―王都―
翌日、私達パーティは久しぶりに感じる王都へと来ていた。アクセルの街に慣れてくるとこの王都の人の多さには圧巻してしまう。襲撃がなくなり人が増えていることはメリットもあればデメリットもある、国としてはデメリット側を重点においているらしい。
というのもこれまで人がいればもし以前のように魔王軍の襲撃があった場合、必然的に逃げ遅れたりする人も出てくる可能性が高くなる。または人間の容姿に近い魔物などの絶好の隠れ蓑にもなる。そんな理由から、住民とは対照的に国の兵士達の厳戒態勢は昔より厳しいものになっているらしい。これは以前私達がアイリスといた時に受けた襲撃も影響があると思われるが今や街のどこを歩いていても守衛の兵士を見かける。
しかしこれもまた一般的な住民からすれば有難い事だ、何故なら常に取り締まる守衛の目があるのだから当然犯罪も減る。以前は広すぎた王都故にその治安は良いものとは言えなかったらしいが、今となってはそれも昔の話であり、近隣の街では最も治安の良いとされるアクセルの街に並ぶ程度には王都の治安は良くなっていた、これも王都に人が更に増える原因なのは間違いないだろう。
「実は僕もその店には興味があったんだ、武器は女神様から賜った魔剣グラムがあるけど、防具に関しては不安が残っていたからね」
ミツルギさんとしては強大な力を持つ魔王軍の幹部との戦いを経て思うところがあったらしい。過去の私達の戦いではダクネスという優秀な防御を誇るクルセイダーがいたことで助けられた場面も多い。性癖などを見なければダクネスはかなり優秀な盾なのだ。だけどダクネスは本来私達のパーティメンバーではない。だから常にダクネスを頼りにする訳にもいかないのだ。
「あのドワーフさんはかなり気難しい方ですからね…ミツルギさんを気に入って貰えたらいいのですが…」
「へぇ、そこまで想像通りなのか、これは逢うのが楽しみになってきたな」
「…それはともかく、佐藤和真。何故キミがここにいるんだ?」
鼻歌混じりなカズマ君の言葉にミツルギさんは不思議そうに尋ねた。聞き方によっては棘を感じるがミツルギさんの言い方は物腰柔らかくて単純に疑問に思っているだけなことが感じ取れた。
「本当は前回着いていくつもりだったんだけどな?あの時は私用がはいったんだよ、だから改めて今回ついていってるんだ」
私、ミツルギさん、ゆんゆん。そして今回はカズマ君が一緒に来ている。なんでも前回行くつもりだったがバニルとの商談がはいり来れなかったので今になって来たとのこと。ちなみに私達はその後にクエストへ行くつもりだがカズマ君はドワーフさんの店に寄ったら帰るらしい。個人的には盗賊職を兼任できるカズマ君が手伝ってくれたら楽にクエストをこなせるので少し残念である。
「…大丈夫かな…?これでも駄目って言われたら…」
「そこはウィズさんを信じましょう、きっと大丈夫ですよ」
マナタイト結晶、ワイバーンの爪、そして魔術師殺しの欠片。どれも元々の入手方法を考えたら楽なものはひとつもなかった。魔術師殺しの欠片はあっさり手に入ったが忘れてはいけない、それもまたシルビア討伐の副産物なのだから。そう思えば一番苦労したと言ってもいい。
他の材料に関してもウィズさんに鑑定してもらった上でのお墨付きである、ならばこれで自信を持たないのはウィズさんに対しても失礼にあたるのだ。
「…と、着きましたね。ここです」
「…ここって…ここか?」
「…なるほど、これはある程度情報がないと入ろうとも思わないな…」
ミツルギさんが言うように、一見するとその場所は既に住宅街の入口。それでいてそこらの民家とあまり変わらない見た目、唯一違うのは大きめの煙突くらいだろう。見事に他の住宅のように見せるカモフラージュができている。当然ながら店であることを示すような看板などはない。
