内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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初めて1万文字を越えてしまった…。

エシリア編もぼちぼち終わりが見えてきました。


episode 159 この素晴らしい世界の神と悪魔

 

 

―アクセルの街・屋敷―

 

ようやく…ようやく帰ってくる事ができた。

あれから根掘り葉掘り聞かれた事に誤魔化し多めに答えたが、しっかりした説明などできるはずもなく、カズマ君達としてはなんともスッキリしない終わり方となってしまった。わざわざあんな場所まで来てくれたにも関わらず何もする事もなく帰ることになるのだからこれに関しては申し訳なさしかなかったが、みんな「アリスが無事ならそれでいい」と言ってくれて余計に罪悪感が募る。

形式的にあの村の案件に関係が深いのはエシリア達のパーティなので私達はほぼ無関係である。よっていつまでも村にいても仕方ない。

エシリア達が村の人達と話しているのを切り上げるなり村の人達に別れを告げてゆんゆんのテレポートとカズマ君が持つテレポートの魔導具を使って帰還したのだった。

 

たぬきつねこのコン次郎(リアの強い推しにより結局名前はコン次郎になったらしい)はナギのペットとして飼われる形になった。これなら満足に食べ物も食べられるしナギとも一緒に居れる。村にモンスターなどの危険が迫ればコン次郎がワイバーンに化けて追い払うこともできる。これにより村は完全に独立を成し遂げることができるだろう。

もっともコン次郎の変身スキルについては村の人達には秘密のままである。いずれはバレてしまうかもしれないが、そうなったとしても村を守っていることを続けていればきっと分かり合えるだろう。

 

誘拐されていた3人の冒険者達はリアやエシリア達とともに冒険者ギルドへと向かった。今回の件…攫われた冒険者達はあくまで行方不明となっているので、誘拐されたことまでは冒険者ギルドにバレてはいない、なので3人には口裏を合わせてもらい、森や山で遭難していたところをリア達に救助されたという事にしてもらった。多少無理がある気もするが当人達がそう言えばギルド側も深く調べようとはしないだろう。

 

その後エシリアはここに戻ってくることになっている。改めてみんなに紹介したさもあり、今回の件の謝罪をお互いにしたいんだそうな。

エシリアとしては逃げてしまったこと、カズマ君としては話も聞かずにバインドやらスティールやら強行してしまったこと。元はといえば全ては私が発端なのでこれについても申し訳ない気持ちしかない。思わず溜息をついてしまった。

 

「アリス、大丈夫?お腹すいてない?眠くない?」

 

「…大丈夫ですよ、お風呂に入ってやっと落ち着けて疲れが出ただけです」

 

溜息が聞こえたのか、心配したゆんゆんが声をかけてくれるが相変わらずの過保護である。聞いた話だと散々心配をかけてしまったようだしその反動もあるのかもしれないが、屋敷に帰ってからお風呂からリビングのソファに座るまでずっと付きっきりはやりすぎのような気もする。まぁそれでゆんゆんが安心できるならいいかと何かを言う事はしなかった。

 

「心配したのはゆんゆんだけじゃない、みんな本当に心配していたんだ…兎に角、無事で良かったよ…」

 

「…そうだな、正直に言えば釈然としないが…」

 

「うぅ…すみません…」

 

やはり私の話した事情が事情だ。部屋にあったはずの服や杖は気付いたら私の傍にあったとかあまりにも強引すぎるし、そんな内容によりスッキリしない様子なのは変わらなかったが私が逆の立場なら私でもそうなるだろう。私を気遣って無理矢理納得しようとしているような様子には罪悪感しか生まれない。不可抗力でしかないと思っていてもそうなってしまう。

 

「こればかりはアリスにすら分かってないのでしたら仕方ありませんよ、この話はここまでにしておきましょう?」

 

「後はあのエシリアって子ね、あの子が持っていた剣だけど…神器だったわよ」

 

「…ってことはミッツさんの魔剣グラムと似たようなものか…」

 

流石は女神様、アクア様は一目であの剣を神器であると認識したらしい。ただ私と同じ感じなら魔剣グラムほど強力なものでもないだろうと推測できる。

それは以前エリス様が言っていた、バランスの問題。転生者に与える能力や神器には強さの上限が設定されているので私と同じくエシリアも、ステータスやスキル、そして神器が揃って魔剣グラムほどの強さになっているだろう。これはおそらくエリス様が設定したものと思うので間違いはないと思われる。

