内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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とりあえず投稿。ちょっと展開が雑かもしれない…




episode 156 ワイバーンの正体

 

 

 

攻撃がすり抜けた。その現象にエシリアもリアも驚愕の色を隠すことはできなかった。

一体どういう事なのか、まさかこのワイバーンに対しての物理攻撃は意味をなさないとでも言うのか?だとすれば2人の敵う相手ではない。

 

そんな馬鹿なと動いたのはリア。槍による攻撃を次々とその巨体に放つものの、華麗な連撃はどれも虚しく空を斬るだけだった。

 

 

『――……無駄だ、我にそのような攻撃は通用せぬ――、大人しく帰って食糧を持ってくるのだな。そうすれば今の無礼は水に流してやろう――』

 

「くっ…!?」

 

意外な事にワイバーンは怒っているほどではなく、寛容さを見せつけるように余裕の様子でいる。結果的に返事はせずに二人共に後方へとバックステップ、体勢を整えるしかできなかった。

 

直に20秒が経過してしまう。それに気が付いたエシリアは無言のまま《ウォークライ》を再発動する。別に叫ぶ必要はなかったようでこれについてはエシリアも一安心である。スキル使う度に毎回咆哮するとか恥ずかしすぎるし気持ちはよくわかる。

今のところワイバーンが攻撃してくる様子はないが動けなくなることだけは避けたい。

しかしエシリアの微量な魔力を考えるとそう易々と連発はできないだろう。時間が惜しい、なんとかして打開策を考えなければ。

 

(…物理攻撃が駄目なら…魔法しかないのかな…、やっぱりアリスに代わってもらうしか…)

 

(…もう少し待ってください)

 

私は考えていた。まず一番に浮かんだのはクリスのあの言葉…エシリアひとりでも問題なく倒せると言った事。今の状況が真実だとしたら物理攻撃しか持たないエシリアだけでも倒せるというのは既に破綻していることになる。なので今の現象そのものがおかしいのだがクリスが嘘を言うとも考えにくい。

ならばやはりこのワイバーンに攻撃が効かないなんて事はないのだろう。しかしながら攻撃がすり抜けたのは私もしっかりと見ていた。

 

 

 

……。

 

 

 

今思えばこのワイバーン、登場した時から違和感があった。あの巨体がまるで瞬間移動したかのように登場し、更に地面への着地には何も音を出さずに。

これは違和感しかない。今目の前にいるのはかつて私が戦った変異種ティラノレックスよりも大きい。見る限りでも重量はそれ以上だと推測できる。そんな巨体が地に降りて全く着地音がしないなんてことが起こりうるのだろうか?

 

私の中で可能性としてあげたのは私の世界でも稀に聞いた事のある立体的なホログラム映像のようなもの、これを魔道具かなにかでこの場に映しているのではないかと思ったが、このワイバーンにはしっかりと影が存在していた。そんな映像なら影が存在するはずもない。よってホログラムのような見せかけではない。

 

何より実際に感じたその巨体に似合う威圧感と咆哮による効果はそんなものでは再現することができないだろう。

 

だけどどうしても本物と断定することはできない。

 

(…エシリア)

 

(……何?大分疲れてきてるし、そろそろウォークライ使い続けるのも辛いんだけど…)

 

私がこうして考えている間にもエシリアは持続的にウォークライを連発していた。はっきり言うと効率的ではない。エシリアの今後の課題はウォークライを使わずに戦闘に慣れることだろうか、そう考えたら確かに荒療治ではあるがこのワイバーンと対峙しているのは効果的な気もするが。

 

(私の推測が間違って居なければですが……ソードテンペストを使えば解決すると思います)

 

(……多分一発ギリギリ撃てるとは思うけど……効かなかったら……)

 

(その時は直ぐに私と交代しましょう、ですから心配はいりません)

 

私としてはそれでいいのだがエシリアとしてはそうもいかない。今この場で私に代わる事はリアに正体をバラしてしまうことになりかねないのだから。だけど命には変えられない。このまま逃げるのも一つの手かもしれないけど、それをすることでどうなるかはわからない。今は大人しくしているワイバーンがどう動くかわからない以上安易なことはできないのだ。

