいいだろう。まだゆんゆんの買い物もあるのだから。

 

それは予想通りだったのかもしれない。それでもウィズさんは私の返答に目を輝かせてとても嬉しそうにしていた。

 

「ありがとうございます!料金ですが3500万エリスになりますっ!」

 

「「…っ!?!?」」

 

「ちょっと待ってくださいね、収納用魔道具から取り出しますので…」

 

カウンターの上に積まれていく札束。またも絶句するカズマ君とめぐみん、そして幸せそうにお金を数え始めるウィズさん。何気に人生で一番高い買い物だけど全く問題はない。

 

「……なぁ、アリス。アリスって今どれくらいお金持っているんだ…?」

 

「…さぁ?…いちいち数えていませんが……最低でも二億以上はあると思いますけど」

 

なんか以前にも驚かれたけど何故そんなに驚くのか私には本当に理解できない。私の収入はゆんゆんと全く同じである、だからゆんゆんも私と同じ程度のお金は持っている。更にそのお金のほとんどは魔王軍の幹部討伐による報酬だ、つまりカズマ君達だってそれくらい持っていてもおかしくはないはずなのだ。むしろデストロイヤーの報酬とかを考えれば単純に私以上に持ってて当たり前なのである。

 

特に私の場合、必要経費が限りなく少ない。カズマ君の屋敷を間借りしているので家賃はかかっていない。お酒は飲まない、装備品はアクア様による転生特典のおかげで魔晶石くらいしか必要ない。食費やクエストで必要な最低限のポーションなどにお金を使うくらいだ。なおそれらの出費の1ヶ月分は一度王都でクエストを達成しただけでお釣りがくる。私はクエストを週に4回は受けている。それだけでもお金はどんどん貯まっていくのだから例え魔王軍幹部の討伐報酬がなかったとしても困ることはまずない。

 

「…前にもそんな反応をしてましたけど…私のお金のほとんどは魔王軍幹部の討伐報酬ですよ?つまりカズマ君達も同じくらいは持っているはずなんですけど…」

 

「そりゃお前……クエスト行く度にアクアが水害起こしたりめぐみんが爆裂魔法で余計な損害起こしてくれるからな。討伐報酬なんてあってもその賠償金でほとんど残らないんだよ」

 

「……えぇ……」

 

思わずめぐみんを見てしまうとめぐみんは平然としている。悪びれすらしていない。以前裁判で責められていたようにパーティメンバーの責任はリーダーの責任となるのは法により決まっていることなのだろう。だからと言ってめぐみんがそれを理由にさも当然と振舞っている訳ではないだろう。

 

「爆裂魔法は究極の破壊魔法ですよ?少しくらいの損害は必要経費じゃないですか」

 

「そんなんだから巷から頭のおかしい爆裂娘とか呼ばれてんだよ!!お前もうアリスのパーティに行けよ!!」

 

「何を言っているのですか、私は上級魔法を覚えるつもりでしたよ?それをカズマがさせてくれなかったんじゃないですか。私(の冒険者カード)をあれこれいじっておいて今更そんな事言われても通りませんよ、責任をとってください」

 

「誤解を招く言い方してんじゃねーよ!?ウィズが完全に引いてんじゃねーか!違うからな?冒険者カードを、だからな?俺はめぐみんに頼まれてやっただけだからな?」

 

なるほど、めぐみんが平然と振舞っている理由はこれだ。紅魔の里でめぐみんはカズマ君に上級魔法を取得すると宣言し、カズマ君にそれを委ねて…カズマ君は爆裂魔法のパワーアップを選択した。それは言い換えればこれまでの爆裂魔法による被害を黙認するとも取れてしまう。

とりあえずこちらとしてもそんな状況なら遠慮したいと顔で表現しておいた。ウィズさんも苦笑するしかできていない。そんな中私は、怒鳴るカズマ君をアンリが恐怖するように震えて見ていたことに気付いた。

 

「カズマ君、あまり大声で怒鳴らないであげてください、アンリが怖がってます」

 

「…あっ、悪い…」

 

『…狼さん――怖い……』

 

小声ながらそれは全員の耳に届き、怒鳴っていたカズマ君もバツが悪そうに静まり返った。それを聞いていたウィズさんはキョトンとして首を傾げた。

 

「…あの、狼さん、とは……?」

 

「あぁ、それでしたら単純ですよ。カズマが…うぷっ!?「悪かった、俺が悪かっためぐみん!!だから少し黙ろうか!!」……むぐぅ!!むぐぅ!!」

 

慌ててめぐみんの口を塞ぐカズマ君。その話題が出てしまえばカズマ君に勝ち目はない。ただ同情はできない、そうなったのは自業自得でしかないのだから。

 