 

「でもあの姿、どこかで見た事あるのよね……どこだったかしら…?」

 

「……」

 

考え込むアクア様だが他の人達はあまり気にしてないようだ。ただアクア様が見た事があるとすれば多分私のスマホだろう。私が死んでアクア様と出逢ったあの日、アクア様は私のスマホのゲームを起動して色々といじっていたしその時に見ていたとしてもおかしくはないかもしれない。

 

そんな話をしていたら、入口が騒がしくなってきたと同時に扉がゆっくりと開かれた。

 

「すまない、待たせてしまった。入ってもいいだろうか?」

 

「あぁ、入ってくれ」

 

聞こえてきた声の主はリアだ。この屋敷には呼び鈴もチャイムもないので扉をノックするか開いて呼びかけるしかない。カズマ君が応答すれば、リア達アクセルハーツの面々が入ってきて、最後尾に気まずそうなエシリアがいた。

リア達は入るなり改めて屋敷内を見回してる、広い造りとなっている屋敷に驚いてるようだ、これにはカズマ君も気分良さそうにしていた。

 

「さて、話なんだが……まずはこれを見て欲しい」

 

リアがサイドポーチから大きな物体を取り出した。両手に収まるそれは白い塊で三角錐に少し曲線がはいったような歪な形をしているが、私はそれを見た事があった。

 

「それは……ワイバーンの爪…?」

 

「…っ!」

 

私の問いにゆんゆんが過敏に反応した。そしてその反応で思い出した、これはおそらくコン次郎が持っていたワイバーンの爪だ。そしてワイバーンの爪といえばゆんゆんが探し求めている新杖の材料のひとつである。

 

「これはコン次郎がお礼にと私に託してくれたんだが…価値はわからないがそれなりの値段になるかもしれない」

 

「…でもこれってコン次郎が持ってなくて大丈夫なの…?」

 

「ん?そのコン次郎って誰なんだよ?」

 

「…あ」

 

ふいに質問したエシリアだがカズマ君の疑問に思わず片手で口を塞ぐ。それもそのはず、今回の事件の真相はカズマ君達はもちろんのこと、エーリカやシエロにも話していない。コン次郎のことを知っているのはリアとエシリア、ついでに私だけなのだ。

 

「…終わったことですし、このメンバーなら話をしてもいいと思いますよ?私もそれがここにあって大丈夫なのか気になりますし」

 

私がそう言えばリアとエシリア以外が不思議そうにしていた。

実際ワイバーンの爪が今この場にあるということは、今やコン次郎の手にはそれが存在しないということだ。そうなれば有事の際、コン次郎はワイバーンに化けることができなくなってしまう。

 

「…わかった。今からここで今回の事の真相を話そう、できたら冒険者ギルドには内緒にしてくれると助かる」

 

そう言うなりリアは説明を始める。流石にざわめきはあったがそれぞれがちゃんと聞いてくれた、今回の真相…ドラゴン、もといワイバーンの正体からコン次郎とナギの話、それによって起こってしまった冒険者誘拐の事件までを。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、そんな事があったのですね…」

 

「だから、それがコン次郎の手元にないと何かあった時に困るんじゃ…」

 

「それについては私も同じ事を言ったが…心配はいらないらしい。ここを見てくれ、少し欠けているだろう?コン次郎としてはほんの一欠片でもあれば問題なく変身できるようなんだ、ただ私も最初は受け取りを拒否したんだが…お金にできるなら村の為に使ってもらいたいと。しかしあのワイバーンと繋がりがあるものをコン次郎が持っている事を村の人に知られると疑いを持たれる可能性があると言われてな、コン次郎としては小さいサイズで隠しやすくなり、私達にもお礼ができて悪い事はないと言いくるめられてしまったんだ」

 

なるほど、確かに少しだけ欠けているしコン次郎からしたら大きすぎても邪魔でしかないかもしれない。

 

「向かったのがそこの2人で良かったな、めぐみんだったら爆裂魔法で跡形もなくなってただろうしな」

 

話を聞いた後のカズマ君の感想でそれぞれの視線はリア、そしてエシリアへと移る。同時に気まずそうになっていた。主にカズマ君とエシリアが。

 

 

「……その、話も聞かずに酷い事して悪かったよ」

 

「それについては私も謝りますよ、少しきつめに言いすぎた気もしますし」

 

