内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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相変わらず遅くて申し訳ないです。しばらく一週間前後の更新になるかと思います。


episode 142 平穏を求めて

 

―カズマ君の屋敷・リビング―

 

赤い絨毯が敷きつめられた広めのリビング、そこには大きめのソファがあり、長く住んでいるとこの場所に集まった時の定位置が大体決まってしまう。

現在3つのソファがあり、コの字に置かれていてそれぞれ、私とゆんゆんとアンリ、カズマ君とめぐみんとアクア様、そしてミツルギさんとダクネス。それぞれのソファに腰掛けて話す。そんな形で落ち着いていた。

 

「それでゆんゆんは新しい武器を手に入れられたのか?」

 

「…それが……」

 

私とゆんゆんは今回の件について皆に相談してみる事にした。あれから喫茶店で考えたが何も浮かばない。紅魔の里の図書館で調べる事も視野に入れているがまずは身近な人に聞くのも手だと思えていた。

 

「……なんか如何にもRPGのクエストって感じの話だな…」

 

「あーるぴーじー?」

 

事情を説明すれば真っ先にカズマ君から出た感想。それに疑問符を浮かべたゆんゆん。分からないのは当然として他の皆に目をやると誰もが考え込むような仕草をしている。やはりお題が難解すぎるのかもしれない。

 

「いやこっちの話だ。…ひとつずつ考えてみようぜ。まずはマナタイト結晶?か?めぐみんの杖にもついているやつだよな?」

 

「マナタイトとは簡単に言えばマナ…つまり魔力が凝縮された鉱石です。純粋な魔力の比率が高いほど希少かつ貴重なものになりますね。マナタイト自体は一般的で珍しいものではありませんが純度によっては豪邸が建てられるほどの価値があると言われています、無論武器として使えばそれだけ強力なものになるでしょうね。そもそも私が知っていたら自分で入手していますよ、私の杖についているものはそこまで純度の高いものではありませんし」

 

「…この件に関してはウィズさんを頼るのがてっとり早いかもしれませんね…」

 

話した結果ウィズさん頼みで落ち着いた。身近で鉱石などに詳しい人は私達の中ではウィズさんしか思い浮かばない。ウィズさんがわからなければ完全に手詰まりになるがその時はその時。

 

「次は…ワイバーンの爪…当然これも王都近辺に飛んでるやつじゃ駄目なんだろうな」

 

「ワイバーンの上位種となると…グレートワイバーンというのがいるがそこまで強敵というほどでもない…、となるとそれよりも上か…」

 

「ミッツさんは魔剣があるから余裕かもしれないけどあれ結構厄介だからな?見た感じドラゴンとほとんど変わんねーし」

 

「モンスターに関してだとやはり冒険者ギルドで聞くのが一番かもしれないな。恥ずかしい話だが私達のパーティは王都でのクエストを始めて日が浅いし基本アクセル近郊のクエストのが経験は多いからアリス達に心当たりがないとすれば難しいだろう」

 

この件に関しても有力な情報はギルドに聞くしかない。モンスターに関しての情報ならギルド以上に頼りになる所はない。現状大した情報が入ってはいないものの、次に進むべき導を得たと考えたら、それだけでも相談して良かったとも思える。

 

「……最後は特殊な金属って……これだけやけに範囲が広いな。金属と一言で言っても色々あるだろうに」

 

「それに関しては心当たりがありますけどね」

 

「…!めぐみんそれ本当!?」

 

思わず席を立つゆんゆんにめぐみんは呆れた視線を向ける。まるで本気で驚いているのかと疑っているようにも見えてしまい、この反応にゆんゆんはキョトンとしてしまった。

 

「ゆんゆん、もう忘れたのですか?つい最近特殊な金属でできたものを奪われて戦ったではないですか」

 

「…え?奪われて……戦った……あ」

 

「……なるほど、…魔術師殺しですね」

 

めぐみんの言葉に私とゆんゆんは揃って驚いた。完全に失念してはいたがあの素材ほど謎に満ちた素材もない。強い魔法耐性をもつらしいし一般的な普通の金属ではないことは確かだろう。確か謎施設の地下に残されていた助手らしき人の手記にも防具などにすればいいのにと個人的な感想が述べられていた。つまりあの素材そのものは装備として流用することは可能なのだ。

 

「確かにあれほど特殊な素材もねーよな、似たところではデストロイヤーの装甲とかもあるけどあっちはほぼ片付けられたしな」

 

「金属の件はそれでなんとかなりそうですね、……ただ、今やお墓となっているものを使うのは少し抵抗を感じますが…」

 