 

 

 

 

「生贄になった人達は無事なのか?無事ならば解放してくれ!食糧にしても村の人達は限界にきてしまっている!」

 

『――何を言うかと思えば、我の知った事ではない。貴様らは我の言った通りにすればいいのだ――』

 

ウォークライの効果もあって、会話がなりたつことでリアは説得を試みているがワイバーンは聞く耳を持たない。もとよりそんな説得が通じる相手ならそもそもこのような事をしていないと思える。

 

リアが説得している事で攻撃を止めていたがやはり無理だったようだ。魔力的にもチャンスは一度、だがワイバーンはその場に腰を降ろしたまま余裕の様子、通常なら攻撃が当たらないなんてことはまずないだろう、見た目はそれだけの巨体なのだから。

 

(私達の転生特典スキルは味方に当たる事はありません、リアの事を気にせず思い切りやりましょう)

 

(そ、そうなの?わ、わかった)

 

エシリアは少し躊躇するが普通に考えて味方に攻撃が当たらないというのは理解に悩む現象だろう。ゲームならともかく今は現実なのだから。

魔法ならまだわかりやすいが直接的な物理攻撃はどうなるのだろうか、ゲームでは単体への攻撃スキルであったとしても見た目で複数を巻き込んでいる形になるスキルはどうなるのだろうか、検証はできていないし危なすぎるので簡単に立証できることでもない。

だけどソードテンペストに関しては見た目ストームとあまり変わりはないので自信があった。

 

まず周囲を見る限りやはり何も見当たらない。となればこの現象は――。

 

 

「……ソード・テンペスト!!」

 

エシリアが恥じらいも忘れていちかばちかのスキル名を叫ぶ。想いのままに両手剣を頭上へ振り上げる、そうすれば剣閃は竜巻となってワイバーンへと襲いかかる。

 

すると――。

 

 

 

「ぎにゃぁぁあああああ!?!?」

 

間の抜ける絶叫が聞こえてきてエシリアもリアも唖然としてしまう。その瞬間ワイバーンは存在そのものが消滅してソードテンペストによる竜巻だけが残る。

 

「な、何がどうなって…?」

 

剣閃による竜巻は数秒続いて、やがて役目を終えたかのように消滅する。

 

するとそこには。

 

「……コ……」

 

「……リア?」

 

その場に残ったそれを見るなりリアはワナワナと震えて立ち尽くしていた。次第に足が動いてそれへと走り出す。

 

「コン次郎ーー!!」

 

ワイバーンがいた場所には、人間の子供くらいの大きさの不思議な動物が泡を吹いて気絶していた。顔は狐、尻尾は狸、胴体は猫のように見える、そして傍にはバスケットボールほどの大きさの白い大きなものが転がっている。

 

(……アリス、どうなってんの…?)

 

(……私にもさっぱりわかりません、が…)

 

思わずため息を吐いてしまいたくなる。まさかワイバーンの正体がこんなコミカルな謎の動物だとは…、それでも――。

 

 

(……とりあえず解決、でいいのではないですか?)

 

今分かった事は、これ以上危険がないであろうと思わせられた事、油断することはよくないかもしれないがこれに尽きるのである。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

それにしても。

 

「……あの……リア?コン次郎って……何?」

 

「はっ!?」

 

まさに私もエシリアも疑問に思ったことである。今現在異形の動物を心配そうに見つめながらも介抱しているリアの様子はとても今までの冷静な感じは見受けられない。そんな中疑問を口にすれば、何かに気付いたように慌てて落ち着くような挙動を見せていた。

 

「あ、いや……そのだな…、私が普段部屋に置いてあるぬいぐるみにコン次郎というのがあるんだが……その、この動物があまりにもよく似ていたので…」

 

若干もじもじしながらの弁明はリアの意外な一面を見てしまったようで少し可愛らしく見えた。普段がしっかり者の印象しかなかったのでギャップが大きいからと思われる。まぁリアと知り合ってそこまで時間が経った訳ではないのであくまで第一印象からかけ離れていただけの話なのだけど。

