内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

171 / 183
episode 171 迷子のアンリ捜索作戦

 

 

 

 

 

―アクセルの街・住宅街―

 

「エシリア、無理をして私の日課についてこなくてもいいのだぞ?眠そうに見える」

 

「…大丈夫、無理はしてないから。それに…過去の生活態度を改める為にもリアの早朝ランニングに着いていくのは丁度良いし」

 

軽装のままジョギングをしている2人の少女。それは最近アクセルでも話題の駆け出し冒険者、クルセイダーのエシリアとアクセルを拠点としたアイドルグループ、《アクセルハーツ》のリーダーでありランサーのリアだ。

 

「…過去のって…そんなに酷かったのか?そんな風には見えないが…」

 

「うーん…、最初はリアに付き合ってただけだけどさ、こうして朝から適度に運動すると朝ご飯が美味しく食べれるしね。以前は…朝ご飯抜きなんてザラだったから…」

 

「なるほど、それは確かに良くないな。しかしそんな生活でよくあそこまでの剣技を身に付けられたものだな…、エシリア独自の才能なのかな」

 

「えっ…!?いや、うん…どうだろう…」

 

走りながらもしまったと言う感情を隠しきれていないエシリアにリアは純粋に困惑して首を傾げる。それもそのはず、エシリアの剣技は全て転生特典によるスキルの恩恵でしかないのだから当然だろう。なんとか誤魔化そうと内心あたふたしていたエシリアだが、遠目に映る道の先にいる人物を見つけて即座にその感情を振り切った。

 

「…あ、あれ?あの子って」

 

「…うん?……あの子はアリス達と暮らしている…確かアンリと言ったか。あの子がどうかしたのか?」

 

「いや、あの子、独りみたいだよ?何かあったのかな?」

 

そう言いながらもエシリアは意識をアンリに集中させる。エシリアとしては体のいい話題逸らしではあったがあんな小さな子が単独でいるのに気になるのも確かだった。

一方アンリもまた、エシリア達に気が付いたようで顔を向けたと思えばてくてくと早足で近づいて来る。

 

『――おはよーございます…エシリアお姉ちゃん――』

 

「お、おはよう…、ど、どうしたのこんな所に独りで…」

 

「おはよう、アリス達は一緒じゃないのか?」

 

『…っ!』

 

エシリアがそう聞けば、アンリは軽く俯いていた。そしてリアに気付くなり驚いて人見知り故にエシリアの後ろに隠れるようにしがみついた。

 

「…参ったな、そういえば極度の人見知りだったな…、本当に何故エシリアにはなつくんだ?この子は確かアリス以外の一緒に住んでる屋敷の一部の住人にも未だなついていないらしいが…」

 

「…さ、さぁ?なんでだろね…」

 

背中にしがみついたアンリを優しく撫でながらも、エシリアはその理由については心当たりがあった。

 

(…多分、私が元々『アリス』と同じ存在だからだよね…この子にはそーいうのが感覚的にわかるのかも……だけどそんな事流石に言えないし…)

 

最初のは自身の自業自得とはいえ、立て続けに自分にとって不都合な話題になることにエシリアは静かに苦笑した。

 

「とりあえず私が話を聞いてみるから、……で、アンリちゃんはこんなところに独りで何をしてたのかな?」

 

『……ちょむちゃん――…』

 

「…ちょむちゃん?」

 

再びの話題逸らしに聞いてみれば、アンリからの震えながらの精一杯の返答が帰ってくるものの、二人にとってそのワードは首を傾げるものだったが、やがてリアが反応を示した。

 

「…もしかして…、カズマのパーティのめぐみんの猫か?あの猫は確かちょむすけと呼ばれていたような…冒険者ギルドで見かけた事がある」

 

「…めぐみんって確か…ギルドで頭のおかしい爆裂娘とか言われてた子…?」

 

「…そうだがそれを本人に言うなよ?間違いなく怒るだろうからな…、それで、君はその猫を探しているのか?」

 

『……』

 

エシリアの背後から様子を伺っていたアンリはおどおどしながらも無言で首を縦に振り肯定するように返した。この反応には二人して苦笑するしかなかった。

 

「うーん、それなら解ったけど…、私達は猫なんて見てないし…」

 

「気を張っていた訳では無いから断言はできないがな…、しかしあの猫なら見た事があるし、もし見かけたなら覚えているとは思う。それにしてもいくらアクセルが治安が良いとは言っても、君のような小さな子が独りで街の中を歩くのはあまり褒められたものではないな…アリス達には言ってるのか?」

 

『.……』

 

「ま、まぁまぁ。逆に考えたらさ、私達がこの子を見つけて良かったじゃない?…そうだアンリちゃん、朝ごはんは食べた?」

 

『……食べてない…』

 

「まさか…こんな小さな子に朝食も抜かせて猫探しなんてさせてるのか?」

 

「流石にそれはないよ、多分アリス達はアンリちゃんが探しに行ったのを知らないと思う、じゃなきゃ独りで探すなんてありえないもん。この子の事めちゃくちゃ溺愛してたしね」

 

「…言われてみればそうだったな。今のは失言だった。それなら屋敷まで送ってやればいいのか」

 

「せっかくこうして会えたんだし、一緒に冒険者ギルドに行ってご飯食べるくらいならいいんじゃないかな。この子もこの様子だと猫ちゃんが心配だろうし、冒険者ギルドに行けばもしかしたら猫ちゃんを見たって人がいるかも?」

 

エシリアが提案すれば、アンリの表情は僅かながらに綻んだ。強ばっていた様子が、希望を見つけて瞳を輝かせている。…そんな分かりやすい状態を見せられて、リアは静かに頭を抱えた。

