内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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毎度遅くなりすみません_:( _ ́ཫ`):_多忙つらい


episode 149 エシリアと初のモンスター戦

 

 

 

 

―平原―

 

アクセルの街の門を潜り抜ければ見えるのは壮大な平原。王都ほどではないものの、アクセルもまた人口は多い。それは他の街と違い、モンスターのレベルが低いので過ごしやすい面があるからだと聞いたことがある。

行き来する人々は主に駆け出し冒険者や商人。まれに上級冒険者の男性もちらほらいるがおそらくあの店目当てだろうと内心ため息をつく。

 

それはそれとして吹き抜ける風はとても優しく、まるで駆け出し冒険者を元気づけてくれているような錯覚すら覚える。伸びすぎていない雑草は歩くのにさして邪魔にはならない、場所によっては雑草が生い茂り、草原のようにもなっていてそこには微かながら野うさぎなどの野生動物の気配を感じさせる。

天気は快晴、ポカポカと暖かいので先程の風が相まって過ごしやすい気候になっている。アイスクリームを食べながら歩いていればピクニックとして見ても違和感はない。

 

目的地である森だが、アクセルの街の周辺には森があったり、湿地帯があったり、草原があったりと見渡すだけでも飽きがこない。そして生息するモンスターも大して強くない。この環境こそがアクセルの街を駆け出し冒険者の街と呼ばれるようにした由縁なのは言うまでもない。

 

「エシリアって何処からきたの?」

 

「…えっと…凄く遠くから…かな…」

 

「そんな大きな剣、ボク初めて見ました、ましてやエシリアちゃんみたいな女の子が持ってるのも…」

 

「…こ、これ?うん…その…物心ついた頃から修行はしてたから…」

 

「物心ついた頃からって…エシリアは騎士の家系か何かなのか?」

 

「えっとそんな事はないんだけど…」

 

こうして赴けば、やはりと言うべきか道中の雑談はエシリアの事が中心だった。時折嘘を織り交ぜては誤魔化すように話すエシリアの今の気持ちはよく分かる、私もかつてはダストやリーンから似たような質問をされていたし同じように誤魔化していた。

おそらく今のエシリアの心臓はバックバクになっているだろう。適度な嘘を織り交ぜるのはこの際仕方ない、まさか馬鹿正直に異世界転生しましたなんて言えるはずもないのだから。だけどそうして嘘をつくことの罪悪感、そしてその嘘がバレないように矛盾しない答えを脳内で手繰り寄せるように探すことからの焦り。今のエシリアはそれだけでいっぱいいっぱいになっていることだろう。

 

今回のクエストについての話は既に聞いている。森に住み着いたゴブリンの討伐、ありがちな駆け出し冒険者向けのクエストだ。

この世界のゴブリンというモンスターは人型で人間の子供くらいの大きさ。ゴブリンの種類にもよるが例えば魔王軍が従えているようなゴブリンは知能が高い。喋るのはもちろんのこと、様々な武器を扱ったり魔法を使うゴブリンまでいる場合もある。最近ではシルビアが従えていたのがその類のゴブリンだった。一方アクセル近郊に出現するゴブリンは知能も低く喋ることすらできない。たまに拾った短剣などを装備している場合もあるが武器スキルを少しでも身につけた冒険者なら大して危険でもない、とはいえ冒険者でもない一般人からしたら立派なモンスターであり、人を見れば本能で襲いかかってくるゴブリンは危険な存在ではあるのだが。

ゴブリンだけならそこまで脅威ではない、問題はゴブリンが発生することで新たな災いを呼ぶ恐れもある。

それが初心者殺しなどのゴブリンを捕食するモンスター。名前の通り駆け出し冒険者の天敵となっている。過去の私からすれば初心者殺しのような単純な近接攻撃のみのモンスターは格好の獲物なのだがそれは私がウォールというこの世界には本来存在しないスキルを持っているからであり、それがなかったら今の私でもソロでは充分な強敵だと思う。

