内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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またも間隔空いてすみません((。´・ω・)。´_ _))ペコリン

多分誤字あります(断言)


episode 155 ひと握りの勇気を

 

 

―森の内部の遺跡前―

 

深い森の中、木々をくぐるように進んで15分ほどの場所にその遺跡は存在した。古代ローマを彷彿とさせるような造りになっている建造物は何年前に建てられたのか、素人目では判断が難しいがその光景は非常に長い年月を感じさせてくれる。

その遺跡だけはまるで木々が避けるようになっていて木々による侵食を受けていない。

全体的に白い石膏のような材質であり、あちこちに柱があり、それらはあちらこちらが崩れたりひび割れたりしていることもまた、長い年月を物語っている。入口と思われる箇所は階段になっていて、それを進むには覚悟が必要そうだ。

 

覚悟…そう思わせる理由は雰囲気にある。どこか神々しく神殿のようにも見え、あるいは地獄への入口のようにも比喩できてしまうのはここにドラゴンが巣食っていることがわかっているからかもしれない。

 

 

そんな場所を目前として、エシリアはひとりその建物の壮大さに緊張からごくりと喉を鳴らした。

 

(……いやいや、どう考えてもおかしいよね、なんで私なの?)

 

(…そう言われましても…)

 

その入口にひとりだけ立つエシリアは若干震えている。それもこれもクリスの提案のせいである。

 

「私一人でも勝てるドラゴンって言うけど……そんなの無理に決まってるじゃない…!」

 

思わず声に出してしまう、投げやりな気持ちしかなく、嘆くように言えば不満と不安が爆発する。エシリアひとりでも勝てると思うから経験の為にもエシリアにやってもらおうとは今はいないクリスの談である。

 

 

 

 

……

 

 

 

「まず吉報だよ、生贄にされたらしい女の子達はみんな無事だったんだ!遺跡の裏手にある小屋で元気に過ごしてたよ!」

 

「……元気に…ですか?」

 

意外すぎる吉報にアリスもエシリアも混乱めいていた。普通生きていたとしても元気とは無縁そうではあるし、彼女らは捕らえられている形なのだから。

 

「うん、それにドラゴンだけど、エシリアでも勝てそうなくらいのだからここは経験を積ませる為にもエシリアひとりに行ってもらおうと思うんだ」

 

(……は?)

 

エシリアは私の中で放心状態にちかいものになっていた。おそらくクリスとしてはエシリアのステータスやスキルなどは熟知しているのだろう、だからこその提案だと思えば一応納得しないでもない。

問題はエシリアの内面の問題だ、何度も言うがゴブリン程度で狼狽えていてドラゴンを相手にできるとは到底思えない。確かにそういった内面の問題を払拭できるスキル《ウォークライ》をエシリアは持っている。攻撃力を増加でき、恐怖状態を解除できるあのスキルさえ使えばなんとかなる可能性はあるが使う前にドラゴンによるブレス攻撃など喰らえばそれだけで終わる可能性すらある。ドラゴンと鉢合わせる前に予めウォークライを使うことも考えたがウォークライの持続効果時間は20秒しかないのでタイミングによっては対峙する前に効果が切れてしまう。つまり絶対安全ではない。

 

モンスターを相手にして絶対安全などということはほとんどないのだが、少なくともエシリアにとって荷が重い相手なのは間違いない。それがドラゴンではなく初心者殺しとかであったとしても厳しいと思える。

 

「納得いかなそうな顔してるけど、アリスや私がいたら都合が悪いと思うよ?主にアリスとエシリアにとっては」

 

「…それは一体どういう事です?」

 

「それはすぐにわかると思うよ。とりあえず私は今から捕まっている子達の解放に向かうから、エシリアは今すぐドラゴンの元へ向かってね!」

 

それじゃ、作戦開始!と言いながらクリスは軽やかに近くの木に飛び乗ってまるで忍者のように素早く木から木への移動をして行き、やがて姿は見えなくなってしまった。

 

(……いやいや意味わかんないし、こんな状況で経験を積むとかそういうのいらないし)

 

(…ですが私達にとって都合が悪いのでしたらクリスの言う事を無視する訳にもいかないでしょう?もしもがあれば私が変わりますから、ひとまず言う通りにしてみましょう?)