「……」

 

エシリアは無言のままだ。カズマ君やめぐみんと目を合わせようとしない。だけどエシリアにもあちらの状況は今となっては分かっているはず。私はそっとエシリアに近付くとその背を押すように手を添えた。

 

「……貴方達がアリスを心配して冷静じゃなかったことは分かってるから…その、こちらこそごめん…」

 

相変わらず目を合わせられないままだったがエシリアとしては上手く言えたのではないだろうか。

カズマ君やめぐみんの様子を見る限りでもとりあえず形だけでも仲直りはできたと思うので後はエシリア次第だろう。心配ではあるが1から10まで私が何かをしたり言ったりするのは違う気もする、私とエシリアが変わらずひとりのままなら違ったかもしれないが今はそうではないのだから。

 

正直に言えばまだまだエシリアについて聞きたい事はあったと思う。そもそも何故エシリアは私と入れ替わるように私の部屋にいたのかなど、説明が難しい案件が残っているのだが、この時にはこれ以上何かを言及されることは無かった。あるいは聞く空気でもないと思われたのかもしれないが私やエシリアとしては助かった。

 

「話が大分逸れてしまったな。それでこのワイバーンの爪なのだが…どうかそちらのパーティに受け取って欲しいんだ」

 

「…受け取るも何も、私達は今回何もしていない。受け取る理由がないと思うのだが…」

 

リアは手に持つワイバーンの爪をカズマ君達に向けて差し出すものの、実際に今回は本当に何もしていない。形式的には私達を迎えに来てくれただけだろう。流石にそんな状態では貰う訳にもいかないだろう、例えゆんゆんが喉から手が出るほど欲しいものであったとしても。

 

「それでも…今回の件、こうして手を煩わせてしまったことには違いない。場合によってはドラゴン討伐などという危険な役割を押し付けることになるところだった、これはせめてもの償いなんだ」

 

ふとエーリカとシエロに目を向けると、シエロは同意するように頷いているが、エーリカはどこか納得いかない様子に見えた。

第三者目線で見ればどちらの気持ちも分かる。リアとしては言い分の通りだしカズマ君達からしてもそうだ。お互い遠慮して話は平行線になりそうな気がする。

 

「ではまずそのワイバーンの爪をウィズさんに鑑定してもらいましょう。その値段の半額でこちらが買い取るというのはどうですか?ワイバーンの爪は私達が探していたものでもありますので」

 

「そ、そのお金は私が出すからね!!」

 

私が提案すれば、早速ゆんゆんが乗っかってきた。リア達は困惑めいていたがこれ以上この話をしても平行線だというのは気付いていたのだろう、渋々とだけど納得はしてもらえた。本来ウィズさんにはマナタイト結晶について聞きたかったので丁度良かったとも言える、とりあえずこの件も丸く収まりそうだ。後はあまり高くない事を祈るばかりである。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

時間が経つなりエシリアはリア達とともに屋敷を出ていった。急いでいたらしく本来のゴブリン討伐の報告をしてなかったのだという。

それさえ得る事ができればエシリアも無一文ではなくなるしなんとかなるだろうが、その時に私が思ったのは、今後エシリアはどうしていくのだろうという事だった。

 

あまりにも色々なことがあって後のことを全く考えられなかったのだが、こうしてエシリアの姿が見えなくなると気になって仕方がないのは、きっと元が私だからだと思う。胸にポッカリと穴が空いてしまったような喪失感が私には確かに存在していた。

 

そんな状態を疲労によるものだと思われたのか、今日明日辺りは屋敷で大人しく休む事をゆんゆんとミツルギさんに言われてしまった。ミツルギさんにもゆんゆんの過保護が移っている気もするがこれについては散々心配をかけた私が悪いので大人しく聞き入れる事にした。

 

 

 

その日の夕方、私が部屋で大人しく読書をしていると扉をノックする音が聞こえてくる。多分ゆんゆんだろうけどどうしたのだろう?まだ夕食には早い時間だと思うけど。

 

「アリス、エシリアさんが来てるわよ、入ってもらっていい?」

 

「!…はい、どうぞ」

 

私が返事をするとゆんゆんとエシリアが揃って部屋にはいってくる。どちらも何故か落ち着きがないのは何故かわからないが何時もの事かとも思えた。

 

「あの、ごめんゆんゆんさん、アリスと二人で話したくて…」

 

