内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 141 ゆんゆんの新武器

 

 

―王都ベルゼルグ―

 

時刻は午後に差し掛かり、私とゆんゆんはテレポートで王都へと移動していた。ここ数ヶ月、魔王軍による襲撃は全くないこともあり、私やゆんゆんが初めてこの地にたどり着いた時よりも王都の城下町は活気と人混みに満ち溢れている。

ダクネスに聞いた話によれば、この王都ベルゼルグの国王は現在城に帰還しているらしい。魔王軍が攻めてくることがまったくなくなり、魔王軍の幹部は既に半数となる四人撃破している。陣頭指揮をとっていたと思われるベルディアやシルビアがいなくなったことが大きいらしいが、それにより遠征に出ていた国王の軍にもかなり余裕ができたのだとか。

 

更にアイリスに吉報が持ち込まれた。

 

以前の襲撃により外出禁止となっていたアイリスだったが、その襲撃した盗賊達がまとめて捕まったのだ。これはダクネスの父親であり現アクセルの領主代行をしているイグニスさんの指揮によるもので、アルダープの屋敷や使用人の取り調べを行った結果、アルダープと盗賊との繋がりが露呈した。騎士達を率いて隠れ家を強襲し、全ての盗賊がお縄についたとのこと。

これで近々アイリスの外出禁止も解除されることだろう。盗賊にしてみればただの誘拐のはずが王女誘拐未遂という立派な国家転覆罪が適応されることになる。証拠も揃っているので裁判の余地すらない。もっとも、誰の誘拐未遂だろうが犯罪は犯罪。しっかり罪を償っていただきたいものだ、無理だろうけど。

 

 

さて、そんな王都に来たのは他でもないウィズさんの紹介によるドワーフがひっそり運営している鍛冶屋に行く為だ。ウィズさんが勧めるくらいなのだから普通に王都で買うよりも強力なものが買えそうだと期待を持っている、あくまで私は。

 

一方ゆんゆんは自信なさげなのと緊張している様子が混ざって落ち込んでいるようにすら見える。おそらく話に聞く限り頑固で偏屈だと言うドワーフに気に入られる自信がないのだと思われる。

 

これについてはどうなるか分からない、最悪門前払いの可能性すらあるがウィズさんに紹介してもらう手前行かない訳にもいかない。駄目なら駄目で諦めて王都の武具屋で購入するしかないだろう。一応ウィズさんから紹介状を書いてもらったので流石に門前払いはないと思いたいけど。

 

「……ここ…かな…?」

 

「地図によるとここで間違いなさそうですが…」

 

ウィズさんの書いてくれた地図に導かれるままに王都の城下町を歩いて30分ほどでその場所に到着した。一見すればちょうど住宅街エリアと商業工業エリアの間に位置するその場所は、お店のようには見えない普通の民家。

 

ただ異様に感じるのは大きめの煙突から常に上がる濃い煙。それはまるで空への雲を製造しているかのように限りなく上がり続けている、普通の民家でここまでの煙はまず上がらない。そんな光景こそ、その家は普通ではないことを証明していた。

 

2人で正面に立つと大きな木製の扉がある。私はとりあえずノックしてみることにした。

 

 

コンコンッ

 

 

「……特に返事はありませんね…」

 

「…だけどこれだけ煙突から煙が立ち込めていて留守は考えにくいと思うけど…」

 

ノックしても無反応なことで2人して首を傾げてしまう。今の時期、日中は暖かく普通の民家なら暖炉に火を灯すような気温ではない。だからこの家が普通ではないことは間違いない。

間違いないのだがこれはあくまで推測に過ぎない、確定ではないのだ。例えば極度の寒がりの人が住んでいる普通の民家である可能性もなくはないのである。もっともそれならそれで改めて住人に鍛冶屋の在処を聞き出せばいい、ウィズさんの地図によればその辺なのは間違いないのだから。

 

私ははやる気持ちからドアノブに手をかけ、捻って引っ張ってみる。すると鍵は掛かっていなかったようで木製の扉はあっさりと私達の侵入を許してくれた。

 

「あ、アリス…勝手に開けたら…」

 

「…いえ、どうやら問題なさそうですよ」

 