そんな初心者殺しのようなモンスターを呼び込まない為にも、アクセルの付近ではゴブリンの討伐依頼は絶えることがない。繁殖力がかなり高いらしいのでいくらゴブリンを狩ってもゴブリンの数はそうそう減るわけではないらしいのだけど。そこは駆け出し冒険者の経験にもなるし良い事でもあるかもしれない、ゴブリンの被害が出る度に依頼金を支払う依頼者はたまったものではないだろうが。

 

 

ゴブリンの話はこれくらいにしておいて、私が考察している間にもエシリア達はゴブリンが住処としている森の入口付近までたどり着いていた。先程まで雑談が目立ったが今や全員の口数は減っている、ゴブリンといえども経験の少ない駆け出し冒険者は必死にもなる、口では楽勝と言っていたエーリカでさえも注意深く周囲を見回していた。

というのもこのパーティには盗賊やカズマ君のような代役もいない、よって敵感知スキルがないのだ。だからゴブリンの不意打ちにだけは気をつけなければ。こちらを見付けることで奇声をあげて襲ってくるゴブリンなのでそんな不意打ちは滅多にないが用心に越したことはない。

 

「依頼書に書かれてた位置はおそらくこの辺りだ、それぞれ警戒していこう」

 

「ふ、ふん、この可愛くて強いエーリカちゃんの実力をいよいよエシリアに見せる時が来たようね!」

 

「大丈夫です、もしもがあればボクが治療しますので」

 

それぞれが槍を、ナイフを、杖を構えるのに合わせるようにエシリアは背中の両手剣を握り、両手で握ったまま振り下ろすように構えた。こうして構えた状態は初めてのはずだが中々様になっているのは各種パッシブスキルのおかげだろうか。これなら特に問題はなさそうだ。私はそう思い密かに安堵していた。

 

 

……いたのだが。

 

 

「……っ」

 

「…エシリア、もしかしてモンスターと戦うのは初めてなのか?」

 

「…えっ…!?……うん…」

 

気が付けばエシリアは緊張で心臓がバクバク状態、足は小刻みに震えていてその目線の動きは落ち着きの無さを表していることは誰の目にも明らかだ。そんなエシリアの様子にいち早く気が付いて声をかけたリアは返答を聞くなり軽く息を吐いてエシリアの傍に近付いた。

 

「大丈夫、初めは皆そんなものだ。私だって最初は緊張した。でも訓練通りにやれば上手くいくよ」

 

…おそらくリアはエシリアの言った物心ついた頃から修行していたという嘘を素振りやらの訓練と解釈したらしい。だけど本来エシリアの状態はそれ以前のものだ。剣どころか武器らしいものを握ったことすら今日が生まれて初めて、それでいて戦わなくてはならない。

これはゲームとは違う。現実なのだ。負けたらセーブポイントからやり直しとはならない、死ぬだけだ。そのままエリス様の元へ旅立つだけだ。

本来私達転生者にはリザレクションの効果がない。リザレクションは力尽きた者を一度だけ復活させることができるスキル。だけど私達は元いた世界で一度死んで転生しているのでそれがカウントされているのだとか。そんな話をカズマ君から聞いた事があった。

 

「……わかった、大丈夫…ありがとう…」

 

少し落ち着いた様子を見せるエシリアだけど私には分かる、強がっているだけだと。心拍数に変化はない、むしろ上がっている気すらする。…本当に大丈夫なのだろうか?スキルやステータス的にはゴブリン相手なら余裕ではあるがこれはそれ以前に精神的な問題だ。

 

(…本当に大丈夫ですか?無理と思ったらどんな状況でも構いませんから私と変わってくださいね?…死んだらお終いなのですから)

 

これは正直に思えば言うべき事ではなかったのかもしれない。結果的にエシリアをより緊張させるだけになってしまうのだから。だが最悪の場合エシリアがミスをして死ねば多分私も道連れになるだろう。そんな事になるくらいなら正体を隠すとか言っている場合ではない。杖は持っていないが今の私なら素手でも魔法は使えるしレベルからしてもアクセル近郊のモンスター程度なら問題なく倒せる。

