内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 150 エシリア、誘拐される

 

 

―視点・エシリア―

 

 

……――どうしてだろう――?

 

……潮の香りがするのは。

 

中々覚醒しきれない意識に苛立ちながらも、私はなんとか目を開けようとするが、思うように身体が動かなかった。

 

頭が混乱して、思考がうまく働かない。アリスは何も言ってくれないし、何がなんだか分からない。

 

少し時間を経て、落ち着くと同時に状況を整理してみる。

 

今感じるのは海を思わせる潮の香り、そして不安定に揺れる地面。……これは……、船の上…?

 

潮の匂いと揺れで連想してみたものの、それはおかしい。私はリア達といた場所は森の中だ、海なんて見えるような場所ではない。

 

落ち着いたとはいえ相変わらず虚ろな状態ではあるがもうひとつ気が付いた事がある。

 

私の両手は、現在背中に回されて縛られている。目や口にも布のようなロープのようなもので縛られている感覚がある。つまり何者かに捕まっている…?どうしてそんな事に…?

 

そう思いながらも私は暗闇の中、何があったのかを思い出していた――。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

―アクセル近郊の森―

 

怖い。

 

ゴブリンに近付く事も、攻撃する事も、攻撃される事も、何よりも敵意を持って襲いかかってくるのが怖い。

ソード・テンペストを無我夢中に放った事で、私に向かってきていたゴブリンは倒せたみたいだったけど…、それでも私の身体の震えは止まってはいなかった。

 

自分の力が怖い。今の攻撃、もしもリア達を巻き込んでいたらどうなっていただろうと考えると怖い。

 

それでも……

 

この世界で初めてできた友達が傷付くのは何よりも怖かったから。

 

そう思ったら、私は思いのままに咆哮をあげていた。

 

「わぁぁぁぁぁ!!」

 

いいストレス解消かもしれない。こんな風に叫んだ事はこの世界に来るまでなかった。思いのままに、自由に、解放されたいと願いながらも。

…すると怖くなくなった。きっとこれは《ウォークライ》、攻撃力をあげて自身と味方の恐怖をなくすスキルなんだと再認識した。

身体が自然に動いた。怯んだゴブリンに縮地法で近付いて、横薙ぎに両手剣を震えば、斬るというより叩いた感覚だったのに、ゴブリンの胴の部分を斬り裂いて、真っ二つに両断した。

両手剣から伝わる感触は、初めて感じたものだった。……あまり気持ちのいいものではなかったけど、そんな事を考えるよりも先に身体が動いていた。…やらなきゃ、やられると思ったから。自分が、仲間が。

 

ゲームで当たり前に行ってきたことを、本当にする事になるなんて誰が思うだろう。考えた事すらない。

 

やりたいと思えることでは無い。少なくとも私にとっては。

 

だけど成り行きとはいえ、結局この道を選んだのは、誰でもない私だから…。そしてせっかくできた友達を、傷つけられたくないから。

 

私なりに、頑張った。

 

初めての戦闘だったけど、多分アリスの想像以上に私が持っているゲームのスキル、そしてこの世界の剣術スキルの恩恵、その相乗効果は大きかった。

ゴブリン達がどのように攻撃してくるか、手に取るように分かり、どう動けばいいか無意識に理解していた。だからまるで初めての戦闘ではないような動きを実現できていた。

 

リアやエーリカと一緒に戦えていることが、なんとなく嬉しかった。そこまで余裕がもてるようになったのは、やはりウォークライの効果なんだと思う。怪我を負うこともなかったから、シエロは唖然として見ているだけだったけど…支援職が暇なのは良い事だよね?

 

「…クルセイダーになれた素質があったから期待はしていたが…これほどとは…」

 

「凄いですエシリアちゃん!あっという間に倒しちゃいました!」

 

「中々やるじゃない…!だけどエシリア、強いだけじゃ駄目よ、可愛さもアピールしないと立派なアイドルにはなれないわよ!」

 

エーリカの言う事はスルーしておくとして、気が付けば周囲に生きたゴブリンはいなくなっていた。無我夢中で戦っていた私はようやく落ち着くと同時、ウォークライの効果が切れたのか身体の震えが再発してしまっていた。

 

落ち着こう……もう終わった…。凄く怖かったけどちゃんとみんな無事だし。

そう思い剣を降ろせば同時に私に降りかかったのはなんとも言えない喪失感と脱力感。身体が異常に重く感じたかと思えば、私は…

 

私はその場で倒れてしまった。

 

「エシリア!?」

 

一同は混乱する。私が倒れた理由がわからなかったから。そしてそれは私も同じだった。ゴブリンからの攻撃は全く喰らっていない無傷な状態なのにも関わらず、私はその場に倒れてしまった。

 

(…魔力切れですよ。それは休むしかありません)

 

(魔力切れ…?なにそれ……?)