そんな民家に等しい家の大きな木製の扉を開く。するとあちこちの棚に乱雑に置かれた武具の数々、そして奥に見えるカウンターには煙草を咥えて新聞を読む小柄ながら筋肉質で厳つい、スキンヘッドに黒い眼帯、白く長い髭をした壮年の男性がいた。
「……」
「…あ、あの、お邪魔します」
扉が開いたのにこちらを振り向く仕草すら見せない。気付いてないのだろうかと声をかければ不機嫌そうな視線だけが私達を襲う。思わず足がすくんでしまった。それはミツルギさんやカズマ君ですら同じだった、会うのは2度目の私でも怖いのに初見ではその恐怖はより強いと思われる。
「…あ、あの、言われた材料を持ってきました…!」
そんな中ゆんゆんだけは前に出て告げる。見れば足はガクガクに震えててよく声を出せたと感心できるほどだ。するとドワーフの職人は広げていた新聞を下ろすとともに目を見開いていた。
「……この短期間で揃えてきたと?俺は冗談が嫌いなんだがな」
「じ、冗談ではないです!査定をお願いします…!」
「…ふん、本当かどうかは材料を見れば分かる、か。いいだろう、ここに置きな」
「…は、はい…」
あれから1週間も経っていないことを考えたら信じられないのは無理もないかもしれない。ゆんゆんがおそるおそるカウンターの上にそれぞれの材料を置くとドワーフの眼光はより鋭くなる。
「……ほう…」
まずはマナタイト結晶、ワイバーンの爪、そして魔術師殺しの欠片と次々に品定めしている。ごつい見た目とは裏腹にその扱い方は丁寧なものだ、どれをとっても繊細なガラス細工でも触れるかのように優しく扱われていた。
「……まずは謝らなきゃいけねぇな、正直お前達のことを舐めていた、こんなに早く持ってきた上にどれも俺の予想を遥かに越えるものばかりだ、本当にすまなかった」
ようやく、ドワーフの目は私達から見て優しげに映った。張り詰めた緊張が緩和されると私達は揃って安堵の溜息をついてしまう。ようやくまともに取引する事ができそうだ。
実際私やゆんゆんなど一見したら子供と言われても反論はできない。子供じゃなくても壮年の男性から見たら良くて若造でしかないのだから舐められても仕方ない。そうならそうでこうして実力を示せばいいだけなのだから。
「あ、あの…じゃあ…」
「確か短杖だったな、すぐに作業に取り掛かろう。1週間くらいしたらまた取りに来い」
「え、えっと…お金は」
「いらん、あえて言うなら加工して余った材料さえ貰えたらそれでいい…この爪もマナタイトもとんでもない逸品だが…この魔法金属は何処で見つけたんだ?こんなの長年鍛冶屋をしていて初めて見たぞ」
ゆんゆんが相変わらずおそるおそる聞けば即答で返された。個人的にはウィズさんが鑑定してくれた際に驚いていたワイバーンの爪に一番興味を持たれると思っていたのだが。というのもこちらとしては1番安易に入手できてしまった品故にそこまでの考えはなかったのかもしれない。
「見ての通り私は紅魔族です。それは私の故郷に眠っていた魔術師殺しという兵器の一部になります」
ドワーフの様子が軟化したことで、こちら側も張り詰めた緊張が緩和された。ゆんゆんも落ち着いた様子で話すことができていた。それを聞いたドワーフは再び金属片に目を向けた。
「…聞いた事がある、古の魔導大国ノイズの科学者が創り出した兵器の一部か……くっくっく…長年鍛冶屋をやっていて良かったぜ…、まさか伝説の魔法金属にお目にかかれる日が来るとはな…」
