内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 148 エシリアとアクセルハーツ

 

 

―アクセルの街・屋敷―

 

視点変更・無

 

 

エシリアがカズマ達から逃げ出して少し時間が経ち、時刻は午前10時になっていた。アリスの予想通り屋敷にいたメンバーは2人1組でアリスの捜索をしていて、この時間に一度集まって情報交換することにしていたのだ。

 

リビングには重苦しい空気が漂っている。アンリは寂しそうにゆんゆんに抱きついているが、ゆんゆんもアンリを元気づける余裕はなさそうに見える、ただ力無くソファに座って俯いていた。

 

そんな中でもそれぞれが得た情報を出していく。そしてそれは非常に異質なものだった。

 

「…聞けば聞くほど訳が分からないな…、仮にエシリアという子がアリスを誘拐したのだとしたら…そんな状況で呑気に冒険者登録などするだろうか?」

 

得た情報をまとめてミツルギが嘆くように呟いた。というのもまとめる必要などない、カズマとめぐみんの情報以外が全て同じ内容だったのだから。

 

「…正直に思った事を言いますが、あのエシリアという子は誘拐などするような人間にも見えないのですよね。夕方になればアリスは帰ってくる…そう言ってはいましたが…」

 

「…私もめぐみんと同じ…、あの子のあの様子…後ろめたいとかじゃなくて、ただ恥ずかしそうにしてるだけみたいにも見えたし…」

 

「冒険者ギルドに行ったら聞くまでもなくエシリアの話題で持ち切りだったからな。登録して即クルセイダーに転職した有望な新人冒険者だと…」

 

「…いやそもそもさ、おかしくないか?アリスの部屋にはアンリがいたんだぞ?もしエシリアに悪意があってあの部屋にいたならアンリはもっと過敏に反応していると思うんだけど」

 

様々な話が飛び交う。しかしながらエシリアについての詳細は謎が謎を呼び、結果的には頭を抱えるだけで終わっていた。そんな中、ただ一人だけは何も言わずにポツンと聞いていた。

 

『――あのお姉ちゃん―…』

 

「…どうしたのアンリちゃん?』

 

俯きソファに座ったまま呟くアンリにゆんゆんが心配そうに声をかける。ちょうどエシリアに対する考察や情報交換の話題が途切れた時に放たれた言葉だったので皆の視線は自然とアンリに向いた。

 

 

『――あのお姉ちゃん――…、アリスお姉ちゃんに――…凄く似てた――…』

 

 

アンリのその言葉からの静寂は一瞬。だがそれはこの空間にいる者達には長く感じることになった。それぞれがアンリの言葉を聞いて何も言わずに考えたのだから。そして1番に考えこむ顔をあげたのがダクネスだった。考えるだけ無駄と感じたとも言える。

 

「…それに関しては、私からは何とも言えないな…、この中で実際にエシリアと対面したのはゆんゆん、アンリ、カズマとめぐみんだ、私とアクア、それにミツルギ殿はまだ出逢えてないからな」

 

ダクネスはそもそもエシリアを見ていない。なので考えようがなかったのだ。その言葉がきっかけで激昂したのはダクネスの隣に座るミツルギだった。

 

「大体元はと言えば佐藤和真、君が話す間もなくバインドなんてしなければ、もっと穏便に話ができたんじゃないのか?」

 

その言葉には誰もが頷く。カズマと一緒にいためぐみんでさえも。あの時は特に非難することもなかっただけにカズマは裏切られたような気持ちにはなるがあの行動はめぐみんに言われてした訳でもない、よってそれに関しては文句は言えなかった。カズマの表情は複雑ながらも、その時の心情を正直に言うしかない。

 

「ぐっ…そりゃ俺だって気乗りはしなかったよ、だけどあの時はアリスが誘拐されたって線が強かっただろ?それにゆんゆん達からは逃げたらしいし、また逃げられても困るだろって思って…」

 

「結果的にバインドは強引に解かれて更にカズマはスティールで彼女の下着を奪い、完全に怒らせてしまいましたけどね、一瞬でカズマの傍に近付いてビンタしてましたから」

 