 

改めてエシリアもゆっくりとその動物に近づいてみる。相変わらず泡を吹きながら小刻みに痙攣しているものの生きているようだ。というよりもしかしてこれにトドメを刺さなくてはならないのだろうか?流石にここまでコミカルでぬいぐるみにしてもおかしくないような見た目の動物にそうする事は戸惑われる、私ならまずやれない。ならエシリアにだって無理だろう。

 

それにしても私としてはこの結果は予想外だった。何か仕掛けがある程度には思っていたがまさか生物が化けていたとは。

見た目キツネのような感じからそんなスキルがありそうなのは容易に想像できてしまうが言葉を話す事ができて…見た目は複数の動物の継ぎ接ぎ…。

 

継ぎ接ぎ…?

 

などと考察していると、人の気配を感じた。

 

 

「やめて!!」

 

「「…っ!?」」

 

思わず振り向いて身構えるが杞憂であると判断する。出ていたのは茶髪の10歳前後の女の子、その服装はあまり綺麗ではなくむしろボロ具合が目立つ。生贄として捕らえられていた子なのだろうか?…しかし捕らえられていたと見るには健康状態に問題はなさそうだし何より自由に動けている。

 

声を出すなりこちらへと走ってくる少女にエシリアとリアはそれぞれ武器を下ろしながら向き直った。

 

「君は…生贄として捕まっていた子なのか?」

 

「…はぁ……はぁ…、う、うん…」

 

慌てて走って来たからか、少女は肩で息をして呼吸を整えていた。それでも必死な様子は変わらずに、気絶している動物の傍に駆け寄ると、守るように抱き寄せた。

 

「お願い…たぬちゃんを殺さないで…!たぬちゃんは、私の為にしてくれてたの…!」

 

「たぬちゃん…?いや、その子はコン次郎で…」

 

「いやそれも違うよね…?」

 

エシリアの控え目なツッコミにリアはハッとして咳払いする。それにしてもたぬちゃん。愛称なのだろうか?見た目はキツネのような顔なのに。

 

「…コホン。…君は誰なんだ?この件に関してどこまで知っているのか、良かったら話してほしい」

 

「そ、それは…」

 

言いにくそうに口篭る少女、しかし聞かない訳にはいかないだろう。少しだけ無言が続いたが、やがて観念したかのように少女の口は開いた。

 

 

「…この子、『たぬきつねこ』って言うらしいの、だからたぬちゃんって……」

 

「…何?そうだったのか…」

 

「いや名前のくだりはもういいから!?」

 

違うそうじゃない。エシリアのそのツッコミは過去一番のものだったことはまず間違いないと思われるのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫だワン、ここからはボクが説明するでチュー」

 

「たぬちゃん!?無事だったのね!」

 

突然の声に安堵の声をあげる少女。そしてその謎の動物はゆっくりと起き上がると諦めに近い様子でいた。なんだか変な喋り方ではあるが気にしたら負けな気がする。

 

「はじめまして冒険者さん、ボクはたぬきつねこだワン。分かってると思うけど、さっきのドラゴンの正体はボクなんでチュー」

 

「……ドラゴン?あれってワイバーンだよね?」

 

「えっ?」

 

エシリアの疑問に少女とたぬきつねこは首を傾げる、どうやら正体もわからずに化けていたようだ。

 

「ボクがあの姿になれていたのはこれのおかげなんだワン、この遺跡で拾ったこれを使って変身できることを知ったんでチュー」

 

…ものすごくどうでもいいのだけど『たぬきつねこ』なのにキツネでもタヌキでもネコでもない語尾なのは何故なのだろうか。凄くどうでもいいのだけど気になってしまえばめちゃくちゃツッコミたさがある。

 

「…随分大きいが…これは爪なのか?」

 

「多分そうでチュー。ボクのスキルは生き物の一部さえあればそれに変身することができるんだワン。たださっきのは大きすぎて、ほとんど見せかけだけになったんだコケ」

 

