内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 163 バニルのダンジョン(再)

 

 

 

 

 

 

マナタイト結晶、それはゆんゆんの新武器の為の最後のピースと言っても過言ではない。

というのはもうひとつの素材の目星はついている、めぐみんが言ってくれなければ完全に忘れていたけど…。

 

通称『魔術師殺し』。紅魔の里に厳重に保管されていたそれはシルビアに奪われて紅魔の里を壊滅に追い込もうとした古代の兵器。その素材となっている金属は特殊なものであり、隠された部屋に残されていた手記によれば魔法防御がかなり高く防具に転用すればいいという案があったほど。

そんな金属は他に聞いた事はない、そんな金属ならあのドワーフさんも認めてくれると思うし駄目なら他を探すだけだ、紅魔の里にはあるえさんに報酬を渡したい事もあるのでちょうどいいかもしれない。

 

しかしマナタイト結晶…これがまた難題だった。バニルからはあくまであるかもしれない程度なのだ、そもそも無い可能性もある。

仮にあったとしても一般普及されているマナタイトよりも上質なものがあるのかすらわからない、ましてやその場所はかつて煮え湯を飲まされたバニルのダンジョンである、できるなら行きたくはない。

 

「…その、行こうと思います」

 

「…行くのですか…」

 

「…うん、他に宛はないし……」

 

確かに現状他にマナタイト結晶が採掘できるような場所に心当たりはない。ならばダメ元で行ってみるのはありかもしれない。何よりも…

 

「ゆんゆんが行くと決めたのでしたら、私は構いませんよ。早速準備にかかりましょうか」

 

「えっ、あ、アリスも?」

 

…まさかゆんゆんは紅魔の里の件の時と同じようにまた私達を頼る事なく解決しようとしていたのだろうか。どうも中々頼って貰えない…だけど、それは私も悪魔の件でそうだった負い目があるのでゆんゆんを責めきれない。

 

「当然じゃないですか、まさかソロでダンジョンに潜るつもりだったのですか?」

 

「…でも、嫌そうな顔してたし…」

 

「確かにそうですがゆんゆんが行くのなら話は別です、ゆんゆんの杖の問題は私達パーティの問題でもありますから当然でしょう?」

 

ダンジョンに潜るのならそれなりに準備が必要だ。私とゆんゆんだけでは万全とは言えない。前衛であり私達のパーティメンバーであるミツルギさんに、盗賊職も欲しいのでその役割を果たせるカズマ君にも頼んでみよう、無理ならクリスを探すかあるいはギルドで他の盗賊職を雇うなり方法はある。アンリを連れて行くことも一瞬考えたが流石に危ないし。

 

「後はリアにワイバーンの爪のお金を支払わないといけませんね、半額ですから600万エリスですか」

 

「…流石にそこまでのものとは…これはやはりあの村に持っていった方がいいのかもしれないな…」

 

「…パーティリーダーはリアだから、リアの決定に委ねるよ」

 

改めて金額を聞いて萎縮してしまったのかリアは思い悩むようにしている、それも当然。駆け出し冒険者が600万エリスなんて大金を稼ごうとしたらどれくらいのクエストをこなさなければならないか私はよく知っていた。そこまで昔ではないがかつて私も駆け出し冒険者時代に300万エリスのフレアタイトの魔晶石を買う為に数ヶ月の間必死にクエストをこなして稼いだ事がある、なのでリアの気持ちはよく分かる。

…とはいえお金さえ渡してしまえばそれはリア達の物、それをどう使おうとリア達の勝手なのでそれに関して口を挟むつもりはない。

 

「それでは一度帰りましょうか、あのダンジョンに行くのでしたら準備も必要ですし」

 

ゆんゆんは頷き、他の2人ももはやここに用は無いだろう。そう思えばその顔をウィズさんに向ける。別れの挨拶をする為に。

 

「それではウィズさん、今日はありがとうございました、また来ますね」

 

「フハハハッ!遠慮する必要はない、吾輩が汝らを吾輩のダンジョンへと送ってやろう!」

 

「…え?」

 

ウィズさんが返事をする前にバニルが割り込んで来たと思えば…

 

私達は周辺の景色が歪んでいる事に気が付いた。これは…テレポートの予兆。

 

そう思ったが後の祭り、視界が不安定な事に目を開けていられずに、不意にその目を閉じてしまった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼下がりで明るかった室内から一変。光はほとんどなく、あるのは松明のような灯りだけ。その場で感じる空気はあまり良いものではなく、地面は少し湿っていた。…私達4人は全員揃ってそんな薄暗い場所に到着してしまっていた。

 

「……あれ?…ここどこ…?」

 

「……バニルのダンジョン……ですね…」

 

エシリアが困惑めいた様子で周囲を見渡すと、私はひとつの看板を指した。そこにはバニル人形のコミカルな絵付きでバニルのダンジョンと書かれている。それは暗がりな中でも一際目立って存在していた。

 

「これは…私達4人で攻略しろというのか…?」

 