 

こればかりは私としても謎が謎を呼んでいる。戦闘面を考慮すればクリスと私がいた方がいいに決まっている。のにも関わらずエシリア単独で行かせるという。

 

…考えても仕方ない。クリスは既に向かってしまった。ならば行くしかない。

そう思えば後はエシリア次第なので私は即座にエシリアへとチェンジするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在。改めて遺跡の入口と睨めっこしている訳だけど、そこからが踏み込めない。

不気味さと神聖さを合わせて感じさせるその遺跡は、ゲームに例えたらラスボスのいるダンジョンと比喩しても見劣りはしない。

 

だが動かない訳にもいかないので、少し時間が経ってしまったがエシリアはゆっくりとその遺跡に踏み込もうと重い足をあげた。

 

「エシリア!良かった、無事だったか!」

 

「えっ?」

 

突如背後から聞こえた声に思わず振り返る。そしてその声は見知ったもの。

 

「リア!?」

 

どうして!?と続ける間にもリアは距離を詰めて安堵の表情をしている。ただ他の二人はいないことから完全に役割を放棄したわけでもなさそうだ。

 

「途中までは3人でアクセルへ向かっていたんだが…この件は元はと言えば私が提案したことだし、やはりエシリアひとりに押し付けるのはな…だからエーリカやシエロにはそのままアクセルへと向かってもらっている。…どんな結果になるかわからないし危険なのも承知している。それでも…私はエシリアとともにいたいと思ったんだ」

 

「……」

 

エシリアはなにも返せず俯いてしまう。同時にクリスの言ってた都合の悪い意味が理解できた。

確かにアリスのままこの場面に遭遇していたらややこしいことになっていただろう。私がここにいるのもおかしな話であり、エシリアがいないことがより混乱をもたらしかねない。

 

「しかしまだ夕方には時間があるだろう?どうしてこんなにはやく森に入ったんだ?」

 

「あ、そ、それは…」

 

確かに予定では夕刻ギリギリにここに来る段取りではあった。名目上アクセルにいるカズマ君達の応援までの時間稼ぎのつもりなのだから。

今の時間はおそらく15時くらいだろう、確かに夕刻には早すぎる時間だった。

 

「昔から時間前行動を心がけていたから…」

 

「……その姿勢は立派ではあるが、今はいらないと思うぞ」

 

「…だよね…」

 

思ってもいない言い訳をすれば呆れ混じりの溜息をするリア。だけどエシリアの内情はかなり落ち着きを取り戻したと思われる。なによりもこうして駆けつけたリアの存在が凄く嬉しく、頼もしくあったのだろうから。

 

時間前行動なんて言葉を信じたのかはわからないがリアがこれ以上何かを聞くことはなかった。そのままエシリアに倣うように視線を遺跡に向ければ、僅かにゴクリと喉を鳴らした。エシリアと同じようにその雰囲気に飲まれているのだろう。

 

それは自然と伝染して、エシリアも何度目かわからないが息を飲んだ。

 

それが合図だったかのように、2人の足はほぼ同時に動き出した。怖いのは変わらない、だけど、先程と比べたら気持ちはかなり落ち着いていた。隣に誰かがいるだけで――、こんなにも違うのかと感じたのはもしかしたらエシリアだけではなくリアも同じだったかもしれない。

 

ゆっくりと、また一歩、また一歩と進み、遺跡の中へと歩いていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―森の遺跡内部―

 

室内に入ったと思えばすぐに見えたのは陽光。太陽の光。それは遺跡の中の何かが輝いている訳ではなく、屋内なのに屋根のない状態であったから。

空を仰げば太陽と雲、青い空が見える。そして肝心の遺跡は…一言で例えるなら古代ローマのコロッセオ。そのイメージがもっとも近く感じた。

その広さもかなりあって、元いた世界の地方の球場くらいはありそうだ。球場との違いはあくまでその場所が遺跡だということ。

 

整地されたように綺麗な地面は、こんなに太陽光を浴びているにも関わらず学校のグラウンドのように草がひとつたりとも見当たらない、逆に異常に見えてしまう。

 

しかし、陽光を覆い隠すほどの巨体らしきドラゴンの姿はそこには見当たらなかった。そんな大きなドラゴンがいれば一目でわかるだろう。

 

「……何もいない……?」

 

「…留守なのか…?」

 

留守と言うのも妙な表現ではあるが、二人からすれば正直拍子抜け以外の何物でもないだろう。しかし周囲を見渡すも、ドラゴンどころか虫一匹いるようにも見えない。

 

だからと言って二人が安堵する訳でもない。いないならいないで生きているとされている生贄にされてしまった人達を救出しなければ。エシリアとリアは互いに顔を見合わせると頷くことでそれを理解し、行動に移ろうとする。

 

 

 

…そしてそんな2人の足がふと止まった。

 

理由は……、突然周囲一帯に影がかかったから。

 

太陽の光が遮られ、感じた事のない威圧を感じれば、エシリアもリアも動けないまま、そっと目線を上に向けた。

 

 

『――ほう?時間より早いようだが――、捧げ物に来たのか――?』

 

「「…っ!?!?」」

 

それはあまりにも突然だった。今の今まで何もいなかったのに、ほんの瞬く間にその日の光を遮るほどの黒き巨体はエシリアとリアの視界に現れたのだから。

 

その巨体は大きな翼を羽ばたかせながらも、ゆっくりと音もなく着地した。そしてエシリアとリアを交互に見ていた。

 

…一方私はそれを見て様々な違和感を覚えていた。

 

(……エシリア、これはドラゴンではありません)

 