「とりあえずアンリ?俺はカズマ、サトウカズマ!まずその狼さんって呼び方をやめようか?」

 

『……狼さん――!!』

 

何故か頑なに拒むアンリ。しかしその判断は正しい。よってアンリの頭を撫でておく。

 

「ちきしょー!俺に味方はいないのか!?」

 

逆に何故味方がいると思ったのか。爆裂魔法の被害の話から例の話にシフトした時点で情状酌量の余地はない。これは罰なのだ、是非カズマ君には受け入れて頂きたい。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

さて、後はゆんゆんの杖についてになるのだけどアンリの件、そして私のフレアタイトの件とウィズさんはバニルから聞いていた。ならばゆんゆんの杖についても此処で解決できるのではないだろうか、そう期待を膨らませていた。

 

「ウィズさん、バニルから聞いているのでしたらゆんゆんの杖の事も聞いてますよね、ここにいい物があったりします?」

 

「ゆんゆんさんの杖ですね、確かに聞いてますがうちはあくまで魔道具店なので杖は流石に……あ、そこの棚にある杖なんていかがですか?魔力なしで爆発魔法が使えるすぐれものなんですよ!」

 

「それ使うと使用者も巻き添えを喰らう自爆杖だよな!?まだ置いてたのかよ!?」

 

何気なくウィズさんの指す棚の杖を見ていれば物騒なデメリットが聞こえてきた。杖を取ろうとしたゆんゆんの手も当然のごとく止まってしまう。

 

「……す、すみません、それは流石に…」

 

「そうなんですか?凄くいい品なんですが……」

 

「ちなみに我が父、ひょいざぶろーの作品になります」

 

「えぇ!?」

 

何故売れると思ったのか理解はできないがガッカリしているウィズさん。そしてまさかのめぐみんのお父さんの作品らしい。魔道具を作っていると言う話は聞いた事はあったがこんなものばかりを作っていたら売れるはずがない、めぐみんの実家が貧乏なのも頷ける。更に聞いた話ではめぐみんの仕送りのほとんどをひょいざぶろーさんは魔道具の制作費用に当てているのだとか、流石のめぐみんもこの話を聞いた時は怒り狂っていた。

 

 

 

閑話休題。元々期待していなかったのだから仕方ないのだがやはりここにゆんゆんの使えそうな杖はないらしい。

 

「うちにはないのですが…私が冒険者をしていた頃の鍛冶屋さんを紹介することはできますよ♪」

 

人差し指を立て笑顔で告げるウィズさんだけど、その笑顔の裏ではもしかしたら自身の冒険者時代を思い出しているのかもしれない。うまく言い表せないがその笑顔にはなんとなく影が差し掛かっているような気がした。それを軽快な動作で誤魔化しているようにも見える。

 

とはいえその点を引っ張り出したところで私達に何かができる訳でもない。素直にその鍛冶屋さんを紹介してもらうしかないだろう。

 

「…ありがとうございます、それで、どこにあるのです?」

 

「王都にありますよ、ただ偏屈なドワーフの方が切り盛りしてますから…商業区域ではなく、住宅方面にあるんです。今簡単に地図を書いておきますね」

 

ドワーフ。如何にもRPGというノリの単語が飛び出してきた。と言うのもこの世界に来て、私はあまりそういった種族の違いを把握しきれていない。こういった世界観だと、ドワーフ、エルフ、ホビットなどが思い浮かぶがどれも出逢ったことはない。獣人…動物の耳や尻尾を持つ人間ならアクセルにも居ることはいる、寒い北の地方から野菜を売りに来る獣人や、近しい仲ならリーンも獣人なのかもしれない、耳はともかくアライグマのような尻尾は生えてるし。

 

「ドワーフかぁ…頑固で気に入った客にしか武器を売らない職人気質なおっさんって感じなんだろうなぁ…」

 

「カズマさん凄いですね、まさしくその通りです♪」

 

「マジかよ、そのまんまかよ!?」

 

拍手で称えるウィズさんと、それを聞いて驚くカズマ君。カズマ君としても想像するのは私と同じような像だったようだ。確かにイメージしてみればそんな感じなのかもしれない。一方それを聞いたゆんゆんは不安そうに俯いている。これは何を考えているのは想像することは難しくはない。

 

「気に入った客にしか武器を売らないって…それじゃあ気に入られなかったら駄目なんじゃ…」

 

「ゆんゆんさんなら大丈夫と思いますよ♪その歳で既に私がその鍛冶屋さんにお世話になっていた頃の冒険者時代よりレベルも高いですし、万が一駄目でも、私が紹介状を書きますのでそれで融通はきかせてくれると思います」

 

違う、ウィズさんは分かっていない。

 

