内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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―視点アリス―


episode 157 ハッピーエンドとこれから

「後は君らも知ってる通りだと思うワン、ボク達は脅かして食糧を得る事で此処で生活していたんでチュ」

 

涙目うるうる状態のこの動物は時折目を拭いながらもその話をしていたのだが、はっきり言えば所々の語尾が気になって話が半分も入ってこなかった。内容は真面目な話なのだができたら普通に喋って欲しい。ワイバーンの姿の時の話し方を考えたら普通に話せるはずなのだから。

ただ一番に思ったのは、言葉を話す事ができて、継ぎ接ぎの動物…やはりこの動物はシルビアによる合成獣だったようだ。確かに以前シルビアとその部下の話でランダムテレポートによる合成モンスターの集団脱走の話もあった、回収されたと言っていたがこのたぬちゃんはその捜索から逃れたのだろう。しかし自身が魔王軍などという認識すらなさそうだし、とりあえず危険はなさそうだ。

 

それはそれとして、話を聞く限りでは疑問も残る。

 

「…大体の経緯は分かったが…ひとつ聞きたい。どうして追加で生贄を要求したんだ?今の話を聞く限りではそこのナギって子が最初の生贄になっていったまではわかったが、それ以上に生贄が必要な理由がないだろう?」

 

「…勿論ボクも最初はそんなつもりはなかったんだワン。だけどボクと2人きりだと、ナギが寂しそうにしてたんでチュ。寝る時にお父さん、お母さんって泣いてたんだワン。だから人が増えたらそうならないと思ったんでチュ」

 

つまりはこのたぬちゃんの独断で要求したということなのか。確かにナギにも両親がいるだろうし、その年齢はまだ幼い。そこから離れる形になったことでホームシックになってしまった可能性はあるだろう。

 

「だけど一人連れてきたことでそれはナギに止められたんだワン。だからそれ以降生贄は要求してないんでチュが……、人間が毎回と勘違いしたのかそれから毎回生贄を連れてくるようになったんだワン」

 

「…それで…?その生贄として連れてこられた人達は?」

 

「…ナギは解放してほしいと言ったんでチュが…外に出てボクの正体をバラされる訳にもいかなかったんだワン、だからそのまま居てもらってたんでチュ、今は裏にある小屋にいるはずだワン」

 

話を終えたたぬちゃんはぐったりしていた。おそらくこれからの事を考えているのだろう。

しかしながらどうしたものか、これはどちらが悪いのか判断が難しい。

 

たぬちゃん側から見れば村の人達がたぬちゃんに対して優しく接していれば今回のようなことにはならなかったと思える。

しかし人間側から見れば作物を荒らす動物など害獣でしかない、追い払うのは当然なのだろうし、そこはナギの考えが異端なのかもしれない。勿論ナギの在り方の方が正しいと思うが、村の人達から見たこの場所はやっと見つけた安住の地、なんとかして守りたい気持ちが強かったのかもしれない。

 

これを正直に話してしまえばもしかしたら村の人達は納得して許してくれる可能性はある、少なくとも解決した私達が口添えすれば良い方向にいくと思う…けど。

 

果たして本当にそうだろうか?

 

私達の前では良いように返事をするかもしれないが、問題は私達がこの村から去った後の話だ。

30人ほどいる全ての村の人達が心から納得するとはまず思えない。脅かされ、悩まされ、結果的に駆け出し冒険者の誘拐という犯罪まで犯してしまっているのだ、その報復をと考える可能性は高いのではないだろうか。ならばワイバーンの正体は絶対に明かす訳にはいかないだろう。

 

「……これってどちらが悪いとか、答えが出にくいんだけど…リアはどう思う?」

 

「……確かにそうだな…、人間としても作物を荒らす動物を許せない気持ちもわかるし、コン次郎から見ても生きる事に必死だっただろう」

 

「だからコン次郎じゃないから」

 

「まぁちゃんとした名前もなさそうだしいいじゃないか」

 

