内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 147 エシリアと冒険者カズマ

 

―アクセルの街―

 

端的に言ってしまえばクエストへ行く事が決まってしまったエシリア。そのクエストの内容によってはもしかすると今日中に終わらない可能性すらある。アクセルは駆け出し冒険者の街故に日を跨ぐようなクエストは稀ではあるものの、もしそうなってしまえば困る、非常に困る。

 

エシリアは良くてもアリスである私が困るのである。元のゲームなら今の私とエシリアの状態のように1つしかない身体を入れ替わるような面倒な形ではなく、傭兵として共に存在させることが可能なのだけどそこまで忠実に再現されてはいなかったようだ。

簡単に言えば今後もずっと私とエシリアは同じ身体を入れ替わりでやって行かなければならない。

 

そうなると今回のようにアリスとして行動したい時、エシリアとして行動したい時と別れた時、どうしたらいいのだろうか。その2人の全く異なる行動が同時期に行わなくてはならなくなった時、どうしたらいいのだろうか。…となる。

 

(エシリア、やはり私とエシリアの事を隠して今後過ごす事には無理があると思います)

 

(で、でも…)

 

(ですから私達の事は話しますが、エシリアの存在についてまで正直に話す必要はないでしょう?)

 

(……え?ど、どーいうこと…?)

 

うーん、エシリアには悪いけど知力ステータスの差なのか、同じ私なのに理解力がない。私はあくまで知力極振りのステータスだからこそここまで頭が回るのかもしれないが若干の面倒くささを感じてしまう。

 

(ですから、ようは元々私とエシリアが同一人物ということが隠せれば、エシリアの面目は立つのでしょう?エシリアは何か別の理由で私の身体に憑依した、とか、理由なんていくらでも作れますよ。嘘をつくのは少し後ろめたいですがエシリアが隠したいのでしたらそれも仕方ないでしょう?)

 

(憑依したって…流石に無理があると思うけど…)

 

(あくまで例えばの話ですよ、兎に角一度リアさん達から別れて、屋敷に戻ってください。それから私に戻った上で、ゆんゆん達に私の無事とこれから単独で出かけることを告げた上でまた戻るようにしますから、ね?)

 

(…う、うん)

 

なんとも不安を隠しきれない返事が帰ってくる、本当に大丈夫なのだろうか。だけどこれだけはやってもらわないと。不幸中の幸いなのは今日は私のパーティのクエストはお休み予定だったということか。ただゆんゆんの杖の材料の件でウィズさんに話を聞きに行く予定ではあったものの、こうなってしまっては仕方ない。強引に急用ができたとかではぐらかすしかないだろう。最悪ウィズさんのところへはゆんゆん達だけでも行けるだろうし。

 

 

 

 

「…そ、その、ごめん皆、これからクエストってところで悪いんだけど…その…ひとつ用事を思い出したから先に街の入口で待ってて欲しいんだ、直ぐに向かうから…」

 

今はクエストへ行く前の準備として街の薬屋でポーションなどを購入しようとしていた。そんな中おどおどとした様子でエシリアが告げれば、三人娘は物色していたポーションを見るのをやめて、互いに顔を見合わせていた。

 

やはり不審に思われたのだろうか。エーリカとシエロはよくわからないのか首を傾げている様子。だけどリアだけは違う、どこか焦りを見せるように振舞っていた。

 

「…よく考えたら私はエシリアの事を何も聞かずに連れてきてしまったんだな。その…、ごめん、迷惑だっただろうか?」

 

「…えっ!?いやその、そんな事はないよ?路頭に迷ってたのは本当だし…、ただやるべき事もあって、それはすぐに終わるからさ」

 

どうやら変に気を遣わせてしまったようだ。こちらのことを疑うような素振りがないことはありがたいのだけどこれにはエシリアとしても軽い罪悪感に似たものができたかもしれない。

 

「…わかった、なら私達はクエストの準備を済ませて街の入口で待っているよ」

 

「行ってらっしゃい、気を付けてくださいね」

 

「可愛い私を待たせたらダメなんだからね?」

 

そんなリア達の反応はどれも疑うような目は持たず、信頼してくれているようにも見えた。まだ出逢って間もないにも関わらず、こちらの事情に一切踏み込んではこなかった。

ただ興味がないだけかもしれない、今日クエストを終えればそれまでの仲なのかもしれない。固定パーティとなった訳ではないし冒険者とはその程度のものだ。

 

それでも今のエシリアには、3人の反応が嬉しくあったのもまた事実だった。

 

「…うん、できるだけ急いでくるから…!」

 

そう告げると駆け出した。絶対にリア達を裏切りたくない、そんな想いとともに。

 

 

 

 

 

(…あの、アリス…?)

