内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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あけましておめでとうございます()

気が付けば既にまる4ヶ月以上経ってますね、更新が滞り大変申し訳ないです。
新章になりますが手探りでやっていきますので気長にお待ちくださいませ。




十章 ―アクセルの街の騒動―
episode 170 アンリの外出


 

 

 

 

 

視点―無し―

 

―アクセルの街―

 

小鳥の囀る朝、天気は快晴。

 

窓から差し込む朝日に、少女はふと目を覚ました。

 

『……ん――…』

 

少し大きめのベッドには2人の少女が寝ていた。ひとりはアリス。王都で蒼の賢者と呼ばれ日々活躍している今や王都で知らない者はいないだろうと思われるほどの冒険者、上級職のアークプリーストだ。支援職でありながら多彩な攻撃魔法を扱えることが異名の由来にもなっていて、彼女の強みでもある。異名そのものが恥ずかしいと考える当人にしてみれば呼んだところで微妙な顔が帰ってくるだけなのだがそれはさておき。

 

今回目を引くのは朝日が差し込みつつも気にせず寝ている彼女ではない。その隣にいたもう一人の少女だ。

 

ライトグリーンの長い髪に花飾り、つぶらな瞳は少し眠そうではある。それを小さな手で擦り、控えめに背伸びをする。

 

『……アリスお姉ちゃん―、起きて――?』

 

「……ん…………zzZ…」

 

少女は懸命にアリスを起こそうとする。掛け布団の上から肩を揺さぶるようにゆっくりと。しかしその揺れすら心地よいのだろうか、アリスが起きる気配はない。少し反応をしたかと思えばすぐに寝入ってしまった。

 

『……』

 

少女は困った様子で小首を傾げる。同時に考え、そして閃く。豆電球が光ったかのような反応を見せれば、そっとベッドから降りて布団をかけ直した。

それはせっかく気持ち良さそうに眠っているのだから起こさないようにという少女なりの配慮であろう。彼女は相変わらず寝ているアリスの顔を見て静かに微笑み、そのまま部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

「あれ?アンリちゃん、おはよう。アリスは起きてる?」

 

『…ゆんゆんお姉ちゃん――、おはよーございます――、えっとアリスお姉ちゃんは…』

 

アンリ、それが少女の名前だ。呼ばれたことで振り向くものの、アンリは無言で首を横に振る。それを聞いたゆんゆんが一瞬だけ口角を緩ませたのをアンリは見逃さなかった。

 

「も、もうアリスったらしょうがないんだから…じゃ、じゃあ私が起こしに行くから、アンリちゃんは食堂に行っててね、ご飯はできてるから」

 

『……あ――』

 

アンリとしてはそのままアリスを寝かせておきたかったこともあり、ゆんゆんに声をかけようとするもゆんゆんは早足で部屋に入って行ってしまった。アンリは諦めたように息を吐くとゆっくりと階段を降りていった。

 

 

 

「おはようアンリ、今日ははやいじゃないか」

 

『…おはよーございます、ミツルギお兄ちゃん――』

 

いつもの青い鎧を着ていない、白を基調としたラフな普段着。どうやらアリス達が来るのを待っていたのだろう。ゆんゆんが用意した朝食には一切手を付けず姿勢を正して椅子に座っていた。

アンリとしては最初は苦手意識のあった彼だが、それはミツルギとの出会いが冒険者とモンスターという対面だったから。アリスやゆんゆんともそれは同じであるが、アンリにとっての第一印象のミツルギは最悪だった、そのモンスターへと向けられた厳しい視線のせいで。

だけどそれも時間が解決してくれた、アリスの根回しもあったが今やアンリにとって優しい兄のような存在である。

 

「お腹が空いたかい?なら先に食べてても大丈夫だよ?」

 

『――ん、お姉ちゃん達、…待ってる――』

 

ゆんゆんがアリスを起こしに行った事もあり、すぐに来るだろうと判断したのか、アンリは頑なにそう言うとちょこんと椅子に座った。何気ない日常の光景だった。

 

『…お兄ちゃん達――、今日もお仕事――?』

 

「ん?あぁ、今日は王都でクエストを受けるつもりだよ」

 

『……』

 

それを聞いてアンリは目立たない程度に俯く。アリス達がクエストへ行くという事は当然ながらアンリはこの屋敷でお留守番、寂しい気持ちは勿論あるがアリス達に迷惑をかけたくないと、アンリはそれを口に出す事はない。何よりそれを言ってアリス達を困らせることの方がアンリとしては嫌なのだ。

 

 