「お前はまた余計な事言わなくていいんだよ!?…やめろお前ら!俺をそんな目で見るな!!大体スティールで奪えるものは完全にランダムなことくらい皆知ってるだろ!!俺は逃げられないように剣を奪おうとしただけだ!」

 

必死のカズマの自分弁護も、皆の前では効果は薄く、結局軽蔑のこめられた目で見られていた。実際カズマは剣を狙うと宣言していたので一切嘘は言っていないのだが何分彼には前科が多すぎた。よってその言葉を信じる者はその場にはいない。

 

「…落ち着け、今ここでカズマを責めてもアリスが戻ってくる訳じゃないだろう?どうしても責めたいのならこの私を責めるんだ」

 

「お前は俺を弁護したいのかただ責められたいのかはっきりしろよ!?冷静を取り繕っても魂胆はみえみえなんだよ!」

 

「よし、ならば皆、私を責めてくれ!」

 

「少しくらい躊躇しろ!!」

 

頼りになるまとめ役かと思えばこの始末である。結局話はうまくまとまらずいつもの流れになってしまっていた。話についていけなくなったゆんゆんとミツルギはアンリを連れてアリスを探しに外へ出たのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このすば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―アクセルの街・路地裏―

 

カズマ達から逃れることに成功したエシリアは人通りのほとんどない住宅街の路地裏へと隠れ、奪還した下着を着直した。羞恥心による勢いのまま全力疾走で逃げ出した結果だ、それにより感情は昂っていたのもあってヘトヘトになっていた。

 

「…はぁはぁ……、いくら体力がついたと言っても……はぁ……やっぱり疲れはあるんだね…」

 

(そりゃそうですよ、かなりの距離を全力疾走してきたんですから)

 

(…それで…予定していた形とは違うけど…これで私はクエストに行ってもいいんだよね?)

 

(…いいですけど時間は厳守ですよ、必ず夕方には帰れるようにしてもらいますからね…)

 

私としては最大限の讓渡。カズマ君やめぐみんに夕方には帰ると宣言した以上、その通りにならなければエシリアの事はより疑いをもたれてしまうだろう。これからを考えるとそれだけは避けておきたい。私としてはエシリアもまた私と同じように私の仲間達と仲良くやってもらいたい気持ちが強いのだから。

さて、それはそれとして。私には懸念事項がある。

 

(ところでエシリア、せっかくですからここでエシリアの転生特典スキルの確認をしておきたいのですが。私のように規制されたスキルがあるかもしれませんし)

 

(…えっと…冒険者カードを見ればいいんだよね?…あれ、レベルが最初から15だ…)

 

改めて今のエシリアには何が出来るのか、その確認はしておきたかった。これからクエストに行くのなら尚更の事だ。レベルが初期から15なのは私も同じだった事を考えるとエシリアもまた私と同じようなスキル配分になっている可能性が高い。

 

(…ちなみにアリスはレベルいくつなの?)

 

(私は48ですよ、それなりに頑張ってきましたからね)

 

(ふーん……見る限り規制されてるスキルはあまりないのかも…)

 

エシリアのキャラクターとしてのスキル構成は両手剣を主体としている。それに他武器のスキルをいくつか取得して近接特化にしている感じだ。先程エシリアが無意識に使った縮地法もそれにあたる。パッシブスキルも片手剣や両手剣の扱い方を上手くする《ブレードマスタリー》から剣撃の速さを上げる《素早い斬撃》、更に剣の扱いに長けるようになる《匠の剣術》までもがレベルマックスの状態だ。これならスキル効果だけでもエシリアは充分戦えるだろう。

 

この世界のスキルにも基本的な武器の扱いを向上させるパッシブスキルは存在する。クルセイダーにも剣の扱いを上手くできるようにする《ソードマスタリー》がある。よってその職業に就き、そのスキルを取得さえすれば誰でもある程度剣が扱えるようになるのだ。力量としてはスキルの恩恵+自身の技術といった感じになると思われる。ダクネスもこれさえ取れば攻撃を当てることくらいはできるはずなのだが。

 

(…クルセイダーのスキルにも似たのがあるけど…これはいらないかな)

 

(……いえ、むしろ率先してレベルを上げられるだけ上げましょう)

 

(…どうして?)

