内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 172 駆け出し冒険者の現状

 

 

 

 

 

―アクセルの街・商店街―

 

あれからダクネスとめぐみんは屋敷から出て冒険者ギルドへと向かっていた。その途中も気を配り、道行く人に聞き込みをしながらも進む事で進歩は遅いものだったが、着実に冒険者ギルドへと近付いていた。

 

「…しかしここまで目撃情報がないと不安になるな…」

 

「考えすぎですよ、単純に商店街には行かなかっただけだと思いますし」

 

残念ながら成果は無かった。それもそのはず、アンリは住宅街エリアでエシリア達と出逢い冒険者ギルドに向かった。つまりカズマの屋敷から真っ直ぐに向かえば商店街を通る事になるのだが、住宅街を経由すれば若干遠回りになるものの、商店街を経由しなくても冒険者ギルドへ行く事は可能なのだ。なので真っ直ぐに冒険者ギルドへ向かい商店街に入っていたダクネスとめぐみんに情報が入らないのは当然の事だった。

 

「おや?ダクネス、あの2人は…」

 

「…確かアクセルハーツの…」

 

アクセルハーツの面々とカズマ達との面識は今のところあまり多くはない。せいぜいが冒険者ギルドでの顔馴染み程度のもので、大きく関わるきっかけになったのはエシリアの件が最初である。それでもアクセルハーツの面々は冒険者ギルドでもかなり目立つ見た目故に以前は挨拶程度だったものも、普通の冒険者よりは身近な存在として二人には残っていた。

 

そんな二人のアクセルハーツ…桃色のツインテールの少女と金髪の天然パーマな少女もまた、ダクネスとめぐみんの存在に気が付くと、ダクネス達に向けて大きく片手を挙げて振ったと思えばそのまま駆け寄って来た。

 

「あ、あの、先日はお世話になりました!」

 

出会うなり開口一番に金髪の鶯色が主体の服装をしたプリースト、シエロは深々と頭を下げる。おそらくエシリア事件の事を言っているのだろうというか、ダクネス達にはそれくらいしか心当たりがなかった。

 

「あの事ならば何も気にする必要はない、こちらとしてもアリスを見つける事ができたからな」

 

「そう言ってもらえるとこちらも助かります…」

 

あの事件でカズマのパーティに頼った事で負い目に感じているのか、シエロの低姿勢は変わらない。そんな話をしていて気になったのか、シエロの横に立つエーリカは不思議そうに声をあげた。

 

「アリスを見つける事ができたって…、あの子迷子か何かだったの?」

 

「今思い出してもあの事件は謎だらけですからね、考えるだけ時間の無駄でしょう。それより聞きたい事があるのですが」

 

「そう言われると余計に気になるのよねぇ…、って、あー大丈夫大丈夫、可愛いエーリカちゃんは言われなくてもそちらの言おうとしている事はしっかり理解しているからね」

 

本題に入ろうとめぐみんが話を促すが、それはエーリカによって阻止されてしまう。そしてその内容を理解しているという。これにはめぐみんとダクネスは困惑した様子で顔を見合わせた。

 

「…と、言いますと?」

 

「話は聞かせてもらったわ。というか聞いたから私とシエロは冒険者ギルドからここまで探しながら歩いてきたんだし」

 

「はい、冒険者ギルドにはいませんでしたよ?見たって人も残念ながらいませんでした…」

 

「何…?そうなのか…?」

 

再びダクネスとめぐみんは顔を見合わせた。一体どうしてと思うも、言われた内容はこちらが聞きたかった事と一致している。この際言ってしまうがエーリカの言っているのはちょむすけのことであり、ダクネス達が探すアンリのことではない。

 

「話は聞いたと言いますが…誰に聞いたのですか?私達が捜索を始めてそう時間は経っていないはずですが…」

 

「エシリアちゃんですよ、あの子もリアちゃんと一緒に別の場所を探してます」

 