なるほど、攻撃がすり抜けたのはそれが原因だったのか。いくら変身スキルだとしても大きさに限界はあるらしい。

ただこうして話を聞いていると疑問が生じる。この動物も少女も悪意があるようには見えない。むしろ反省するように縮こまっている。

 

「…変身したのはわかったが…一体何故こんなことをしたんだ?」

 

「…全て話すでチュー。まずはボクが此処に来たキッカケから話すワン」

 

思い詰めたようなつぶらな瞳のまま、動物は語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ボクは『たぬきつねこ』。意識が生まれた時にはこの姿だったんだワン。

 

「うーん…なんだか奇妙なのが完成したわね…、戦えるのかしら?」

 

「シルビア様、データによりますとこの動物は変身スキルを持っているようです、他の生物の細胞があれば――」

 

無機質な建物の中、意識を持って初めて聞いた言葉がこれだったんだワン。ボクはよくわからない狭いところに入れられていて、大きな女の人と、ゴブリンが何やら話していた。おそらくこの人達がボクを作ったんだなと確信したんでチュー。

だけどボクに戦闘能力は全くなくて、研究所と呼ばれていた施設に失敗作として閉じ込められていたんだワン。

 

失敗作と言われて閉じ込められた動物や魔物はその中にもいっぱいいた、このままこの中に閉じ込められていてボク達はどうなるのかと不安な日々を過ごしていたワン。

 

閉じ込められて数日経ったある日、新たに放り込まれた魔物がボク達にチャンスをくれた。その魔物はランダムテレポートというスキルを使えるらしく、次々と魔物達にそれを唱えていた。何故その魔物がそんなことをしたのかはわからなかったけど、それはボクにとっても千載一遇のチャンスだったワン。

 

そうして飛ばされた場所が、この遺跡だったんでチュー。

 

最初は戸惑ったけど、森を抜けたらそこには色々な食べ物があちこちにあったワン。これなら戦闘能力のないボクでも生きていける、そう思っていたけど…

 

「なんだこの動物は!?コラ!オラ達の作物を盗るんじゃねぇ!!」

 

畑の秋刀魚を目当てに行ったら農具を持った人間達に追い払われて、ボクは必死に逃げる事になって、それでも食べ物がないとボクは飢え死にしてしまうから、ボクは他の食べ物を探す事にしたんだワン。

 

戦う事ができないボクに野生の野菜を盗ることは難しかったから、海岸に浮かぶスイカとか、盗る物は限られていたけど、他の食べ物を狙っても、人間達はボクを襲ってきたんだワン。

 

ロクに食べ物を食べれなくて、ボクはそのまま死ぬかと思っていたワン。森の中で倒れてしまって、動けなくなってしまった時に…この子、『ナギ』に出会ったんでチュー。

 

また人間がきた、このまま殺されてしまうと恐怖したけど、ナギはボクにサンマをご馳走してくれたんでチュー。

 

「ごめんなさい、村の人が貴方を酷い目に合わせちゃって…ごめんなさい…」

 

ナギはそれからボクに少しずつに食べ物を分け与えてくれた命の恩人なんだワン。それがそのまま続いたら良かったワン…、けど、それも長くは続かなかったんでチュー。

他の人間にナギがボクに食べ物を与えているのがバレてしまったんでチュ。どうやらナギは他の人間に内緒で食糧庫から食べ物を持ってきていたみたいで、ボクはナギが逃げてと言う言葉のままに逃げてきたんだワン。

 

このままだとナギが酷い目にあってしまうかもしれない、だけどボクにはどうする事もできないワン。

…そんな時、ボクは住処にしていた遺跡に落ちてた大きな爪を見つけたんだワン。ボクには変身スキルがあるらしいでチュから、これを使えばこの爪の持ち主に変身できるかと思って、実際に試したらボクは大きなドラゴン?に変身出来たんでチュ。

 

そしてボクは色々試したけど、この大きな生物としてできる事は精々咆哮をあげてビックリさせることだけだったんだワン。それでも脅かしてやればナギは助かるかもしれないと思って…ボクは計画を実行したんでチュ、優しいナギなら、きっと人間の為にこちらに生贄として来てくれると思ったんでチュから…。

 

 

 

 

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