 

私にはひとつの考えがあった。それは似たスキルであれど名前は違うのだから別のスキルなのだ。当然ながらエシリア本人には剣の心得など欠片ほども持ち合わせていない。完全にゼロの状態である。

確かに転生特典スキルでそれらは補えそうではあるが個人の技量が皆無な以上、少しでもスキルで恩恵を受けられるなら受けた方がいい。それが私の考えだった。

強くあればあるほど死ににくくなる、攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。スキルによってエシリアがどの程度まで強くなるのかは分からないが攻撃スキルは既に揃っているのだから基礎を完全に底上げしてしまいたい。

 

そんな考えをエシリアに話せば、エシリアは微妙な顔をしていた。

 

(……本当に私が両手剣振り回して戦えると思う?こんなことまったくした事ないのに…)

 

(自信がもてない気持ちは分かりますよ、私だって最初は魔法を使えることに慣れませんでしたし)

 

(いやそういう意味じゃなくて……なんでもない…)

 

そのままエシリアは何も言わず肩を落としてしまった。確かに不安な気持ちは理解できるがこればかりは慣れるしかない。私がかつてダストやリーンとともにクエストに行ったように、エシリアにもリアさん達が一緒に行く事になっている。プリーストの存在もあるので怪我をしても回復できるし、エシリアにはいい経験にはなってくれることだろう。

 

誤魔化すようにエシリアは冒険者カードをいじり、クルセイダースキルの剣の扱い、防御、耐性などを強化するパッシブスキルのみを取得した。完全に上げた訳ではないが如何せんスキルポイントが足りない。上げきらない分はレベルを上げてからになるだろう。

それにしても私が薦めたとはいえ、こうして見ればクルセイダーになった意味はあまりない。パッシブスキルのみなのだから下位職である剣士でも問題はなかったりする。攻撃面のスキルは元からあるので結果的にクルセイダーの皮を被ったソードマスターと言ってもいいのかもしれない。まぁパッシブスキルをある程度取得したらクルセイダーとしての防御スキルなどを取得するつもりなので今だけの話ではあるけど。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

―アクセルの街・広場―

 

 

「ごめんね、待たせちゃった…?」

 

「大して待っていないから気にしないでくれ、それより無事用事は終わったのか?」

 

「それなら大丈夫…、その、ありがとう…」

 

アクセルの広場、それはアクセルの街の入口に入ってすぐに見える広めの公園のようになっている。玄関口となっているその入口は高い壁で守られており守衛の姿も見受けられる。周囲を見渡せば一番に目につくのは中央の噴水、これは待ち合わせにもよく使われるアクセルの街のシンボルのひとつにもなっている。

更に冒険者などをターゲットにした露店などもちらほらあり、端には馬車の乗合所などもある。…ちなみに以前私がアクシズ教の布教活動を行った場所という黒歴史を想起する場所だったりもする。

 

リアとシエロは揃ってその中央にある噴水の傍にいた。ここからならこの場のどこに居ても見渡せるのでわかり易かったのだろう。

 

「お礼なんて言わなくても、こちらこそ今回ご一緒してくれて助かってますから」

 

「…う、うん…、えっと…あのピンク髪の子…エーリカだったかな?あの娘は?」

 

ふと気がつくと待っていたのはリアとシエロの二人だけ、そこにエーリカの姿はなかった。やはり待たせすぎて怒らせてしまったのだろうかと、エシリアは不安げに周囲を見渡す。この世界の人間は種族の違いなのか、それが当たり前なのかわからないが髪の色に一貫性がない。赤髪から緑髪、茶髪など様々な髪色が見受けられる。だけどその中でもエーリカの鮮やかなピンク髪は目立つ、こうして周囲を見渡せば見つからないことはないはずなのだが。

 

「エーリカちゃんなら…多分客引きに捕まっちゃったみたいで…」

 

「…大方可愛いとか言われて惹き込まれたんだろうな…まったくちょっと目を離した隙に…よくある事なんだ。少し待てば来ると思う」

 

苦笑気味なシエロに呆れて頭を抱えているリア。どうもこのパーティのトラブルメーカーはエーリカらしい。そして可愛いと言ってあげればほいほい着いて行っちゃうらしきエーリカは客引きのカモになってるのではと予想できる程度には二人の苦労具合が見て取れた。

