長かった。
無駄使いをしないで、必死にクエストをこなして、頑張ってお金を貯めた。
その結果が…今私の目の前にあるオレンジ色の結晶『フレアタイト』だった。
普通のゲームみたく300万貯めたら即買いと言う訳にもいかなかったので300万消費しても生活に不自由のない程度にお金を貯めてと、苦節4ヶ月、ようやくの入手であるそれは私にとって実に感慨深いものであった。私はその買いたてのフレアタイトの結晶石をお客さんがきてるにも関わらずご満悦で見つめていた。
「まーったく。いつまでにらめっこしてんのよ。」
今は私の住んでいる宿である。そこにはリーンとゆんゆんが遊びにきていた。ソファーで寛ぎながらティータイムである。ちなみにクエストは今日はお休み。
冒険者という職業の利点はまず自分のペースで依頼を受けられることに尽きる。大体普通の冒険者は週3.4つの依頼をやるかやらないかが平均的で、私のように週に7.8程度こなしてしまう人はまずいない。
「で、でも300万なんて凄いですよね。そんな高い買い物したことないですよ。」
「アリスの場合、お酒も飲まないしクエスト受注量も半端ないからむしろお金が貯まらない方が違和感あるわ。ダストに見習わせたいくらいよ。」
「で、でも、ダストさんが節制とか…1番想像つかないような気が…」
むしろリーンがお金を安易に貸すから節制も何もあったものではないと思う。そう告げるとリーンはその場で気まずそうに俯いた。
「うぅ……」
「リーンさん、まだお金貸してるんですか…?」
「私だってホントは貸したくないのよ!だけど色々言ってたらいつの間にか貸しちゃうのよ!…はぁ…アリスがうちに来てから大分減ったけど…そういえばアリスも貸してくれって言われたことあるわよね?どうしてるの!?」
だんだんリーンが必死になってきた。何も難しいことはしていませんよ。ただそう言われたら冒険者ギルドに引っ張っていって一緒にクエストを受けるだけなのですが。と言ってしまえば、ゆんゆんは目をパチクリさせていてリーンはどこか納得行かない様子でいた。
「つまり…アリスさんにとってお金貸してくださいは、一緒にクエストに行ってください、に自動変換しているんですね…」
「なんで普段内気なのにそういう時だけ行動力あんのよ。」
「アリスさんって普通に行動力あると思いますよ?私と初めてクエスト行った時なんて、1日で2つも受けたんですよ…。」
「あー、それ私もあるわ。まぁおかげで懐は潤ったけど…。」
正直行動力があると言われたところでピンと来ないのが本音である。私は私の思うがままにやってるだけなのだから。言ってしまえばゲーム感覚なのが強い気もする。まぁそれはそれとして、ダストにそう言っていたら貸してくれと言われなくなったことも事実だったりする。
「あれですね、遠回しにお金欲しいなら働けってダストさんには伝わってるんでしょうね…」
「ぐぬぬ…なるほどその手が…だけど自分の時間使ってまでダストとクエストにいこうまで思わないのよねー…そりゃあいつのことは手のかかる弟みたいに思ってるとは言ったけど、それはそれ!…もういいわ、次こそお金貸さないようにするんだから!」
決意に燃えるリーン。だけどその決意が実ることはないのであった…というナレーションを付けたら丁度いいのかもしれない。
「うるさい!!」
クッションを投げられてしまった。心の声がもれちゃったようです。反省反省。
そんな他愛の無い会話をしてたら、扉をノックする音が聞こえてきた。
扉を開けると、見事に私の身長と同じくらいの女の子が立っていた。その頭にはやや大きめの三角帽子、片目に黒い眼帯、黒いマント。ただ見た事はない子だった。
キョトンとしていると、少女はおもむろに見たことがあるポーズをとり…
「我が名はめぐみん!!アークウィザードを生業とし、爆裂魔法を操る者!!」
…残念、二番煎じだ。それが1番に出た感想だったりする。それにしてもゆんゆんに似ていなくはないけど妹か何かだろうか?なんて思っていると後ろから声が聞こえてきた。
「めぐみん!?」
