内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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九章 ―アリスとエシリア―
episode 144 『エシリア』


 

 

 

それは王都に行ったその日の夜の出来事だった。

 

冷静になって記憶を手繰り寄せること数分、私は特に何事もなく自分の部屋のベッドで就寝したはずだ。その際に見た同じベッドにいたアンリの可愛らしい寝顔を鮮明に覚えている。

 

だけど今はどうだろうか。

 

白い壁、勉強用のディスク、音楽を聞く為のプレイヤーやスピーカー、小洒落た木製の洋タンス、床にはピンク色の絨毯が敷き詰められていて…天井にはLEDライトが吊るされている。

 

8畳ほどのその部屋、本棚には全て読んだことのある漫画やラノベ。棚の上に置かれているウサギやクマのぬいぐるみ、それらの物を、この部屋そのものを私はよく知っている。

 

「……ここって…私の……?」

 

そう、見慣れたなんてレベルではない、つい一年ほど前には毎日のように過ごしてきた前世の私の部屋。…有栖川梨花の部屋なのだから。

 

これはどういう事なのだろうか?まさか今になって元の世界に帰ってきたとでもいうのか。もしそうなら勘弁願いたい。

 

確かに元いた世界に全く未練がないかと聞かれれば答えはNOである。あんな別れ方となってしまった両親に一言謝りたい気持ちはある。だけどそれ以上に私はあの世界で得てきたものを失いたくはない。

 

それは薄情かもしれない、親不孝かもしれない。だけど、例え何を言われても自分のこの気持ちだけは曲げられない。

 

私は『前世』と『現在』なら、迷う事なくアリスとなって今まで過ごしていたあの世界を心から選ぶのだから、望むのだから。…15年も生きてきたこの世界よりも、たった一年余りしか過ごしていないあの世界の方が、私にとって大切なものは多すぎるのだから。

 

 

ふと机の上に備えてあった卓上用の鏡に目を向けたら自分の姿が映し出されている。それを見て…私は口篭る。

 

金髪で長いツインテール。コバルトブルーの綺麗な瞳。自分で言うのも変な話だがめちゃくちゃ美少女である、だが問題はそこじゃない。

 

 

仮に…、今この場所が、私の前世の世界だとしたら。今や私が有栖川梨花であることを証明することは不可能である。

 

私は…こんな容姿になってしまった私は…、一体どうやって生きていけばいいというのだろうか――?

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

さて、多少取り乱してしまったけど、今いるこの部屋が私の本来の部屋ではないことは間違いないようだ。

私が真っ先に無意識下で行った事、それはカーテンと窓を開けて外を見ようとした事。それが結果的に良かった。

窓を開ける前のカーテンが既に開かなかったのだ。まるで絵に書いたかのように固定化されていた。つまり外が見れなかった。

 

そんな非現実的なことが起きたことで、私は逆に落ち着けた。

 

私はあの世界では既に死んでいる、あの世界に戻ることができるはずがない。

 

無駄に色々と考えてしまった。アリスとなった今、元の世界に戻ってどうなるんだ、有栖川梨花として生きていくことは容姿から不可能だろう。ならばアリスとして現在社会で生きていく?…それも無理だ、アリスという存在がこの世界で生きていくには問題が多すぎる。

頼る人は誰もおらず、自身の身分も出自も証明することができない。あの世界のように余所者が気軽に冒険者のような身分を得る事もできない。つまり働いたりすることもできないだろう。

 

ならばどうするか、アークプリーストとしての治癒魔法などを駆使して稼ぐか?それも難しい、この世界に魔法の概念はないのだから下手したら大騒ぎになってしまうだろう。どう考えてしまってもアリスとしてあの現在社会に溶け込むことはできそうにないのである。

 

そんな無駄に考え込んでしまっていたものの、結局今私がいるここは何処なのだろうか。

 

 

 

ガチャ……キィ……

 

 

「…っ!?」

 

 