「実際あの中にシルビアが眠っている訳ではありませんし、あの瓦礫の山の中から一欠片持っていくだけでしょう?そこまで気にする事はないと思いますけどね、まぁアリスの気持ちも分からなくはないですが」

 

確かにゆんゆんの短杖として使用するなら多く見積っても両手拳分程度の大きさがあれば充分だろう。少し気持ち的な面で抵抗は拭いきれないが他に浮かぶものもない、ゆんゆんはそれを候補のひとつとして考えておくことにしたようだ。

 

 

 

 

 

「それより、そろそろ報告に行こうぜ」

 

「今回はアクセルでお願いしますよ、王都の冒険者ギルドはお堅いですし面白くありませんからね」

 

「…へいへい」

 

閑話休題。結局ゆんゆんの新武器については即座にどうにかできるものではない。そんな状況から早くも打ち切られることになり、違う話題が上がった。

 

報告――、それは言うまでもなく魔王軍幹部シルビア討伐の報告である。報酬は受け取るつもりはないのに賞賛は受けたいらしい、本当にめぐみんという子はよく分からない。

ふとゆんゆんに視線を移すとどうやら私と考えは同じのようだ。行きたくないという気まずそうな目がまるで鏡でも見たかのように私と一致したのだから。個人的には王都で報告した方がギルド側が内々で済ませてくれるので有難かったりする。

アクセルの冒険者ギルドで報告しようものなら即座にお祭り騒ぎの宴会へと発展することは避けられないだろう。カズマ君やめぐみんはそんなノリの方が好きなのかもしれないがこちらとしては静かに済ませたい気持ちが強かった。そしてそれはゆんゆんも同じだろう。

 

宴会なら既に紅魔の里で行ったのだからもういいのではないだろうか、私としてはそう思っている。

 

「報告ならカズマ君達で済ませてもらえません?正直あまり騒がしくなるのは得意ではないので…」

 

だから私は率直に嫌そうな顔を隠そうともせずにそう告げた。しかしそれは愚行だった事に気がつくことにそう時間はかからなかった。

 

「おいおい何を言ってるんだよ、今回のシルビア討伐の功績は誰がどう見てもアリス達のパーティ寄りのことだろ?冒険者カードにシルビアの名前が刻まれてんのもゆんゆんだし、お前らが来なきゃ話が進まないじゃないか」

 

「カズマの言う通りですよ、覚悟を決めて行くことです」

 

「で、でも…」

 

ふとカズマ君やめぐみんの視線が私とゆんゆんの間に移る。すると一瞬だけバツが悪そうな顔をしていた。

確かに単純にそういったノリが苦手というのも行きたくない理由のひとつ。だけどそれだけではない。アンリの存在についてだ。

アンリは知っての通りモンスターである。まさか大勢の人がいる冒険者ギルドに連れて行く訳には行かない、万が一正体が明らかになればどのようなことになるかと思えば安直に動けないのだ。とはいえ独り屋敷でお留守番させる訳にも行かない。

 

「仕方ないですね、分かりましたよ。ですがゆんゆんとみっつるぎは来て貰いますからね」

 

「…2人ともすみません…報告はお願いします…」

 

アンリの件を納得してくれたのか、二人は無言のまま頷いてくれた。そのままアンリを見ると少し寂しそうに俯いている事に気が付けば少しだけ心が傷む。

 

「…いや、それはどうだろうか?」

 

「…何がだよ?ダクネス」

 

カズマ君達が準備へと動こうとした時、顎に手を添えて考え込みながらもダクネスが待ったをかけた。その真剣な面持ちには思わず全員が動きを止めてダクネスに注目する。

 

「皆もよく考えてみて欲しい。アンリの手前言い難い事ではあるが…、アリス、お前は今後もずっとアンリをモンスターだからという理由で街の人達から隠し続けるつもりなのか?」

 

「……そ、それは…」

 

言葉に詰まる。それは私の心奥底で懸念していたことでもあるのだから。ただそれを表面上に出さなかっただけ。言ってしまえば現実逃避でしかないのだけど私は無意識にそうしていた。その問題を完全に後回しにしてしまっていた。

 

「そうだとしたら私は違うと思う。確かに危険もあるかもしれない、だがアリスはアンリの事を一人の人間として扱いたいのだろう?ならばいっそバレるバレない以前に冒険者ギルドにアンリの事を報告してしまってはどうだろうか?」

 

「…っ!?…ダクネスらしくない事を言いますね…、それでもしもアンリの事がモンスターという理由だけで否定されてしまったらどうするつもりですか!?」

 

