内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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前回のあらすじ

もう1人の梨花、もといエシリア加入。正体はバレたくないとしたものの、即アンリに見つかってしまう。


episode 145 エシリアの出逢い

 

―カズマ君の屋敷・自室―

 

おそらくエシリアとしてはこれからの期待、希望、不安など、様々な感情が入り乱れていたのだと思う。私もこの世界にアリスとなってやってきたばかりの頃はそんな感じだった。だからエシリアも周りを気にする余裕なんてなかったのだろう…、いや完全に不意打ちで交代した私が悪いのかもしれないけど。

 

『……お姉ちゃん――…誰…?』

 

「……え、えっと……」

 

登場早々に冷や汗ダラダラである。ぶっちゃけ私としては仲間内にはバレても問題ないのではないかという気持ちがあったりする。何故同じ私のはずなのにこうも考え方が違うのかは分からない。分かるのはこうして全く違う想いがあることで今や(アリス)とエシリアは同じ身体に宿った別物の人格なんだなと改めて認識できたこと。

 

肝心のアンリはというと、困惑したり怯えたりはしていない。突然目の前に見知らぬ人がいるにも関わらず、ただ不思議そうに可愛らしく首を傾げている。これは意外なことだった。

 

「…わ、私は、その…アリスのお友達で、エシリアって言うの!」

 

『……アリスお姉ちゃんの――…お友達…?』

 

切羽詰まったエシリアが言ったのはありきたりな誤魔化し文句。まぁ一番無難ではある。これでうまくこの場を逃れることができればそのまま後に私が口裏を合わせたらいいのだから。しかしどう合わせたらいいのだろうか、こちらの事も考えてもらいたい想いはあったりする。アンリが寝ているすぐ横で変身してしまった私が悪いと言われたらそれまでだけど。

 

『…アリスお姉ちゃんは――…どこ――?』

 

「あ、アリスなら…その、今は下の階にいると思うよ?呼んでこようか?」

 

呼んでこようか?と聞きながらもエシリアは既に扉へ向かってせっせと歩いている。一刻も早く私に戻ってしまいたいのだろう。そこまで必死に隠さなくても経緯などを省いた上で簡単に説明したらいいのに。何がエシリアをここまで動かすのだろうか、私にはわからない。私の事なのにも関わらず。

 

エシリアはじっと見つめているアンリに構うことなく距離をとってドアノブを握り、そして若干の焦りから急いでいたせいか、ドアを開く際に少し力を込めて開けたと同時。

 

「きゃ!?」

 

開いたドアの後ろから単調な悲鳴に似た声が聞こえてきた、言うまでもなくこの声の主はゆんゆんだろう。まさに開こうとしていたドアが開かれたことで押された形になってしまったようだ。ゆんゆんは部屋側に開いたドアに引っ張られる形でおたおたと部屋の中に入ってきた。

 

「…あれ?アリスはやいのね、もう起きて…………」

 

「……」

 

エシリアとゆんゆんの目が合う。エシリアの心拍数がめちゃくちゃあがる。これでもかとあがる。

私としては完全に客観視できているので冷静でいられるけど私の事を隠したいエシリアとしては最悪な状況だ。

 

「……貴女は…どちら様ですか…?何故アリスの部屋に…?」

 

「…えっとその…」

 

またも冷や汗ダラダラ状態である。そしてアンリについた嘘はもはやバレてしまっているだろう。

何故ならエシリアが言った通りに私が下の階にいるのなら、こうしてゆんゆんが起こしに来るはずがないのだ。つまり下の階に私はいないということになる。

 

(頃合ですね…観念して正直に話しましょう?)

 

もはや完全に手詰まりである。何事も諦めが肝心だ。だからこそ私はそっと忠告した。

しかし、私は分かっていなかったのかもしれない。エシリアという子の事を、自分であった子でありながら、理解できていなかった。

 

「.…その、えっと……ご、ごご…」

 

「ご?」

 

「ごめんなさぁぁぁい!!」

 

エシリアは予想外の行動に出た。そのままゆんゆんに背を向けて、窓へと走り――。

 

「ちょ、ちょっとそんなところから飛び出したら危な…!?」

 

ゆんゆんが注意するように手を伸ばすが、エシリアは聞く耳を持たない。そのまま豪快に2階の窓から飛び降りて――。

 

「きゃああああ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「ゆんゆん、どうしたんだい!?」

 

ゆんゆんの驚きからの悲鳴が聞こえてくると屋敷内からは様々な声やドタドタと足音まで聞こえてきていた。そしてエシリアはにぶい音とともに下の庭へと着地、そのままどこに行くのかも決めないまま走る、ただ走る。私が何を言っても聞く気はないようだ。完全に暴走モードである。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

―アクセルの街・公園―

 

エシリアは荒く息を吐きながらも走り続け、ようやくたどり着いた場所は住宅街にある小さめの公園。…そこは私が初めてアクセルに来た時に途方に暮れていたあの公園だった。ここにいてセシリーさんの声が聞こえてきて、ある意味劇的な出逢いをした…あの公園。

 

なんて想いに浸っている場合でもない。何故ここまでしたのだろうかこの子は。状況はあまりよろしくない。ゆんゆんやアンリから見ればアリスがいなくなって代わりにエシリアがいて、その子はそのまま逃走した。つまり私が行方不明の状態である。また無駄に皆に心配をかけてしまう、そう思えば溜息をつきたくなる。

 

(…ごめん…、気が付いたら頭が真っ白になっちゃって…)

 

(…過ぎた事を気にしても仕方ないですよ…、落ち着いたら私に戻って屋敷に戻りましょう。そうしないと今頃私がいないと大騒ぎになっているかもしれませんし…)

 

(戻るのは……う、うん…分かったけど…その…)

 

(…?)

