内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 16 自身のスキルと疑惑

私達はそのまま談笑しながらも、湿地帯の更に奥にある森の入口あたりまで来てました。ここまでくるまでに色々と話をしたところ、初めて出会った頃の印象では堅物なイメージがあったダクネスさんは、私が思ってたよりも物腰が柔らかく、気軽に話せる人だった。

クリスに関しても最初は初対面の時の印象が気恥しいものだったけど、常に気安く陽気で明るい態度で接してくれていたので、私としてはありがたかった。

とはいえ気恥しいものはあったものの、彼女の言葉で私が元気づけられたのは言うまでもない。私は会話の途切れた合間にはいりこむように、静かにクリスにお礼を言った。その節は、ありがとうございました。と。

 

「…あぁ、それならもういいんだよ。こちらこそあの時はごめんね。今にして思うと、少し配慮が足らなかったと思うし…」

 

明るく振舞っていたものの、クリスにとっても気まずいのは同じだったようだ。頬を指で掻きながらも、目線を逸らしていた。

 

「クリス、話すのはいいがもう目的地は目と鼻の先だ。敵感知スキルは使っているのだろうな?」

 

「もちろんだよ。今のところ何も反応はないよ。」

 

先頭を歩くダクネスの言葉に、後ろをついていく形で表情だけを真面目にしてクリスは告げる。そんな時だった。

 

「…ん?待って、敵感知スキルが…」

 

ふとクリスが立ち止まる。その様子を見て私とダクネスもまた、その歩を緩めた。途端にクリスの表情が、慌てたものへと変貌を遂げる。

 

「その感じは……下だ!!」

 

クリスのその言葉と同時に、何かが地面を突き破った。それはまっすぐに私の足を絡めて、突然のそれに私は派手にすっ転んだ。

 

「アリス!?」

 

ダクネスが叫ぶと同時にダクネスの目の前にも大量のそれが壁のように突き出してきた。それの正体はうねうねとした植物の蔓。まるで1本1本が意思をもつかのように、おぞましく動く。

 

「ポイズンプラントの蔓だよ!!ごめん、索敵が遅れた!」

 

クリスは短剣を構えるとその身軽な動きで迫る蔓を避け、同時に切り裂く。一方私はなんとか抜け出そうと足に絡んだ蔓をとろうとするも、それは固く結ばっていて外せそうになかった。

 

「くっ…仲間を守るのがクルセイダーの使命…さぁこい、私が全て引き受ける!!デコイ!」

 

ダクネスのスキル、デコイが発動するなり、私やクリスに迫っていた蔓は全てダクネスへと向かっていく。その自己犠牲と凛とした様相とプライドは正に騎士と呼ぶにふさわしきものだった。おかげで私とクリスは体勢を整えることができ、ダクネスから少し距離をおくことができたのだ。

 

ダクネスはそのまま白銀の剣を鞘から抜き、構えた。両手で持ったまま大振りで振るう剣閃は、華麗に空を斬った。続いて横凪に剣を振るうと、力任せに振られた一閃は、またも空を斬る。

 

 

…そう、空を斬っているのである。かっこよく聞こえなくもないがあっさり言ってしまえば空振りである。それはすぐ目の前にある蔓であろうと、動きを止めている蔓だろうと、まったく当たる気配がない。

 

私はなんとも言えない表情でクリスに視線を寄せた。

 

「う、うん、言いたい事はわかってるよ…。ダクネスはね…その、攻撃スキルをまったくとってないんだ。それだけじゃなくて、攻撃を当てることができないんだよ。」

 

お前は何を言っているんだ、それはひょっとしてギャグで言っているのか、どちらでも構わない。今の私はそんなことを言いたかった。

 

もはや呆れ返っていると状況は動き出す。無数の蔓がダクネスの全身を絡めとる。攻撃が当たらないのだから防ぐ術はもはやないだろう。ダクネスの足はそのまま地面から離され、腕をとられたおかげで剣を落としてしまう。

 

そうしたことでダクネスは身動きがまったくとれなくなった。デコイの効果も切れたのか、一部の蔓は私とクリスに向いているように感じた。

 

「まだだ!まだ足りない!!デコイ!デコイ!デコイ!!さぁ、もっとこい!まだ私は生きているぞ!たとえ身動きできなくてその触手にあんなことやこんなことをされようと、私は騎士の名にかけて決して屈しはしない!」