……仮にアンリが本音を言うとすれば、アンリは自分もクエストに連れて行って欲しい。戦闘では役に立てないが索敵、警戒などならアンリとしても固有スキルとして所有しているので役には立てる自信があった。自分を救ってくれたアリス達の役に立ちたい、そしてできる限り唯一甘える事ができるアリス達と一緒に居たい。そんな想いがあったはあった。

 

アンリとて精神年齢は一桁の少女でしかないのだ、寂しいと言う気持ちが強い。だがアンリの性格はそれを言う事を許さない。

 

その想いをアリスに言えば、アリスを困らせる事になるだろうから――、それを理解しているが故にアンリは何も言う事はない。彼女としてもアリス達を困らせるような事はしたくなかったのだ。

 

「……」

 

そんなアンリの表情をミツルギは複雑な様子で視界に映していた。

 

これは言わば現在社会の日本でもありうる事柄だ。まるで共働きの両親を持つ小さな子供のような、そんな状態。

ミツルギはアンリの気持ちをなんとなく察していた、それはもしかしたらゆんゆんやアリスも同じかもしれない。

だがそれはどうしようもできない。一緒に暮らしている以上、出来る限りアンリの傍にいてあげたい想いは当然強い。だが常にいつも一緒にいる訳にもいかない。

現在日本の共働きの両親ならそれは生活の為だろう。そうしてお金を稼がないと生活が成り立たないのだ。そんな家庭は決して珍しいものではない。

 

ではアリス達はどうだろうと思えば、はっきり言うとアリス達のクエストは生活の為ではない。

アリスやゆんゆんは魔王軍の幹部の討伐もあり、軽く億を超えるお金を得ている。全く働かなくても余裕で生活できる程度のお金はあるし、ミツルギにしてもそれは同じだ。アリス達よりも魔王軍の幹部の討伐報酬は少なめではあるが、彼はアリスやゆんゆんよりも長く王都に滞在して高額報酬のクエストを数多くこなしてきていたのでお金に余裕はある。

 

問題はアリス達のパーティはお金を目的にクエストを受けている訳では無い。ミツルギの加入によりより強くなった目的、魔王の討伐という大きな目標があるのだ、言わばこれはその為のレベル上げがクエストをこなす理由となっている。よってアリス達が受けるクエストのほとんどは強力なモンスターの討伐クエストとなっているのだ。

 

当然そんな危険なクエストに戦う力のないアンリを連れて行く訳には行かない、いくらアンリにアリス達のパーティにはない敵感知スキルなどを所有していたとしても、万が一を考えるとそうなってしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

リビングに移動したアンリはソファに座って両足をブラブラさせていた。アリス達が降りてくるのを待っているのだろう。

そんな僅かな時間、アンリはリビング内を見回していた。まるで何かを探しているように。

 

『……ちょむちゃん――…、まだ寝てる――…?』

 

アンリが探していたのはめぐみんの飼い猫?である黒猫に小さな蝙蝠のような翼をもったちょむすけだった。今日は屋敷でお留守番することになりそうなのでちょむすけと遊ぼうと思い探しているようだ。

このちょむすけ、普段ならめぐみんが連れて行くケースも多いのだが、めぐみんもアリス達の事情は把握しているので例えばアリス達のパーティもカズマ達のパーティもクエストなどで屋敷を空ける場合は独りお留守番するアンリの為にあえてちょむすけを残して行くようにしてくれていた。寂しくならないようにする為のめぐみんなりの配慮だ。

 

『……めぐみんお姉ちゃんの部屋――…?』

 

だがあいにくちょむすけは見当たらない。アンリが思うようにめぐみんの傍にいるのだろうか。

そう思うのならめぐみんの部屋に行くなりして探せばいいのだがそうもいかない。それはアンリの性格によるものである。

 

『……――』

 

現状アンリは、この屋敷での人物全てに完全に心を許していない。いや、許していないというか、単純に人見知りしていたのだ。屋敷で信頼をおけるのは自身を拾ってくれて親身になってくれたアリスとゆんゆん、そして先程話したミツルギだけなのである。

紅魔の里で話したこととちょむすけの件もあり、めぐみんには若干ながら心を開いているのでもう少しというところだが、アクアやダクネス、カズマに対してはそうもいっていないのが実情だ。理由は様々だがまずダクネスは正体が現領主代行の父を持つ王都でも名高い貴族だ、よって屋敷を留守にする事も多く屋敷にいるメンバーとしては1番アンリとの関わりが薄いのが単純な理由となっている。その性癖故にアリスが関わりを避けている面もあったりなかったり。

 

続いてアクアは逆にアンリと面する機会は多くアクア本人もアンリに積極的に関わろうとしているのだが、如何せんガツガツ寄られると離れてしまうのは内気なアンリには仕方のないこと。アクアとしても距離感に悩まされているのが現状だ。