「ご、ごめんなさい巻き込んじゃいまして…!」

 

ゆんゆんは状況に気付くなり慌ててリアとエシリアに頭を下げて謝罪していたが私は冷静になれていた。

この件に関して、リアとエシリアは何も関係もない、なので私とゆんゆんに付き合う必要はないのだ。

 

「落ち着いてくださいゆんゆん、悪いのは強制的にここにテレポートしたバニルですし、テレポートされたならまたテレポートすればいいだけの話ですよ」

 

「あっ…そっか…」

 

私の提案でゆんゆんは落ち着きを取り戻したようだ。そう、強制的に送り込まれたと言ってもだからといってバニルのやり方にこちらが付き合う義理はない。今から此処をテレポート登録して、ゆんゆんのテレポートで一度屋敷に帰ってしっかりと準備をした上でメンバー構成を整えてから此処に来ればいいだけなのだから。

 

「まずはここをテレポート登録しましょう?そうすれば行き来はかなり楽になりますしそう考えたら悪い事でもないです」

 

「わ、わかった…」

 

ゆんゆんは以前このダンジョンの内部にテレポート登録をした事がある。だが登録箇所の数には制限があるので既にこの場所の登録は消された状態だ。なので再び登録しなくてはならない。

ゆんゆんはその場で意識を集中させるように目を閉じた。今や飛ばされた事による緊張感は既にない。どうにかできる手段があるのだからそれも当然だろう。

 

「それにしてもテレポートか、本当に便利だな…」

 

「うん…確かアークウィザードしか使えないんだよね…」

 

2人はあの村からアクセルへと帰る際のゆんゆんのテレポートが初だったようで、また緊張感の欠落から、落ち着いた雑談すら始まる。

 

…しかし、次第にゆんゆんの表情は困惑したものへと変わっていく。普段ならテレポート登録などそこまで時間はかからないのだがどうしたのだろう?

 

「……ゆんゆん?」

 

「……駄目…登録できないみたい…何かに邪魔されてる感覚が…」

 

「邪魔されてる感覚って…まさか…!?」

 

ゆんゆんの焦燥が私達に伝染していく。そして邪魔されている感覚というのは心当たりがあった。

 

――テレポート妨害。

 

テレポートとは、アークウィザードが使える上級魔法に分類される。それは登録した場所ならばいつでも瞬間移動できるようになるという便利なものであるとともに、場合によっては危険な魔法だ。

それは心身の危険もあるが、防犯上のもの。例えばお城の宝物庫、あるいは銀行のような機関の金庫など、そのような所を登録できてしまったら窃盗のし放題である。要人の住む場所に刺客を送り込むことだって可能だ。用途を見ればこれほど犯罪に適したスキルもあまりないかもしれない。

 

だが火には水が、雷には避雷針があるように何事にも対抗手段というのがあるものだ。それがテレポート妨害。テレポートも魔法に過ぎないのでテレポートへの対抗手段としてそれは確立されていて、今上げたような箇所にはテレポート関連のスキルを妨害する魔法がかかっていることが一般的である。おそらくバニルはそれをこの場所に施しているのだろう。

 

という事はテレポートも使えない。案の定ゆんゆんがテレポートを試してみるがやはり使う事はできなかった。

 

「…使えないって…どういう事…?」

 

「バニルがテレポートを使えないように細工しているんでしょう…そうなると歩いて帰るしかないですね…」

 

「…そうするにしても、出口はどこなんだ?見た所入れる場所はこの看板の奥しかないようだが…」

 

「…え?」

 

リアの言う通り、周辺を見渡すもそれらしき出口は見当たらない。見えるのは一体のフロアとダンジョンへの入口のみ。確かダンジョンの向いに扉があったはずなのだがすっかり完全な壁になっていた。これすらもバニルのせいなのだろうか。これには頭を抱える事しかできなかった。

 

「…進もう?それしかないなら、私も手伝うから」

 

意外にもそう言ったのはエシリアだった。てっきり恐怖に震えて何も言えないくらいあると思っていたのだけど、私はエシリアをか弱く見すぎていたのだろうか。

 

「…盗賊職のいない状態でのダンジョン探索はかなり危険です、できれば避けたいのですが…」

 

「それでも他に手がないのなら仕方ないだろう。どうせ行くのなら、目的を果たしてしまいたい」

 

「あ、あの…その、本当にごめんなさい…」

 

ゆんゆんは結果的に巻き込んだ事に負い目を感じているようだがこれについてはバニルが悪い。何故こんな事をしたのだろうか。

確かにここでいつまでも悩んだところで現状事態が好転する事はないだろう。ならば進むしかない。

 

「…前衛は私が行きます。最後尾にゆんゆんがいけばなんとか…」

 

「…一般的にアークプリーストは前衛も可能な職ではあるが、アリスは違うだろう?前衛は私とエシリアに任せてほしい」

 

「…ですが…」

 

「こうなってしまったのも何かの縁だ、それに私だって足でまといとして着いて行くつもりはない」

 

