内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 152 村の現状と対策

 

 

―海と森が近い集落―

 

先に言ってしまえば男達の話に嘘は無かった。こうして訪れた集落を目にすれば一言で言えば活気がない。空はよく晴れているというのにそれとは真逆の廃墟のような静けさ、人は少ないながらも確かにいるし建物も木造の家が数件ある。それでもその村の雰囲気そのものが、今の村の絶望感を物語っていた。

 

「…ここが俺達の村だ…」

 

「……」

 

村の状態を見て、察したように誰も何も言えなかった。ムードメーカーのエーリカでさえも息を飲む始末。一同はそのままひとつの木造の民家に案内されて、それぞれが腰を下ろした。

 

「…では、詳しく現状を教えて貰えるだろうか?私達もそれにより対策を考えたいと思う」

 

話を促すリア。しかし肝心の話し相手である村民の男の表情が晴れることはない。

それはそうだろう。男の目の前にいるのは所詮アクセルを拠点に活動する駆け出し冒険者に過ぎない。話をしたところで解決の糸口に繋がるとは到底思えないだろう。

しかしながら今の関係は誘拐事件の加害者と被害者である。解決の為というよりはどうして誘拐などという犯行に及んだのか、説明する必要があるからに過ぎない。

 

「繰り返し謝罪するが…君達には本当に申し訳無いことをしたと思っている…。その事情を今から話そう…」

 

 

 

 

 

……――

 

 

 

この村そのものは約3年ほど前にできたばかりらしい。元々この村の住人は別の地に集落を作り暮らしていたのだがモンスターの被害や自然災害などがあり、村の移動を余儀なくされてきた。つまりは土地を旅する移動民族。それは彼らが求める形ではなく、環境がそうさせていたのだ。

当然ながらそれは安定するものではなく、食料すら満足に得る事は稀、怪我などしても治療も満足にできない、そんな過酷な状況に元々いた若い人達は様々な理由で離れてしまった。

それは単純に口減らしになるからと。それは単純にこの環境に耐えられないからと。

よって今残っている移民は小さな子供が数名、あとはお年寄りを筆頭に40代の男女、この世界での40代は決して若いとは言えない、人によっては孫がいても珍しくはない。

 

そんな過酷な状況だったが彼らにようやく光が照らされた。海を渡り流された果てに今のこの地にたどり着いたのだ。

ここでは漁業を行うことで魚やスイカが豊富に収穫できて、陸地には元々自然に育っていた秋刀魚があった。狩るのが難しいが付近の森に行けば自然の野菜なども収穫は可能である。傍にある森に行けば木材なども確保できて一部の一撃熊など危険なモンスターはいるが数が少なく滅多に出逢わない、それを除けば全体的にそこまで手強いモンスターもいない、まさに理想の楽園だったのだ。

 

ここを拠点に生活を続ければ、飢えることはない。人々の目にはようやく希望の光が灯されたのだ。

 

――しかし、それは長くは続かなかった。

 

それはこの地に家を建てて暮らしが安定してきてしばらく――、今から1ヶ月前。

 

夕暮れを隠し、村は暗闇に包まれた。

 

比喩表現ではあるが暗くなった原因は村人からみてすぐに理解できた。夕日を隠すほどの巨大な黒いドラゴンが突如村の上空に現れたのだ。羽ばたかせる翼はとても大きく、その存在だけでも村人を恐怖のどん底に陥れるには充分すぎた。

 

「人間共よ……我に若い女性の生贄、そして食糧を貢げ。さすれば村を守ってやろう――、断るのならこの村は滅ぼす、期日は明日の日暮れ、森の遺跡にもってくるがいい」

 

ドラゴンはそれだけ告げると返事を聞くこともなく翼を広げて飛び立ち、森へと向かっていった。村人達にそれを断る術はなく、村にいたひとりの少女と大量の食糧を捧げることにしたのだ。

 

だがそれは一度では終わらなかった。

 

 

食糧が足りない、人間が生活に必要な日用品も寄越せ、違う若い娘を寄越せと、ドラゴンの要求は日に日にエスカレートしていく。巨大なドラゴン故に必要な食糧は多くなるのだろうか、ただ日用品が必要な理由だけは村人にもさっぱり分からなかったが。

ただ捧げる食糧の量にも限界がある。いくらこの周辺に食糧が豊富にあろうとも、安易に狩猟、採集できる訳ではない。元より若い村人がほとんどいないのだ、その量にも限りがあるのは当然のことだった。