「…あ、はい。その…アリスと同い年なんですよね?私の事はゆんゆんと呼び捨てで大丈夫ですよ…?私はアリスの二個下なので…」

 

「……え?…えぇ!?」

 

驚き混乱しているエシリアを見ていると自身がゆんゆんと出逢ったばかりの頃を思い出してなんとなく笑ってしまう。まぁ同じ私と言うよりはそれが普通の反応だよね、やっぱし。

ゆんゆんはこちらの事を気にしながらも部屋から出ていく。その様子をエシリアは見ていて、どこか微妙な表情を浮かべていた。

 

「…なにか?」

 

「…ゆんゆんさんとアリスって…どんな関係なの…?」

 

「…?友人…いえ、親友でしょうか」

 

私がすんなりと答えてもエシリアの表情は変わる事のない微妙なままだ。一体なんなのか。

 

「私にとってゆんゆんはこの世界で一番にできた親友ですからね、今では頼りにさせてもらってますよ」

 

まぁ最初の友人と言えばリーンを初めとしたテイラーさんのパーティの面々もだけど今一番深い繋がりがあるのは間違いなくゆんゆんだろう。セシリーさんは友人かどうかは微妙だし、言えば喜んでくれそうではあるけど。

 

「ふーん……」

 

どこか遠い目をしたエシリアを見て私は無言で首を傾げる。そして察した。…そうか。エシリアは元々私と同じなんだ。だからエシリアからしてみればこのような深い付き合いのある親友が羨ましいのかもしれない。

 

「…心配しなくても、エシリアにだって大事な友人はすぐにできますよ。リアとか仲良かったじゃないですか」

 

「えっ…いや、流石にアリスとゆんゆんさんほど仲良くなるのは……私にそんな趣向はないし…」

 

「……趣向?」

 

「な、なんでもないこっちの話!!」

 

私が聞き返せばエシリアは顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。元々は自分なのによくわからない事を言う子だ。

 

「…それで、どうしたのですか?何か話があって来たんだと思うのですが」

 

「あ、うん…ちょっと待って…多分もうすぐ…」

 

エシリアの言葉の途中、再びコンコンと音が聞こえてきた。だがそれは扉を叩く音ではない。となると残りはひとつしかないのでその方向に顔を向ければ案の定。

 

「……クリス……お願いですから普通に入口から入ってきてください…」

 

思わず頭を抱えてしまう。窓の外には眩しい笑顔のクリスが手を振っていたのだから。エシリアのもうすぐはクリスを待っていたという事だろうか?とりあえず私は窓の鍵を開ける。すると悪びれる様子もなくクリスは窓を開けて部屋へと入り、懐から巻物のようなものを取り出した。

 

「…それは?」

 

「これ?これはね…」

 

テキパキと巻物の封を開ければそのままそれは開かれる。少しばかりの魔力を感じた気がすると、そのまま巻物は音もなくまるで火で焼かれたかのように消滅してしまった。

 

「防音のスクロールだよ、これを使えば少しの間、この部屋での声や音は何処にも聞こえなくなるんだ。内緒話をするのにうってつけのアイテムでしょ♪」

 

私とエシリアは2人して目をパチクリさせていた。ということは今から話す内容は他の人に聞かれたらまずい話。つまり私とエシリアの別離についての話だと予想することは簡単だったのだから。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

話をしてくれるのならこちらとしては望むところ。私は自分の部屋に備えていたティーセットを取り出すとポットに茶葉の入った袋とクリエイトウォーターで生成した水をいれ、ティンダーの魔法で器用に紅茶を作った。

別に用意しておいたミルクとともにそれを用意したみっつのティーカップにいれると、クリスは笑顔のままそれを受け取った。

 

「ありがとう、ちょうど喉が乾いてたから助かるよ」

 

「……」

 

一方エシリアは固まったままテーブルに置かれたティーカップをまじまじと眺めていた。飲まないのだろうかと気になって首を傾げると、エシリアはぎこちない動きのままティーカップを手に取った。

 

「…いや、魔法とかある世界だって分かってはいたけど…こうも当然のようにやられるとね…」

 

何を今更。大体エシリアは既に私の中から私の魔法を見ているはずである。とはいえ気持ちはわからなくはない。私もまた、セシリーさんがコップに注いでくれたクリエイトウォーターの水を見た時は感動すら覚えたものだ。