感慨深く金属片を見つめるドワーフさんだがこの人が紅魔の里へ行って残りの残骸の成れの果てを見たらどう思うのだろうか。その伝説の魔法金属とやらは魔王軍幹部の墓石になっているのだけど、まるでその辺の石ころのように扱われているのだけど。
そんな気持ちは私だけではなかったようで他の3人も複雑な表情をしていたのは言うまでもない。
まぁ不要な情報を与える必要もないだろう。とりあえず問題なくゆんゆんの杖は製作してくれるようだ。後はお茶でも飲んでクエストにでも行きますか、と私はそんなノリに気持ちを切り替えていた。
「…なぁおっさん、物は相談なんだけどさ」
「…あん?」
カズマ君はカウンターに寄り添うようにゆんゆんの隣に立ち、その顔を寄せた。さっきまでびびって一言も喋らなかったのにえらい豹変ぶりである。これにはドワーフさんも怪訝なものを見るようにしていた。
「長杖かアクセサリーが欲しいんだけどさ、ここで作れないか?」
「…アクセサリーは専門外だ、他所をあたりな。杖なら作れんことはねぇが…作るかどうかはさておき、どんなのを望むんだ?」
「1度しか言わないからしっかり聞いてくれよ…爆裂魔法を存分に強化できる杖だ」
「……は?」
唖然とするドワーフさん、当然の反応である。こちらからすればめぐみんの為の物だとすぐに分かる。同時に深読みすればおそらくカズマ君は頑なにシルビアの討伐報酬を受け取らないめぐみんに高級な装備品という形に変えて渡すつもりなのだろう。
「だからさ、空前絶後の爆裂魔法による、爆裂魔法の為の、爆裂魔法しか愛せない者だけが扱える爆裂魔法専用の…「喧しいわ!!」…っ!?」
言い終える前にドワーフおじさんのツッコミが入ってしまった。これまた当然の反応である。何がカズマ君をここまでしてしまったのだろうか、もしかしたら初見の恐怖心で頭がおかしくなっているのかもしれない。
「冷やかしならとっとと出ていけ小僧!」
「いや、ふざけてる訳じゃないんだよ。金なら払うし、おっさんも興味湧かないか?爆裂魔法専用の杖とかさ」
「そんな使用用途が皆無に等しいもんに興味があるわけ………」
「使用用途ならあるんだよ、俺の仲間は爆裂魔法しか使わないからな」
勢いのまま怒鳴り散らしていたドワーフさんだが突如その口を止めた。…まぁ一理あるのかもしれない。爆裂魔法専用の杖なんて言い換えればめぐみん専用の杖と言っても過言ではない。何故ならあのアークウィザードしかいない紅魔の里であっても爆裂魔法を扱う人はめぐみん以外にいないのだから、おそらく人類で唯一爆裂魔法を扱える人間は現状私が知る限りめぐみんしかいないのではないだろうか。
そんな爆裂魔法専用の杖なんて普通なら絶対に作ろうとは思わないだろうしそんな注文なんてくるはずもない。純粋にひとりの職人として惹かれなくもない話なのかもしれない。
「……ふん、そこの小娘にも言ったが、俺は納得のいく素材がなければ作る気はないからな。材料さえ集めりゃ金額次第でやってやる。どうせこれから小娘の注文を受けなきゃならんからな。……ほれ、これらを集めてまた来い。今から作業にかかるからさっさと出ていけよ」
羊皮紙にスラスラと必要素材を書いたかと思えばそれをまるめてカズマ君に投げ渡し、ドワーフさんはそのまま店の奥へと行ってしまった。とことん商売をする気があるのか疑問だがあのドワーフさんはそういう人だと割り切るしかないのかもしれない。ウィズさんが薦めるほどの人だ、きっと素晴らしいゆんゆんの新杖を作ってくれることだろう。これ以上ここに居ても仕方ないので私達は外へ出ることにした。
…
「…あ、そういえばミツルギさんの防具の事を言いそびれましたね…」
「…まぁ大丈夫だよ、現状壊れている訳でもないし、いざとなればアリスが回復してくれるだろう?」