そしてカズマは紅魔の里でのめぐみんによる狼宣言でアンリの屋敷での風当たりが誰よりも冷たいものとなっている。自業自得といえば仕方ないのだが感受性豊かなアンリは狼という表現でリアルにカズマの事を狼男か何かと勘違いしてしまっている。

 

以上が屋敷でのアンリの人間関係の状態だ。まだまだ手探りな状態だがいずれも時間とともに円満に解決してくれるだろう、ただ1名はわからないが。

 

とまぁアンリの内情を見た場合、アリス、ゆんゆん、ミツルギに次ぐアンリの心許せる存在がちょむすけな訳である。

 

『……――!』

 

やがてアンリは小さな黒い影を見つける。それは窓の外。猫故に自由にあちらこちらへと駆け回るちょむすけだ、どこかから屋敷の外へと出ていってしまったのだろうか。その影は素早く動いて視界から居なくなってしまった。

 

だがその自由な行動は普通の猫だったら不思議ではないのだが、ちょむすけは普通の猫ではない。まず見た目からして黒猫に蝙蝠のような小さな.羽根があったり、謎の十字架模様が額にあったりするし、たまに火を吹いたりもする。何より飼い主の言う事が分かっているような仕草や反応を見せることも珍しくはない。

そんな頭の良いちょむすけは基本的にめぐみんの傍にいることが多い。今のように外に居ることは珍しいのだ。

 

よって――、アンリがとる行動はひとつだった。

 

 

『…ちょむちゃん――、何かあったのかな――?』

 

心配からか、深く考える事なくアンリは屋敷の外へと続く扉へと向かう。そして大きな扉のドアノブを背伸びし、精一杯押して…、それはゆっくりと開かれた。

朝日差し込み外の世界がアンリの目に映る。それは他の屋敷の住人なら見慣れたものではある。アンリとしても例外ではない。

ただ…アンリが単独で屋敷の外へと出る、これはアンリにとって初めての事だった。

感慨深いものがある訳でもない、勝手に外へ出る事への負い目も今はない、ただちょむすけが心配だったから。故にアンリは純粋にそれだけを想ってその一歩を軽やかに踏み出したのだ。

 

――そしてひとりの少女の冒険が、今始まろうとしていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

 

―カズマの屋敷・リビング―

 

アンリが屋敷を出ていってから10分あまり経った。そんな中一部の屋敷の住人はようやくこの事態に気が付くことになる。

 

「…アンリがいない…ですか?」

 

「あぁ…いつも通りならアリス達が降りてくるまでリビングで待っているものだと思い…僕もそこまで気にしなかったんだが…どうも屋敷の中にはいないようなんだ」

 

「…なら外に出たってことに…?…それって…大丈夫なのかな?だってアンリちゃんって、独りで外に出た事なんてないよね…?」

 

不穏な空気が部屋に蔓延していた。アリスとミツルギとゆんゆん、それぞれが不安そうな表情でいるのは単純にいつも屋敷にいる存在が今はいないから。

アンリは人間年齢でいうところの6歳くらいの子供である。言動は年不相応なしっかりとした一面もあったりするがまだアクセルの街中を1人きりで歩けるほど慣れている訳でもない、なので普段アンリが外出する時は現状懐いている3人のいずれかが保護者として同行するようにしている。

 

よってアンリが単独で外に出たという可能性は特に過保護なアリスにとって不安をもたらすなというのが無理な話なのだ。

 

「…アンリはちょむすけと仲が良いですし、めぐみんの部屋にいるのでは?」

 

「それなら私が最初に訪ねてみたわ、……だけどめぐみんの部屋にアンリちゃんはいなかったし、ちょむすけもめぐみんの布団の中で丸くなって寝てたし…」

 

「…この屋敷でアンリはちょむすけ以外だと今この場にいる私達にしか心を開ききっていないようですから…カズマ君達の部屋にいるのは考えにくいですね…」

 

「…それでも可能性はなくはない、僕は佐藤和真の部屋に行ってみよう。2人はアクア様やダクネスさんの部屋に行って聞いてみてくれないか?」

 

「…そうしましょう、私はアクア様の部屋に行きますのでダクネスの部屋はゆんゆんがお願いします」

 

「…わ、わかった…。杞憂であったらいいんだけど…」

 

まだアンリが屋敷に住み始めて日が浅いとはいえ、今までこんな事はなかった事もあり、その不安からそれぞれが急ぎ足でそれぞれの部屋へと向かう。

 

それぞれが何事もないように祈りながらも、嫌な予感を抑えることは出来なかったのだった――。

 

 

 

 

 

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