もしかしたら冒険者としてのプライドか何かを傷付けたかもしれない。リアは少し不機嫌そうに見えた。確かに職業的にはそれがベストな選択なのかもしれないが、やはり私としても巻き込んだ形となった負い目があるのかもしれない。形式的に2人を守るように考えていたのは確かなのだから。

 

「……わかりました、ではこちらは後衛として全力で2人をサポートしますね」

 

「よろしく頼む。奇妙な形でダンジョンに挑む事になったが、こうして蒼の賢者らとパーティを組める事などまずないだろうからな、こちらとしても勉強させてもらうつもりだ」

 

「…とりあえずその呼び名は今後呼ばないでくださいね、何よりも他人行儀ですし」

 

「なるほど…、すまない、善処しよう」

 

この堂々とした言い方はとても駆け出し冒険者とは思えない。今のリアにはテイラーさん並みの心強さを感じた。はっきり言えば私にはないものだ。

 

これからダンジョンに入る。…そんな事になっているのには心が追いついていなかった。そしてそれは全員だろう。

今日はウィズさんのお店を出て、屋敷に帰ってお金を渡して、後は部屋でゆっくり過ごすか程度には能天気に考えていた、少なくとも私は。

 

それでも切り替えなければ。行くと決まった以上は無理矢理にでもそうしなければ命に関わる。ゲームとは違う、盗賊職無しでのダンジョン攻略、それは何よりも危険なのだから。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

キールのダンジョンは一階層構造になっている。暗闇の中にある長く平たい階段を降りた先に広がるフロア、そこからあちらこちらに道別れしていて、下級悪魔のグレムリンや下級アンデットの巣窟となっている。

とはいえそこまで強い訳でもなく、駆け出し冒険者にとってはダンジョンの経験が積める比較的初心者向けの場所だ。罠なども少ない、まれにダンジョンもどきという身体の一部を扉や宝箱に擬態させて近付いた生物を捕食する凶悪なのもいるが対処を知っていれば攻略は容易だ。ダンジョンもどきは動くことはないので近付かなければいい。危険なのを上げればこれくらいなのだが私達が挑むのはその最奥の扉を開いた先、かつて高名なアークウィザードであったキールがリッチーとなって眠っていた場所。その場所の更に奥地となっている。

 

 

 

「各種ポーション、装備などの準備は大丈夫ですね」

 

怪我の功名というべきなのか、今の全員はダンジョンへ赴く最低基準以上の準備はしてあったことだろうか。リアとエシリアはウィズさんの店を出た後にクエストに行くつもりだったらしく、私とゆんゆんは収納用魔導具に常時そういった物が揃っている。食糧はあまり持っていないがお昼ご飯を食べてさほど時間は経っていないので空腹になるまではまだ時間がある。

 

「暗い場所は私のティンダーやゆんゆんの光魔法で対処しましょう。魔物を呼び寄せる危険がありますが仕方ないですね」

 

「しかし仮にマナタイトを見つけたとして…採掘はどうするのだ?私は採掘経験などないが…」

 

「そこは立派な両手剣を持った子がいるじゃないですか」

 

「わ、わたし?」

 

エシリアの両手剣によるスキルなら採掘くらい難しいものではないだろう。ようは埋まってるマナタイトを取り出せればいいのだ。なんなら私の地属性魔法でも使いようによってはなんとかなるかもしれない。

 

「そのマナタイトって、どう判別するの?見た事も無いんだけど…」

 

「そこはゆんゆんがいますから大丈夫ですよ」

 

「う、うん。マナタイトかどうかくらいなら分かると思う。魔法学園にいた頃に習ったし…」

 

ゆんゆんが通っていた紅魔の里にある魔法学園レッドプリズン。そこでは魔法に関する事は勿論のこと、魔法に関わる魔導具や鉱石などの講習もしっかり受けていたと聞いた事がある。だからこそその学園の首席卒業をしためぐみんはそういった事に詳しくもあった。ゆんゆんもまた2位の成績という実力を持っているのでこの場において頼れる存在だ。

 

やはり盗賊職かその代わりになる存在がいないのは不安要素だがいないのはどうしようもならない。それぞれが気を付けるしかない。

 

「…それでは…行きますか。各自罠などに注意して慎重に進みましょう」

 

不安は付き纏うけど、それ以上にこのメンバーは新鮮だった。ゆんゆんはともかくリアとエシリア。リアに関しては駆け出し冒険者と自身を下に見ているがレベルは低くない事はいつぞやの槍さばきを見る限り不安はあまりない。エシリアに関しても精神面の不安はあるが彼女にはウォークライがある。魔力に関しては私が回復可能だ。

前衛2後衛2とバランスも良い。唯一残る不安要素は…

 

 

ここが、バニルのダンジョンということだけだろうか…。

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり帰りたい…」

 

「……うん…」

 

「…?」

 

私が嘆くように呟けば、ゆんゆんは静かに頷き、リアとエシリアは訳が分からず首を傾げるのだった――。

 

 

 

 

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