 

……何故か蔓でさえ呆れているようなそんな印象を受けたがデコイの効果なのか、私とクリスに向かおうとしていた蔓は再びダクネスへと向かっていく。

 

そのダクネスの表情は、恍惚になり色気をだし、まさに今までのダクネスとは別人のようだった。…私は再びクリスに視線をよせた。

 

「…そんな目で見ないでよ…。ダクネスはね…その、縛られたり叩かれたり罵られたりすると…そのなんというか興奮する、みたいで…その…」

 

私の目にもはや光はなかったのかもしれない、そんな感じがした。

つまりドMである。控えめに言っても、安直に言ってもドMである。目の前の見たくもない光景からしてそれはもはや否定できそうにない。

 

「ふふっ……ふふふふっ、さぁアリスよ、この窮地を脱したけばお前の攻撃魔法を使うしかないぞ!さぁこい!お前の魔法を見せてみろ!!この私にその力をぶつけてみろ!!」

 

口調は凛々しいのだが顔は恍惚としたままである。もはや直視したくなかった。というより先程までのダクネスとギャップがありすぎてもはやついていけてない。…とはいえ、ダクネスの言葉も一理あった。今やかなりの数の蔓がダクネスに集まっている。おそらく森のポイズンプラントがほぼ全て集まっているのだろう。ダクネスは何度もデコイを使っているがこれ以上増える様子もない。

 

私は考えた。1つ目の手はウォールを使ってダクネスの周りの蔓を弾き飛ばすこと。…いやこれはあまり意味がない上にリスクが大きい。何故ならダクネスには既に複雑に蔓が絡みついている。この状況ではダクネスごと吹っ飛ばしてしまいかねない。それに私がウォールの届く位置に近づいてもし捕まりでもすればそれはもはや詰みになる。……そこで私の脳内に電流が走った。

 

……そうだ。何故ウォールは他の味方に当たってない?今まで何度もウォールは使ってきた。はじめて使ったのはリーンやダストといた時の白虎狼戦。ゆんゆんと初心者殺しを討伐した時も使ったし、他のパーティメンバーと使った時にもウォールの範囲内に味方がいた場面はいくらでもあった。

 

この時もその時も、リーンやゆんゆんは私の使ったウォールの範囲内にはいっていたにも関わらず、影響を受けた様子はまったくなかった。

ウォールは防御よりな魔法スキルではあるものの、カテゴリー的には範囲攻撃スキルに分類される、少なくとも元のゲームでは。ゲーム序盤はウォール狩りという名目で大量のゴブリンの中でひたすらウォールを使い素材や経験値を稼ぐことをしたこともあった。…ウォールが味方を巻き込まないのであれば、他のスキルもそうである可能性は高い。もちろんこの世界での調整でウォールがそうなった可能性もあるので、念には念をいれなければ。

 

 

私は、深く息を吐き、呼吸を整えると、魔法の詠唱にはいった。

 

《マナリチャージフィールド》

 

私の周囲が青白い光で満ちる。魔力回復の促進を感じるものの、今このスキルを使ったのはそれが目的ではない。そのデメリットが目的だった。

このスキルのデメリットは、使用中魔法攻撃力が半分になる。つまりできるだけダクネスにダメージを与えない為の保険だ。蔓自体はひとつひとつは大したことがないから、私が今から使おうとする魔法なら、おそらく問題なく倒せるだろう。

 

すると何かを感じ取ったのか、私の方に数本の蔓が迫ってくる。ダクネスは縛られ、クリスは気付けば少数の蔓の相手をしていた。自分でなんとかするしかない。

 

《インパクト》

 

転生特典スキルその7。自身の周囲に衝撃を叩き込む上級魔法スキル。上級ながら攻撃力自体はあまりない、ないのだがそれだけで蔓はバタバタと地面に落下した。

 

その様子に思わず笑みを浮かべる。この程度で倒せるなら次に使うスキルなら余裕で倒されてくれるとの確信があった。

 

インパクトは攻撃魔法スキルというよりは、それによる特性に上級魔法スキルである由縁がある。その効果は…次に使用するスキルの消費魔力の半減。

 