 

「とりあえず話をしようかな。…どうかな?こうして別々になってみて、何か不具合があれば言って欲しいけど」

 

「今のところ問題はないですね。…それが気になるということは、何かあるんですね?」

 

紅茶を口に含みながら聞くと、クリスの顔は真剣なものだった。思わずごくりと喉を鳴らす。エシリアも同様に緊張している様子だった。

 

「やっぱり元々がアリスだからね。完全に別離できたとは言えないんだ、仮にだよ?仮にアリスがなんらかの原因で死んじゃった場合…、エシリアも同時に死ぬ事になるんだ、勿論逆も同じだよ」

 

「「…っ!?」」

 

美味しそうに紅茶を飲みながら言う内容ではないことだけは確かだった。私とエシリアは揃ってお互いを見合わせながらも言葉を失ってしまった。

 

「大丈夫大丈夫♪ようは無茶しなきゃいいだけの話なんだからさ、ふたりの持ってるチートさえあればそう簡単にそんなことにはならないと思うからね」

 

「……つまり文字通り私とエシリアは運命共同体という訳ですか…」

 

「それと、今回の件は魔王討伐の際の願い事の前借りって話で与えたことだから、ふたりとも、これからも魔王討伐に向けて頑張ってね♪」

 

「前借り……って…」

 

「…それ、魔王討伐ができなかったらどうなるの…?」

 

エシリアの言う通りである。確約が出来ている事が前提で前借りということは可能かもしれないが魔王討伐など不確定なことでしかない。仮に出来なかった場合ペナルティなどがあったりするのだろうか。

 

「あははっ、心配しなくても大丈夫だよ。ただ魔王討伐を果たした時の願い事がなくなるだけで、もし出来なかったとしても何かある訳じゃないからね」

 

「…そう、ですか…」

 

…まぁ少し考えてみればこれは魔王討伐を目標としている神様からすればプラス要因でしかないのではないだろうか。事実形式的には私がいた本来の世界から新たに人を転生させることもなく、魔王討伐の為の手駒を増やせたということなのだから。そう考えたらすっきりする、手駒という表現は決して気持ちのいい聞こえではないけれど、間違ってはいないだろう。

 

まぁ今まで聞いた転生者を思えば自由度はかなり高いとは思う。王都にも転生者で日本人向けの服屋さんを経営している人もいるらしいし、転生者全員が意欲的に魔王討伐に乗り出してるほどでもない。構えた考え方をしてしまったがもう少し気楽に考えてもよさそうだ。

 

「それなんだけどさ、どうして神様が直接やらないの?回りくどいと思うんだけど」

 

「……」

 

ふいに出たエシリアの疑問に笑顔だったクリスの雰囲気が変わった。表情だけを見ていれば今や完全に憂いたエリス様の顔になっている。

エシリアの疑問はもっともだった、むしろ何故私はそう思わなかったのだろうとまで思える。天界の規定だが何か知らないがここまでの情報に間違いがないのならこの世界が魔王軍に脅かされた既に数百年以上経過しているはずなのだ。

 

「…あくまでも、こちらとしても転生者の方々に魔王討伐をお願いはしていますが…強要はできませんし、するつもりはありません。形式上…私の管理するこの世界は長く魔王軍により脅かされていまして…、それでこの世界で死んでしまった人は、またこの世界で生きたくないと言う方が急増してまして、このままでは世界が管理する魂がどんどん少なくなります、そうなるとこの世界は終わりを迎えてしまうのです」

 

「……だから、それならそれでさっさと神様が直接…」

 

「それをすると、結果的に世界が滅びます」

 

「…っ!?」

 

既にクリスはクリスではなくなっていた。見た目こそクリスのままだが、その雰囲気は夢の中で見たエリス様そのものだった。

 

「確かに、神々が全力をあげて魔王軍と戦えばおそらく神々が勝てると思います、…ですが、神が現界してしまえば、それと相対する者が動き出します」

 

神様と相対する者。それには心当たりがあった。アクア様が嫌悪し、クリスもまた出会い頭に忌み嫌うその存在…それは…。

 

「……悪魔…」

 

「…!…その通りです、世界から見て私達が天界にいるのと同じように、彼らも魔界に引きこもっています。仮に私達が現界すれば、悪魔達も大人しくしてはいないでしょう。……間違いなく世界を舞台に神々と悪魔との戦争が起こります、そうなれば人間と魔王軍との戦いなんて小さなものでは済みません、それによる爪痕は…、まず世界を滅ぼすほどのものとなるでしょう」