 

聞いた事のないワードが飛び出してきた。魔力…ゲームで言うならばマジックポイント(MP)にあたる。物理攻撃を主体とするならば無縁のもののはずなのだが実際に起こってしまっているのは確かだった。

 

(エシリアは今までに、ウォークライを複数回、更にソードテンペストまで使いました。私よりも魔力が低いエシリアがそこまでスキルを乱用してそうならない訳がありませんよ)

 

その説明でなんとなく理解した。納得はしていないけど。

 

ウォークライ、ソードテンペスト、どちらも元のゲーム基準で考えれば結構なMPを消費するスキルのはず。それらを乱用した結果が魔力切れ。どうやらこの世界では魔力が切れるとこうなってしまうらしい。…実に不便だ。

 

この状況はあまりよくない。MPを回復する手段がないから。

元のゲームでの回復手段は自然回復、チャージングなどのMP回復スキル、ポーションによる回復。そして…通常攻撃をすることでの回復。

 

両手剣を使うこのパラメーターはその通常攻撃による回復をメインにしている。だけどさっき攻撃した限りだと回復した様子は全くなかった。つまり自力での回復手段がポーションか自然回復しかない。

 

(自然回復はマナリチャージフィールドを使ったとしても全快まで一時間はかかります。通常での自然回復は翌日までかかりますね、眠ってしまえば回復速度はあがるようですが)

 

(……いくらなんでも非効率すぎるし…できたらもっと早く言ってほしかったんだけど…)

 

そのまま私はガクリと項垂れた。マナリチャージフィールドで一時間は勘弁して欲しい、ゲーム内なら一時間あれば補助なしでの自然回復で何回全快できていることだろうか。

その様子を見たリア達は不思議そうに顔を見合わせている。

 

「…ごめん……魔力切れみたい…」

 

「エシリアちゃんって、魔法が使えたんだ?でもあんな魔法見た事ないけど…」

 

「説明するとややこしいんだけど……厳密には魔法じゃなくて剣スキル……私のスキルは魔力を使うのが多くて……」

 

どう説明したらいいのだろう。確かにさっきのソードテンペストは一見すると魔法のようにも見えるけど、属性は斬撃だから物理攻撃だし。この世界での物理スキルに魔力を使う事はないのだろうか。どうにもややこしい。

 

だけど問題はそこではない。今全く動ける気がしない事が問題だ。先程からなんとか起き上がろうとしているのだけど倦怠感と脱力感、無力感に襲われて指一本動く気がしない。

 

「仕方ない、一番の功績者だ。丁重に運んであげないとな」

 

「……それもいいけど…少し休憩してからにしない?なんか妙に眠いのよね…」

 

「もう…エーリカちゃんったら…………あれ?なんだかボクも眠く……」

 

「……みんな?」

 

それは突然だった。全員が眠気を訴えだしたのだ。口には出さないがリアも目が虚ろになってきている。エーリカやシエロは既にその場で座り込んでしまった。

 

これは異常でしかない。身体は動かないけどその目で周囲を見る事はできた。すると微かながら白い霧が見えるような気がした。森の中で目立たない程度ではあるが、これはゴブリンと戦っている間には見当たらなかったものだ。

 

「…みんな、寝ちゃダメ……この霧なんか変……」

 

そう言いながらも私も急激に眠くなる。魔力切れによる疲労も重なってからなのか、まるで麻酔でも打たれたかのような睡魔が襲ってきた。

 

意識が遠ざかって行く。こんな事なら……状態異常対策のスキルを優先して取得しておけばよかったと後悔しながらも僅かに聞こえてきたのは…

 

私達に忍び寄る、複数の足音だった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

―船内―

 

 

大体思い出した。突然の霧で眠くなって、それから聞こえた足音。そして今や拘束されている状態。

どうやら私達は誘拐されてしまったらしい。…だけどこれからどうしたらいいのか…と考えて少しだけ背に回された腕に力を込めてみる。

するとミシミシと音がする。これはカズマって人から受けたバインドの捕縛によるロープよりは脆いように思えた。これなら引きちぎってしまえば束縛からは解放できる。ただ完全に回復していないのでもう少し休む必要はあるかもしれない。

 

そんな事を思っていると、扉が開く音がした。

 

「……」

 

「……何か物音がした気がしたが……気のせいか…?」

 

聞こえてきたのは男の人の声。それもそこまで若くはない。…どうやら私達はこの男に誘拐されてしまったようだ。

思い出されるのは冒険者ギルドでの受付やリア達の説明。近頃駆け出し冒険者が行方不明になっていると。ならばそれもまたこの人達の仕業に違いない…と、そう関連付けるのは自然なことだ。

 

(アリス…!アリス!)

 

(……聞こえてますよ、どうやらエシリアが意識を失うと私の意識も途切れてしまうみたいですね…状況は…?)

 

ようやくアリスの声が聞こえてきた事で、私は内心落ち着けた。声には出さないけど。出す訳にもいかないし。

 

(…あまりよくない……、どうも私達は誘拐されちゃったみたい…)

 

(……そんな事を言うかい…?)