どうやらリアは意地でもコン次郎と呼びたいらしい。どこか頑なだった。エシリアが半ば呆れるようにため息をつくも、コン次郎と呼ばれることに文句はないのかたぬちゃんは黙って聞いてるし、リアの表情そのものは真面目なものだった。

 

「…ではこうしてはどうだろう?私とエシリアはドラゴンに立ち向かい説得をした。ドラゴンはコン次郎が迫害されたのが気に入らなくて今回のような生贄やらを要求をした、だから私達は今後そのような事がないように約束すると、ドラゴンは何処かへ飛んで行った…と言うのはどうだろうか?」

 

「……なるほど…それなら…」

 

リアの提案でハッピーエンドが見えてきた気がする。確かにその話を信じてもらえたら、コン次郎は今後村で迫害されるような事もなく、堂々と暮らしていけるだろう。しっかりと架空のドラゴンの睨みが効いているのも大きい。ようはまたコン次郎が迫害されるような事があればドラゴンが戻ってくるぞという脅しになっているのだ。

 

「リア!貴女が来てくれたのね!」

 

「…お前たち!?」

 

振り向けば遺跡の中へと、3人の人影が見えこちらへと駆けてきた。プリースト風の服装の緑髪の少女、赤い髪のウィザード風の女の子、青髪の軽装の子。どうやらリアとは顔見知りらしい。手を振って挨拶している。

 

「…知り合い?」

 

「知り合いというか…冒険者ギルドで顔を合わせたことがある程度だな。私は最近冒険者ギルドで歌わせてもらってるから、それなりに顔は知られているんだ」

 

合流した3人に話を聞けば、どうやらコン次郎やナギの事から全て把握しているらしい。事情を知ってしまえば、逃げるのも罪悪感を感じてしまったそうな。

それにしてもこの3人を解放したと思われるクリスの姿が見えないがどうしたのだろう?

 

「…お姉ちゃん達、どうやって出てきたの?小屋には外から鍵をかけてたのに…」

 

「え?鍵なんてかかってなかったわよ?だから出て良いものかと思って出てきたんだけど」

 

開けたのは間違いなくクリスだろう。姿を見せないのは隠れているのか、既にこの場にはいないのか。再会したら文句のひとつも言ってやりたい気持ちが強かった。おそらくクリスは事前に調べた事でワイバーンの正体から把握していたのだろうから。そしてその気持ちは私よりもエシリアの方が強い事は間違いない。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

ふと気が付けば日が沈み暗くなってきていた。このままこの場所にいても仕方ない、村へと帰って報告をしなければ。

無論報告はリアが考案したもの、村の少女ナギやコン次郎は勿論の事、捕まった冒険者の子達にも話を合わせて貰わなければ。

これには反発もあるかと思われていたのだが意外にも3人の冒険者は乗り気で受け入れてくれた、どうやら滞在時には丁寧に扱われていたらしいし実情を知ってナギとコン次郎に同情すらしていたようだ。

 

遺跡から出て森の木々を避けるかのように脱出していく。暗い森の中は不気味でしかないがナギの道案内もあって問題なく進んでいく、ドラゴンもどきの効果もあって近辺にはモンスターもいないので薄暗いことを除けば快適な移動となっていた。

 

森を抜けて少し歩けば松明の火が見えてくる。入口にはおじさんがひとり見張りに立っていて、こちらに気が付くなり大慌てで村の中へと走って行った、私達の事を報告に向かったのだろうけど流石に慌てすぎだ、こちらに来て話を聞いてくれてもいいだろうにと思う。

 

「よくぞ帰って参られた冒険者様……っ!?ナギ、そ、それに冒険者の子達も……無事で何よりじゃ…」

 

ナギに気が付いて驚き、続いて冒険者3人に気が付くなり後ろめたそうに顔を逸らした様子から、それはそうだろうなと察した。彼女らはこの村の人達によって誘拐された被害者でしかないのだから。

 

「色々と話がしたいんだ、席を設けてもらえるだろうか?」

 

「勿論ですじゃ、皆様お疲れでしょう、食事の準備もさせてもらいます…」

 

 

 

 

 

 