エシリアの名前を聞いてめぐみんは再び首を傾げる。ここで出てくる名前はカズマの屋敷のメンバーの誰かではないと辻褄が合わないからだ。何故なら現状アンリがいなくなったことを知っている人は屋敷に住んでいるメンバーしかいないのだから。

ならば他に探しているアリスやゆんゆん、カズマにアクアが屋敷を出てすぐにエシリアに出逢ってから事情を説明した後にエシリアがアクセルハーツの面々に話したのだろうか?そう考えるがめぐみんとダクネス以外のメンバーは冒険者ギルドとは逆方向に捜索に出ているはずなので明らかに時間が合わない。逆方向にいるはずの他の仲間に話を聞いてから冒険者ギルドに行くのならまずエシリアは自分達に出逢わなければそれこそおかしな話だ。道が違うとしたらそもそもエシリアは冒険者ギルドに着いてすらいないはず。

 

「それで私達は、街の入口にでも行こうと思ってね。流石にないと思うけど街の外に行った可能性もあるし、外に出るなら基本的にあの場所に行くと思うし」

 

そうこう思案するも考えて立ち止まる時間を惜しく感じたのは街の外と聞いてからだった。めぐみんとしてもその可能性は排除してしまいたい。

 

「街の外……ですか…そうなると本当にまずいですね。可能性を潰す為にも私達もそこを当たってみますか」

 

「まさか故郷に帰りたくなったとか……いや、憶測で考えても仕方ない。ならば私達も向かうとしよう。街の入口は広く人も多いからな、聞き込みをするにも人手は必要だろう」

 

そんな話をしてシエロ、エーリカ、ダクネス、めぐみんの4人はアクセルの街の入口である噴水広場へと向かっていく。目指す先は同じなのだが探すものが違うことにこの4人が気付くのは…、もう少し経ってからになる。

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

 

―冒険者ギルド―

 

今日の冒険者ギルドは朝から賑やかな様子だ。駆け出し冒険者の多いこの街の特色として、自然と若い冒険者が多い。一部壮年の男性冒険者っぽい者もいたりするが、そもそも冒険者じゃなかったりする。酒場を併設しているので自然と冒険者以外の人間も気軽に足を運んでいるのだ。

 

「おう坊主、此処は冒険者ギルドであり酒場だぜ?お前みたいな子供が何しに来たんだ?」

 

「ひ、ひい!?」

 

と、こんな風な会話もよく聞いたりするが、言ってる男は見た目からして熟年冒険者の風格でガラの悪い感じなのだが、実はただの街の大工だったりする。ようは一般人なのだがデビューしたての若い冒険者からしてみれば恐怖でしかない。もしかしたら駆け出し冒険者が怯える様子を見て楽しんでるのかもしれない。

 

「ぼ、僕は冒険者になりに来たんだ!子供じゃないよ!もう14歳なんだから立派な成人だよ!」

 

「ほう…冒険者になりにか、そいつはまたイカれた野郎が来たもんだな。受付は向こうだ、せいぜい適正を見て泣かないようにな?ガッハッハッ!」

 

「バ、バカにして!見てろよ!」

 

少年は酒を飲みながら笑う男を躱すようにギルドの受付へと向かう。そしてしばらくしてから落胆した様子でその場を去っていった。望む適正がなかったのだろうか?男性はその背中を見ながら笑うかと思えば少し寂しそうに目を細めていた。

 

「やれやれ、やっぱり駄目だったか」

 

「もう、あまり新人冒険者の子をからかわないであげてくれません?」

 

「お?ルナか、そいつは悪かったな、ガッハッハッ」

 

悪態をつくどころか気さくな様子でギルドの受付であるルナにそう返せば、ルナは呆れたように溜息をついていた。

 

「それにしても最近特に多いんじゃないか?新人の駆け出し冒険者ってやつがよ」

 

