内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 164 ラブロマンスと急展開

 

 

 

 

 

―バニルのダンジョン―

 

リアの希望によりリアとエシリアを前衛としてダンジョンに入りかかる。光源は以前来た時と同じようにあちらこちらにランプのような魔導具が壁にはめ込まれていて、それが足場まで見えやすくしている、とりあえず普通に進む分には問題はなさそうだ。

とはいえ油断は禁物。そのまま地盤を掘られたような洞窟、その先は明かりがあっても視認は容易ではない。緊張からか各自無言の状態が続く、そして進む速度はあまり速くない、それは慎重に行動しているから。

今回のパーティには盗賊職やスキルを持つ者がいないのだ、曲がり角でモンスターとばったり鉢合わせなんてこともありえるしどんな罠があるかわからない、慎重になるのは当然だった。

 

細い道をひたすら進むも、同じような道が続いて景色の変化が乏しい。緩やかな曲がり道はあるものの、それはほぼ一方通行だった。

 

…それに違和感を感じたのは私とゆんゆんだった。

 

 

「…ねぇアリス?前にここに来た時にこんな長い一本道はあったかな…?」

 

「……おそらくありませんね」

 

記憶を手繰り寄せればあの時のメンバーは私とゆんゆん、カズマ君とダクネスの4人だった。私とゆんゆんは数多のダンジョンに入った経験があるがそのメンバーで入ったダンジョンはこのバニルのダンジョンしか心当たりがない。それにそこまで昔でもなく、このダンジョンほど記憶に残るダンジョンもそう多くはない。

 

それを思えばこのダンジョンは既に異質なのだが、私の記憶が正しければ入ってすぐに広めのフロアに出てマンティコアの番いと戦ったはずだ。だがそのフロアはなく、一本道が続いているだけ。

 

「……まさか、ダンジョンの構造が変わっているのでしょうか?」

 

「そんなダンジョン聞いた事ないわよ、私達の記憶違いじゃ…」

 

「…あのバニルのダンジョンってだけで、ある程度納得できなくはないと思いますけどね…」

 

色々な事柄を頭に入れて考えれば可能性として上げられるのはここが以前来たバニルのダンジョンとは別の場所であること。あるいは同じダンジョンなのだがスタート地点が異なる可能性もある。

確かに入口は似通っていたものの、入口は元々キールが眠っていた隠し部屋。それは以前アクア様が浄化したことでキールの亡骸は既にない。なのであの入口の部屋が元々キールのいた場所かどうかを確認するならアクア様が残したらしい神聖な結界の有無くらいなのだがそれは確認していなかった。

 

現実ならさておき、ゲームとして考えたらダンジョンの内部構造が変化するという現象は珍しいものではない。入る度に構造が変わりモンスターや宝箱までもが変わる。だからこそ私は真っ先に構造が変わっていると思った訳だがゆんゆんからすれば似た別のダンジョンにいると考えた方が自然のようだ。

 

「確かにあの入口がキールの亡骸があった場所かはわかりませんが、どちらにせよ進むしかないのは変わりないですね」

 

「それは…そうだけど…」

 

「そのキールの亡骸ってなんなの?」

 

「私もキールのダンジョンの名前は聞いた事があるが…詳細は知らないな」

 

「……えっと」

 

リアとエシリアが私に尋ねてきたのでそっとゆんゆんに目配せしてみる。というのも実は私もよくは知らないのだ。知っている事と言えばこのダンジョンはかつて高名なアークウィザードが住んでいたことくらいだろうか。それが長い歳月によりリッチーとなっていた。

 

「私も聞いた話だけど…」

 

ゆっくり歩きながらも、私達はゆんゆんの話を聞くことにした。

 

 

――昔、キールという高名なアークウィザードがいた。その者はとある国に嫁いだ貴族令嬢に恋をしていた。

国に嫁いだとは言ってもようはそこに愛など存在しない政略結婚。貴族令嬢を幸せにしてあげたい、そんな想いだけでキールは日々奮闘し、名声をあげていった。

 