 

今のエシリアは公園のベンチに独り座り込んでいた。傍から見ればお腹を抑えるように蹲っていて落ち着きが感じられない。

 

(…お腹空いちゃって…、ねぇアリス、何か食べよう?私の姿だと屋敷では食べられないし…私お金持ってないし…)

 

(……あくまで秘密にしたいのですね…、ですがその希望には応えられませんよ…)

 

(…なんで?アリスってこの世界のお金、いっぱい持ってるよね?)

 

(確かにありますが今はありません。お財布は私の部屋に置いてきましたからね)

 

更に言えば今私に戻った場合、寝間着姿で髪はボサボサで杖も何も持っていない。出来たら屋敷に近い場所で私に戻りたいものである。

 

私が言った事に納得はしたのか、エシリアはそのまま無言で俯いてしまった。そして私はここまでエシリアの様子を見ていて、エシリアとはどんな存在かを再認識していた。

 

元々、エシリアという人格は私がアリスになったことで生まれた存在。私がアリスのキャラクターを演じて、そうなろうとすればするほど、私はこんな子ではないと無意識に思って生まれた存在。つまり私は本来こうであると私が考えた有栖川梨花こそが今のエシリアなのだ。

それはとてもか弱い存在、アンリやゆんゆんを前にしても、ちゃんと話すことすらできないような人見知り加減。テンパるといっぱいいっぱいになってしまうほど臆病。私が前世でそうであったように、それは見れば見るほど昔の私そのままの状態だった。

 

だけど少なくとも私と話すエシリアはそんなひどいものではなかったので完全に失念していたとも言える。どうやら明るく振舞ったりできていたのは相手が私だったからなのだろう。自身と面識のない人と話せば結果はやっぱり昔の私でしかなかった。

 

(…なんか私が悪いみたいな空気だけど、元はと言えばアリスがいきなり私に代わったからだからね?)

 

(…その点はそうかもしれませんがまさか窓から飛び出して逃げ出すまでは予想できませんでしたよ…)

 

驚くべきはそんなことをしたにも関わらず、エシリアは無傷だった。着地した際に少し足に痺れを感じたくらいだそうだ。

これはおそらく私がアリスとなった際に魔力や知力が備わっていたようにエシリアにも元のゲームで設定していたステータスが反映されていると推測できる。両手剣を軸に戦う彼女のステータスは筋力と体力、敏捷性を多めに振っている。…もしかしたらこの知力ステータスが少ない事でより性格が悪化しているのかもしれない。荒療治があったとは言え私は知力が高く、冷静に考えられたからこそ順調に物事が進んだような気もする。

 

…これはしっかり私がサポートしてあげないと。

 

まさに前途多難である。身体があれば迷わず頭を抱えていることだろう。とりあえずまずは屋敷に帰らなければ…、そう思うと私にも焦りが生まれてくる。

 

 

 

 

…そう考えたその時だった。

 

 

 

「こんな朝早くから独り思い詰めた様子だけど、大丈夫?」

 

「……え?…わ、私…?」

 

エシリアの座るベンチの前に1人の少女が近付き、話しかけてきた。ややしっかり者のような印象を受けるはっきりとした口調、それにはエシリアも慌てて俯いていた顔をあげた。

 

長い黒髪を靡かせた軽装の少女はこちらへの視線を逸らすことなく、堂々とした様子でいる。正直に言えば昔の私からしたら苦手なタイプかもしれない。

 

「私の名前はリアというんだ、最近仲間とともにこのアクセルに来たばかりの…アイドル志望の冒険者さ」

 

「…あ、あいどる…?」

 

それはこの世界で初めて耳にする単語だった。だが日本にいたら割と耳にする単語。それが出てきた事に若干の違和感を覚えるが、この世界は昔から私のような日本人が多く転生してきた場所。そんな日本で馴染みのあるワードが出てきたとして、特に驚くほどのことでもない。

 

「うん、アイドルというのは…踊り子のようなものだな、お客さんの前で歌やダンスを披露する仕事なんだ。とはいえまだまだ駆け出し故にそれだけでは生活できないから、こうして冒険者も兼業しているんだ」

 

こちらがアイドルという単語を知らないものだと思ったのか、リアと名乗った少女は丁寧に説明してくれた。今思い出すと話した事はないが最近アクセルの冒険者ギルドで見かけたことがある気がする。こちらの世界では黒髪の人は紅魔族くらいしかいないので珍しくもあり、自然に目に付いた感じではあるが。