「…そうですね…、原因は多分…佐藤和真さんのせいかと…」

 

「…なるほどな」

 

佐藤和真。その名前が出てきただけで男は察したように酒を口に運ぶ。別にカズマが何かやらかした訳ではない。結果を残したという意味ではやらかしているのだが、彼は最弱職である冒険者という職業に就いているにも関わらず、既に4人もの魔王軍幹部を討伐し、街としても有名なのは機動要塞デストロイヤーの破壊という有り得ないほどの功績を残している。

 

そうなれば一般的にどのように見られるだろうか?これが上級職であればまだしも、成したのは冒険者、最弱職がそれほどの功績を残せるのなら、自分ならもっと上手くやれる、そんな者が出てきてもおかしくはないのである。これはカズマがどうというよりも、それだけ冒険者という職業そのものが不遇であり、下に見られているからである。

 

「新人で上級職というと…最近ならあそこにいるお嬢ちゃんくらいか」

 

そう言いながらも男は視線だけで奥のテーブルに座る少女を指した。今は黒髪ロングの冒険者と小さな女の子とで朝食を摂っているようだ。

 

「エシリアさんですね、アクセルハーツの方達とパーティを組んで順調にクエストをこなしてますね。討伐数も凄いですし、最近の唯一の期待のルーキーです。…ただ…本来上級職なんて簡単になれるものではないですから…」

 

俯きがちなルナは苦笑しつつ言うと、そのまま受付へと戻って行った。何を言いたいかはなんとなく理解したのか、どこか納得したように一度だけ、男は頷いた。

一般的に冒険者ギルドで冒険者登録をして即上級職への転職をする人材などは本来滅多にないことなのだ。アリスやエシリアは転生特典による恩恵、アクアは女神故に。例外としては生まれながらにアークウィザードの資質を持っている紅魔族がいるくらいだろうが、彼女達は紅魔の里で魔法学園を卒業と同時にアークウィザードの職に就くことになるので冒険者ギルドと直接の縁はない。

 

転生者であるミツルギも最初はソードマン…下位職である剣を扱う戦士でしかなかったが、魔剣グラムの恩恵が大きく着実にレベルアップを重ねて瞬く間にソードマスターへとクラスチェンジした。いくら転生者であってもアリスのように個人ステータスの恩恵がない限りそう簡単に序盤から上級職になどなれるはずもない。そう考えればアリスの転生する際の選択はかなり有利かつチートなものでもある。ステータスは勿論のこと、装備もスキルも最初から備わっているのだから言ってみれば強くてニューゲームを地で行っているのだから。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

一方一時的な注目を浴びたエシリアは、朝食を食べ終わるなり頬杖をついてもくもくと朝食を食べるアンリを眺めて独り言ちる。

 

「……可愛い」

 

『…――?』

 

サンドイッチを小さな口で頑張って頬張るアンリに完全に心奪われていた。それを見たアンリは不思議そうに首を傾げる。その仕草すら可愛らしいのは言うまでもない。

 

「…エシリア、アンリを見る目が完全にアリスと同じになってるぞ…」

 

ボソリと呟いたエシリアはリアのツッコミに一瞬ヒヤリとするも、自分の危惧した意味ではないとわかると誤魔化すように傍にあったティーカップのミルクティーを口に含ませて無理やり落ち着いた。

 

「そ、そうは言うけど、可愛いのは可愛いんだから仕方ないじゃない」

 

「否定はしないが…あまりエーリカの前で言わないでくれよ?変に対抗するからな」

 

「可愛いに命かけてるからね、あの子…、まぁ気を付けとく…」

 

「とりあえず、そのエーリカやシエロも捜索してくれている。アンリが食べ終わったら私達もちょむすけ捜索に行くとしよう」

 

「シエロはともかく、エーリカはよく引き受けたよね…、何かしら文句言われる覚悟はしてたんだけど」

 