「ゆ、ゆんゆん!?何故こんなところに!?」
「なんでって、その…お友達の家に遊びに来ただけよ。」
「と、友達!?ゆんゆんに友達!?ちょっと貴女!ゆんゆんを騙くらかして何を企んでいるのです!?理由によっては撃ちますよ!?爆裂魔法を撃ちますよ!?」
「やめてめぐみん!?そんなのじゃないから!本当にお友達だから!!」
……収拾がつかないと感じた私は、とりあえずあがってください。と告げるしかできなかった。
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ポットにいれてたミルクティーをだし、ソファーに座らせた。ちなみにソファーは2人座れるタイプと1人用がひとつあるだけなので自動的に蚊帳の外であるリーンが自発的に私のベッドの上に寝転んで様子を見ていた。
「すみません、頂きます。」
最初はどうなるかと思ったけどその後は思ったより礼儀正しかった。
「で、その子は結局なんなの?ゆんゆんの妹?」
リーンがベッドの上でクッキーを食べながら言う。ベッドの上で食べるのはやめてほしいのだけど。
「だ、誰がこんなのの妹ですか!?同郷の同級生ですよ!」
「こんなのって何よ!こんなのって!? 」
どうやら妹ではないらしい。ただ同級生…?と、私はゆんゆんとめぐみんを見比べた。…うん、見えない。見えないがゆんゆんが育ちすぎだからそれは仕方ないのかもしれない。
「それアリスが言ったらダメなやつと思うけど。うぷっ!?」
とりあえず先程のお返しにクッションを投げておく。私は悪くないです。それで私に何か用事があったのではないのでしょうか?
「おっとそうでした。貴女のことですよね?『アークウィザードプリーストのアリス』と言う方は。」
…なにそれ知らない。また異名が増えてるの?初心者殺し殺しよりマシだけどそういうのは許可とってほしい。
「あぁ、なんか最近ギルドでそんな感じで広まってるらしいわよ。そりゃアークプリーストなのにアークウィザード顔負けのスキル使ってたらそうなるわよね。…てか今ここのメンツ私以外全員上級職じゃない!?」
わなわなと震えるリーンはさておき、それが私だとしてなんなのだろうか?私は無言のまま首を傾げた。
「アークプリーストの分際でアークウィザードに匹敵する魔法を使うなど聞き捨てなりません、この私と勝負してください!」
…突然勝負と言われてもどうしたらいいのでしょうか…?クエストを受けてモンスターの狩りした数でも競うとかしか思い浮かばないのですが。と聞いたところ何故かめぐみんは狼狽えた。
「い、いえ。そういう勝負ではなく、火力勝負です。貴女のもつ最強の魔法と、私の爆裂魔法、どちらが上か勝負といこうじゃありませんか!」
……無理です。ごめんなさい。私は素直に頭を下げた。
「何言ってるのよめぐみん、そんなの流石にアリスさんが不利に決まってるじゃない。」
「アリスの最大火力って言うとあの時見せたランサー?それとも最近ダストを思い切り巻き込もうとしたストーム?あの時のダストはおかしかったわぁ」
「ラ、ランサー?ストーム?なんかえらく単純な名前の魔法なのですね、どちらも聞いた事はありませんが。」
思い出し笑いしているリーンだが私は否定した。私の最大火力の魔法となるとあれしかないだろう。使ったことは無いけど。
その名前は《フィナウ》。消費魔力がストームの4倍という魔力調整がきびしいこの世界ではネタにしかなりそうにないスキルである。今の私が使えば即魔力切れでぶっ倒れることは間違いないのだから。ちなみにインパクト込みで。
「1発使ったら即魔力切れって…なんかめぐみんの爆裂魔法みたいですね…」
「アリスの家系にも爆裂魔法みたいのがあるわけ?まぁ…私も興味はあるわね。あの竜巻の4倍でしょ?」
「あの、アリスさん、私も見てみたいです。どうにかお願いできませんか…?」
…どうやら味方はいないらしい。めぐみんは勝負したい訳だから言うまでもなくこちらの返答待ちだった。こうなっては断りづらいのもあるけど私も地味に興味はあった。使うとどれくらいの威力になるのかが。