 

(……はい?)

 

(…アリスのお家って、どこ…?)

 

(……はぁ…)

 

エシリアにとってアクセルは初めて見る異世界の街、当然の疑問ではあるがなんとなく溜息がでた。ついでに言ってしまえば待ち合わせ場所である街の入口も理解していないだろう。教えたら済むことなのでいいのだけどなんだか力が抜けた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このすば。((そこを真っ直ぐ行って右です))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―アクセルの街・住宅街―

 

私が住んでいるカズマ君の屋敷はアクセルの街の住宅街の外れにある。立地場所としてはあまり恵まれた位置ではない。元々は幽霊屋敷だったらしいのでそれも仕方ないのかもしれないが。

 

そんな街を走るエシリア。早足に近い速度だが疲れている様子はない。記憶通りなら両手剣という近接武器故に体力の値はアリスである私よりも多めに振っている。ちなみに後衛職でありながらアリスの体力が高めなのはゲームではソロによる活動が割と多かったからという少し寂しい理由があったりもする。

 

(後は真っ直ぐ走れば屋敷が見えてきます、屋敷の裏手辺りにでも潜んで私に戻りましょう)

 

(う、うん、わかった…)

 

(正門から堂々と入るのは目立ちすぎます、壁を飛び越えて潜入しましょう)

 

(……簡単に言うよね…)

 

言うは易し行うは難し。確かにその通りではあるが屋敷の2階の窓から飛び降りたエシリアの身体能力ならそこまで難易度の高くない芸当であると私は思っている。というのもクリスが実演していたのを見た事があったからだ。彼女の場合は更に2階の私の部屋の窓までよじ登るというおまけ付きではあったが。

勿論私の部屋まで戻ってもいいとは思ったがアンリなど、誰かしら居る可能性がある。よって私の部屋に限らず屋敷内に入るのは私の姿に戻ってから、という事になる。

 

ここまで走ってきて人通りは少ない。見た目故に目立つので通行人に目を向けられはするものの、そこまで気にされている様子もない。これから問題なく屋敷の庭に潜んで私に戻る事ができるだろう、私は微かにそう想って安堵していた。

 

 

 

 

……もちろん、フラグだった。

 

 

 

 

 

「バインド!!」

 

「……え?きゃぁぁ!?」

 

突然足元から出現したのは無数のロープ、それはエシリアの身体にまとわりついて瞬く間に縛り上げてしまった。これにはエシリアも驚き悲鳴をあげる。

 

「おいめぐみん、本当にこの子なんだろうな?もし間違っていたら俺、罪のない女の子を縛り上げてるただの鬼畜なんだけど?」

 

「間違いありませんよ、ゆんゆんの言っていた特徴と完全に一致しています。『犯人は現場に戻る』…カズマが言ってた時はただサボりたいだけだろうと思っていましたが、こうして現れた以上は認めざるを得ないですね、ですが御安心ください、ただの鬼畜で変態なのは今に始まったことではありません」

 

「誰が鬼畜で変態だ!?ちゃっかり悪口を増やしてんじゃねぇよ!!」

 

「……っ!?」

 

やはりフラグだったようだ。エシリアは待ち構えていたカズマ君による対象をロープで捕縛するスキル《バインド》により捕まってしまい簀巻きのようにされてその場で転んでしまう。

 

「まぁそれはいいでしょう。では貴女、エシリアと名乗っていたようですが…アリスはどこですか?素直に白状しないとこの鬼畜で変態な男からロクな目に合わないですよ」

 

「……知らない」

 

「知らないことはないだろ?うちのアンリにはアリスの友達って話してたらしいじゃないか」

 