王都の街中を歩いていてふと私が思い出したように聞くと、ミツルギさんからは特になんとも思ってないような楽観視した返事が帰ってくる。
…ぶっちゃけると私はこの3人のパーティで活動していて回復魔法を使ったことはほとんどなかったりする。あるとすればシルビアなどの大物相手くらいだろうか。と言うのもこのパーティ、攻撃は最大の防御を地で行くスタイルだからだ。
世界的に見ても高レベルモンスターが生息する王都近辺だが、モンスターが単独なら大抵はミツルギさんが、多数なら私とゆんゆんの魔法攻撃でほぼ終わってしまうのだ。
私とゆんゆんの2人きりのパーティの時には魔法で倒しきれなくて接近を許した際のモンスターからの攻撃で稀に負傷することもあったがミツルギさんの加入で私達の弱点だった接近戦を克服してしまった。
とはいえ普段私達のパーティで近接戦闘を行うミツルギさんの安全性はやはり上げておきたい、今の鎧は王都でも最上級の鎧らしいけどそれより上があるなら上げておきたいことは事実だ。
「都合良く鎧の神器とかあったらいいんですけどね」
「ははっ、神器なんてそう滅多にあるものじゃないと思うよ、確かにそんなものがあれば僕も助かるけどね」
そんな会話をしながらも私達は喫茶店へと向かっていた。後は軽食を摂ってクエストに行くつもりだ。予定ではカズマ君は参加しないらしいのでここでお別れするのだろうか?私はそれを聞こうと私達の後ろを歩くカズマ君へと振り返った。
「カズマ君はどうします?軽食するのでしたら私達と喫茶店に入りますか?」
「……」
カズマ君に問いかけるも、肝心のカズマ君は両手で持って広げた羊皮紙と睨めっこしていた。私の声は届いてないように見える。
「…カズマ君?」
「…え?あ、あぁ悪い、俺はこのまま帰るとするよ。めぐみんの杖の材料を探さなきゃいけないからな」
「…あ」
慌てて羊皮紙から目を離したカズマ君は、そのまま魔導具によるテレポートで飛んでいってしまった。とりあえず私達に頼る気はないらしい。なんとなくそれは寂しく思えてしまう。
「…私達に相談してくれてもいいですのに…」
「……うん、そうだよね」
「…佐藤和真はあくまで僕達とは違うパーティだ、もしかしたら自分達だけで達成したい想いもあるのかもしれないね。…とりあえずこの件は佐藤和真がこちらに助けを求めてきたら引き受けたらいいんじゃないかな?」
ミツルギさんが言うようにそうするしかないだろう。思い返せば私達がゆんゆんの新杖の材料を集めた際、ワイバーンの爪はエシリアのおかげとも言えるし運が良かった。けれど魔術師殺しの欠片はめぐみんの案でもあったのでどんな材料が必要になるのかくらいは教えて欲しかったのも本音である。
「…ですが…カズマ君は考えて行動しているのでしょうか?」
「…え?」
確かに爆裂魔法専用の杖なんてものが完成すればめぐみんにとってそれ以上欲しいものはないだろう、それは確信できる。問題はその杖の性能なのだ。
これが単純な強化ではなくて、例えば一日に2回以上撃てるようになったとかなればそれだけ爆裂魔法でのあらゆる被害は増すことになるのだけど。めぐみんの爆裂魔法によるモンスター以外の被害は現状でもかなりあるというのに。
下手すると爆裂魔法の強化によってカズマ君達の借金も強化されそうな気もするのだが、これは私の考えすぎなのだろうか、そうであってほしいと私はただ願うことしかできなかった――。
年末でなかなか執筆が難しいです、去年は暇でしたが今年はそうもいかないようで…、少し早いですが皆様、拙い小説でしたが読んで下さりありがとうございました、良いお年を!