―入江の村―

 

代表、あるいは村長と思われる老人の家は、ボロ具合が目立つがそこそこの広さがあり、ある程度の人数が座れるだけのスペースがある。中央に置かれたテーブルの上に出された料理は豪華とは言えないが量だけはある。この地域による自然の恵みなのだろう。

 

村の少女ナギ、そしてナギの後に生贄となった3人の冒険者。その存在はすぐにこの村の人達に気付かれると、その家の入口には村の人がほとんど集合していた、どのような経緯で帰ってこれたのか気になったのだろうがやはりその表情は複雑だった。

 

「私とエシリアはふたりで遺跡に向かい、巨大なドラゴンに遭遇した。そこで私は言葉を話せるという事で、ドラゴンに説得を試みたんだ」

 

本当はワイバーンなのだが村の人はドラゴンと信じきってきたし、ぶっちゃけどちらでも問題はない。ただドラゴンとしていた方がより恐れられそうではある。

流石に説得などは恐怖に震えた村人からすれば眼中に無かったようで、その言葉とともにどよめきが起きていた。

 

「どうやらあのドラゴンはこの動物が迫害されていたのが気に入らなかったらしい。この周辺の食べ物が元々から村で作られていたのならまだしも…そうではないのだろう?それを人間だけで独占しようとしていたのが今回の事件の発端だったんだ、今後それをしないと約束をとりつけたことで、ドラゴンから赦しをもらえた」

 

再びどよめきは増す。しかしそれは人間からしたら当然の事だろう。これは人間だけではない、群れを成す生物ならば当たり前のようにやっている事。いわば縄張り争いなのだから。

それにこうして嘘と知っているからか、胡散臭くも聞こえてしまう。つまりはドラゴンが一匹の小動物の為だけにあのような手の込んだ事件を起こしたということなのだから。

 

どよめきの中でひとりのおじさんが咳払いをして、周囲を静かにさせた。

 

「…つまり、そこにおる動物を追い払ったりせずに食べ物を与えてやれば、今後ドラゴンが怒るような事はないということなのか?」

 

「まさか今後ここの食べ物を狙ってくる動物全てにそうしなきゃいけないのか? 」

 

確かに村人の疑問はもっともだ。そんなことを続けていたらいくら食糧が豊富な土地だとしても限界がきてしまうだろう。これにはエシリアも思わずリアを見つめてしまう。

 

「落ち着いてくれ、そこまでの話は聞いていない。それに悪い事ばかりではないぞ?これが護られるのなら、今後もドラゴンは凶悪な魔物から村を守ってくれるとも言っていた」

 

リアのこの言葉が決め手となり、村人はそれ以上不平不満を言うことはなかった。とりあえずは丸く収まったのだろう。

 

その後、改めて村人達は帰ってきたナギは冒険者3人に丁寧に謝罪していた。そして冒険者3人も今回の誘拐について、国やギルドに被害を届けるつもりはないようだ。善良な冒険者で運が良かったとも言えるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

報告と食事は終わり、村の雰囲気は嘘のように平穏を取り戻していた。村人からすればまだまだ疑問はあるものの、今までの悪夢が終わりを告げたのだ、両手をあげて歓喜することが最優先事項になってしまうことは当然の流れだった。

 

そういえば結局クリスは何処へ行ったのだろう?単純に今まで私とエシリア以外に姿を見せていないのに今頃になって居るのも確かにおかしな話なので姿を見せないだけとは思うのだけど、それでも気にはなる。もしかしたら解決した事を確認してそのまま帰ってしまったのだろうか。

 

今は夜も深けていて、今からアクセルに帰るには危険なので村に泊まることになった。エシリアとリア、そして3人の冒険者は早朝村を発つことになっている。

今思えばハチャメチャな出来事だった。きっかけは私が興味本位だけでエシリアへとチェンジしたことだが何がどうなればひとつの村を救う事にまで発展してしまうのだろうか。

ゆんゆんやミツルギさんにアンリ、それにカズマ君達にもおおいに心配させてしまっていることだろう。どのように言い訳をしたらいいのやら検討がつかないので私としては正直に話してしまいたい気持ちが大きいのだけどエシリアはそれを許してくれないだろう。内心溜息をついてしまう。

 

とりあえず流石にこれ以上のいざこざはないだろうと祈りつつ明日アクセルへと帰って一旦私へと戻って仲間の元へと帰るしかない。

 

用意してくれた部屋で簡易的な布団に寝転がっているエシリアにそれを伝えると、エシリアは思い悩むような顔をしていた。

 

 

(…あのさ、すっかり忘れてたんだけど)

 

(…何がですか?)