次に使うスキルの消費魔力はランサーよりも大きい。だからこれを使うことで魔力消費を抑えられる。魔法攻撃力もさげた、消費魔力もさげた、よって準備は整った。

 

私はダクネスへと杖をかかげて、覚悟の目を向けた。できるだけダクネスを見ないようにして。

 

 

《ストーム》

 

以前触れた転生特典スキル、これがその8になる。ダクネスを中心に超極大の竜巻が形成されると、それはまさに嵐のごとく、蔓を八つ裂きにして粉砕する。更に私やクリスの周囲にいた蔓をもその遠心力で引き寄せる。そして同じように八つ裂きにして跡形もなくほぼ全ての蔓は消滅した。

 

「うわぁぁぁぁぁ!?!?」

 

「ダ、ダクネスーー!?!?」

 

ダクネスの絶叫が森に響き渡る。竜巻が役割を終えるとともに消えると、ダクネスは力なくその場で四つん這いになっていた。

 

……やっぱり…ダメだったのだろうか?ダクネスに駆けつけるクリスを見据えながらも、私は続くように駆けつける。インパクトのおかげでまだ魔力はある。もし怪我をしているならヒールをしようと思いながら。

 

 

 

……

 

 

 

 

私は後悔していた。

 

確かにウォールの件もあり確信はあった。

 

だけどそれは確実ではなかった。

 

元のゲームではそうだとしても、この世界で同じである保証はない。

 

魔法攻撃力は半分にした。ダクネスが自ら撃ってこいと言った。他に方法が浮かばなかった。

 

どれも言い訳だ。

 

私が、仲間を攻撃したという事実は変わらない。

 

そんな罪悪感が、私には確かに芽生えていた。

 

 

結果として…ダクネスはストームの影響をまったく受けてなかった。つまり私の攻撃スキルは、転生特典スキルは味方には当たらない仕様であることがほぼ確定した。

 

だけどもしこれでダクネスが大怪我を、あるいは死にでもしたら。

 

そう思ったら、怖くなった。

 

アローなどはともかく、ランサーや今のストームはゲームで気軽に使っていたスキルとは程遠い威力で、自分の力が怖くなった瞬間でもあった。

 

ダクネスには、クリスにもだ。私は誠心誠意謝罪しようと心に決めた。

 

そう…決めたのだけど……

 

 

「何故だ!何故なんだアリス!!」

 

ダクネスは心底悔しそうに地面に拳を叩きつけた。

 

「確かに素晴らしかった!このような凄まじい魔法を躊躇なく放つお前の鬼畜さ、突如現れた絶望的な竜巻による恐怖!どれも素晴らしかった!!だが…」

 

言いたいことが既に分かっていたのか、クリスはもはや全てを諦めてた。

 

 

「何故、あれほどの攻撃だったのに私にはノーダメージなのだ!!これでは不完全燃焼にも程があるぞ!!」

 

 

……えっと、つまり。

 

ダクネスは私がスキルを使ったことではなく、私のスキルでまったくダメージを受けなかったことを嘆いていた。

 

とりあえず今の私の葛藤と後悔を返して欲しい。心からそう思った。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

とりあえず、色々あったもののポイズンプラント自体の討伐は終わりを告げた。やっと帰れる、そう思うと大きなため息がでるだけだった。なんというか魔力も割と使ったけど今回はそれ以上に精神的な疲れが大きい。と完全に帰宅ムードになっていたのだが、クリスは警戒を解くことなく周囲を見渡していた。

 

「まだだよ。アリス、冒険者カードの討伐履歴を見てごらん?」

 

言われた通りに私は冒険者カードを取り出し、討伐履歴を見る。…しかし、そこにポイズンプラントの項目はひとつもなかった。

途端に緊張が走る。あれだけ倒したのにも関わらず1匹も倒せていないというのか。だけど周囲を見渡して、千切れた蔓が動くことはない。

 

「言ったでしょ、これはポイズンプラントの蔓なんだよ。つまり…」

 

クリスは腰にぶら下げていた短剣を手に取ると、流れるようにそれを木々の中に投擲した。するとギギャーとわずかな奇声が聞こえてくる。

 

クリスとともにその木々の中を見ると、向日葵くらいの大きさの紫色の花が痙攣を起こしていた。どうやらギリギリまだ息があるらしい。植物なのに息があるという表現もおかしいが。

 