 

そして村には若い女性が元々ほとんどいなかったこともあり、苦渋の考えの末に村の人達は駆け出し冒険者の若い女性を攫って生贄にすることを思いついた。

 

その為に高額な睡眠効果のある魔道具を買い、既に3名もの冒険者を攫っている――私達はそこまでを知ることになったのだ。

 

 

 

 

 

 

――……。

 

 

 

 

 

 

 

「……やはり私としては国や冒険者ギルドにしっかり報告すべきだと思う。そうすればドラゴンの脅威から村を守れる確率が高い、その後お金は必要になるかもしれないが、人の命には変えられないだろう?」

 

お金が必要になる。それはこの村がこの国の村としてある為の税金の支払いが生じるということ。確かにそれができれば今回のドラゴンだけではなく、今後何かが起こっても国がこの村を守ってくれることだろう。

かつて王都付近の村がミノタウロスに襲われたことがあったがあの村も王都に近いこともあってしっかり税金を支払っていたので迅速に冒険者ギルドで緊急クエストが出されていた。その報酬も国が負担していた。

リアの意見にエシリアを含む他の面々も頷くことで同意していた。しかし。

 

「……見ての通りこの村は若い者が少なく、国に税金を支払う余裕がないんだ。それで今回の件が解決していたとしても、今度は税金対策に頭を抱えるようになる。それに…それは今からしようとしたところで間に合わない……」

 

「ドラゴンが要求してきた期限は今日の夕刻。それまでに生贄が用意できなければ村は滅ぼされてしまう…なにもかも遅すぎるんだ……」

 

村人は揃って深く俯いてしまった。流石に今から国や冒険者ギルドに助けを求めるにしても時間が足りないと言いたいのだろう。テレポートが使える者でもいたら話は変わるがとてもそのような者がいるとは思えない、いたらもっと上手くやっているだろう。

そして今回私達の誘拐は失敗に終わってしまった。これから他の者を誘拐しようだなんてさせる訳にもいかない、つまりこの村は完全に詰んでしまった。

 

「…あの、確かにこの土地の作物などは魅力的かもしれないですが、それらを捨ててドラゴンから逃げようとは思わなかったんですか?ボクとしては村人の命の方が大切だと思うんですけど……」

 

「…勿論当初はそう考えたさ。だがこの村には機敏に動ける者は少ない、もしそれがドラゴンに見つかってしまえばと思うと、それもできなかった…」

 

「……そんな時にこの村の若い娘がひとり、名乗りをあげたんだ。自分が生贄になると……、勿論最初は全員で反対したが、その子は勝手に生贄になりに行ってしまった……。悔やみもしたが、俺達はその子に甘えてしまったんだ…」

 

後悔の念からか、村人は次々と涙を流しはじめた。これにはこちらとしても苦い顔つきになってしまう。どうにか助けてあげたい、そんな想いが強いが、所詮駆け出し冒険者でしかないリア達には荷が重すぎる案件なのだから。

 

それはエシリアにとっても同じだった。ゴブリン程度で足がすくんでいたのにドラゴンなど対処できるはずもない、何もすることができずに殺されてしまうことは容易に想像できてしまう。

 

そして私は、というとドラゴンを相手に戦った経験はなかったりする。以前エンシェントドラゴンというドラゴンなら見た事も出逢った事もあるが私やゆんゆんが魔法を使うより先にミツルギさんが討伐してしまっていたので私個人がドラゴンと戦った事はない。やるにしてもせめて装備が欲しいところだ。

 

 

誰も何も言えなかった。

 

 

だけど――。

 

 

ただ1人だけは、どこか決意をしたように顔をあげて、そして告げた。

 

「……みんな聞いてくれ。今回必要なその生贄、私はそれになろうと思う」

 

「……っ!?」

 

「…ちょっとリア!?あんた自分が何を言ってるのかわかってる!?」

 

シエロは驚きのあたり固まり、エーリカは思わず立ち上がって抗議した。エシリアに関しては唐突すぎて理解が追いついていない始末。

これには村人達も驚いて顔を見合わせていた。それはそうだろう、この村人達はリア達を誘拐して今ここに連れてきたのだ。恨まれる筋合いしかないはずなのだ、それを自身の身を犠牲にしようとしているのだから。

 

「な、な、何を言い出すのリアちゃん!?」

 