そんなこんなで私達は、急遽クエストを受けに行くのであった。どうせ魔法使うから依頼受けたほうがはやいし。
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簡単なクエストでジャイアントトード5匹倒してくださいと言うのがあったので4人で受けようとしたら流石にルナさんから引きつった顔をされた。とりあえず魔法スキルの的としてやりたいだけですと正直に打ち明けたら渋々受理してくれましたけど。
そんなこんなで見慣れた湿地帯にきたわけで。いつもは潜っているジャイアントトードが都合よく2匹ほど顔をだしていた。本当に都合がいい。
「さぁ、私からいきましょう。我が爆裂魔法をとくと見よ!」
マントを翻すと杖を構えて、めぐみんは詠唱を開始した。
「黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!これが人類最大の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃魔法…!!」
……詠唱こんなに長いものなのだろうか?真似しようとしたら舌を噛みそうだ。
「い、いえ、とくに詠唱は決まってません。めぐみんの気分だと思います。撃つ時はエクスプロージョンと言うだけの時もありますし。」
ゆんゆんが冷静に解説してくれたところでめぐみんは高々と杖を掲げた。
「穿てっ!!エクスプローージョン!!」
例えるなら爆弾。それは赤い閃光となってカエルの中心に落ち、そして大爆発を起こす。確かにこれはランサー程度では比較にならないだろう。凄まじき轟音がなりやんだと思いそこを見ると、ジャイアントトードは跡形もなくなり、地面には特大のクレーターができていた。そしてバタリとその場で音がした。…見ればめぐみんはそのままうつ伏せに倒れていた。症状的にも魔力切れで間違いなさそうだ。何故そこまでして撃つのだろうと思いつつ、用意しておいたマナポーションをお裾分けした。
「い、いいんですか?こんな高い物を?すみません、いただきます。」
「それにしても本当に火力だけはやばいわね。火力だけは。アリスこれに勝てるの?」
「えっと…無理はしないでくださいね…?」
一応やる前に無理とは言っているのだけども。とりあえず今の爆裂魔法でジャイアントトードがでてきたので私は《インパクト》を使った上で詠唱を開始した。
杖を宙に浮かせて回転させ
術式を構築するとともに自身をも、浮く。
「う、浮いた!?」
「ア、アリスさん!?飛んでますよ!?」
両手を杖に向け術式を起動すれば、両腕、腹部にリボン状の魔法陣がそれらを囲むように駆け巡る。周囲に大小の円状で無数の魔法陣が展開されると同時に、激しく魔力を消耗している感覚を覚えた。気づけば私のツインテールとスカートは魔力の波動で浮かび上がっていた。スカートは見えそうで見えないギリギリの位置で。
空が晴れてきた。否、雲が割れたのだ。そこから溢れんばかりの光の塊が降臨する。そしてそれを杖に宿すようにイメージしたまま浮いていた杖を握りしめ……全力で振り落とす。
《フィナウ》
空から急降下した光の塊は、着弾点に巨大な魔法陣を形成して、ジャイアントトードを飲み込む。破壊など一切のない光の塗り潰し。そこにはジャイアントトードそのものが初めからいなかったかのように、塵一つ残さず消え去っていた。
そして私は久しぶりの魔力切れでめぐみんのようにその場にばたりと倒れ込んだ。
「…なんか…なんて言ったらいいかわからないんですけど…凄く神々しかったです…」
「本当にね…空が割れるとかどんな魔法よ…」
「……ハッ!?こ、ここここんなの、たたたたいしたことないではないですか!?なんですかそれは空が割れるとか聞いてませんよ!?あれですよ!?浮いて魔法陣だしてるのがかっこいいとか少しも思っていませんからね!?」
とりあえずなんでもいいのでさっさと鞄のマナポーションを飲ませてほしい私でありましたとさ。……詠唱途中から魔力の急激な減りで意識がなかったから二度とやらないと決めたのでした。