――翌日。
―カズマ君の屋敷・庭―
エシリアのスキルを知ったダクネスの発言が発端となったそれは既に夜も更けているという理由で翌朝に持ち越されることになり、食事を終えたエシリアはリアが泊まっている宿へと帰って行った。
そして今、エシリアはリア達アクセルハーツの3人を連れてやってきた。
「ふっふっふ…エシリア、待ちかねたぞ、楽しみのあまり眠れなかったほどだ」
流石に真剣では危ないと持たされた木製の剣を片手に、ダクネスが嬉しそうに言えば、エシリアは少しだるそうにしていた。
「……まぁ眠れなかったのは私もだけど…」
「何?…そうか、嫌がっていたのはフリだったのだな」
「いや、そうじゃなくて…」
それは完全に異様な光景だった。2人して瞼が重そうに見えるしそれは2人だけではない、リアもまた同じようで眠そうに目を擦っていた。
「…何があったのです?まさかダクネスと同じ理由な訳ないですよね?」
「……そんな訳ないじゃん…、リアのイメージが崩れるから言わないでおく…」
「……?」
一体どうしたのだろうか、思わず首を傾げてしまう。リアが寝不足なのも謎だし2人して夜更かしでもしていたのだろうか?
そんな風に思っていると、私の傍に近付く人影に気付くなり私は自然とそちらに振り向いた。
「あ、あの…蒼の賢者さんですよね?」
「はい?…まぁ…そう呼ばれてはいますが」
話の成り行きでそれを自ら名乗ったのは紅魔の里でのみである、今思えばそこまでする必要もなかったので軽く後悔している。それ以外で自称した事はない、する気もない。
「あ、あの、ボク、貴女のファンなんです!握手してもらえますか?」
「……わ、私で良ければ…」
おそるおそる手を差し出せば、鶯色主体の服を身にまとった少女…シエロは目を輝かせて手を握ってきた。
正直ファンと言われてもピンとこない。別に私はアイドルではないし。というかファンと言ってくれている側がアイドルなのだけど。本人達はまだまだ冒険者もアイドルも駆け出しと謙遜していたが冒険者ギルドで見た事がある彼女らの歌とダンスは私がいた日本のアイドルと比べても遜色の無いものだ、そんな子から憧れの目で見られるのは畏れ多いし恥ずかしさもある。
「ありがとうございます、ボクはシエロと言います。もうすぐアークプリーストになる予定のプリーストです!」
「…アリスです、エシリアから貴女の事は聞いてますよ、よろしくお願いしますね」
まぁ聞いていると言うのは嘘だけど。知っているのはエシリアの中から見ていたからだし。それ以前も名前は知らないものの、冒険者ギルドで見かけたことはあった。最近だとアンリを連れて行った際に見ている。
それはそれとして、エシリアとリアの様子がおかしいのは何故なのか。
「ダクネスはわかりましたが、エシリアとリアの眠そうなのは一体…」
「それはその…」
エシリアに続いてシエロもまた言いにくそうに口を紡ぐ。エーリカとシエロはとくに眠そうな様子ではない、普通にしていた。
「…リアちゃんって…片付けが苦手で…部屋が結構散らかってたんです、それで夜遅くまでエシリアちゃんが泊まる為に片付けを…」
「…そ、それは…正直意外ですね…」
「はい…ボクも初めて見た時はびっくりしました…」
小声で教えてくれたが確かにそれはエシリアの言う通りリアのイメージを損なう案件だし意外に思えた。コン次郎の件といい一筋縄ではいかないリアの意外性がどんどん見えてくる。
まぁ元が私であるエシリアなら人並み以上に綺麗好きではある、掃除も好きだし2人一緒にいればバランスがとれるのではないだろうか。
シエロとそんな話をしていると、エシリアは観念したのか用意された木製の剣を受け取って片手で振るって感触を確かめていた。そしてダクネスを見る前に一瞬、私へと顔を向けて目が合った。
昨日私が思い付いたのは…言ってしまえばエシリアのスキルの確認だろうか。ずっと気にはなっていた。この転生特典スキルはどこまであのゲームを再現できているのか。私の使う魔法的な概念は私が狙った対象、あるいは私に敵意を持つ者にしか当たらない。では物理的な概念はどうなるのか。魔法と同じように当たらないのか、これはエシリアにとって早めに確認したい事だろう。
まず私の魔法という事象とエシリアの使う物理的なスキルでは対象に与える影響が異なる。私の魔法は単純に言ってしまえば魔力をぶつける。魔力とは触れるようなものではない。一方物理スキルとなればそれは武器を経由する、普通に触れる事が可能な物を対象に接触させることになる。つまり私の魔法とエシリアのスキルでは現象からして根本が異なるのだ。