とある日に、国に呼び出されたキールは数々の功績を讃え褒美を授かることになった。

そこでキールは懇願した、国に嫁がされた令嬢を欲しいと。しかし王はそれを拒絶した。

例え功績をあげた高名なアークウィザードだとしても所詮は平民の冒険者、国に嫁いだ以上は国にとっては姫といっても差し支えない、そんな身分の違いは今よりもずっと厳しいものだったという。

 

キールは意を決して令嬢を誘拐し、自らの名声を地に落とした。それから令嬢に告白をして、令嬢はそれを二つ返事で受け入れた。

 

幸せながらも世間はそれを許してくれなかった、穏やかとは無縁の逃避行の日々。ついにはキールは大怪我を負ってしまう。そして逃げ延びた場所がこのキールのダンジョン。

キールは既に虫の息だった。このままでは妻となった大切な女性を守る事ができなくなってしまう。悩んだ結果、キールは人間である事も捨ててしまった、妻が安らかに眠るその時まで守り続けることだけを目的に、キールは禁呪を用いてリッチーへとなったのだ。

 

 

 

 

「…それからはカズマ君から聞いてますね、眠りについていたリッチーのキールを、アクア様が浄化したと…」

 

「うん…」

 

「…愛する人の為に名声も自身の人間としての尊厳も捨てたか…なかなかできることではない…、立派な人だったのだな…」

 

「…うん…」

 

感銘を受けているリアとは対照的にエシリアの反応は微妙なものだった。私が首を傾げつつ見つめているとエシリアは気まずそうに目を逸らした。

 

「…いやその…その貴族令嬢の人は、本当に幸せだったのかな?って…、だって私なら嫌だもん、好きな人といる為に国から追われ続けるなんて」

 

「そ、それは…」

 

なるほど一理ある。確かにキールとしては大立ち回りを演じたようだが連れ回された令嬢は本当に幸せだったのか、これは疑問である。

平民ならともかく貴族令嬢、政略結婚とはいえ一国の姫となった立ち位置の人だ、その暮らしはさぞ贅沢で何一つ不自由なく過ごしていたに違いない。

それが駆け落ちによる逃避行となればそれまでのような何一つ不自由のない生活などできるはずがないのだ、それも相手が国となれば人の中での生活は絶望的だろう。

推測ではあるが多額の懸賞金をかけられ、様々な人の目から追われる日々、そうなれば自然と森や山、洞窟など人の目のつきにくい場所を転々と逃げ回る、当然そんな環境では人がいなくてもモンスターがいる。彼らに安息の時はあったのだろうかと疑問が浮かぶ。

食事も満足に摂れない、夜も満足に眠れない、お互い愛する人以外に味方は誰もいない。極めつけはこんなダンジョンでリッチーとなってまで余生を過ごした。

 

…これは本当に幸せだったのだろうか、と思うエシリアの気持ちはよく分かる、だからこそリアもそれ以上何も言えずにいた。

 

「…アクアさんに聞いた話だと、キールさんの奥さんはこれ以上ないくらい未練を残すことなく亡くなったらしいよ?」

 

「……アークプリーストって、そんな事までわかるの?」

 

「私はまだ未熟ですから無理ですね」

 

多分亡骸を見ただけでそこまで理解できる人はいないと思われる。アクア様の場合女神だし。わざわざ言う訳にもいかないので適当にあしらうしかない。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

さて、雑談をしながら歩いていたものだから緊張感が薄れてきてはいたが、見映えの変わらない細い一本道をようやく抜け出せば少し広めのフロアに到着した。

 

「ようやく広めの場所に出たが…とくにモンスターなどはいないようだな」

 

「私達には敵感知スキルがありませんからね、油断は禁物です」

 

