内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 167 夢の後遺症

 

 

 

―バニルのダンジョン―

 

―視点アリス―

 

「起きてよアリス、しっかりして!」

 

「ゆんゆん、目を開けてくれ!」

 

そんな2人の声が同時に聞こえてきたと思えば、私の意識は覚醒した。

目を開ければまずエシリアの心配しているような必死な表情が見えた。それにより私は驚き身震いを起こした。

 

何故なら私の記憶では、屋敷の扉を吹き飛ばして登場したエシリアは見たことも無いするどい視線を向けてきたのだから。あのままではそのまま殺されていたのではないかと思えるほどに。

 

「…やっと起きた…、大丈夫なの?」

 

「……え?あ……」

 

私はまず真っ先にエシリアの目を見て…あれが全て夢であると確信できた。大体エシリアが私達に向けてあんな顔をするはずがない。操られてるとかがない限り。それで落ち着いたら自身の胸を見た。そこにはあの大きな2つのスイカはなくなっていて、いつもの大きさに戻っていた。

 

……良かった、本当にあれが夢で良かった…。あんな大きさになってずっと羞恥心で爆発しそうだった。男性の視線は常時あったし無駄に重いしはっきり言うと邪魔だし。これからおそらく私は他人の胸に対して負の感情を抱く事はないだろうくらいある、逆に同情の目線を送ってしまいそうな気さえする。

 

そして今いる場所は…あの時と変わらぬ洞窟の中。おそらくバニルのダンジョンなのだろう。

 

「……変な夢を見ていました…」

 

「夢って…何を呑気な…しっかりしてよ先輩?」

 

「うっ…」

 

先輩を強調して聞こえたエシリアの言葉には皮肉混じりな感じがした。これは情けないし恥ずかしい。

何故ならリアやエシリアは駆け出し冒険者、私やゆんゆんは王都でも名が売れた冒険者だ。自分で言うのも変な気もするけどそれは客観視してみれば間違いない。

だからこそ、私は心の片隅で2人を守らないと、先輩として導かないといけない。そんな想いが無意識に生まれていたのだから。

だけど実際はどうだろうか、私とゆんゆんは気を失っていて駆け出し冒険者である2人に介抱される始末。これほど情けないことがあるだろうか。

 

それにしてもゆんゆんは大丈夫なのだろうか?リアさんが揺さぶって声をかけてるけど未だに起きる気配はない。

状況を見るに、私達は確かに落下した。そして今の場所で気絶していたと思われる。どれくらいの高さから落ちたかわからないが起きないとなると心配にもなる。

 

「リア、ゆんゆんは大丈夫なのです?」

 

「…あぁ、呼吸はしているし眠っているだけのように見えるんだが…いくら揺さぶって声をかけても目覚める様子がないんだ…」

 

「…っ!?変わってください!」

 

悠長にしている余裕はない。このままゆんゆんが目覚めないなんて事にしたくない。私はアークプリーストだ。今のゆんゆんがどんな症状なのかわからないけど回復魔法を使ってみよう。そう思い起き上がるとゆんゆんの傍に座った。

 

「ゆんゆん?大丈夫ですか?今回復魔法を使いますからね?」

 

「……う、うーん…」

 

とは言え一見すると外傷はなさそうだ。ならば身体の全体を癒すように働きかけてみればいい。手をかざしてゆんゆんへと向ける。そして詠唱を始めて唱える。

 

「…セイクリッド・ハイネス・ヒール…!」

 

いつものように淡いエメラルドグリーンの光が立ち込めてゆんゆんを癒す。これで大丈夫かなとゆんゆんの顔を覗き込んだその瞬間だった。

 

「……ん…っ!?」

 

「…え?……っ!?」

 

ゆんゆんは勢いのまま飛び起きた。その上体を起こしたことで、私の顔とゆんゆんの顔が急速接近してきたと思うと同時に…

 

 

 

 

――私とゆんゆんの唇はその勢いのまま重なった――。

 