例え同じように魔力を媒介にしているとしても、エシリアの場合は魔力と剣が同時に対象にぶつかることになる。普通に考えたら魔力はともかく物理的な影響のある剣が当たらないなんて事はありえない。
私はそれを確認したかった。例えばゲームでは単体を対象とするスキルを使って、それがどう見ても当たっているように見えてもあくまでスキルは単体への攻撃であり、それが他の対象に当たることはない。あくまでもそれがゲームならば。
しかしこれは現実であり、ゲームではない。ならばそういった現象はどうなるのか?それを確認するには少しばかり危険が大きい。
だからこそ、今回のダクネスの要求はこちらにとってありがたいものなのだ。もし当たってしまっても木製の剣だしダクネスなら大したダメージにはならない、万が一があっても今この場には回復が可能なプリーストが3名もいるのだ、どうにでもなるだろう。
「…しかしエシリア、これはなんなのだ?邪魔にしかならないと思うのだが…」
「えっと…」
周囲を見渡したダクネスが聞けば、エシリアはどう答えようか困っていた。
「気にしないでください、こちらとしてもエシリアのスキルを試したかったので」
ダクネスが異様なものを見るように言うのは勿論理由がある。今ダクネスとエシリアの周りには何本もの木の棒が立てられている。確かに普通に考えたらこれは邪魔でしかないだろう。
しかしこれは必要なもの、エシリアが単体攻撃スキルを使用した際にダクネス以外にも攻撃が当たってしまうのか、その検証なのだ。
それならダクネスを伴わなくても木の棒のみでやっても良さそうではあるが人と物では違いがあるかもしれないので確実に人に当たるかの立証が欲しかった。
だから今回エシリアはダクネスを狙って攻撃はしない。エシリアが狙うのはダクネスの付近に立っている木の棒、それを攻撃する際にダクネスにも当たるような軌道で攻撃してもらう、それにより当たるかどうかを検証しようということだ。
「そ、それじゃ、いくよ…《ハードヒット》から…」
「…なっ!?」
エシリアは言葉を終えるなり素早くダクネスの傍に近付く、それは一瞬だった。おそらく無意識に《縮地法》が発動したのだと思われる。必要な魔力消費もないし近付きにくい相手や遠距離攻撃主体の相手には重宝しそうだ。
これにはダクネスも驚き目を見開く。そして大振りで横凪に素早く振られた木剣は、そのままダクネスの構えていた木剣にぶつかった。
「…!」
「その細腕で随分と力があるのだな……だが力なら私も自信がある…!」
そのまま木剣と木剣が交差し、ジリジリと鍔迫り合いのようになり、どちらも力んだ故の震えのみでその場から動かない。
「嘘だろ…ダクネスと互角の力の持ち主なのか!?」
「バインドをぶち破ったくらいですからね、強いとは思ってましたが」
「…いや、少しずつダクネスさんが押している」
ミツルギさんの言う通り、僅かではあるがエシリア側に木剣は動いていた。ジリジリとにじり寄る。エシリアの筋力ステータスはゲームではMAXにしていただけありかなり強い。実際に冒険者カードに表記されたステータスも力はかなり高かった。多分ここにいるメンバーで対抗できるのはダクネスやミツルギさんくらいだろう。
次第にエシリアは歯噛みしながらも後退する。それにより剣は離れてダクネスの剣は素振りするように空を斬った。
「…《アクセルブレード》」
「……くっ!?」
そう宣言した瞬間、剣を構えたエシリアはダクネスの背後にいた。同時に聞こえる打撃音。今のも狙ったのはダクネスの傍にあった木の棒だ。エシリアがスキルを使う度にダクネスの周囲の木の棒は複雑に折れてしまっている。
とりあえず確定と見ていいだろう。ゲームと違いエシリアの近接スキルは確かにダクネスにヒットしていることが明らかになった。
だがそれは今のダクネスがエシリアに敵意を向けているから。では敵意がない場合はどうなるのか、それはダクネスと狙った木の棒以外の木の棒を見れば明らかになる。
「まだまだ、さぁどんどん打ってこい!!」
「……」
それにしてもエシリアにしては遠慮なく打ち込みすぎでは無いだろうか。ゴブリン相手に驚いていたくらいなのにこのように人に武器を向けて平静でいられるはずがない。剣道などの経験があれば話は別だが生憎私にそのような経験は何ひとつない。
と、よく見ればエシリアの身体には薄く赤いオーラのような膜が張られていた。こっそりと《ウォークライ》を使ったのだろう。まぁこれは仕方ない。
仕方ないのだがこの調子ではすぐに魔力切れになってしまいそうだ。
「エシリア」
「…?…っ!」
私が声をかけると同時にマナポーションの小瓶をエシリアに向けて投げれば、それはエシリアの少し横を通り過ぎようとする。エシリアは目を細めてすかさずそれを素早く動いてキャッチした。