背後の扉がドアノブを回して開かれる。これには流石に驚きを隠せなかった。勢いのまま背中に携えていた杖を片手に握り、牽制するようにそちらを向いてみた。

 

「…っ!?……危ないなぁ…、とりあえずその物騒なものを下ろしてくれない?」

 

「……貴女は…」

 

私の目の前に現れたのは…、茶髪でセミロングの髪を後ろに結んでショートポニーテールにした動きやすそうなラフな部屋着を着た少女。その片手には大きめのコンビニの袋を持っていて中にはお菓子やら飲み物やらが入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

有栖川梨花。以降は梨花と呼ぶ。その少女が目の前に現れたことで、全ての謎が解けた。

つまり今いるこの場所は、見た目が変わっても結局はよく来ていた私の精神世界とかそんな感じ…だと思う。

いつもは真っ白な何も無い場所だったのにこの模様替えは一体なんなのだろうか。

 

「…あの、ここっていつものあの真っ白な空間ですよね?貴女がいるということは…」

 

「そーだよー、とりあえずちゃんと話すから座って座って!今お菓子広げて飲み物出すからさ」

 

「…え…あ、はい…」

 

なんだろう。物凄い違和感を感じた。この子は私のはず、有栖川梨花のはず。それが何故こんなに明るいキャラクターに変化しているのだろうか。これではまるで私ではないみたいではないか。

 

私は不審に思う気持ちを隠しきれずに梨花の様子を伺うようにしながらゆっくりとその場に座る。カーペットの感触が地味に懐かしく感じたが、そんなことを気にしている余裕は今の私にはあまりない。

そんな私の心境を知ってか知らずか、梨花はコンビニ袋の中からパック紅茶やらポテチやら取り出してテーブルに広げていた。それらはどれも今や懐かしく感じる食べ物ばかりだ。

 

そんなことを考えながらも見ていたらふとこちらの視線に気がついたらしき梨花と私の目が合う。

 

「大丈夫、言いたい事は分かってるからね。だってアリスも『私』なんだから」

 

「……」

 

何も返せなかった。呆気に取られたとも言える。

 

梨花もアリスも同じ『私』。それを否定するつもりはない。過去に出逢ったことでそれは分かっている。

分かってはいるのだけど本来私は1人しか存在しない。むしろ二人以上存在してはいけない。以前この状態を梨花は独りよがりな二重人格ごっこのように解釈していた。実際は1人でしかないのだと。

 

淡々とだが手際良く、梨花の準備は終わったようで一呼吸するなり出した紅茶をパックにストローをさして飲み始めた。それが終わるなり梨花はこちらを向いて仄かに微笑んだ。

 

「私がこんなに明るいことがそんなに意外?アリスだって別人のように変わったじゃない」

 

「……それは…そうかもしれませんが…」

 

正直納得するのも難しい。というのも前回の暗い印象が強すぎるのだ。それが今見れば性格が180°変わっているのだから違和感しかない。

 

「言ってしまえばさ、人はその想い次第でどんな風にもなれると思うんだけど。ただそうしようとしないだけ。その気になればめちゃくちゃ明るく振る舞えるしめちゃくちゃ暗く引き込もれるし、落ち着いた冷静な風にもいられるし、なろうとするその人次第。それはアリスがあの世界で過ごしてきて証明してるじゃない」

 

「……」

 

「…と言っても、以前言ったようにこの会話も結局は『私』の独り言に過ぎないんだけどね」

 

それだ。結局それで締めくくられてしまう。私はこれについて、未だに理解しきってはいないのだ。

 

「小説とかでよくある二重人格に近いのかな?今の私とアリスは、アリスの身体に変わったことで創造された本来の私とアリスになった私。本当ならこの状態はあまり良くはないんだよ?だから私を消してって言ったのに、アリスは消してくれないんだもん」

 

テーブルの上のポテチを齧りながらなんとも重い話をしてくれる。だけどあの時と気持ちは変わらない、変わるはずなんてない。

 