 

 

 

いやそうはならんやろ。真っ先にそう言いたかった。なっとるやろがいと言われたら返す言葉が無いのだけど、普通顔を覗き込んだ途端相手が起き上がったらお互いのおでこでごっつんこしちゃってお互いに痛みに悶えるとかじゃないのか。

 

リアとエシリアは空いた口が塞がらず驚きのあまり硬直してしまっているが今の私にとってそれを気にする余裕はない。事故とはいえゆんゆんにファーストキスを奪われてしまった。……いやまぁファーストキスなんて気にするほど乙女なつもりもないのだけどむしろ問題はゆんゆんだろう。そういうのめちゃくちゃ気にしそうだしショックで立ち直れなくなるとかなければいいのだけど。そう考えていたら奪われたではなく私が奪ったとも言えちゃう。

 

「……え?……あれ?……え?」

 

「………ようやく起きましたか、大丈夫ですか?」

 

「……う、うん……あれ?カズマさんとアンリちゃんは…?」

 

そのままゆんゆんは周囲を見渡す。意外にも事故によるキスについてはあまり気にしていないように見える。というかゆんゆんもまた私のように夢を見ていたようだ。

 

「落ち着いてください、カズマ君もアンリもいませんよ。思い出してください、ここはバニルのダンジョンですよ」

 

「…………え?…あ、そっか……」

 

座り込んだままのゆんゆんはそのままぐったりとしてしまった。そして予想すると私と同じように変な夢を見ていたのではないだろうか。私と同じ夢ではないだろうし、ここがバニルのダンジョンともなればあの夢も完全に納得である。夢ならばどのようにも出来てしまう、アクア様の存在とか有効範囲とか全く関係ないのだからどんな事柄だろうがやりたい放題できてしまうだろう。

 

「……え?…てことは…あの朝起きた時から…全部夢…?……ってことは、今のは……っ!?」

 

ものすごいタイムラグを感じた。起き上がりぶつかりのようなキスであったが起こった時は平然としていたのに今になって顔を真っ赤にしてしまっている。

 

「…あ、あの、ゆんゆん?…ごめんなさい、私が不容易に覗き込んだせいで…」

 

「……ううん、私こそ突然起き上がってごめんね……」

 

そして両手を顔を覆ったまま話すゆんゆん。やはりショックが大きいのだろうか。…それ以前にどんな夢を見ていたのだろうか。おそらくバニルが見せた夢故にロクなものではないことは確かだろう、私と同じように。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

「……コホン、そろそろ話をしていいだろうか?」

 

「「……あ、はい…」」

 

リアの咳払い付きの一言で現状を確認することにした。まだあのリアルすぎた夢を引きづっている感覚はあるのでどうにも落ち着かない。それはゆんゆんも同じのようで、相変わらず顔を赤くしたままだった、まぁゆんゆんの場合は事故のせいでもあるのだけど。…そっとしておこう。

 

「…そ、それで、どんな状況なのです?」

 

「どうもこうも…あのスイッチを押して落下したと思ったら気付いたらここで寝ていた…くらいしか言えないな…」

 

「リアやエシリアも寝ていたのですか?」

 

「うん、アリスみたいに夢とかは見てなかったよ。私もリアも割とすぐに起きたと思う。それで今までずっと2人を起こそうとしてたんだけどさ、全然起きなくて本当に心配したんだから」

 

「……それはすみません…」

 

ふと思えばどれだけ時間が経ったのだろうか。確かウィズさんのお店に居た頃の時刻は14時かそこらだったはず。

胸にある銀の懐中時計を開けてみれば時刻は18時半。思ったより時間は経っていないようだがこのままではまた屋敷に残る仲間達を心配させてしまう。

 

「それで、ここからはどう行けば…」

 

「私も軽く見渡したが……あれしかないようだ」

 

リアがあれと言うのは今いるフロアの先に見える魔法陣。なんとなくテレポートサービスにあるそれに似ていた。あれに乗れば自動で何処かに飛ぶ事ができるのだろうか。

 