「…お、おいアリス…」

 

思わず立ち上がって声を荒らげてしまうとすかさずカズマ君が私を落ち着かせようと声をかける。その声とカズマ君の視線の先の存在にハッと気が付く。無言で俯いているアンリの姿を見るなり私の心中は後悔の念で押し潰されそうになっていた。

 

「アリス、お前の気持ちはよく分かる。だが私からしてみればアリスの懸念は杞憂に過ぎないと考えている」

 

「…どういう事ですか?」

 

「…あぁ、確かにダクネスの言う事も一理ありますね」

 

「…めぐみんまで…」

 

めぐみんに目を向けると同時に少しだけ落ち着けた気がした。まったく…どうしてこういつもこうなるのだろうか。

冷静になって考えてみてもやっぱりそれは容認できない事だ。例え低い可能性だとしてもアンリがこれ以上悲しむ事になるのなら私は真っ向から否定する。せざるを得ない。

 

「…アリス、僕もダクネスさんの案は一理あると思う」

 

「…ミツルギさん…?」

 

「少し落ち着いてくれ、まずアリスを否定したいが為にこんな事を言っているつもりはないんだ」

 

「……流石にそこまでは思ってませんけど…」

 

だったらこちらの話をちゃんと聞いて欲しい。ミツルギさんは目でそう訴えていたしダクネスやめぐみんもそれは同じのようだ。

確かにちゃんと話を聞かずに否定するのは良くない。…そもそも私はどうしてここまで感情的になってしまうようになったのだろう。前にもそんな事を考えた気がする。

 

それはさておき冷静に皆の意見を聞こう。そう思えば私はそのままソファに腰掛けて話を促すことにした。

 

「…まずアリス、お前の考えが間違いとまでは言うつもりはないんだ、アンリの事が心配だから可能な限り不安要素を排除したいのだと思う。確かにアリスの考えている最悪な事態も想定しなくては行けないことだ」

 

「……」

 

「ですがアリス、まずアンリが迫害される前提を考えてみてはどうですか?アクセルの街の人達はそこまで信用できませんか?」

 

「……あっ…」

 

アクセルの街の人々と聞いて浮かんだのは私のかつてのパーティメンバーであるテイラーさんのパーティの面々、それに冒険者ギルドで見かける様々な冒険者、受付のルナさん、気のいい街の人々、セシリーさん、それに著名な貴族はダクネスのお父さんであり現領主代理のイグニスさん、更に私とお見合いをしたバルターさん。

 

確かにその人達にアンリと会わせた時に、迫害及びアンリが傷付くことになるようには考えにくい。そう思えば自分で自分が情けなく感じてきた。

アンリの事だけを想うあまり、私はアクセルの街の人々を全く信頼していなかったということになるのだから。

 

「勿論希望的観測であることも承知の上だ。ならば私はダスティネス家の名を使ってでもアンリの身を守ることを約束させてもらおう」

 

「ダクネス…そこまで……」

 

ダクネスが当然のように言うが言うほど簡単な事ではない。何よりも気軽に家名を持ち出す事はダクネスが嫌っていることを私達は知っている。

 

「人一人の人生がかかっているのだ、家名を使うくらいなんて事はないだろう?」

 

「……っ!」

 

人――。

 

ダクネスの言葉に私は小さくない衝撃を受けていた。これではアンリがモンスターである事を一番に懸念していたのは他でもない私だったと気付かされる事になったのだから。私が誰よりもアンリを人として見てなかったのではないか、そこまで思ってしまっていた。

勿論そんなつもりは無いと断言できるが私がアンリの事を隠せば隠すほど、皮肉にもそのようになってしまうのだ。その事に気が付けば涙が止まらなくなっていた。

 

ウィズさんは急ぎすぎないでほしいと言った。だけどこの件についてはそういう問題ではない。

 

『……お姉ちゃん――、ありがとう――』

 

「……アンリ…私は……」

 

アンリはそのまま首を横に振った。そしてそのまま私に抱きついて、泣いている私を落ち着かせようとしてくれた。

 

『…私――、この街の人と、仲良くなりたい――』

 

「……アンリ…」

 

それは紛うことなき、アンリの希望、願いだった。これを聞いて私は大いに反省することになる。

結局私はアンリの為と思いながらも、誰よりも焦って、悩んで、独りよがりになっていたのだ。アンリがどうしたいかなんて一度も聞かなかったのだ。

 

アンリが中々自分の気持ちを言ってくれないのもあったが、それは私も同じなのだからそれに関して文句は言えない。

 