こうして自身の精神の中でだけ…とは言っても、私はこうして対面して話をしている。それが梨花の言うように私にとってどれだけ邪魔であろうと、例え害悪になろうと、『私』なのだ。そもそもそんな風に思えるはずがない。

 

「…梨花が私の中にいたとして、私に困る事は何一つありませんからね。むしろ居て欲しいと言うのは…おかしな話なのでしょうか?」

 

「それで精神崩壊しかけた癖によく言うよ」

 

「そ、それは……」

 

なんというかこの子は一応私のはずなんだけど私に対して風当たりが冷たすぎる気がするんだけど。私ならもっと自分を甘やかす。自分に厳しくするなんて考えもしないはずなんだけど。

 

「自分を甘やかしたいからこそ、厳しく自分を扱うことに対して厳しく接しているんだよ?」

 

「心を読んだように答えるのはやめてほしいのですが…、確かにそう言われたら返す言葉はありませんが…」

 

「前にも言ったけど姿が変わったことも、何もかも自業自得なんだからね、いい加減にアリスは受け入れてくれないと、自分がアリスであることをさ」

 

「…」

 

…アリスになって一年くらいが経過した。それでも私は結局今のこの身体の持ち主が私であるとしっかり受け入れきれてない。…そう言われたら返す言葉もない。

だからこそ、私は自身で思い描いたアリスというキャラクターを演じるかのようにこの世界で過ごしてきた。口調は敬語に統一して、言いたい事は言えるように。多分きっかけは荒療治。初めてアクセルの街に訪れた時にした、アクシズ教の宣教だろう。あれでアリスというキャラクターを強引に無意識に創り出した。今思えばそう思える。

 

だけど梨花としての人格が消える訳ではない。私がこんな可愛い訳が無いという考えから精神が二分して、こうしてアリスと梨花の2つの人格が今の私にはある。…そんなところだろうか。

 

こうして考えると非現実めいているがそれを思うのは今更でもある。実際に話ができてしまっているのだから受け入れるしかない。

この姿を望んだ当時、まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。

 

だけど。

 

私としては今やどちらの精神も私なんだから、どちらも失いたくない。アリスとしてあの世界で過ごした私も、15年間現世で生きてきた普通の女の子である有栖川梨花としての私。

以前仲間達からアリスは変わったと言われた事がある。それは梨花から、少しずつ私の思い描くアリスというキャラクターに近付けていったということなのだろう。

演じようがどうしようが、結局それもまた私なのだ。過去も今も関係ない。

 

だから、私は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私がそれを告げた時に、今まで私の事だからと全て理解している様子でポテチを食べていた梨花の食べる動きが止まった。

 

「…どうしたのですか?」

 

「…いや、えっと……もしかして私の考えてること……分かっちゃった…?」

 

冷や汗をかく梨花の様子は意外なものに感じた。だけどこの言葉には私も首を傾げざるを得ない。

だけど言われてみればおかしなことなのかもしれない。私の事なのに私の考えがわからないなんてことがあるのだろうか。梨花は私の考えが全て分かっているように振舞ってきた。

 

…なら逆は不可能ではないのではないだろうか?私が梨花の考えを分かっても何もおかしな事はない、梨花もまた私なのだから。

 

「分かったというよりは……予測した、が正しいのでしょうか?今の私にはこのことを解決する手段がある、だから今こうしてお話をしている…そう思ったのですが。貴女が『私』なのでしたらその考えも分かっているのでは?」

 

「…知っててそんな事を言うのは性格悪くないかな?…まぁ、手段があることはそうなんだけどさ、なんか腑に落ちないなぁ」

 

「ふふっ、いつまでも主導権を握られっぱなしなのも納得がいきませんからね、どちらも同じ私なのにそれは不公平でしょう?」

 

私がこの結論を出したからだろうか。その瞬間から梨花はひとつの個として感じるようになってきていた。私が出した結論は、…現状維持。

 

