内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 177 一年遅れのキャベツ収穫戦

 

 

 

 

―アクセルの街・門前広場―

 

―アリス視点

 

私とゆんゆん、ミツルギさんとアクア様の4人は放送で言われたようにアクセルの入口と言える場所に来ていた。そこには数多くの冒険者が募り、臨戦態勢でいるのだが……。

 

なんだか様子がおかしい。否、思っていたのと違う。

 

「……何がはじまるんでしょう?」

 

「…モンスターか何かの襲撃と思ってたけど……それにしては…」

 

疑問視したのは集まった冒険者の装備である。勿論剣や槍、斧などを持った冒険者もいることはいるのだが、中には大きな虫取り網のようなものを持っていたり、背中に大きなザルを背負っていたりと、とてもモンスターの迎撃に備えるような装備ではない。

 

「お、アリスか、お前も来たんだな。だけど…残念だったな」

 

「…ダスト?」

 

私らが周囲の様子を見渡しているとかかった声の主はダスト。片手に剣はいつものスタイルだがもう片手にはサンタクロースが持つような大きな袋。これもまた妙な組み合わせだった。

 

「お前らのパーティはギルドが呼んでたぜ?…ほら、あそこにルナが」

 

「あ、アリスさん!ようやく見つけました!すみませんがアリスさん達にこのクエストを受けてもらう訳にはいかなくて…!」

 

ダストが指す方向から慌てるようにルナさんが走ってくる。ようやく見つけたと言う言葉通りルナさんの表情は安堵したようにも見えて、よほど私達を探していたのだろうと思わせる。ダストは私に片手を振るとルナさんと入れ替わるように街の入口方面へと歩いて行った。

 

「……どういう事ですか?すみませんが来たばかりで何が起こっているのか把握しきれていません」

 

正直イライラしている。こちらとしてはアンリが心配で仕方ないのだ。本当なら無視してアンリを探したいくらいあるのだがそうもいかないので即片付けてアンリの捜索を再開しようくらいは考えていたのだから。

確かにバニルから待ったはかかっているものの、一度屋敷を出てしまえば既にそのバニルの忠告は無視したことになってしまうのだから。それならば想いのままにアンリを探したい気持ちが勝ってしまう。

 

それがいざ来てみればクエストの参加そのものが拒否されるとは予想だにしていなかった。よって私には不快感を顔に出していることすら自覚できた。

 

「それも合わせて説明しますので…!」

 

そうすればルナさんは私達の世界の拡声器に似たものを取り出して、それを口に当てて話し出した。

 

「冒険者の皆さん、本日は急な召集に応えていただきありがとうございます!早速ですがクエストの説明をします!今この街に毎年恒例となるキャベツの大群が迫ってきてます!それを追うように大量のモンスターの群れもです!!キャベツは今年も出来が凄く良いらしく昨年同様1玉10000エリスでの買取となります!!」

 

 

「「「うおおおおっ!!!」」」

 

そう聞けば、襲撃の内容は完全に明らかになった。このキャベツの収穫クエスト、去年は確か私は別のクエストで遠征していて受けられなかったはず。あれからもう1年経ってるんだなと感慨深くもあるが、それ以前に参加させられないとはどういう事だろうか。と思うもそれはすぐに理解できた。

 

そう思ってると冒険者達は次々とアクセルの門を潜り迎撃しようと、もとい収穫しようと走り出す。それに合わせるようにルナさんは拡声器を下ろすとこちらに向けて頭を下げた。

 

「…そういうことですので…できたらアリスさんのキャベツ収穫の参加は御遠慮して欲しくて…」

 

「…そういう事なら構いませんよ、なら私達は取り逃して街に入ろうとしているキャベツとか後から来ているモンスターを担当したらいいですか?」

 

「は、はい!話が早くて助かります!!勿論内密にですが別途報酬はお出ししますので!」

 

「要りませんよ、討伐した分だけ貰えたらそれでいいです、…ですよね?」

 