だけどようやくアンリの気持ちが聞けた、だったら…私は。

 

 

「…分かりました……アンリが望むのでしたら、私は全力でアンリの味方をさせてもらいますよ」

 

私のその言葉で、場の空気が一気に暖かくなった感じがした。こうしてアンリを抱きしめて頭を撫でていても、視線を向けなくても分かる。

多分ここにいる全員が、私とアンリに向けて生暖かい目を向けているんだろうと思う。私はそれが恥ずかしくて、顔を向けることができなかったのだから――。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

―アクセルの街・冒険者ギルド―

 

 

「何この子可愛いー!?」

 

「ねぇお名前は?」

 

『……ア…アンリ――』

 

「アンリちゃんって言うのね!あ、良かったらジュース飲む?お姉さんが奢ってあげるよ!」

 

「た、確かに可愛いじゃない…、だ、だけど可愛さなら私も負けていないんだから!!」

 

「落ち着けエーリカ…可愛さのベクトルが違うと思うぞ…」

 

「そうだよエーリカちゃん…み、皆もあまり囲まないであげよう?アンリちゃん、怖がってるし…」

 

「リアもシエロも何言ってるの!どんな可愛さだって、私が負ける訳には行かないのよ!!」

 

「お前は何と戦っているんだ…」

 

来る前までは緊張していた。なんだかんだ言いながらももしかしたら拒絶されてしまうのではないか、そんな不安があったのだから。

 

だけどこうして連れてきて事情を隠す事なく話した。そうしたらギルドの酒場にいた女性冒険者に囲まれて今の状態である。

確かに杞憂だった、少なくとも今まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく感じてしまう程度には。

 

アンリはギルドの女性冒険者達に囲まれて可愛がられているのでとりあえず大丈夫だろう。そんな中私は冒険者ギルドの受付であるルナさんと話をしていた。

 

「……問題ない…ですか?」

 

「はい、最近は珍しいのですが過去にテイマーと言うモンスターと共に冒険する職業の冒険者もいらっしゃいました。あるいは他国では竜騎士(ドラゴンライダー)と呼ばれる職業もあるそうで、いずれにしてもきちんと登録した上でのパートナーという形でモンスターと行動を共にしています。勿論安全確認などの審査はありますが、ちゃんとギルドに登録して頂けたらアンリさんの事は冒険者ギルドが身の安全を保証します」

 

欲を言えばそんなペットのような扱いは不満でしかない。アンリは元人間なのだから。だけど贅沢は言っていられない、冒険者ギルドは国直属の機関なのだ、そのギルドが保証してくれると言う事はアンリの存在が国に認められたという事になる。ならばこのアクセルだろうが王都だろうが、アンリは何を気にする事無く堂々と振舞っていられるのだから。

 

「あ、あの…!すぐに登録したいのですが!」

 

「勿論可能ですよ、内容としましては一般の冒険者登録と同じで登録手数料がかかりますが…」

 

「問題ありません、よろしくお願いします!」

 

「ふふっ、はい、承りました」

 

こんなに喜べたのは久しぶりかもしれない。そんな私の気持ちを察したのかルナさんは含み笑いをしていた。そんなルナさんの向ける視線に気恥ずかしくなるけどそれどころでもない、気を抜くと嬉し涙さえ出てしまいそうだ。勝手に思い詰めて勝手に思い悩んでいたからこそ私の感情はこんな事になっているだけなのだけど。

 

「…それで、登録をするのに肝心のアンリさんを連れてきて欲しいのですが……すぐには難しそうですね…」

 

「え?……あ…」

 

ふとアンリを見れば相変わらず多くの女性冒険者達の母性により可愛がられまくっていた。

 

『アリスお姉ちゃん――、助けて――…』

 

「あ、アンリ…!!」

 

好意的なのはありがたいのだが限度がある。今日この時よりアンリが自由に街を歩けることになることは喜ばしい事なのだがアンリが人混みを苦手になってしまったのは言うまでもなかったのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チラッとモブキャラ扱いで出した新キャラ三人娘のリア、エーリカ、シエロ。アプリゲームのこのファンをプレイしている方なら分かると思いますがこのファンオリジナルキャラクターです。
とりあえずチラッと出してみましたが今後登場するかは未定です。

※4/5追記……多忙により更新が大幅に遅れております。続きを楽しみにされている方、大変申し訳ありません。現在執筆40%となっておりまだまだ時間がかかりそうです。気長にお待ち頂けたら嬉しいですm(*_ _)m

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