言いながらも周囲を見渡す。所々に魔導具による灯りがあるくらいで普通の岩肌だ。そして道は他に見当たらない。

 

「…行き止まり…?」

 

「そんな…」

 

道を間違えたと思うもそれはない。何故ならこのダンジョンに入ってここまでずっと一本道だったのだから迷いようがないのだ。

 

「…そうなると、道中、もしくはこのフロアに隠された何かがあるのかもしれません」

 

「…なるほど、隠し扉とかそういうのね…」

 

エシリアが言えば他の2人も納得したように頷く。ただ何度も言うようにそういった仕掛けを探したりする役割もある盗賊職は今の私達にはいない。各個で別れて虱潰しに探すしかないだろう。

 

「…この壁を見て欲しい…少し浮いてないか?」

 

リアが何かを見つけたようでそこに全員が集まる。その壁は確かに一部分だけ不自然に岩石が盛り上がっていて、おそるおそる両手で持ってみればグラグラと動く、取り外すことが可能に見えた。

 

「…取り出した途端洞窟が崩壊するとかないよね…?」

 

「怖い事言わないでくださいよ」

 

「…とはいえ、他に道はない、何があっても大丈夫なように構えておいてくれ」

 

ゴクリと喉を鳴らしたのは誰だったのか、それは分からなかったがそれが周囲の緊張感を増した。リアがゆっくりとはめ込まれた石をグラつかせながら動かすと、それは安易に外れた。

 

「…何も起きないね…」

 

「…多分…これを押したら何か起こると思うけど…」

 

ゆんゆんが指したのは外れた石の中にあった赤い押しボタン式のスイッチ。このダンジョンに似合わず妙に近代的である。…どうしよう、嫌な予感しかしない。

再び周囲を見渡すがここと同じように怪しい箇所は存在しない、つまり進むのならこのボタンを押すしかないということ。

 

「…押しましょう、それしかないようですし」

 

「う、うん、単純に隠し扉が出てくるとかかもしれないし…」

 

「……分かった、なら私が押そう」

 

地面に両手で持っていた石を置き、リアが手を伸ばす。そしてそのボタンに触れた瞬間だった。

 

「…何も起きない?」

 

「…いいえ…」

 

感じたのは浮遊感。理由は単純だ、地面が消えてなくなった、それが今見ただけで判断できる事柄だった。

 

「…え?」

 

「きゃぁぁぁぁ!?!?」

 

地面が消えたことで、私達はそのまま落下することを余儀なくされた。何も抵抗する事はできない、精々紅魔の里でやったように落下時にインパクトを使って衝撃に備えることくらいだ。

 

「私に捕まってください!エシリアはできるならインパクトで落下の衝撃に備えて…!!……え?」

 

それは一瞬だった。ゆんゆんも、エシリアも、リアも、確かにすぐ側にいたはずなのに、気が付いたら私の周りには誰もいない。落下はずっと続いている。どこまで落ちたらいいのか、重力に身を任せるだけの自然落下、それは終わりが見えない。

 

怖い。どうして誰もいないのか、皆は何処に行ったのか。

 

次第に背景が真っ白になって、私は恐怖から目を瞑ることしかできなかった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして意識を失ったのかは分からない。だけどあの瞬間に感じたのは確かな恐怖、不安と絶望。

 

身体が重く感じた。

 

胸が苦しい。

 

謎の圧迫感が私に襲いかかっていた。それに耐えられずに私は目を開いた――。

 

 

一番に見えたのは知っている天井。そして見渡せばそれらは鮮明になって行く。…ここは私の部屋だ。カズマ君の屋敷に間借りしている、いつもの私の部屋。

 

そっと上半身を起こすと、未だに身体が重く感じる。だけどそれはだるいとかそんなのではない。もっとこう…物理的に重いと思い私は自身の胸を見た。

 

 

「……は?」

 