確認するように私がゆんゆんやミツルギさんに目を向ければ、2人して問題ないと頷いてくれる。

そもそも何故ギルド側がこのような提案をしてくるかは一目瞭然だろう。私の魔法でキャベツ達を一網打尽にしてしまう事を恐れているのだ。

本来これが普通のモンスターの襲撃とかならその行動は喜ばれると思われる。

 

しかし忘れてはいけない、この街は駆け出し冒険者の街である。駆け出し故に貧乏な冒険者が比較的多いのだ。

駆け出し冒険者の街故に普段募集されているクエストもそこまで高額なものは滅多にない。あるとすればそれは駆け出し冒険者ではとてもクリアできないような高難易度なクエストくらいだろう。

そんな駆け出し冒険者にとって、年に一度しかないキャベツ収穫のクエストは大金を稼げる美味しいクエストなのだ。

 

さて、そんな駆け出し冒険者の希少な美味しいクエストに私が無慈悲に参加するとどうなるだろうか。はっきり言おう、どんなに数多くキャベツがいようとも私ならバーストの魔法1回でほぼ全滅状態に追い込む事が可能だ。駆け出し冒険者でもそこまで苦なく倒せるキャベツなのだ、火属性など付与しようものなら灰も残らないと予想できる。…とは言ってもこれは討伐ではなく収穫なので攻撃によりキャベツがダメになってしまってはいけない。

よって手加減する必要がある。具体的にはマナリチャージフィールドのデメリットを利用して攻撃力を半減させた上で杖も使わずにバーストを使うかストームで竜巻を起こして吸い込む方法もあるし、私の魔法なら呆気なく大量のキャベツ収穫が可能なのである。

 

そうすればどうなるか、当然私がそれをやらかせば他の駆け出し冒険者の収穫は大幅に減る。もしかしたらないに等しい人もいるかもしれない。そうなれば駆け出し冒険者の人達は穏やかではいられないだろうし私もそんな暴挙をするつもりはない、何よりお金には困ってないし。

 

ルナさんが私のパーティ…もとい私に言ってきたのはそういう理由からだろうと察する事は容易いものだ。

 

それならそれで、私達は街に侵入したキャベツやモンスターを処理するだけである。ようは裏方担当だ。

 

「キャベツ程度でしたら各個に別れても問題なさそうですね」

 

「わかった、それなら僕は街の壁沿いに回ってみよう」

 

「じ、じゃあ私は畑や牧場を見てくるね」

 

「よろしくお願いします、収まり次第家に帰りましょうか」

 

つまり私達がするべき事は単純、アンリを捜索するついでにキャベツやモンスターを見かけたら駆除する、である。モンスターは勿論、キャベツでさえも戦えない一般人からしたら脅威なのは違いないのでそちらに手を抜くつもりもないが、私としてはアンリが最優先になるのは仕方ないのだ。

 

 

なお気が付けばアクア様の姿はどこにもなかった。最近お金に困っていたようだしキャベツ収穫に向かったのだろうか。カズマ君のパーティは特に制限を受けてないので問題はないかもしれないが、あの謎の卵を持ったまま満足に収穫できるのだろうか。と思うも、何よりアンリが心配なのでそれ以上アクア様の事を気にする事はなかった。

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

―アクセルの街・郊外―

 

キャベツやモンスターは街の外から向かってきている。ならば街の外側をぐるりと回りながら進むのが得策だろう。

そう思い私はミツルギさんとは真逆から早足で進んでいる。ミツルギさんの方向は商店街方面なら私の向かう方向は住宅街方面といったところか。

こうして歩いていても今のところ特にキャベツやモンスターを見かけることはない。私としてはハズレを引いてしまったようだ。

 

とはいえ警戒を解く訳にもいかない、私達冒険者ならまだしも逃げ遅れた一般人…それも小さな子供や老人などが出くわすれば危険なことに変わりない、つまりこれは必要な巡回なのだ。

 

それにしても本当にアンリはどうしてしまったのだろう。アクセルに来てまだ日は経っていないものの、それでも何も言わずに居なくなるような子ではなかったのに。

 