 

 

…結果としてエーリカはすぐに戻ってきた。その両手には溶けそうなアイスクリームを4つも手に持ち。すぐにリアに咎められたが憎めない笑顔でアイスを差し出されるとリアもそれ以上言えずに苦笑するしかなかった。

 

「…まったく…エーリカ、これからクエストに行くんだぞ?ピクニックにでも行くつもりなのか?」

 

「そうは言われても仕方ないじゃない!『そこの可愛いお嬢ちゃん』なんて呼び止められたら買わない訳には行かないでしょ!でも…私一人だけ買う訳には行かないって言ったら『オマケしてあげるからお仲間の分も買ってあげな』って言われて…それで仕方なく…」

 

「まぁまぁリアちゃん…エシリアちゃんは初めてのクエストだし、緊張して行くよりはいいと思うよ?」

 

アイスを両手に持ったまま抗議するエーリカに穏やかに落ち着かせるシエロを見て、性格的にもバランスが取れたいいパーティだな、と思えた。エシリアは仄かに微笑みながらも、ただその様子を見ているだけで何も言わない。

 

それは和に入ろうとせず、外から見ている構図だった。

 

傍から見れば4人でいて全員が楽しそうに見えるかもしれないが実際には違う。エシリアにだけ感じる壁が確かに存在している。そしてその壁を作っているのは他でもないエシリア自身だという事にはエシリア自身が気付かない。

 

これは少し前のアリスやゆんゆんに問えば是が非でも猛烈に納得してしまう事柄である。自分で壁を作っているのに、その壁を壊してもらうのを待っているのだ。典型的な人見知り、ぼっち体質。

だけど一般的にその壁を壊すことは容易ではない、人には遠慮がある。他人の壁を壊すということは、それだけ他人のテリトリーに土足で侵入してしまうようなもの。普通そんな事をすれば嫌われてしまう、だからできない。

 

そんな中、エーリカはリアから逃げるようにエシリアに近付き

 

「はい、エシリアの分!」

 

「……え?」

 

それはエシリアにとって意外に感じてしまった。仲間の分と言われて買ったアイスクリーム、それにどうして自身の分が入っているのだろうか、と。

 

「何を驚いてるの?溶けちゃうから早く受け取って!それとも私に2人分食べて太らせたいの?ダメよそんなの可愛くなくなっちゃう!」

 

「…え……、う、うん、ありがとう…」

 

エシリアが無意識に作っていた壁は、あっさりとエーリカのアイスによって破壊された。突き出したアイスがそのまま壁を抉るように。

自分が仲間でいいのだろうか、とか、そう認めてくれているのか、とか、とてもエシリアには聞けそうにはない。そんな勇気はない。だけどエーリカはリアやシエロに渡すのと同じように、何も違和感も感じさせずに当たり前のように差し出されたアイスは、それだけの破壊力があった。

受け取ったアイスは元いた世界でもよく見る形。三角錐のコーンに丸くくり抜かれたアイスがひとつ乗っている。それは冷たいはずなのに、口にすれば何故か暖かみを感じさせた。

 

「……美味しい…」

 

「でしょでしょ♪皆に気配りもできる私、なんて可愛いのかしらー♪」

 

「まったく…食べながらでいいから出発するぞ、夜には冒険者ギルドで歌うことになってるんだからな」

 

「大丈夫よ、行くのは森のゴブリンの討伐でしょ?上手く行けばお昼過ぎには帰れるでしょ!私の可愛すぎる活躍を見せてあげるわ!」

 

「…もう、エーリカちゃんったら…」

 

駆け出し冒険者の受けるクエストは大体限定されている。ジャイアントトードの討伐やゴブリンの討伐、あるいは薬草などの採取とかだろうか。確かにゴブリンの討伐はアクセルではメジャーなクエストではあるものの、アリスである私としてはいい思い出はない。クエストにイレギュラーは付き物らしいが何事もなく終わって欲しいものである。

 

何事もなく終わって欲しいものである。

 

非常に大事なことなので二回言いました。

 

 

 

 

 

 

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