梨花を消滅なんてしたくない。アリスという存在はもはや私である。演じるとか考えるのはもうやめることにしよう。だけど自然体のままアリスとして生きていく…その決意を、私は今ようやく固めたのだから。

 

それなら梨花の存在はどうなってしまうのか。ひとつの身体にいつまでも二分したふたつの精神が存在することはどうやらあまりよくないことらしい。

 

「……あるんですよね?方法が」

 

「…まぁね、多分だけどあの女神様が適当なことしたおかげで生まれた副産物、それが今の私には存在してるみたいなんだ」

 

「……副産物?」

 

「うん、これを知ったらエリス様も大慌てするんじゃないかな?だけど私達は悪くないし、せっかくもらった力なんだからありがたく使わせてもらおうかなって」

 

掻い摘んでしまえばどうやらアクア様から賜ったこの身体にはまだまだ秘密があるらしい。そしておそらくそれはエリス様ですら認知していない。アクア様がそれを言わないのは単純に忘れているからだろう、何せ私の存在すら忘れていたような人だし。まぁあの場所で出逢った人なんて私やミツルギさんを含めて星の数ほどいるだろうしそこは今は何も思ってはいない。この世界で再会した際に既に納得していることだ。そこはいい。

 

だけど適当なこと、とはどういう事なのだろう。

 

「パラメータースロットって覚えてる?」

 

「…まさか…!?」

 

パラメータースロット。その言葉で私は完全に理解してしまった。

 

パラメータースロットとは俗に言うとサブキャラである。ゲームの同じアカウントで複数のキャラクターを育てることは別段として珍しいシステムではないと思う。

当時私は今のアリスの素体となった杖/魔法を主体としたキャラクター以外にも両手剣を持つ見た目少女なキャラから、メイド服を着せた白髪ロングヘアの弓使い、装備品の生産に特化したスミススキルを覚えさせたキャラ、薬剤や便利アイテムを作成するアルケミストスキルを特化したキャラ、装備の精錬に特化させて幸運値のみのステータスをカンストさせたキャラなど、様々な形のキャラクターを作成して遊んでいた。

 

これがこの世界でも活用できるとなればとんでもないことになる。自身でオリジナルの装備を作れる、アイテムも作れる。装備を鍛えることもできる。上手く行けばゆんゆんの杖も作れたりするかもしれない。

 

「とは言っても…使えるのは両手剣のパラメーターだけなんだけど」

 

梨花の一言に私はガクッと音がなるように項垂れた。即座に出鼻をくじかれてしまった。よくよく考えてみれば生産系のパラメーターになれたとしてもあのゲームとあの世界、同じ素材があるとは限らない。精錬して装備を強化するなんてゲームのような概念も聞いた事がない。よってそれらのパラメーターはなれたとしても全く意味の無いものになる可能性もある。

 

「これは推測だけどさ、あの女神様多分あのゲームを参考にアリスを構築していったんだろうけどめんどくさくなって途中からあのゲームの概念をそのままコピペしてアリスにぶつけたような感じなんだと思う。あの一瞬の間にこれだけやっちゃうのは素直に凄いんだけどね…」

 

言わばバグだらけの抜け穴まみれ。確かに女神様としての能力は凄まじいのだけどその性格故に色々と台無しである。

 

「ですが…そのおかげでこうやって対処法が見つかりましたし…」

 

「…でも…本当にいいの?」

 

この質問の意図は単純だった。

 

「…はい、梨花にもあの世界を、楽しんで貰えたらと思いますし」

 

私だけではない、今まで私の中で見てきたこの世界を、梨花にも体験してほしい。そんな想いが芽生えたのだから。

変な話だと思う。自分を客観視しているこの状態は傍から見たら本当におかしなことなのかもしれない。

 

「……梨花じゃないよ、『エシリア』、これが今から名乗る私の名前」

 