確かにゆんゆんの危惧するように勝手に開けて侵入すれば不法侵入だ、この国でもそのような法律は存在している。ただそれはこの家が一般的な民家だった場合。

実際に今扉を開いて私が見た光景はその心配が杞憂であると証明するのに充分なもの、あちらこちらにある棚には乱雑に様々な武具が置かれていて奥にはカウンターらしき机もある。

 

「…お、お店…?だけど誰も…」

 

「…ゆんゆん、静かに」

 

ただこのお店、扉を開けた事により鳴るカウベルもなければカウンターに店員もいない。唯一聞こえたのは金属音、それは間膜を空けてカーン、カーンと一定のリズムで聞こえてくる。どうやら店主は奥で仕事中のようだ。

 

「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

 

「……」

 

勿論居ることは分かっているがあえて私はカウンター奥へと声を出してみた。すると金属音が止み数十秒、奥から物音が聞こえたと思えば、のれんを潜りその姿を表した壮年のドワーフと思われる人が現れた。

 

「…ひっ!?」

 

「……」

 

ゆんゆんは驚き固まってしまい私もそれ以上喋ることができなかった。出てきた御仁は見た目からして強面。ドワーフ故なのか身長は低めだが異常に筋肉質で肌は日焼けしたように黒い。片目である左目は黒い眼帯をしていてそれでは隠しきれない傷跡が見受けられる。頭はスキンヘッドで対照的に口元の髭はまるでサンタクロースのように立派な白髭。

サンタクロースと比喩したがそんな穏やかな見た目ではない、何よりもこちらを突き刺す鋭い鷹の目のような眼光には私もゆんゆんも萎縮するしかできなかったのだから。

 

だけど強面の人なら私とてこの世界で初めて出会う訳では無い。アクセルの冒険者ギルドの酒場の常連の強面の男性は見た目通り豪快ながら性格は優しかった、人を見かけで判断してはいけない。そう思っていたけど。

 

「…ここはガキの来る所じゃねぇ、すぐにでていきな!」

 

壮年の男性特有の野太く低い声が店内に響くと、私もゆんゆんも固まったまま再び萎縮してしまう、どうやら見た目通りの人らしい。ドワーフの男はそれだけ告げると片手に大きなハンマーを持ったまま店の奥へと行こうとする。

 

「…ま、待ってください!私達、ウィズさんの紹介でここにきたんです!」

 

ゆんゆんが声を強引に張り上げて言うと背中を向けたままドワーフの動きが止まった。そして振り向けば、男性の目はこちらを睨みつける。

 

「…ウィズだと?あの氷の魔女のか?」

 

「…は、はい。こ、これ…ウィズさんの書いた手紙になります…」

 

さっきからゆんゆんが先導して話しているのは単純にゆんゆんに頼まれたからだ。いつもなら私から話していたのだが今回はゆんゆんの杖の件での事なのでゆんゆんが話をつけたいと意気込んでいた。…だけどこれは今までに関わったタイプの人ではない。はっきり言えば日本でいうヤクザにでも話しているような気持ちになる。明らかに怖すぎる。

 

ゆんゆんがおそるおそる差し出す封筒を奪い取るように受け取った店主は乱雑に中の手紙を取り出し無言で読み始める。…この読んでいる間の静寂が怖い、凄く怖い。私もゆんゆんも固唾を飲んで見守るしかできない。

 

とりあえず思ったのはここにアンリを連れてこなくて良かったと心から思う。元より人が多すぎる王都にアンリを連れていくつもりは全くないのだが仮にアンリがこの場にいたら間違いなく泣き出しそうだ。

 

「…しかし随分懐かしい名前が出てきたな、ウィズは元気でやっているのか?」

 

「……えっと…、はい、アクセルで魔導具屋を経営してます」

 

すると店主の様子が変わった。どこか感慨深い目をしている…と思えばそれは一瞬だった。すぐに落ち着いたように元の顔に戻ると手紙の続きを読み始めた。

 

「…ふん、話は分かった。ようは俺の作った武器が欲しいってことか…、なら選ばせてやる。その辺の棚に杖なんかもあるだろう?その中から適当に選んで買うか、あるいは特注で作るか、だ」

 

「…と、特注……ですか?」

 

ウィズさんの手紙にどのように書いてあったかは分からないがどうやら問題なく武器を買う事ができそうだ。これには目立たない程度に安堵の息をつく。

 

「特注の場合条件があるがな」

 