 

「…確かにそうだが…、仕方ない。冒険者ギルドで朝食を摂って、情報を集めたら屋敷に帰らせるんだぞ?何も言ってないのなら心配しているだろうしな」

 

『…あ――』

 

心配という単語を聞いてようやくアンリは今の状態を把握した。確かに何も言わずに出ていったのだから心配をかけているのは間違いない。

 

「やっぱりね…、猫に夢中になってて他が見えてなかった感じかな?」

 

「子供だし仕方ないがな…、小さな子供は、ひとつに夢中になると周りが見えなくなるものだ。アリスのことだから怒ったりはしないと思うが…、何かしら言われるのは覚悟しておいた方がいいぞ?」

 

『……アリスお姉ちゃんに…心配かけてる――…?』

 

後悔から泣き出しそうな顔になるアンリに気まずい空気が流れてくる。これでは傍から見たらエシリアとリアがアンリを泣かせているようにも見えなくはない。そんな様子に二人は慌てた。まるで慣れない子守りをしている学生のように引き攣った笑みで落ち着かせようとする。

 

「だ、大丈夫だよ、私達も一緒についてってあげるから、ね?いいよね、リア」

 

「あ、あぁ…、今日はクエストの予定もないからな…私も付き合おう」

 

「とりあえずまずは冒険者ギルドね、そこで猫の聞き込みをしつつ朝ご飯にしよ」

 

『……うん――、ありがとう、お姉ちゃん達――…』

 

無垢な笑顔に安心しながらも、エシリアがアンリの手をとって、3人は冒険者ギルドへと歩を進めるのであった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―カズマの屋敷―

 

あれからアリス達はそれぞれカズマ、アクア、めぐみん、ダクネスを起こしてリビングに集結させ、アンリがいなくなった事を説明していた。

 

「……結局…誰の部屋にもアンリはいませんでしたね…」

 

「…ってことは外に出たんだろうな。でもなんでまた?」

 

悲しみに俯くアリス、そしてカズマは考察していた。というのも基本的にアンリは今までこのように勝手に居なくなるような子ではなかったのだ。

 

「…理由として考えられるのは…家出か、あるいは誘拐か…」

 

「お、おいおいダクネス、無駄に不安を煽るような事言うなよ」

 

「そうは言うが佐藤和真、状況は悪い方に考えておいて損はないと思うぞ。まだ日が浅いとはいえ、過去にこんな事はなかった。それにどちらも可能性がないとは言えない」

 

冷静に考えなくても、突然居なくなるという事はそういったマイナスイメージが起こっても仕方ない。それに反論する事は全員にとって難しいものだった。

 

「…も、もしかしたら神隠しにあったのかも?ほら、最近アリスが突然いなくなったみたいに…」

 

「家出も誘拐も可能性はあるんだ。さっきアンリと話した時、今日もクエストへ行くと言った時のアンリは寂しそうにしていたからな…、何か思う事があったのかもしれない…。それに誘拐もだ。この屋敷に住む者は基本的に魔王軍の幹部の討伐を複数達成しているからお金はかなりあると思われているだろう。なら身代金目当てでの犯行も考えられる」

 

「そ、そんな…私がアンリと一緒に起きてれば…」

 

「それを言うなら僕もだ、アンリを見ていないで食堂にいたからな…」

 

「二人とも誰が悪いとか言い合いする暇はありませんよ、いなくなったなら手分けして探せばいいだけです、アクセルの街は王都ほどではないですが広さはかなりのものですが…皆で探せば見つかりますよ。こちらには人数もいることですし」

 

後悔するように俯く二人にめぐみんが喝をいれるように指針を示した。確かにこうして悩んだり考える暇があったら探してみるのもいいだろう。

 

「それならまずは冒険者ギルドに行くべきだろうな。アンリはこの街では有名だ。目撃情報がある可能性もある」

 

「どうしても見つからないならいい方法があるわ!お金はあるんだし、冒険者ギルドにクエストとして依頼してもいいんじゃないかしら?人探しくらいなら駆け出し冒険者でも余裕でしょ!」

 

なるほどと一部は頷く。発案がアクアということからカズマは怪訝な様子でいたが。

 

「…確かに、通常のクエストよりも少し高めに報酬を用意すれば受けてくれるかも知れませんね、それなら…」

 

「……いや、それは本当に最終手段にした方がいい」

 

「…ミツルギさん?」

 

「…俺もそう思う。アンリを心配するあまり落ち着かないかもしれないが冷静に考えてみろ?確かに冒険者ギルドに依頼として出してアクセルの街の冒険者を総動員すればあっさり見つかる可能性もある。問題はその後だな」

 

カズマがそう言えば、納得したようにめぐみんも続いた。

 

「なるほど、いくら比較的に治安の良いアクセルの街でも善人ばかりがいる訳ではありません。アンリに多額のお金をかけられる前例を作ってしまう事が後に本当に誘拐などを引き起こしてしまう可能性もある訳ですね」

 

「とりあえずすぐに行動するべきだろう。アンリが自分で屋敷に帰ってくる可能性を考えて、1人は屋敷に残り、残り6人はペアで捜索を始めよう」

 

「結果がどうあれ、12時には一度此処に集まるぞ。情報を共有したい」

 

話を進めた全員は、探索する場所をアンリのよく赴く場所へと絞ってそれぞれ捜索に向かった。ひとつは冒険者ギルド、そこにはダクネスとめぐみんが向かい、ウィズ魔法店にはアリスとゆんゆん、そして商店街にはカズマとアクアが。そして屋敷にはミツルギが残る事となったのだった――。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。