「……リア、冷静になって。助けたい気持ちはわかる、けど…」

 

「…私は冷静だよ、エシリア。話は最後まで聞いてくれないか?」

 

同時に視線はエーリカに向けて、宥めるようにすればエーリカは納得はしていないだろう不満げな顔のままその場で腰掛けた。

リアとしては作戦があるらしい、ならばそれを全て聞いてからでも、判断するのは遅くはない。

 

「…落ち着いてくれたか?なら続きを話そう。…誤解してほしくないのは私が何もこの村の為に犠牲になろうとしている訳では無いんだ。私がドラゴンの元に行くから、エーリカ達3人は今すぐにアクセルへと戻り、この件を報告して欲しい」

 

「…話の横槍を入れて悪いがアクセルは駆け出し冒険者の街だろう?ここの現状を報告したところでなんとかなるとは思えないんだが」

 

「そうよ、アクセルの冒険者ギルドが王都のギルドに連絡を入れたとしてもどれくらいの時間がかかるか…なによりそれだとリアがドラゴンに食べられちゃうじゃないの!!」

 

私が思うに、おそらくその過程でここに助けがくるとしたら最短でも10日はかかりそうだ。それも冒険者ギルドがきっちり理解を示して動いてくれた場合だ。

ただこの場合、間違いなく一部の村人達は犯罪者として処理されてしまうだろう。

何よりもそれはリアが犠牲にならないことにはならないのではないだろうか。

 

「…まずこれは私の推測に過ぎないが…おそらく生贄にされた人達はまだ生きているんじゃないか?ドラゴンは後に生活用品なども供物として望んだんたろう?ドラゴンがそんなものを使うはずもないし、もしかしたらそれは生贄になった人達の物ではないだろうか?」

 

「…言われてみたらそうかもしれないけど…」

 

「でもそれはあくまで推測でしょ!?リアが無事でいられる保証にはならないわよ!」

 

確かにドラゴンが人間の生活用品まで求めるのは違和感があった。それならそれを使っているのは生贄になった人達ではという考えは自然なものになりうる。ただそれはエーリカが言うように推測に過ぎない。つまり危険なことに変わりはないのだ。

 

「言いたい事はわかる。私だってこの提案をシエロやエーリカ、それにエシリアがしたとしたら止めているだろう…、だが話をまとめて考えると、村人も皆も助かる方法はそれしかないんだ」

 

「……リア…、あんた…」

 

「…リアちゃん…」

 

エーリカは握りこぶしを作り歯噛みし、シエロは心配そうな顔をしたまま俯いてしまった。

 

「…それに私は勝算もなくこんな提案はしていない」

 

「えっ?」

 

「確かにアクセルに戻って冒険者ギルドに報告したとしても、そう簡単にはいかないだろう。だけど今のアクセルの街には駆け出し冒険者とはとても呼べないふたつのパーティが存在している」

 

「…あっ!」

 

それを聞いて一番反応を示したのは多分私だと思う。エシリアは首を傾げていたが。やがてエーリカとシエロも気がつく。

 

「…そ、そっか…今のアクセルには魔王軍の幹部をも複数討伐してるサトウカズマさんのパーティ、蒼の賢者さんや魔剣の勇者さんのいるパーティがいるから…」

 

「あぁ、どちらのパーティも冒険者ギルドで見かけた事はあるし、聞いた話だとアクセルに家を構えて住んでいるらしい。評判通りなら少なくとも蒼の賢者や魔剣の勇者がこの話を聞いて黙っているとは思えない、きっと力になってくれると思うんだ」

 

この話を聞いて僅かながらに希望の光がここにいる全ての人に灯った気がした。ただ一人エシリアを除いて。

 

(……ねぇアリス、蒼の賢者ってもしかして…)

 

(……私ですよ、そっとしておいてください)

 

(…そだね、今はネグリジェの賢者だし)

 

(そっとしておいてください!!)

 

寝間着姿なのはエシリアが慌てて飛び出したせいなのを忘れてはいないだろうかとツッコミたいが、元はと言えば好奇心から私がエシリアに代わったことが発端なのでそれは言わないでおいた。

 

しかしそれでもリアを囮にするというのは簡単に納得できることではない。それならいっそ私が行くとエーリカが声をあげ、シエロも似たようなことを言い出す始末。この話は中々まとまることもなく、平行線のまま時間だけが過ぎていくことになったのだった――。

 

 

 

 

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