「…ゆんゆん、とりあえず此処にある物を見せてもらってから決めてもいいと思いますけど…」

 

「う、うん…その、見ても「好きにしろ」……あ、はい…」

 

それにしても無愛想な店主である。もっともこの強面で愛想が良くても逆に怖いことは間違いないのだけどまともに商売する気はあるのだろうかと疑問すら湧いてしまう。

 

とりあえず店内の棚に飾られている杖を一つ一つ見てみる。思ったより品揃えはいいのだけど見た感じ特別な感じはしない。流石に駆け出し冒険者の街であるアクセルよりは強い装備が並んでいるが見た感じ王都の他の武器屋に売られているものと大差はないように見える。

 

…だけどあのウィズさんがわざわざ薦めたくらいだ。他の武器屋にはない何かがあるのだろうか。とはいえ見ただけでは全く分からない。少なくとも私には。

一方ゆんゆんはひとつひとつ丁寧に杖を取っては見たり、握ったりして感触を確かめている。

 

「……すみません、特注ですとどれくらいの期間がかかりますか?」

 

「……一週間もあれば充分だが、特注にするつもりか?条件はかなりきびしいぞ、金だってかなりの額になると思うが?」

 

まるで脅しているように告げる店主だがゆんゆんは怯まなかった。そのまま首を縦に振ることを答えとすると、店主の口元は軽く緩んだ。

 

「……くっくっく、なるほど。あのウィズが一目置く訳だ。合格だよ」

 

「……え?」

 

合格。店主はゆんゆんに向けて確かにそう告げたが私にはその意味が分からなかった。ゆんゆんにその意図が理解出来たのだろうか、ゆんゆんの表情にあまり変化はない。

 

「…ここに並んでいる武器は…貴方が作ったものではないですよね?その…値段は飛び抜けて高いですが…品質を見れば王都の他の武器屋で売っているものと変わらない感じが…」

 

「…ご名答、そこに置いてるのは全部ダミーのようなもんだ」

 

「……ダミー?」

 

「おう、そこにある鈍で満足できるようなヒヨっ子なら高い金出してそいつらで勝手に満足してればいい。俺自ら武器を作るに値しねぇ客だと見限るだけの話だ」

 

そこまで聞いてなんとなく理解できたような気がした。つまりこの店主、最初から私達を試していたのだろう。思えばウィズさんから初めに聞いていた事だ、このドワーフの店主は偏屈であると。

そうなれば最初から選択肢は特注しかないのである。ゆんゆんの推測によればここに飾ってある武具はどれもそこらのお店で売っているものと変わらない。自分の作品を扱おうとする者がそんなこともわからないような輩では我慢できないと言ったところだろう。それにしても見極めたゆんゆんは素直に凄いと思える。

 

 

さて、これで第一関門は突破というところだろうか。これで問題なくオーダーメイドができる訳では無いらしい。

 

「…あ、あの…それで……条件…とは…?」

 

「簡単な話だ、作るには材料が必要だ。それをお前らで用意してこい、言っておくが生半可な物を持ってこようもんならその時点でこの仕事は終わりだ、他所で頼んでくれや」

 

「…っ!」

 

「…そ、それで…何を持ってくればいいんですか?」

 

相変わらず萎縮しながらだけどしっかり要件を聞こうとするゆんゆんに私は内心感銘を受けていた。今までのゆんゆんなら…、いや、私でもこの場から逃げ出している可能性は高い。それだけの威圧感をこの店主は常に出し続けているのだ。

 

「それはお前さんの欲しい武器の内容による、見た所杖を見ていたがどんな杖が欲しいんだ?」

 

「…えっと、短杖です。携帯しやすい感じで…、その…」

 

「…なら材質は軽い方がいいな、……どれ、こんなものだろう」

 

ゆんゆんの注文を聞きながら店主は羊皮紙にスラスラと何やら書き込んでいき、その紙を私達に差し出した。そしてそのまま私達に背を向ける。それは話は終わったと背中で語っているように見えてこれ以上の事を聞くことを拒絶しているかのようにも見える。

 

「材料が揃ったらまた来い、それじゃあな」

 

そのまま店の奥へと戻る店主を、私とゆんゆんは呆気に取られた様子で見つめることしかできなかった――。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

―王都ベルゼルグ・喫茶店―

 