「これを倒しておかないと、時間が経つとまた蔓が復活しちゃうからね。」

 

「ま、まて!!それは私がペットにする為に連れて帰る、だからまって…ああああぁ!?!?」

 

ダクネスの言葉を遮るように、クリスはどこから取り出したのか赤い液体がはいった丸いフラスコ瓶を取り出しポイズンプラントにポイっと投げる。それは接触とともに小爆発を起こし、ポイズンプラントは息絶えていた。植物だけど。投げたものはどうやら爆発ポーションのようだった。

 

「あぁぁぁ…くぅぅ…無念だ…実に無念だ…」

 

ダクネスがここから復活するまで、30分ほどかかった。なお、ここまでクリスの表情に光はなかった。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

無事に討伐も済み、ダクネスもなんとか復活したので私達はアクセルへの帰路についていた。

そんな中私の心はモヤモヤした気持ちでしかなかった。…ダクネスはあんな感じだったけど、やっぱりクリスには正直に話したほうがいいかもしれない、そう決意した。すると私のそんな様子に気が付いたのか、こちらが声をかける前にクリスの目は私に向けられていた。

 

「アリス?どうかしたの?」

 

とぼとぼと、だが先頭はダクネスが歩いていた。その歩き方に来た時の凛とした輝きはもはや、ない。

クリスの呼びかけに私は先程の魔法について説明した。ゆっくりと、申し訳なさそうに。

 

私の魔法が味方を巻き込まない確信はあったものの、試したことがなかったので確実ではなかったこと。

もしかしたらダクネスに大怪我をさせていたかもしれないこと。

 

クリスはそれを不思議そうに聞いていた。

 

「アリスは、優しいんだね。」

 

俯いて話していた私は、えっ?と声を出してクリスの思わぬ言葉に顔を向けた。

 

「大丈夫だよ、ダクネスはむしろ巻き込みを望んで撃てって言ってたんだからさ。ほら、気にしない気にしないっ。」

 

笑いながら私の肩を軽く叩くクリスに、私は納得がいかないでいた。

 

「それにさ…、アリスはちゃんと考えてやったんでしょ?攻撃力をスキルで半分にするとかしてさ」

 

それを言うとクリスはダクネスの方に飛び出すように向かった。

 

「ほらダクネス!いつまで凹んでるのさ!帰ったら打ち上げにシュワシュワでパーッとやるよ!」

 

 

…そんなクリスを見て、私は目を見開いていた。そしてふと口から漏れた。

 

 

 

 

 

 

┈┈┈┈貴女は一体…何者なんですか…?

 

 

 

 

 

 

今クリスは確かに言った。私がマナリチャージフィールドを使って攻撃力を半分にしていたことを理解していた。

 

私はこのスキルのデメリット、魔法攻撃力が半分になることは、誰にも言っていない。

 

これを知っている可能性がある人は、私以外ならゲームをプレイしたことがある転生者、あるいは…私そのものを構築した女神アクア様。あるいはその女神様の関係者くらいだ。

 

女神アクアは審査と言っていた。天界の規定とかも言っていた。

 

つまり神はアクア以外にいるのだろう。

 

だけど、ふと私はクリスの言葉を思い出した。

 

 

 

┈┈┈┈「今の君は『アリス』なんだ。だから、どこまでも『アリス』でいたらいい。私はそう思う。」┈┈┈┈┈

 

 

 

この言葉もまた、何も知らない人からは絶対にでないだろう。だけど…

 

ふとダクネスを励ますクリスの横顔を見る。揺れる銀髪は、その瞳は何故かとても輝いて見えた。

 

…クリスが何者であろうと、私は確かにこの言葉に救われたんだ。なら、それでいいんじゃないかな。と、自然とそう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




《インパクト》上級魔法スキル。無詠唱で自身の周囲に衝撃波を叩き込む。ダメージは少ないが周囲の相手を確率で転倒させる。また、このスキルを使った次のスキルは消費魔力を半分で使うことが出来る。大技の準備スキルとして優秀。

《ストーム》上級攻撃魔法スキル。消費魔力はランサーより高いがウォールと違って支点を決められる。決めた支点を中心に超極大の竜巻を起こす。なお竜巻ではあるが属性は無属性である。嵐のような竜巻は、周囲の敵をも巻き込む。

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