(……)

 

エシリアからの反応はない。完全に萎縮してしまっているのだろうか。しかし私としても看過できない事がいくつもあったのだからそれは説明した方がいい。

 

まず目の前に現れた存在はドラゴンではなく、巨大なワイバーンだ。色も黒く見た事のない個体ではあるがその特徴として翼が非常に大きく飛ぶ事に特化している点。

ドラゴンとワイバーン、ゲームなどで見る限りその容姿こそ似てはいるがワニとトカゲほどの違いがある。一般的なワイバーンは翼で大きく見せてはいるものの本体はそこまで大きくない、個体にもよるが小さいものだと人間の大人くらいの大きさしかないものもいる。

一方ドラゴンは翼こそあるものの、その身体に対してそこまで大きくはない。勿論飛ぶ為に存在するのでそれなりに大きいのだがワイバーンほどではない。

実際にドラゴンとワイバーンの一番分かりやすい見分け方は身体と翼の大きさの比率なのだから。それ以外が似ている事からワイバーンは別名『翼竜』とも呼ばれているのだから。村の人はおそらく巨大さ故にドラゴンだと勘違いしたのだろう。

 

…それを差し置いても言葉を話すワイバーンとはまた珍しくも思うが。

 

だが今の目の前のそれを眼前としているエシリアやリアにとってはドラゴンかワイバーンかなんて些細なことでしかない。どちらにせよ自身らの手に余る強敵という事に変わりはないのだから。

 

『……見たところ食糧などは見当たらぬ――……、ならば娘らよ、何をしに此処へ来た?まさかとは思うが…』

 

どのように形容したらいいのかわからない咆哮。ワイバーンはこちらを脅すようにそれを放った。大気が震える、2人の足がすくむ。

ドラゴンの咆哮は対象の精神に直接作用する。それはこのワイバーンの咆哮もまた同じなのだろうか、二人共に身動きが取れないでいた。

 

ドラゴンでなく、ワイバーンであったとしてもその攻撃手段は大差ない、これ程の巨体ならばその口から放たれるブレス攻撃はさぞ強烈なものであると推測できる。ならばこのまま動けないでいるのは非常にまずい。

 

(エシリア、《ウォークライ》を!)

 

(……っ!)

 

だけどエシリアは何もできない。だがそれも無理はない。ゴブリンと対峙しただけで動けなかった低メンタルで今の目の前の強大なワイバーンを前にして動ける訳がない。そのまま恐怖のキャパシティを越えて気絶していないだけマシと思える。

 

しかしそれで納得する訳にも行かなかった。

 

(……死にますよ?)

 

(……っ!?)

 

私が淡々と告げると当然エシリアの身体の震えは余計に増した。だけど事実だ、このまま動かないでいることはそうなる事を意味するのだから。

 

(…エシリアだけではありません、私も、隣にいるリアも死にますよ?いいんですか?)

 

(……わ、私は……)

 

リアを餌にするような形は正直不本意ではあるがこれもまた事実だった。今この状況をどうにかできるのはエシリアのスキルしかないのだから。

 

 

 

 

「……うわぁぁぁぁ!!」

 

それはエシリアが精一杯振り絞って出せたひと握りの勇気だったのだろう。エシリアが恐怖を振り払うように咆哮をあげれば、次第にエシリアの身体に薄く赤い膜のような光が形成されて、それによりエシリアは意識を保ち、戦意を高揚させることができた。

 

「…エシリア?これは…あの時の…!」

 

隣にいるリアもまた、《ウォークライ》の影響を受けて動けるようになった。恐怖を乗り越えたリアは、おもいのままに軽快に槍を振って構えた。

 

『――何?』

 

一声の咆哮だけでなんとかなると判断されていたのか、ワイバーンは意外そうな声をあげた。咆哮が終わったことによりその口は閉じていて、それは隙と言うのに充分すぎるものだ。

 

「やぁぁぁ!!」

 

途端にエシリアはその場からワイバーンの頭上めがけて跳躍した。両手で構えた剣を天に掲げておもいのままに振り落とす体勢。迷いなく動けるのもまた、ウォークライの効果なのだろう。先程までの挙動が嘘のように、高く高く飛び上がっていた。

 

「私はこちらだ……!!」

 

しかしそのままでは危険だと判断したリアは、その場から走り槍を構えて右側から攻めた。別方向からの攻撃なら反撃にこられてもどちらかの攻撃は有効打となるかもしれない、そんなリアの思惑からだった。

 

結果的にワイバーンはエシリア、リア、どちらの攻撃に対しても無防備でいた、それはワイバーンが二人の攻撃を甘くみているのか、単純に隙からの対応が間に合っていないのかはわからない。どちらの攻撃も受けることとなる――

 

 

はずだった。

 

 

「…えっ?」

 

二人は困惑した。何故なら二人の放った渾身の攻撃は…

 

どちらもワイバーンに当たる事なく、綺麗にすり抜けたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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