 

「ご…ご丁寧にどうも……、わ、私はエシリア…それで…、私に何か用…?」

 

ゆっくりと、言葉を選ぶように返答と自己紹介を最低限に済ませる。するとリアはエシリアの横に置いている両手剣に目を向けて、そのまま話を続けた。

 

「用…そうだね。最初は君の様子が心配で声をかけたんだけど…、話す限り体調は問題なさそうだね。……そうだ、見る限り君は冒険者だろう?もし良かったら、私達と一緒にクエストに行かないか?」

 

「…え?」

 

突然の提案にエシリアは目をパチクリさせていた。かくいう私も理解が追い付いていない。確かにエシリアの見た目は冒険者と見ても遜色のないものだからそう見えることは仕方ない。だが他に仲間がいるらしいのにどうしてそんな事を言ってきたのだろうか。

 

「あ、あの…私はこの街に来たばかりで…その…まだ冒険者ではないの…、だから…」

 

俯きがちなまま告げるエシリアの様子は暗い。若干嘘をついている罪悪感からかもしれない。ある意味嘘は言っていないのだけど。

そんなエシリアの話を聞いてもリアは表情を変えない。淡々と話を続けていく。

 

「あぁ、そうだったのか。なら冒険者ギルドの場所はわかる?良かったら案内するよ」

 

「えっ?わ、私は冒険者になるとは言ってないけど…」

 

「あははっ、今『まだ冒険者ではない』と言ったじゃないか、ということは、近いうちに冒険者になるつもりだった、違う?」

 

「そ、それは…そうだけど…でも私…お金も持ってなくて…冒険者になるのって、お金がかかるよね…?」

 

エシリアはあげた顔を再び俯かせる。その声も言いにくいからか段々と小さいものになっていた。

 

「お金がないか…それなら問題ないよ、私が出してあげるから」

 

「…えぇ!?」

 

リアの表情を変えない提案に再びエシリアは驚きその顔をあげた。

 

…そもそもこのリアという子は今出逢ったばかりのエシリアに何故ここまで親切に接してくれるのだろうか。見た感じ悪い人間には見えないが、アリスであった時にはまったく知らない人間でもないのだけど話したこともない。どうも目的が分からない。

 

それはエシリアからしても同じだったようだ。

 

「…あの、何故そこまで親切にしてくれるの…?私達、今出逢ったばかりだけど…」

 

当然の疑問。ただ良い人で済ませようと思えばそれでも良かったのかもしれない。しかしエシリアの疑問は当然だった。

エシリアからすれば過去の人付き合いは私以外なら前世の梨花としての記憶しかない。少なくともこんな風に手を差し伸べてくれる人を、エシリアは知らなかったのだから。

 

「…警戒させちゃったかな、ごめんね。だけどエシリアはどこか思い詰めた顔をしていたし、その…放っておけなかったというか…こんな事を言ったら怒るかもしれないけど、他人事のような感じがしなくてさ」

 

リアの表情はここにきて少し沈んでしまった。視線と指差しでこちらの隣を指したことで、隣に座っていいかと確認してきたのでエシリアは無言で頷く。すると遠慮なくリアはエシリアの隣に腰掛けた。

 

「……私はね、過去の記憶がないんだ。それで途方に暮れていた時期があった」

 

「…記憶喪失…?」

 

「…うん、だけどそんな私に手を差し伸べてくれたのが今の仲間の二人、エーリカとシエロなんだ。だから失礼なんだけど、それを思い出したら…いてもたってもいられなくなってね…、これが答えだけど…怒ったかな?」

 

なんとなく。リアが心境を話したからか、エシリアの警戒が緩んでいたことを私は認識した。人にはそれぞれドラマがある、こうしてリアと巡り会えたことはエシリアにとって偶然ではなかったのかもしれない。

 

「時間的にも朝食だし、良かったら食事も一緒に摂ろうか、私の仲間も冒険者ギルドで待ってるから、さぁ、行こう?」

 

「……えっと……あ…うん!」

 

そうして立ち上がり、差し伸べた手をエシリアは困惑しながらもゆっくりととり、立ち上がった。

穏やかなリアの優しさに触れたエシリアの緊張は大分解れてくれたと思う。どことなく嬉しそうにも見えた。

きっと真っ暗な状態の中、リアという存在がエシリアにとって光のように見えたことだろう。そう思えば私としても安堵はできた。

 

 

 

 

……のだけど。

 

(…エシリア)

 

(……分かってるよ…分かってるけど…せっかく声をかけてくれたのにあっさりさよならなんて私にはできないよ…)

 

これには溜息をつくしかない。どうやら私が元に戻るのはもう少し時間がかかりそうだ。今のうちにゆんゆん達への言い訳を考えておくしかない、現状全く浮かんでいないのだけども。

 

穏やかな朝の陽の光を浴びながらも、エシリアはリアに引っ張られるように冒険者ギルドへと向かうのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回→アリスが言い訳を思い付いたら
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