 

「…で、でも、アリスは悪魔を倒したこと、あるよね…?」

 

「この世界にいる悪魔は本来の力を出せていません、そしてそれは私やアクア先輩も同じです。どちらも現界することで大幅に弱体化していますからね」

 

倒したと言えるのかは疑問だ。バニルもマクスウェルも残機か何か知らないが今もまだ生きているのだから。弱体化と聞いて芯から震えてしまう。あのバニルもマクスウェルもかなり手強い相手だった。どれくらい弱体化しているかわからないが弱体化してもなお魔王軍幹部を乗っ取れるほどの力がある事実。バニルは冗談ぽく自称魔王よりも強いかもしれないなんて言っていたがそれすら信憑性が増してくるまである。

弱体化している理由はお互いに世界を壊したくはないから。神様にとっては勿論のこと、悪魔にとってもそれは同じだ。バニルを例にあげればバニルにとって人間はおいしいご飯製造機、いなくてはいけない存在。何故なら悪魔の好物は人間の悪感情なのだから。

 

「……だから…転生させた人達にそれを委ねているんですね…」

 

相槌をうつように呆然として聞いていたが予想外に話の規模が大きすぎた。神様と悪魔の仲の悪さは今までもよく見てきた。あの温厚なクリスがバニルを見ただけで人が変わったかのように殺気立っていた。アクア様にしても…まぁあの人は知能が多少あれなのでバニルと関わっても子供の喧嘩のようにしか見えないけど。

 

「……なんか想像以上に話が壮大でなんて言ったらいいかわからないんだけど…」

 

「…私も似たようなものですよ…」

 

「そ、そんなに深く考えないでくださいね?あくまでそうなればの話であって、天界の規定がある以上絶対にそんな事にはなりませんから、悪魔側もそれは同じだと思いますよ、彼らにとっても人間はなくてはならない存在ですから」

 

「……どうでもいいですけど悪魔と言う度に殺気立つのをやめてください、正直かなり怖いです」

 

「…あ、コホン…、失礼しました」

 

ずっと言いたかった事がやっと言えた瞬間である。エシリアなんて震えてしまってるし私もにたようなものだ。見た目こそクリスなのに既に人間のクリスにあってはならない神聖な何かを感じてしまうのは気の所為ではないだろう。

 

「…話が逸れましたが、つまり…私達の在り方は今まで通りで問題ないと認識しても…」

 

「はい、それで大丈夫です。本来デメリットなしの前借りなんてこちらからすればメリットは少ないですがアリスさんなら、もう願い事叶わないなら魔王討伐なんていいやー…なんてならないですよね?」

 

「…そんな神様を敵に回すようなことは考えませんよ」

 

もしかしたらこうして今、神と悪魔の恐ろしさを話したこともエリス様の計算の内なのかもしれない。もっともカズマ君はともかく、ミツルギさんは魔王討伐に意欲的だし今まで通りにしていればそれが結果的に魔王討伐への足がかりになりえる、ならば特になにかを変える必要もないだろう。

 

「前にも言いましたが、アリスさん、貴女には期待してるんですよ?」

 

悪戯っぽく笑う様子を見て思うのは、クリスの姿や性格もまた、エリス様の偽りのない一部分なんだな、と。なんとなくそう思えた。

 

「…さて、そろそろスクロールの効果も切れるし、私は帰るね♪紅茶ご馳走様♪」

 

そういうなりささっと窓を開けてそのまま飛び出して行ってしまった。私とエシリアはキョトンとしたまま見送る事さえ出来なかった。

 

「……色々と凄い神様なんだね…エリス様って…」

 

「その信徒になってる貴女が言いますか」

 

「え?」

 

「いや…耳…」

 

今まで気にも止めなかったのだが分離してから、今の今までエシリアの耳のイヤリングはなくなっていた。本来のそれは私のネックレスになっていたので当然だろう。しかし今は違う。エシリアの耳にはしっかりとイヤリングが装着されていた。

 

「……これ、とれないんだけど…」

 

多分これはアクア様の存在のおかげで私を勧誘できない故の処置なのだろう。こうしてエシリアは再び女神エリス様の呪い……ではなく、祝福を受けることになったのだった――。

 

 

 

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