それは裏のアリス。Aliceを逆から読んで、Ecila(エシリア)。そんな意味を持つことは安易に理解できた。安直なネーミングなのはやっぱり私だからなのだろう。

 

「私に変わる時には…こう言うの。……パラメータースロット、チェンジ…!」

 

ふと立ち上がり梨花が告げる。するとそれは一瞬だった。梨花の姿が瞬く間に変わったのだ。真っ先に映ったのは背中に携えた大きな両手剣。黒いふわふわしたローブにも似た動きやすそうな服装に、天使の羽根を模したような純白のマフラー。それにより口元は隠されていた。そして薄水色のような銀のような髪。私と似たブルーの瞳。

 

納得いかないのが胸である。普通に今までの梨花と同じくらいのサイズがある。むしろ小柄になった分大きくなったようにも見える。

 

「…自分を妬むのはやめてほしいんだけど…」

 

「別に妬んでませんよ?少しも羨ましくないですよ?」

 

「…なんかごめん」

 

「その謝罪はトドメでしかないですからね!?…って……」

 

悔しさから涙目の私の目にはふと梨花……もといエシリアの耳にぶら下がるイヤリングのような何が映った。はて?あのゲームにこんな細かい装飾品はなかったはずなのだけど。

 

「……あれ?これって…?」

 

「…どうしたの?」

 

それは白銀に輝く見慣れたものだった。自分も持っているしダクネスもネックレスとして持っていたはず。

 

「…なんでエシリアの耳にエリス様の像を模したイヤリングが…?」

 

「……えっ?ちょっと何これ!?外れないんだけど!?」

 

これはどういう事なのだろうか。私としてはアクア様は勿論、エリス様も知らない事だと思っていたはずなのだけど、これがついているという事は、これをつけた犯人はエリス様しか考えられない。

 

「えっと…流石に外れないなんてことはないと思いますしちょっと引っ張れば…」

 

「ちょっと待って、痛い痛い痛いから!?!?」

 

ピアス式のものかと思いきや普通に耳に挟むタイプだった。しかしその耳を挟んでいる金具がピクリとも動かない。引っ張れば耳ごと持っていかれている。

 

「幸運の女神様に呪われるなんて…一体何をしたのです?」

 

「直接見た事も話したこともないんだけど!?ホントになんなのこれ!?」

 

必死に片耳につけられたイヤリングを外そうとするも、やはりピクリとも動かない。涙目になりながら外そうとしているエシリアはなんだか可愛らしくてほんわかとしてしまう。

それは結果的外すことができず…ただひとつだけ言うとすれば、間違いなくエシリアからのエリス様への信仰はだだ下がりだと思われる。今度クリスに出会えたら聞いてみるしか無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

さて、何が変わったかと言われると梨花…もといエシリアの存在が今後私から出てくることになった、ということになるのだろうか。

つまり私が変身することでエシリアになる。そうする事でエシリアは思いのままに行動ができるのだ。正直に言えば少しややこしい気もするのだけどそれも仕方ない。問題はみんなになんて説明しようかと考えていたその時だった。

 

 

「あ、そうそう。私の事は誰に対しても秘密でよろしくね?」

 

「…え?…何故です…?」

 

「……いや、本気で誰かに言うつもりなの?少なくとも私は嫌だけど。こうして今私とアリスの2人が精神に存在してしまっている理由を考えてよ」

 

「そう言われると確かにそうではありますけど…」

 

確かに言われてみれば説明が難しい上に下手に本当の事を話せない。例え一番仲の良いゆんゆんが相手だったとしても。むしろ尚更だ。結局自分を追い込んでしまってこうなってしまっているのだからゆんゆんが聞いたらまた独りで抱え込むなと怒られてしまいそうだ。

アクア様に対してもこればかりは説明しづらさがある。以前私がアリスとなった事を後悔していないかと聞かれた事があった。確かに後悔はしていないが結果的に精神崩壊しかけてしまっている。エシリアの存在を正直にいう事はその過程をも話す必要がある、そうなればアクア様とて罪悪感を持ちそうだ。アクア様は何も悪くないのに、むしろ忠告してくれていたくらいなのだから。