…こうして話を聞いているとなんとなく私がいなくなった後の屋敷の状況が把握できた。やはりと言うべきか、屋敷にいた人達は全員私の事を探しているのだろう。今エシリアの目の前にいるのがカズマ君とめぐみんの2人だけ。おそらく二人組を作って私の事を探しているのだと思われる。

 

(…エシリア、今すぐ私に変わってください。それが一番円滑に事態を解決できる方法です)

 

だから私はエシリアに進言する。エシリアにだけ届く私の声を直接送る。

正直に言えばエシリアの事をどう説明したらいいのか全く考えが浮かんでいないのだがこうなってしまったからには仕方ないだろう。

 

少なくとも、アリスである私は、そう思っていた――…だが。

 

 

(…ごめん、それはできない)

 

エシリアからの拒否、それは私にとって予想外すぎた。突然のカズマ君達の襲撃、そして捕縛。色々思うところがあり、感じるものは私とは異なった、ただそれだけの話。

 

(ふざけないでよ…!!私は何も悪い事はしてない!今だってアリスの為に急いで元に戻ろうとしてたよ!なのになんなの、この仕打ち!?話を聞くこともなくいきなり捕縛とか常識のネジぶっ飛びすぎでしょ!?)

 

(…気持ちは分かりますが…感情に任せて暴走するのは賢い選択とは…)

 

「うるさぁぁぁぁい!!」

 

「な、なんだ!?」

 

その瞬間、エシリアは大きく咆哮したと同時に赤いオーラのようなものがエシリアを包み込んだ。そしてその場で力を込めて…

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

「…う、嘘だろ!?」

 

カズマ君はその場に立ち尽くしたまま呆然とし、めぐみんも目を見開いて刮目している。それだけ衝撃的な光景だったに違いない。

 

エシリアの見た目自体は私とあまり変わらない華奢な細腕だ。だからこそ背中に携えた大きな両手剣が不釣り合いにも見えてしまうのだが、エシリアは今、バインドによるロープを強引に引きちぎって捕縛から逃れる事に成功してしまった。同時にエシリアが使ったスキルもまた、思い当たる節があった。

 

《ウォークライ》

 

片手剣や両手剣を専門としたブレードスキルのひとつ。咆哮をあげることで戦意高揚させ攻撃力を高めるのと同時に、状態異常《恐怖》を解除できる。

この世界の状態異常に恐怖というものは聞いた事はないがその効果はエシリアの弱気な面を払拭するという意味では最適なものとなったようだ。何よりも今赤いオーラを纏っているエシリアの状態から推測すればこのスキルを使ったことは確定だろう。同時に予想通り、エシリアにはあのゲームのスキルが備わっていることも確定した瞬間である。

 

「アリスを心配する気持ちはわかるけどさ、いきなり初対面の人をロープで縛り付けるって何考えてんの?何も事情も聞かないでさ、常識ないのあんた?」

 

「…ぐっ…」

 

やはり後ろめたさはあったのか、エシリアのその言葉でカズマ君はたじろいでしまった。しかしめぐみんは違うようだ。

 

「…話をはぐらかしてもらっては困ります。貴女はこちらからすれば私達の家への不法侵入者でありアリス誘拐の容疑がかかっていますからね。…それに今の話だと貴女はやはりアリスの事を何か知っているようですからね、大人しくアリスの事を話すまで、逃すつもりはありませんよ」

 

「……」

 

それを聞いてエシリアは黙り込んでしまった。何を思っているのか、同じ身体に存在している私ですら理解ができない。

 

エシリアはその場で背中の両手剣を右手で持って、その剣の重さに任せて勢いよく振り下ろした。剣先が地面に到達すれば、その場で地面にヒビが入った。

 

「…っ!?」

 

「…なんだよ、やる気か?俺は数々の魔王軍幹部を討伐してきた冒険者、カズマさんだぞ!」

 

(…エシリア、それだけは…!)