鍛冶屋から出た私とゆんゆんは、そのままその足で王都の冒険者ギルドの傍にある喫茶店へと入った。その一番奥のテーブルで改めて貰った羊皮紙を確認したかったのだ。

 

「…こ、怖かった…ホントに…」

 

「…よく頑張りましたよ…」

 

「アリスがいてくれたからよ…私一人だったら間違いなく何も言えずに逃げ出してたわ……」

 

今の私達を見た他の人はおそらくクエスト帰りか何かだと誤解しているかもしれない。実際、下手なクエストよりも明らかに疲労している。ぐったりしながらのティータイムは傍から見れば多分異様な光景だろう。

 

「それで、必要な物はなんなのでしょう?」

 

「…えっと……」

 

私達二人はそのまま羊皮紙を見る。簡易に書かれた品目は全部で3つ。

 

ひとつは高純度マナタイト結晶

 

大きさなど細かい事は書いていないがゆんゆんの杖に使うと思われる程度の大きさがあれば問題はないだろう。高純度と記されていることからそこらにあるマナタイトの魔晶石でもよろしくはない。手かがりがない以上探すのに難航しそうだ。

 

ふたつめはワイバーンの爪

 

これは一見すると比較的楽なのではないかと思われるがあの店主は確かに言った、生半可な物を持ってくるなら仕事は受けないと。ならばそんじょそこらのワイバーンでは話にならないかもしれない。

 

そして3つめが特殊な金属

 

これについてだけは意味不明でしかない。変わった金属を持ってこいということなのか。特殊という意味合いはなんなのか。ただ金属と言って思い出す有名な鉱石は私の魔晶石にもなっているアダマンタイトが頭に浮かぶがそれ自体は価値はあるもののそこまで珍しいとも言えない。これまた難航しそうである。

 

 

 

「……まとめますと…、どれひとつ取っても即座に入手できそうなものはありませんね…やはり王都の他の武器屋さんで杖を買いませんか?」

 

ただこれだけの最上級と思われる素材を集め杖となった時、ゆんゆんは間違いなく強くなれる。

とはいえ必要素材がみっつもある上にどの素材の在り処も検討もつかない。だからこそ進言したのだけどゆんゆんは黙って俯いていた。

 

「……多分なんだけどね、ウィズさんが今回の鍛冶屋さんを紹介してくれたのは、私の話したことを覚えてくれていたからだと思うの……」

 

「…話したこと、ですか?」

 

「うん……、アリスも凄そうな杖を持っているし、ミツルギさんも魔剣グラムを持ってて……その…私だけそういうのがないから、そのなんて言うか…」

 

言いにくそうに話すゆんゆんを見て、私はなんとなく察することができた。確かに武器に関して言うなら私やミツルギさんの武器はアクア様から賜った神器である。本人が使う場合でしか強力な効果は得られないが、魔剣グラムに関しては言うまでもなく、私の杖は私の魔法が組み合わさる事で真価を発揮する。言わば専用武器。

ただゆんゆんに関してはそのようなものはない。今まで使っていたものも王都

で売っている高品質なものではあるが希少な物でもない。持っているこちら側はわからないことだがゆんゆんからして見ればそういった武器が羨ましくあったのかもしれない。

 

「…その、だからね、私もそんな武器が欲しいの。だからすぐには無理かもしれないけど、冒険している内に集められたら…」

 

「そういう事なら私もお手伝いしますので、遠慮なく頼ってくださいね」

 

「アリス……うん、ありがとう…!」

 

「とはいえ丸腰では不味いですから間に合わせで今までと同じくらいの性能の杖は買うべきですね、でないと冒険すら出来ませんし」

 

「あっ…うん…」

 

素材を集めるにしても今のままでは集める為の冒険にすら出れない。なのでどの道杖は必要である。

それにしても前途多難な素材集めだけどまたもやるべき事が増えてしまった。退屈しないで済むのはいい事なのだけど、もといこの世界で退屈なんて感じた事はないのだけど。

 

再び外出出来るようになったアイリスの元へも行かないと行けない。魔王軍幹部シルビアの討伐報告もしなければ。それにアンリの事も完全に落ち着いたとは言えない。

 

できる事からひとつずつやっていこう。私はそんな想いでこれからを見据えていたのだった――。

 

 

 

 

 




ゆんゆんの武器についてはあっさり済ませようと思ってたのですが、どうしてこうなったのかは誰にもわからない
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