 

(……うん、わかった)

 

私の想いを汲んでくれたのか、エシリアは特に反論することもなくそう返した。それは少しエシリアらしくない気もしたがちゃんと聞いてくれているのならこちらとしては問題はない。

 

「……いたぞ」

 

小声でのリアの一声に全員の歩が止まる。リアがそっと指した方向には確かに2匹のゴブリンが座って休んでいるように見える。緑色の肌に大きさは人間の子供くらいだがその頭部は異常に大きくバランスがとれていない。その様相がモンスターなのだと物語っている。

どうやら食事中のようで2匹ともに兎のような小動物だったものを口にしている。その様子からよりおぞましくも見えてしまう。

 

(あれが……ゴブリン……モンスター……)

 

ゴクリと息を飲むエシリアは、ただその姿を見据えたまま剣を構える事もなく立ち尽くしていた。萎縮するような目を向け、だけど気取られないように姿勢は変えない。

一方他の3人は流れるような動作でそれぞれ武器を構える。駆け出し冒険者とはいえこれが初めての狩りではない3人は、それが当然かつ自然な動きだった。

 

「……最初は後方で見てるといいよ、支援のシエロの傍にいてやってほしい」

 

「え……わ、私は……」

 

そんなエシリアの緊張に気が付いたのだろうか、リアは穏やかにそう告げながらも両手に槍を持ちゴブリンの元へと駆けていく、それに短剣を持つエーリカも続いた。

 

(…大丈夫ですか?とりあえず言われた通りに見てましょう)

 

(……)

 

エシリアは何も言わずに強ばった顔でリア達を見ていた。抵抗しようと立ち上がり棍棒を持つゴブリンは流れるようなリアの槍の一撃で頭部を突かれて流血とともに、吹っ飛ばされた。その背後からやってきたゴブリンにはリアの背後から突撃するエーリカが短剣で対処する、素早い動きはゴブリンでは為す術もなく、呆気なくもう1匹のゴブリンも撃退できた。

 

「ふふーん、ざっとこんなもんよ♪」

 

「エーリカ、まだ油断したら駄目だ。ゴブリンは1匹いたら1000匹はいるものだと思えと言うだろう?」

 

ゴキ〇リかっ!とツッコミたいこと山の如し。冷静に考えたらいくら群れて生きるゴブリンでもそこまではないのだがようはそれだけの警戒心を持ち、油断するなという事なのだろう。

 

そしてリアの言う事は正しかったと証明される。流石に1000匹はいないがその数は10匹近く、仲間が襲われたことで集まってきたのだろうか、気が付けばリア達を取り囲むように現れたのだ。これにはそれぞれが苦い顔をする。ゴブリン単体は大したことはないが数が多すぎる。

しかも今はパーティが分断されている。リアとエーリカは傍にいるがエシリアとシエロは少し離れた位置にいる。普通に考えたら各個撃破していくしかないだろう。

 

「エシリア、シエロ!まず合流しよう!このままだとあまりよくない!」

 

「……っ!」

 

リアの掛け声と同時にゴブリン達は襲いかかってきた。それぞれが対処している為に自分の身は自分で守るしかない状況。私としては待ちわびた状況かもしれない。これでエシリアの意思とは関係なくエシリアの実力を知ることができる…と、そのように楽観視していた。初めての戦闘で緊張しているのはわかる、私もダストやリーンと初めて行ったクエストもゴブリンだったので当時の緊張感は覚えているがやってみればゲームのようなノリであっさりやれていた。荒療治かもしれないが実戦を重ねることでエシリアにも慣れてもらわなくては。

 

 

……そんな事を思っていると感じたのは、動かないエシリアの震えだった。それはどんどん大きくなる。両手で剣は構えているものの…足はすくみ、無言ながらそれは恐怖を感じていることを容易に感じ取れた。

 

(……エシリア?)

 

(……無理……、怖くて動けない……)

 

(…え?)