 

 

「…確かに面倒事の方が遥かに多いですが…いいのですか?皆に紹介しなくで」

 

「別に正直に言わなくても、知り合う事くらいはできるし。後はうまくやってみるよ。それよりそろそろ時間かな」

 

エシリアがそう告げると、瞬く間に部屋が白く輝き、そして真っ白ないつもの空間へと変貌した。やはり今までの景色はエシリアによるものだったのだろうか。いくら自身の精神世界とはいえやりたい放題すぎる。…なんて考える間にも、次第に意識が覚醒していく感覚を覚えた。

 

「これからはいつも一緒にいるからね、アリス。これからよろしくね」

 

「…はい、こちらこそよろしくお願いしますよ、エシリア」

 

その言葉を最後に、その世界は幕を下ろす。一瞬の内に暗闇が支配したと思えば、それは自身の瞼を閉じたことによるものだと気が付くのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

次第に心地よい光が私の顔に差し掛かる。私はそれを朝日によるものだと認識すれば、思いのままその場で起き上がり、背伸びをした。

 

「…アンリは……まだ寝てますね」

 

小声で言いながら確認する。どうやらまだ早朝らしく、自身にも若干の気だるさを感じた。こうして考えれば先程のことは夢だったのだろうか、そんな風に思えてしまう。

 

(ちゃんと現実だよ、しっかりしてよね)

 

脳内に直接声が聞こえてくるのを感じれば、私は目を無言で目をパチクリさせていた。その声は紛れもなく私のものだ。

はっきり言おう、受け入れはしたものの、物凄く妙な気持ちになる。嫌ではないのだけど今までと違い、確実に私の中にもう一人の私…エシリアがいる。

 

そして、キーワードを私が言えば…、その時エシリアは両手剣を持った美少女剣士としてこの世界に君臨できる。

 

「…パラメータースロット…チェンジ…」

 

(えっ、まさか今やるの!?)

 

そっとベッドから降りて小声で告げた瞬間、私の意識は私の中に引きずり込まれるような感覚を受けた。そして私の姿は、淡く白い光とともに薄水色の髪の美少女剣士へと変身した。

 

「………」

 

(…どうですか?)

 

「…うん、夢の世界と、全然違うね」

 

エシリアは少し涙ぐんでいた。あのふわふわした空間で、私としかコミュニティを得ることができずに、ただずっと独りで私の中にいた。

 

それはきっと想像もつかないくらい寂しいことだと思う。私の弱さが創り出してしまったもう1人の私。だけどどんな経緯であったとしても、どんな奇跡であったとしても、こうして出逢え、話せた。

だったら、もう寂しい想いなんてして欲しくはなかった。不便ではあるけど、それ以上にエシリアにも寂しさ以外の気持ちをもっと知って欲しかったから。

 

(とりあえずエシリアとして冒険者登録ですかね、まずはこの世界に慣れなくてはいけませんし)

 

「ぼ、冒険者…できるかな、私に…?」

 

(何を急に弱気になっているのですか、私にできてるのですから貴女にできない道理はありません、その大きな剣は飾りですか?)

 

「いやちょっと待ってよ、私がこんな大きな剣なんて使った事ないことくらい私なら分かるでしょ!?」

 

(声が大きいですよ、アンリが起きてしまいます)

 

『……お姉ちゃん――、誰…?』

 

「……っ!?」

 

私以外の声が静かに聞こえてきてエシリアはそのまま背伸びするように硬直してしまった。流石にここまで声を出せばアンリが起きないはずもなく。

 

結果、エシリアが初めて大きく感じた感情は焦燥だったとさ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ようやく時間ができて一気に書きました。不定期更新はまだ続きますが今後もよろしくお願いします(o_ _)o

何気にこの小説、来月で一周年なんですね。時間が経つのがはやい…
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