私やゆんゆんのような存在にとって、初見の人に気に入られるなんてことがどれだけハードルが高いことかと言うことを。

 

こうして今やカズマ君達やミツルギさん、アイリスなど、アクセルの街を筆頭に交友関係はかなり広くなっている私やゆんゆんだがそれは周りの人達の人間性も相まって得られた人脈である。頑固で偏屈な人などその中にはいない。

 

あくまで私やゆんゆんの根本は変わらない。どんなに話すようになっても、気軽に接する事ができるようになったとしても結局はぼっちでコミュ障、それらに元を付けたい気持ちはあるけど気持ちだけなのである。

たまにめぐみんがゆんゆんに「やっぱりゆんゆんはゆんゆんでしたか」と言う場面があるがあれは地味に私にも刺さっていたりする。

例えるなら今の私のコミュ力は自らが作った教科書や台本に習ったようなもの、イレギュラーが起こればいとも呆気なく崩壊してしまう、そんな繊細なもの。

 

とまぁ難しく今の自身の状態を話したがウィズさんは紹介状を書いてくれるという、なら円滑に話が進むだろう。

 

とりあえず王都に存在する鍛冶屋なら今から行けば大分遅くなってしまう、行くならば明日以降だろう。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

「ところでウィズ、沈黙や魔法封じを防ぐことができるアクセサリーのような魔道具はありますか?」

 

話が落ち着いたところで切り出したのはめぐみん。もはや忘れたものと思っていたのだけどしっかり覚えていたようだ。次第にカズマ君の顔が引きつったことを見ると、内心私と同じように忘れていたことを思わせる。

 

「魔道具でしたら問題なくありますよ♪探してみますから少々お待ちください」

 

するとウィズさんはうきうきしながら店の奥へと入っていく。普段ありえない商談が次から次へと舞い込んでくるのだから今のウィズさんはこれ以上ないくらい幸せだろう。

 

だけど忘れてはいけない。このウィズ魔法店に存在する商品は高性能ながら非常に高額で駆け出し冒険者ではとても手が出せないものか、あるいは使い物にならない産廃の二択である。そして後者が9割をしめているという驚きの確率である。

 

「お前金はどうするつもりだ?あまり高かったら俺は払わないからな」

 

「…あ、でもカズマさん。よく考えたらシルビアの討伐報酬があるので問題はないんじゃ…」

 

「あー…」

 

思い出したようにゆんゆんが告げると私もカズマ君もそういえばと思い出す。すっかり忘れていたのは私達にお金への執着が薄いことを表しているのかもしれない。シルビアの討伐報酬は記憶する限り4億はあったはずだ。私達7人でもらう事になるので分割はされるがそれでも高額な魔道具の1つや2つくらい余裕で買える金額になることは間違いない。

 

 

…間違いないのだが。

 

 

「何を言っているのですか、シルビアの件に関しては私は何もしていませんので受け取る事はできません。お金でしたら帰省した際に多めの生活費を残して回収してあるので問題はないです」

 

「…えっ、でもそれじゃ…」

 

「くどいですよ、どうしてもあげたいのでしたらあるえにでもあげてください、明らかに私よりも活躍してましたからね」

 

これはめぐみんなりの意地なのだろうか、思えばバニルの時にもめぐみんは結局討伐報酬を受け取っていない。こうなるとめぐみんはそのプライド故に絶対に受け取る事はないだろう。…まったく、面倒臭い子だ。

 

しかしあるえさんに報酬の一部をあげる事に異議はない。ゆんゆんとともに後衛火力として参加していたのだから。たけどめぐみんがもらわない事は納得はいかない。それに対して口を出そうとしたところで、カズマ君はそんな私の言葉を遮るように手を出して止めた。

 

「まっ、いいんじゃねーの。本人が受け取らないって言うのなら、それはそれで構わないだろ」

 

あっけらかんと言ってしまうカズマ君には反論したい気持ちが強い。すぐにでも言いたかったけどこれ以上この場で言い争うのは何も関係のないウィズさんに迷惑だ。そう思えるくらいの理性は残っていた。それにあくまで私とカズマ君やめぐみんは別々のパーティなのでそこまで口を出すことにも抵抗を覚える。

 

結局この話はここまでで終わり、私の中にはもやもやした気持ちだけが残ってしまった。

 

「そうそうアリス、明日辺り王都に行くんなら俺も一緒に行くからな。ドワーフってのも会ってみたいし」

 

「……それは構いませんけど…」

 

すっかりいつもの調子に戻ってしまったカズマ君の言葉に、私の中のもやもやはより曇っていく。本当に…面倒臭い。

 

なお、この後ウィズさんが様々な魔道具を持ってくるが、当然のごとく産廃ばかりで買わなかったことは言うまでもなかった――。

 

 

 

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