既に二人には事情を話した上で先に捜索してもらっている。単純にアンリを連れて冒険者ギルドに来た時に二人は朝食を先に終えていたからだ。機転が効いた行動ではあるがこの場合は悪手でしかないことは当然ながら二人は知らない。先に捜索に出ていなければダクネス達に会う事もなく、ダクネス達が冒険者ギルドに来る事でアンリは発見されていたのだから。

 

「エーリカはそんな子じゃないぞ。確かに普段の言動からそんなイメージはあるかもしれないが…、何よりあの屋敷のメンバーには以前世話になっているからな、借りを返したいってのもあるかもしれないな」

 

「そ、それを言われると私も思うところはあるけど……、エーリカで思い出したけどさ、あの子ってなんであんなに可愛いことに執着してるの?」

 

「……まぁ今はエーリカもいないし、話すのは構わないが…」

 

あの件についてはエシリアからすれば後ろめたさがあった。自身が暴走した結果巻き込まれた形でもあるのだから。もっともその暴走があったからこそこうしてリア達と巡り会えて、今もこうして共にパーティを組めているのだから後悔はしていない。それでも気恥しさは大きいので話題を変えたところ、意外にもリアの反応は真面目なものだった。

 

「…えっと…予想外の反応なんだけど、聞いちゃっていい話なんだよね…?」

 

エシリアは自然と重くなる空気を感じ取ると、それを確認するように問うが、リアは静かに儚い笑みを見せて頷いた。

 

「エーリカも隠している訳ではないからな、話すのは問題ない。…エーリカは物心ついた時から孤児だったんだ、施設で育てられたらしい。それで…何故そうなったかまでは分からないが…自分が可愛ければ、きっといつか両親が見つけてくれるって、本気で思ってるんだ」

 

「……だから、アイドルなんて…」

 

「あぁ、あの子のアイドルをやってる一番の目標は、そうやって可愛く目立つ事で両親に気付いて欲しいんだ」

 

「……そっか」

 

それ以上エシリアは何も言えなかった。どうもマイナス方面にばかり話を考えてしまうのは悪い癖なのかもしれない。まずその両親は今もまだ生きているのだろうか?物心ついた頃なら下手すれば赤ん坊の時とかそんな時から施設にいた可能性もある、今や成長したエーリカを見て両親は気付くだろうか?何よりも事情は分からないが施設に預けられてた理由次第では出逢う事はないのかもしれない。出逢えないのかもしれない。

 

「…とはいえ、今は活動場所がアクセルだけだからな、これからどんどん活動して、いずれは王都で歌う事を目標にしている。より多くの人に私達を見てもらわなければならないからな」

 

「…なんか凄いね…私にはとてもできないや…」

 

「そうか?エシリアは良い声をしているし、一緒に歌ってくれたら盛り上がると思うんだが」

 

「え、えぇっ!?いやいや無理だから!?」

 

まさかの勧誘にエシリアは驚きその場で立ち上がった。人前で歌うなんてせいぜいカラオケで歌った事がある程度であり、それも元はアリスの有栖川梨花としての記憶からのものでしかないので実際にはカラオケすらないことになる。そんな状態でたくさんの人の前で歌って踊ってなんてできるはずもない。

 

「ふふっ、それは残念だ。気が向いたらいつでも言ってくれよ?エシリアならきっとエーリカやシエロも歓迎してくれるさ」

 

「も、もうこの話はおしまい!!それよりそろそろアンリちゃんは食べ終わっ……た……か…な??」

 

再び誤魔化すようにその顔をアンリの座っていた場所へと向け、そしてエシリアは沈黙した。振り向いた事でその状況にリアも気が付く。

 

「……アンリは…何処に行ったんだ?」

 

「えっ、なんで??今までサンドイッチ食べてたよね??」

 

二人して話し込んでアンリから目を逸らした数分の間。その僅かな時間によって…、アンリはこの場から居なくなっていた――。

 

 

 

 

 

 


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