そこには明らかにたわわに実った2つのスイカがそこにあった。精神的なものと思っていたのが物理的なものになっていた。つまり簡単に言うと。

 

――私の胸がありえないくらい大きくなっていた。

 

「…えぇ!?!?」

 

顔を赤くして身悶えるが何も変わらない。どうしてこうなった、理解が追いつかない。

 

『――お姉ちゃん?』

 

「…っ!?」

 

反射的に両腕で自身の胸を抱きしめるようにしてひた隠す。一方横で寝ていたアンリは目を擦りながらも不思議そうにこちらを見ていた。

…とはいえこれはどう見ても隠しきれていない。アンリには既にこの大きくなりすぎたものが目に入っているだろう、なのにアンリの表情は変わらない。

 

『お姉ちゃん、どうしたの――?』

 

「…え?あ、あの、アンリ…?」

 

やはりアンリにはこの状況のありえなさが理解できていないらしい。そっと隠した胸を出すように腕をのけてもアンリの不思議そうな顔は変わらなかった。

 

「おはようアリス、もう起きてる?」

 

「…あ」

 

その時ゆんゆんの声ととまに扉が開かれ、ゆんゆんと目が合う。流石にゆんゆんならこの状況のおかしさを理解してくれるはずだ。

 

「…あ、あの…ゆんゆん…?」

 

「…?どうしたのアリス、まだ寝ぼけてる?」

 

「…い、いえ、そうではなくて…」

 

「…よくわからないけど、朝ごはんできてるから、起きてね?アンリちゃんもねー?」

 

「あ、あの!ゆんゆん!」

 

「…どうしたのアリス?」

 

確かに胸の事もおかしな事だがそれ以前に気になる事もあった。今何故私は胸を大きくした上で当たり前のように朝を迎えているんだ、そこが一番の疑問である。

 

「私とゆんゆんは、リアやエシリアとダンジョンに潜ってましたよね?あれからどうなったのですか!?」

 

「……ダンジョン?」

 

本気で心当たりがないのか、ゆんゆんは思い出すように視線を逸らして考えているが、その答えは出てこないのか、結局首を傾げるだけだった。

 

「何を言ってるのよアリス、アリスが帰ってきてから行った場所はウィズさんのお店だけでしょ、あの後普通にここに帰ってから、今日は紅魔の里に行こうって話をしてたじゃない?」

 

「……え?え?」

 

変なアリスと笑いながらも、ゆんゆんはそのまま部屋を出て下へと降りてしまった。こちらとしては変なのは私の胸なのだが。

というよりこの胸のまま私は下に降りて皆の前で朝食を摂らなければならないのだろうか、罰ゲームでしかないのだが。

 

確かに胸を大きくしたい気持ちはあったが大きくなり過ぎだ、ゆんゆんどころかウィズさんくらいあるのではないだろうか。普通にアクア様くらいのサイズで良かったのだが。このちんちくりんな身体とバランスがあって無さすぎる。

 

ただこのまま呆然としてる訳にもいかないのでネグリジェからいつもの青いプリーストドレスへと着替えてみる。本来胸が入りきれるはずがない…のだけど…そのいつも着ている私の服はピッタリと抵抗なく私の胸を受け入れた、まるで昔からこの大きさだったかのように。

 

「……本当に…どうなっているんでしょう…?」

 

『……アリスお姉ちゃん――?』

 

「……なんでもありません、朝ごはん食べに行きましょうか…」

 

『…うん――♪』

 

無垢な笑顔のアンリの手をとって部屋を出る。現状変わってないのはアンリだけのようにも感じてしまう。何がなんだかさっぱり分からない、大きな変化は今のところ私の胸くらいだ。そしてゆんゆんの言うウィズさんのお店を出た後という記憶が私には全くないこと。

 

とりあえず様子を見るしかない――、そう考えながらも、私はアンリを連れて下の階へと降りていくのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

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