 

エシリアの言葉を聞いて私は唖然としてしまう。その言葉は予想していなかった。

同時に私は再びアリスとして初めてクエストに行った時の自分を思い出す。

 

…確かに緊張はしていた。だけどクエストに行く前に入念に試していたこともあり魔法の使い方などは不安になることもなく頭に浮かんできたので特に問題なく《アロー》の魔法でゴブリンを撃破していた。それもゴブリンが近付く前に複数体を。

 

……なるほど。

 

私のように遠距離から魔法を使って攻撃するのなら、それで撃破できれば安全だ。近付くことも近付けることもなく終わってしまう。確かに考えてみればゴブリンの命を奪う事に抵抗がなかった訳ではないがどちらかと言えば魔法での攻撃はゲーム感覚のようなものが私を支配していたので問題はなかった。

 

だがエシリアはどうだろう?私と違って武器は両手剣。確実に接近して戦うしかない。リアルに戦いなんて全く縁がなかった普通の女の子がいくらチート特典で力を持っているとはいえ、真っ向から戦う事は簡単ではない。つまりは精神的な問題。

 

(…理解はしましたがそれが通用する状況ではありませんよ!)

 

こう話している間にもゴブリンは迫ってきている。こればかりは慣れてもらわなくては困るのだ。

おそらくずっとエシリアが抱えていた不安はこれだったのだろう、エシリアは傷付く事が怖いのか、傷付ける事が怖いのか、あるいはどちらともなのだろうかは分からない。

 

「エシリアちゃん!」

 

「……っ!」

 

迫るゴブリンを前にしても動かないエシリア、それに気が付いたシエロは心配から声を投げかける。

声によってエシリアはハッとしてゴブリンを見た。もう数秒後にはゴブリンの攻撃がこちらに届く距離だった。ゴブリンの相手をしながらも心配しているリアとエーリカの視線すら感じた。

 

 

やらなきゃ、やられる。

 

人間とモンスターとの闘いは弱肉強食。モンスターはそれを当たり前と認識している。だからこそやられる前にやろうとする。それがこの世界の自然の摂理。

そしてエシリアから見えるゴブリンの数は3。自分がもしやられたら次はシエロに行くだろう。…まぁあの強烈なパンチを持っているシエロなら対抗できるかもしれないが危険に晒すことには変わらない。

 

せっかくできた友達を、危険に晒す。エシリアはそんな事にだけはなって欲しくなかったから、考えるより勝手に身体が動いていた。

 

「やぁぁぁぁ!!」

 

両手で握る剣を下から上へと、豪快に振るった。だがゴブリン達とはまだ距離があり、それは空振りに終わる。少なくとも振るったことでゴブリン達は一瞬警戒したが杞憂だと判断した。

 

しかしそれはゴブリン達の誤りだった。

 

振るった剣閃より発生した斬撃は、そのままゴブリン達に迫り、やがて周囲の風を巻き込んで大きくなり、巨大な竜巻を発生させた。

 

《ソード・テンペスト》

 

それはアリスの魔法《ストーム》と同等の大きさの剣閃より生まれる斬撃の嵐。向かってきたゴブリンは次々に巻き込まれて為す術なく直撃を受ける。やがて一匹、また一匹と絶命し、その場に倒れ伏せる。

当然ながらこの世界のスキルではなく、転生特典による上級ブレードスキル。数少ない離れた相手に攻撃が可能なスキルだった。はっきり言ってゴブリンごときに使うようなスキルではない、完全にオーバーキルである。

 

「なにあれ……すごっ…!」

 

これには他の3人も呆気に取られる。そして驚いたのはエシリア本人も同じだった。

ゲームでどんなスキルかは把握している。だがリアルで実際に使えばその迫力は雲泥の差だ。

ゴブリン達は完全に恐れて動きを止めてしまった、そうなればいくら数がいようともリア達にとって優勢でしかない。

 

「みんなチャンスだ!一気に攻めるぞ!」

 

そこからゴブリン達を殲滅するのには、そう時間はかからなかった――。

 

 

 

 






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