 

私は思い違いをしていたのかもしれない。私はエシリアの事をずっとかつての有栖川梨花であった私としてとしか思ってなかった。だからそんなか弱い存在であるエシリアがここまでの行動を起こしているのが意外でしかなかった。もしかしたら《ウォークライ》のスキル効果により感情が昂っているのも原因かもしれないが、何が理由であろうと私はエシリアとカズマ君達が敵対してしまうような事態には絶対になって欲しくない。

 

(…大丈夫)

 

ふと単調にエシリアが私に向けて告げた。それはあくまで自分は冷静であると言っているのか、あくまで敵対する気はないと言っているのかはわからないが、今はエシリアの言葉を信じるしか、私に出来ることはなさそうだ。

 

「…アリスなら多分夕方には帰ってくる、これで満足でしょ?」

 

「…満足出来る訳ないでしょう?アリスは自分の部屋に杖や服など全ての装備を置き去りにしていなくなっているのですよ?それも私達に何も話す事もなく。仲間として心配するなというのが無理な話です」

 

「…なら力づくで止めてみたら?私は行かせてもらうけど」

 

エシリアはその場で剣を背中に戻し、背を向けた。当然それで黙って行かせてくれるはずもないのだが、カズマ君はすぐには動けないでいた。その理由はすぐに分かった。

おそらく今のカズマ君にはバインドによる捕縛が力業で抜けられたことに恐怖を覚えているのだろうと思われる。

 

「カズマ、流石に私が爆裂魔法を使う訳にも行かないでしょう?さっさとなんとかしてくださいよ」

 

「…ぐっ、だったら…あいつが去る訳には行かないようにしたらいいんだろ!これでその剣を奪ってやる…!《スティール》!!」

 

「…っ!?」

 

エシリアはこの世界のスキルについて全く知らない。なのでスティールと言われても何が何だかさっぱりではあるのだが、カズマ君が事前に剣を奪うと言ったことで焦りを覚えてその場で大事そうに背中の剣を握りしめた。

 

…しかし剣が奪われた形跡はない。これにはエシリアも安堵するがすぐに違和感に気が付くことができた。

 

「……」

 

「…これは…!?黒のレース…!?」

 

何が起こったのか、説明するのも億劫である。ただ言えるのは、エシリアは違和感に気づくなりワナワナと震えてめぐみんは軽蔑の視線をカズマ君に向けている。《スティール》は盗賊スキルであり、効果は対象のアイテムをランダムにひとつ奪う。そして使用者の幸運値が高いほど、使用者の狙う獲物が獲得しやすい、らしい。

 

「……《縮地法》」

 

「…げっ!?ぐわぁぁぁ!?」

 

《縮地法》

 

それはかのゲームのモノノフスキル。効果は攻撃対象まで一瞬で接近するスキル。文字通り瞬く間にカズマ君の傍に瞬間移動したエシリアはその場でカズマ君の頬を力任せに引っぱたいて同時に盗られたものを回収することに成功した。派手に吹っ飛ばされるカズマ君。変わらず軽蔑の視線を向けるめぐみん。そして顔を真っ赤にしたままその場を走り去ったエシリア。

 

…なんともカオスな事になってしまった。一応夕方には戻る事を告げただけマシと考えるべきなのか、むしろそう思うしかないのか、私としては頭を抱えるばかりである。

 

(あれってアリスの仲間なんだよね?)

 

(…ま、まぁそうですが…)

 

(少しは仲間の人選をすべき、少なくともあのカズマって人、私は嫌い…)

 

(……)

 

まぁ…出会い頭に縛られて、おまけに下着まで強奪されてこれで良いイメージを持てという方が無理な話なのかもしれない。結果的にエシリアのカズマ君への第一印象は最悪である。

 

エシリアは勢いのまま走る。予定とはかなり異なる展開になってしまった。後は無事にクエストが終わる事を祈るしかない…と思うのは、これもまたフラグなのだろうか?流石にアクセルの街のクエストで何かあるとは考えにくいが。メンバーもまともな人達だったし問題ないだろう…、この時私はひたすらそう思っていた。

 

 

…それら全てがフラグだということまでには至らずに。

 

 

 

 





久々スキル説明。

《ウォークライ》ほぼ作中通りではある。咆哮により戦意高揚して攻撃力を上昇させる剣スキル。同時に恐怖状態だった場合解除できる。この効果は味方にも付与可能。

《縮地法》本来は抜刀剣(つまり刀)のスキルではあるが、他の武器であっても習得することで使用は可能。攻撃対象へと一瞬で接近する。ゲームでは一瞬ではないがその辺は地味な強化ということで。
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