「…ありがたいけどノーコンすぎ。普通に渡してよ」
「まぁエシリアなら取れると思いましたので」
思わず苦笑して答えるがノーコンなのは否定できない。本来こんな風に物を投げて渡すとかした事はないしなんとなくやってみたかっただけである。
一方エシリアは躊躇なく小瓶の蓋を空けて中身を飲み干した、そして微妙な顔をしている。お味がお気に召さなかったようだが液体の色でそれがマナポーションだと理解したんだと思う。
この世界のポーションもあのゲームのポーションも色は同じだ、赤ならHPを回復、青ならMPを回復する。
「…初めて飲んだけどあまり頼りたくなる味じゃないね…でも魔力は回復できたと思う」
「…マナポーションを飲む騎士など初めて見たな…」
「中断してごめんね、私のスキルは魔力を使うみたいだから」
「問題ない、焦らしプレイだと思えばそれもまたそそる」
「……えぇ…」
ぶれないダクネスである。もはや性癖を隠す気すらないようだ。それもさも当然といった様子で言うのだから余計にタチが悪い、ドン引きしているエシリアに構うことすらなく剣を構えている。
「……《ウォークライ》…《バーサーク》……《ランページ》…」
「……これは…!?」
ダクネスの歓喜に震えた声が響く。他の見物人はその異様な光景にごくりと喉を鳴らした。ウォークライはともかく、バーサークとランページは初めて使うスキル。バーサークは攻撃力と攻撃速度を上げる代わりに防御力を低下させるスキル、そしてランページは…
「…いくよ」
「…っ!!?」
縮地法で瞬く間に近付いたエシリアはダクネスへと向けて素早い斬撃を次々と放つ。ダクネスは防ぐ事しかできていない、そもそも防ぐつもりでしかないのだが。
この攻撃に違和感を感じたのは多分私だけではないだろう。リアやミツルギさんも目を見開いていた。それもそのはず、今までのエシリアはダクネスの周囲に存在していた木の棒を狙っていた。だけど今は違う、確実に目がダクネスに向いている。
ランページの効果は10回までの通常攻撃をスキルにより強化して重撃とする。素早く、それでいて重い。木剣を相手にしているのに大きなハンマーで殴られているかのような重圧は、ダクネスの様子を見る限り明らかだった。それだけでも脅威なのだが、このスキルの最大の見せ場は最後のフィニッシュ時の三連撃にある。
木剣のはずなのに既に木剣に見えない。魔力による強化は大きさまでも幻視させていた。あるいは実体なのかもしれない。それでもダクネスは踏み止まる。
「……うおおおっ!」
「……これで…」
エシリアの構えが変わった。上から下への剣撃は、薙ぎ払うかのように横へ、そしてその軌跡はより大きく、剣閃とともにダクネスを襲った。
「……っ!!」
瞬く間に豪快な三連撃がダクネスを直撃した。結果……
ダクネスの持っていた木剣も、エシリアの持っていた木剣も、既に原型を留めていなかった――。
……
「素晴らしい、実に素晴らしかったぞエシリア!だがまだ使っていないスキルがあるだろう?なんならその背中の立派な剣を使って続きをしてくれても…」
「……勘弁して…」
矛と盾の戦いと言えばいいのだろうか、結果はお互いの木剣が折れてしまい終了という形になった。
こうしてみればあれだけの斬撃を受け止めていたにも関わらずまだまだ元気なダクネスと顔から滴り落ちる程の汗を流して肩で息をするエシリア、…どうやらダクネスの方が一枚上手だったようだ。
私は汗を拭うエシリアに近付き、用意しておいたタオルを渡した。
「…ありがと…」
「いいえ、お疲れ様です。それで、気になる事があるのですが…」
「…途中からまるで私じゃないみたいに攻撃をしてたこと?」
「…自覚はありましたか、その通りです」
意外にもエシリアは自身の状態を自覚していた。だけどエシリアの表情は複雑だ。少し困ったような、だけど口元は少し緩んでいる。それはまるで爽やかなスポーツをして楽しんだ後のようにも見える。
「武器は木剣だし、最初は攻撃することに戸惑ったけど…ダクネスさんにはいくら攻撃しても余裕そうだったのもあって、後はウォークライの効果かな?やってるうちにゲーム感覚になってきて…ダクネスさんを倒してみたくなって…」
…この子は何気にSっ気でもあるのだろうか。私には無いはずなのだが。きっとウォークライの効果なのだろう、むしろそうに違いない。
「エシリア、見事なスキルだったぞ!私はお前に逢えて本当に運が良かった、これからも頼りにしている」