 

(気持ちは分かるけどしっかりして……)

 

あんまりな現実を突き付けられてアリスが普段言わないような事を言ってしまう始末。現状一番頼りになる私にとってのブレーンなんだからしっかりしてほしい。

なんとなくこの脳内会話も慣れてきた。とりあえず今すぐ動く事ができないなら今の状況を把握してしまわないと。

 

(…はぁ……分かってますよ……、本当にどうしてこんなことに…。誘拐って明らかにあれじゃないですか、冒険者ギルドで話してた駆け出し冒険者が行方不明になるという…)

 

溜息混じりのアリスの声が脳内に響く。こんな状況だし仲間達を心配させたままというのもあって嘆きたい気持ちしかないのだろう。

時間もどれくらい経ったのかわからないし、リア達は無事なのかすらわからないから私としてはそっちの方が心配なのだけど。

 

お互いにそんな葛藤をしていると部屋に入ってきた人達がなにやら呟き出した。

 

「…なぁ?いつまでこんな事をしなくちゃいけないんだ?俺はこの子達が不憫でならねぇよ…」

 

「……そんなのオラだって同じだ…だけんどそうしないとオラ達の村はおしまいだ…」

 

「この前攫った子だって、俺の子供と変わらないくらいの大きさでよぉ…」

 

「…もう言うな…、お前の気持ちはわかったけどよぉ…」

 

片方は若干涙声になっていて、そのまま足音と扉が閉まる音が虚しく聞こえてきた。どうやら出ていったようだ。

 

(…アリス)

 

(…まぁ黒幕がいるんでしょうね、今の人達はやりたくて誘拐をしている訳ではなさそうです…ですが…)

 

それ以上言わなくてもわかる。誘拐は誘拐。立派な犯罪である。何か事情があるのかもしれないけどこのまま黙って連れていかれるつもりはない。まずは拘束を解いてリア達の安全の確保から始めないと。

 

大分休めたおかげもあって意識が途切れる前のような気だるさはあまりない。今なら問題なく力を発揮できる。そう思えば私はそのまま両腕に力をいれて縛られた縄を引きちぎることに成功した。すぐに目隠しと猿轡を外して周辺の確認を急いだ。

 

今いる場所は船の中、倉庫のような一角。木造であちこちから隙間風を感じた。これが潮の匂いの正体だろう。流石に私達の武器は見当たらなかったがすぐ側にはリア達が縛られた状態で横たわっている。一瞬危機感をもつがどうやら三人とも眠っているだけだと気付けば安心するように目立たない程度に息を吐いた。

 

(…これからどうしよう…)

 

(…まずは三人をできる限り静かに起こす事ですね、それから武器の確保…それが不可能でしたらエシリアが単身で戦えば大丈夫でしょう)

 

(…はぁ!?そんなの無理に決まってるじゃない…!?)

 

(勿論根拠はありますよ、相手は駆け出し冒険者を狙う程度ですからそこまで戦力に自信がないと思いますし、一方エシリアは上級職になれるほどのステータスです、勝てる見込みは充分にありますよ)

 

自分がやる訳じゃないからか自信たっぷりで言ってくれるけどそんなの憶測でしかないし確信を持ってやれることではない。失敗したら私だけではなく他の三人にも危険が及ぶ事を考えたら慎重に行動したい。…何故同じ私なのにこんなに考えが食い違うのだろう。

 

(…お願いだからもっと確実にできる方法を…)

 

(……はぁ…わかりましたよ、それでしたら…)

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

しばらくすれば船は少し強めの揺れを起こした。初めは何かトラブルかと思ったけどどうやら岸に到着したようだ。外からは慌ただしく足音が聞こえてくる。

これはチャンス。水上のまま制圧しても船の動かし方などわからないので漂流してしまう可能性もある。なので抵抗するなら船が陸地に隣接してから。だからこそこの時を虎視眈々と狙っていた。私達を運ぶ為に、二人の男の人が扉を開けて入ってきた。

 

「…ん?…お、おい!?一人いないぞ!?」

 

「…何!?…うわぁ!?」

 

男二人はその場でしりもちをついた。そして即座に二人の顔のすぐ横を魔法の矢が通り過ぎて木の壁を破壊した。

 

「大人しくしてくださいね、次は当てますよ?」

 

「…あ、あんた一体どこから!?」

 

今男二人の目の前にいるのは私ではない。

金髪のツインテール、そして水色のネグリジェというこの場にいるにはおかしな姿、手には流動させる魔法陣。私と入れ替わったアリスがそこにいた。

不意打ちのようなインパクト、そしてアローのスキルで黙らせる。アリスの予想通り駆け出し冒険者を狙うような相手、戦力は大して持ち合わせてはいないようだ。アローで派手に破壊した壁を横目に、男達はいとも簡単に戦意を喪失してしまった。今や座り込んだまま両手を上げて震えている。

 

だけど油断はできない。まだ船員はいるかもしれないしアリスの予想に反して強い人もいるかもしれない。

 

だけどアリスに任せてしまったからには、私には見ている事しかできない。そんなもどかしさを感じながらも、私は何も言わずに成り行きを見守っていた――。

 

 

 

 

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