「……他には何もない、行くしかないだろう」

 

「……酷いデジャヴを感じる…」

 

エシリアが嫌そうな顔をしているが他にないなら行くしかない。ずっとこのままこの場所にいる訳にもいかないのだから。

 

意を決したと同時に私が魔法陣の上に立つと、ゆんゆんも続いて、リアと少し遅れたエシリアが続いた。

すると魔法陣は私達全員が乗ったことで反応した。白く光輝いて光は私達を包み込む。いつもゆんゆんのテレポートで起こる現象と変わらないものだった。そしてそのまま私達はそのまま消え去った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

―ウィズ魔導具店―

 

 

「フハハハッ!!おかえりなさいませお客様方!!このバニルのダンジョンを無事クリアして戻ってきたようだな!!予想以上の悪感情、真にご馳走様である♪汝らのおかげで吾輩の腹を実に満たされることになった、あまりにも多くて冷凍保存したかったほどだ!」

 

「わぁぁぁぁ!?!?」

 

テレポートをして聞こえてきたのはバニルのこの一声である。ゆんゆんは顔を真っ赤にしながらバニルに向かって拳をにぎって襲いかかるがバニルは嘲笑うかのように避けている。余計に悪感情を提供してるだけのような気もする。

 

「…一体どんな夢を見たんだろ…」

 

「夢まで見せるとは悪魔とはなんでもありなのか…」

 

「流石に吾輩にもそのような事はできぬが、そこは協力者がいたと言っておこう。吾輩を慕ってくれる者もこの街にはいるのでな」

 

被害に遭わなかった2人がいえば、バニルは悪感情を得られた喜びでテンション高めにこう返した。バニルを慕うとなると同じ悪魔だろう。となると心当たりはあそこしかないのだが。

 

「すみませんすみません!私も知らなくて…分かっていたら止めていたんですけど…その…皆さんが無事で良かったです…」

 

バニルの傍にいたウィズさんは私達が帰ってくるなり平謝りしていた。はっきり言えば全然無事ではない、主にゆんゆんのメンタルが。とはいえウィズさんは何も悪くないので謝られても逆に申し訳なさを感じるだけだ。

 

「フハハハッ!!まぁ落ち着くが良い元ぼっち娘よ、おかげで汝にとって良い事もあった事も事実であろう?」

 

「……っ!!」

 

全部知られている。そう思えばゆんゆんの顔が真っ赤なのは収まりそうになかった。とりあえず本来の目的の物が影も形もなかった訳だが結局完全に騙されていただけなのだろうか。

 

「…そこまでにしましょうゆんゆん、これ以上バニルにどんな反応をしても、バニルを喜ばせるだけですよ」

 

「……うぅ…」

 

私がゆんゆんを止めれば、ゆんゆんはそのまま座り込んで顔を隠してしまった。思ったよりかなりダメージが大きいらしい。

 

「吾輩としても既に満たされておるのでな、そろそろこちらを見せておこうか」

 

「……それは…っ!?」

 

バニルが掲げてみせたのは片手の平では入りきれない大きさのマナタイト結晶、その光沢は過去何度か見た事のある物よりも煌びやかに感じた。素人である私が見立てても数千万エリスの価値がありそうに見える。

 

「…それは何処に…?」

 

「無論、吾輩のダンジョンを作っていた最中、偶然発見したので発掘したものだ」

 

「…あるんなら最初から出してほしいかな…」

 

エシリアはがくりと項垂れるがこれはお金の代わりに悪感情を要求したということなのか。こちらが了承してないのであまりにも一方的すぎるのだけど。やはりもう一度討伐した方がいいのではないだろうかこの悪魔は。

 

とはいえ数千万すると思われるマナタイト結晶をポンともらえるならいいか、と強引に納得して私はバニルの持つマナタイト結晶に手を伸ばす、すると。

 