健闘を讃えるようにリア達がエシリアの元へやってきたのでこれ以上は私はお邪魔だろうと、私はそそくさと離れることにした。ふと見れば本当に楽しそうにしているのを見て…、私はどこか寂しいような、だけどそれよりも安心したような気持ちになっていた。
「大丈夫ですかダクネス?」
「アリスか、大丈夫だ。私はまだピンピンしているぞ。…なんならアリスの魔法を「しませんよ」……そ、そうか…残念だ…」
一応ダクネスの元へと足を運ぶも、全く油断も隙もありはしない。本当に勘弁して頂きたい。怪我などしていたら治療しようかと思ったがその心配はなさそうだ。
「不思議な子ですね、普段はあまり喋らないですしオドオドしてたりと頼りないですが戦いとなるとあそこまで変わりますか。彼女は二重人格か何かなのでしょうか?」
「……さ、さぁ?そんなことはないとは思いますよ。多分スキルの効果だと思います」
「…スキル?」
「…彼女が使っていたのは《ウォークライ》、物理攻撃力を高めて恐怖を払拭します」
めぐみんの指摘には思わず焦ってしまう。できるだけ目立たないように取り繕ってみたけど二重人格は的を射すぎている。
「…聞いた事のないスキルではありますが今更ですね、アリスの持つスキルを考えたら」
「…元は同じ国でしたから、エシリアのスキルはある程度知ってますよ」
まぁ同じゲームのスキルではある。だから同じ国という認識でも間違ってはいない。
「しかしインパクトですか…気になったのですがカズマが使えるのは分かりますが何故エシリアも使えるのですか?アリスの魔法は一子相伝と聞きましたが」
「えっ」
完全に忘れていた設定を掘り起こされた瞬間、私は予想外すぎて変な声を上げてしまう。さて、どう切り返すべきだろう。
「インパクトについては…私独自の魔法ではありませんから」
「それはつまり、アリスのいた国ではインパクトの魔法は一般的だったと?」
「…そ、そうですね。私の魔法との違いは魔法陣の有無でしょうか」
「……」
内心冷や汗ダラダラ状態、言わば昔のツケを今支払っている感じだ。下手な嘘をついた自分が悪いので自業自得でしかないのだが。
めぐみんは目を細めて私を見ている、何を考えているかわからないが嫌な予感がした。
「……そうですか、アリスのいた国は私の知らない事がたくさんあるのでしょうね」
「…めぐみん?」
「いえ、今まで全く思わなかった訳ではありませんがアリスのいた国に興味を持ちまして。いつかアリスのいた国にも行ってみたいです、その時は連れて行ってもらえませんか?」
「…それは…」
正直考えたことのなかった可能性だった。それはそうだ、めぐみん達にとって私の魔法は未知の魔法。紅魔族でなくても魔法使いならば興味を持って当然だろう。
だけどそれはできない、私の魔法が存在する世界なんて存在しないのだから。
「……そうですね。世界が平和になったら…それもいいかもしれませんね」
結局――、私はまた嘘をつくことになった。
存在しない世界にどうやって行くと言うのか、この言葉を言った後に色々思いついた。実は私の国は既に魔王軍に滅ぼされている…とか。なんとなく行けないことを仄めかしておくとか、あるいはもう正直に話してもいいのかもしれない。
「わかりました、では魔王を倒した後にアリスの国に旅行ですね、今から楽しみです」
そう言っためぐみんの顔はとても無邪気に笑っていて、私は愛想笑いするとともに、心の臓への痛みを感じていた。心が苦しい。締め付けられるような罪悪感が私の心を蝕む。
ゆんゆんには話したのに、何故めぐみんに話す事に抵抗を覚えるのだろうか、今の私にはわからないままだった。
だけど、もしカズマ君がめぐみんに日本の事を打ち明けたその時には…、私もまた話してもいいかもしれない。ふと私はそう思ったのだった――。
Q.アリスにSっ気はあると思いますか?
K氏「いやあるだろ、風呂でかち合って魔法撃たれたことあるんだけど。あやうくオークの巣に放り込まれるとこだったんだけど」
D氏「カズマには及ばないかもしれないが…アリスも中々の素養があると思うぞ…!いつか彼女の魔法をまともに喰らってみたいものだ…」
M氏「怒らせたら間違いなくカズマ並のドSですね、私の眼帯を引っ張って攻撃するなんてカズマとアリスくらいですよ、あれ凄くいたいんですよ!!」
A氏「問題ないわ、SだろうとMだろうと、アクシズ教は全てを受け入れるわ!!」
Y氏「え、えっとそんな事はないと思うけど…、でも確かにアリスって感情的になると攻撃的になるかも…?…でも…でも…」
M氏「僕にも聞くのか!?彼女がそうであると言うより…環境がそうさせている面が強いと思うんだが…」
A氏『……えすっけって、なぁに――?』
以上匿名で回答頂きました()