 

(……リアはこちらに来てくれたけどさ、エーリカとシエロはアクセルに助けを求めに戻ってるんだよね?)

 

(……あ)

 

エシリアと同じくこれは私も失念していた。そうだ、時間を考えたら何もない限りエーリカとシエロはとっくにアクセルの街に戻れているはずだ。そしてこちらの状況は切迫していることになっているのだから早朝、下手したら真夜中にはこちらに到着する可能性がある。これは私にとってあまり都合の良い話ではない。

 

(…………)

 

(……アリス?)

 

なんかもう考えるのに疲れてしまった。解放されたくてエシリアが出てきたのに悩みの種が増えてしまっている件について。流石にエシリアにそんな事を言う訳にもいかないので私の心底の奥にこの気持ちは眠らせておくつもりではあるけど。

 

(…いえ、少し考えることに疲れただけです、もう自然に身を任せることにしますよ…なぁに、終わってしまえばなんとでもなります…)

 

(完全に投槍になってない!?しっかりしてよ!?)

 

人間は楽を求める生き物である、それは私としても例外ではない。エシリアは納得していないようではあるけど、どうにでもなるだろうと考えたら気持ちばかりではあるが楽になれたのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

次第に眠気が訪れる。明日になれば元の日常に戻れるだろうか?おそらく無理だろう。

頭を抱える案件ではあるが、私はエシリアにもこの世界を存分に満喫してもらいたいという気持ちに変わりはない。その為には私とエシリアの関係と状態をさっさと仲間に説明してしまえば手っ取り早いのだが、エシリアのプライドがそれを許さない、許してくれない。

 

となると近道なのはエシリアを私が説得するしかないのだろう。この生活の不自由な事が理解できればもう少し私の話に耳を傾けるかもしれない、そんなフワフワした希望的観測しかないが、現状それしか方法がないのだから。

 

気が付けば、エシリアは何も言わない。眠ってしまったのだろう。少し離れた位置からのリアの寝息と、エシリアの寝息だけが聞こえてきていた。エシリアが眠ったことで、私の意識も遠のいていく――…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これは、前借りですからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが聞こえた気がしたが、気の所為かと思えるほど些細なことに感じた。意識が覚醒したと思えば私は重く感じながらも背筋を伸ばして欠伸をする。

 

 

「…え?」

 

時間はおそらく朝だろう、外から見える日の光でそう感じたのだが、問題はそこではない、姿が私になっていた事だろう。

 

幸いなことにリアはまだ眠っている。これなら慌てなくてもリアが来る前に、あるいは誰かが来る前にエシリアの姿へと変わればいいだけだ。

 

「……うぅん…」

 

私の隣で誰かが寝返りをうった。少し慌てるがよく見ればエシリアが寝ているだけだ、何も問題はない。すぐに元に戻ろう。

 

 

 

……え?

 

 

 

「パラメータースロット、チェンジ…」

 

小声で呟くように言ってみるも、何も起きる気配はない。軽く放心状態になってしまった故にその答えがでるまでに時間がかかってしまった。

 

 

「……エシリア……?」

 

「……んん……?あ、アリス?おはよう……」

 

お互いに目を合わせてパチパチと目を瞬かせた。寝ぼけ眼でぼーっとしていたエシリアも、次第に今何が起こっているのかを理解すると混乱めいた表情へとなっていく。

 

「……え?え?…なんで…?」

 

私とエシリアが、この世界に……同時に、存在できていたのだから――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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