「おっと胸を渇望していた娘よ、タダでやるとは一言も言ってないぞ?汝らがあのダンジョンへ行くことで得たのはこれの優先購入権なのだからな。ではではこちらの出すところによっては5000万エリスにはなるだろうマナタイト結晶、3000万エリスでいかがかな?」

 

…どうやらそれでいてなおお金を要求するらしい。やはりまた討伐すべきではないだろうか。

…結局ゆんゆんはその品質をウィズさんに確認してもらった上で3000万エリスで買う事にした。色々ありすぎたが私達は2つ目の材料であるマナタイト結晶を入手したのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

――翌日。

 

ウィズさんのお店を出てワイバーンの爪の代金600万エリスを支払い、改めてワイバーンの爪はゆんゆんのものとなった。これで残るはひとつ、紅魔の里にある魔術師殺しの残骸から必要な分の金属を入手するだけになった。

 

よって善は急げ。私とゆんゆん、そしてこめっこちゃんに会いに行きたいと言うアンリの要望を聞いた事でアンリも含めた3人で紅魔の里へと向かう事になった。…ここまでは夢と全く同じである。同じという事がなんとなく気味が悪い。

 

それはゆんゆんも同じだったようだ。

 

「……ゆんゆん?ずっと思い詰めた顔をしてますが大丈夫ですか…?」

 

「……大丈夫、あれは夢、あれは夢あれは夢あれは夢あれは夢あれは夢あれは夢あれは夢あれは夢あれは夢あれは夢……」

 

…全然大丈夫そうに見えなかった。本当にどんな夢を見ていたのだろうか?聞いてみてもゆんゆんは頑なに喋ってくれなくてなんでもないの一点張りだ。そこまで言われたら聞く訳にもいかないし私の夢とてあまり話したくないのが本音なのでお互い様ではあるのだけど。

 

だけどこのまま放っておくことは私にはできなかった。

 

「ゆんゆん?ゆんゆん!」

 

「……っ!?」

 

私の荒らげた声にゆんゆんはようやく反応してくれた。どんな夢だったのか聞く事ができないのなら私にはこうして落ち着かせることしかできない。そんな時だった。

 

「お?おはよう、今から出かけるのか?」

 

「おはようございますカズマ君、はい、紅魔の里まで……、ってカズマ君は朝帰りですか?」

 

「…っ!?」

 

屋敷の入口に私とゆんゆんとアンリの3人で立っていたらカズマ君が外からやって来た。そういえば昨夜は見かけなかったがどこへ行ってたんだろう?そして何故かカズマ君の姿を見たゆんゆんは余計に青ざめた気がした。

 

「あぁ、ダストとキースが中々帰してくれなくてな、ようやく帰ってこれたところだ」

 

「なるほど、モテる男は大変ですね」

 

「おいおい…」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

軽口を叩いてたら突然のゆんゆんの絶叫に私もカズマ君もアンリも驚きゆんゆんに注目した。何かゆんゆんにとってそこまでさせる事があっただろうかと疑問に思うも、私には思いつかない。

 

少し間を空けて、どこか必死な様子なゆんゆんはカズマ君に詰め寄った。

 

「あ、あの…カズマさん?ダストさんとキースさんが朝まで返してくれなかったのって…その…やっぱり……?」

 

「…ん?そりゃこの街で俺が大金持ってるのは周知のことだからな…、あいつら顔を見る度に奢ってくれってしがみついてくるんだよ。特にダストなんかまたギャンブルですったらしくてな、哀れに見えてきたからちょっとだけだぞって言ったら…はぁ……まさか朝まで飲まされると思わなかったよ」

 

「……あ、あぁ……付き合わされたってそういうことだったんですか…」

 

「他にどんな事だと思ったんだよ!?」

 

本当にどんな事かと思ったのだろう。ただそれを聞いたゆんゆんはどこか落ち着きを取り戻してみえるし、私としてはまぁいいかと前向きに考えるのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

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