……でもなんとなく原因はわかっている。おそらく私が悪いのだろう。

 

アンリは独りぼっちにさせてはいけない存在なのだ。

 

60年余りもの間自我をなくしてモンスターとして生きてきて、意識が戻れば自身の家族は誰一人存在しない、滅び廃れてしまった実の村と家。

ならば私が、私達がこれから家族になってあげよう。そう思ったからこそアンリを引き取ったのだ。

 

なのに私は危険だからという理由で基本アンリにはお留守番を強要していた。実際に危険なのは確かだ。私達が受けるクエストは王都でも高難易度と言われる討伐クエストが多い、もといそういったものしか受けていない。

それによる討伐報酬よりも凶暴なモンスターを倒した際の経験値が目的だったりするのだから。

とてもではないがそんな危険なクエストにアンリを巻き込む訳にはいかない、これは私だけではなくゆんゆんやミツルギさんも賛同してくれた。

 

しかし私達にどのような想いがあろうとも、結果的に私達はアンリを屋敷に閉じ込めているだけではないだろうか。アンリは物分りが良い、基本お留守番と言い聞かせても文句ひとつ言うことはない。

だけどそれはアンリの内心まで見ていなかったのではないだろうか。あんな小さな子なんだ、寂しくない訳がないのだから。

 

それにこんな風に閉じ込めておいたら私達はお城の人達とアイリスの関係と全く変わらない。外は危険だからという理由でアイリスは満足に外出もできないのだから。今こそアイリスは週に一度だけ外出が許可されているがそれは私達と出逢ったからだ、もしあの出逢いがなければ未だにアイリスは箱入り娘のままだっただろう。

 

あれほどアイリスの在り方をよく思っていなかったのに、私はそれと同じ事をアンリに強要してしまっている、そう思えばアンリが家出してしまうのもわからなくはない話なのかもしれない。

 

 

 

 

…それにしても平和だ。ミツルギさんやゆんゆんが向かった側ではキャベツやモンスターと鉢合わせているのだろうか?とはいえ心配は全くしていない。モンスターと言っても所詮駆け出し冒険者の街近辺であり強いモンスターであっても初心者殺し程度だろう。確かにゆんゆんと初討伐したのが初心者殺しではあった、当時のゆんゆんは2人きりで初心者殺しなんてとビビりまくりではあったがあの頃とはレベルが違いすぎる、今のゆんゆんの魔力なら中級魔法の一撃で倒せるだろうと確信がもてる。

 

早足で歩いてきたがやはりキャベツやモンスターは見つからない。おかげでまた色々と考えてしまう始末である。

 

……と、思っていたら。

 

 

「……は?」

 

思わず立ち止まり2度見してしまう。間抜けな声まで出してしまった。

何故かと聞かれたら異常な光景を目撃したからだ。それは防壁に張り付いた緑の塊だ。その正体は街の防壁の一部分に群がる大量のキャベツ、これはよく見ないとキャベツと判断するのに戸惑われた。そんなキャベツが山となってひとつ、またひとつと防壁を飛び越えているのだ。

私が知っている情報だと本来キャベツにあんな知恵はない。防壁があろうものならそれを避けようと迂回するはずである。

 

あの場所に一体何があるのだろうか。あの辺りは確か郊外であり目立ったものは何も…。

 

「……目立ったもの……ありましたね…」

 

ふと思い出したのは郊外に位置する場所にある一件の喫茶店。そう、以前偶然出向いたサキュバスの喫茶店だ。

 

何故あの場所にキャベツが群がっているのか、それはわからないがこのままでは宜しくない。見る限り山となって防壁を越えているのだ、つまり街への侵入を許してしまっている。そうなると流石に危険だ。

 

そう思うと、私の行動ははやかった。

 

杖を背中に携えたまま目を閉じて詠唱を始める。あれだけ固まってくれているならバーストほどの広範囲スキルを使う必要はない。しかし見る限り100を超えていそうなキャベツの数なのだけどそれを私が一網打尽にしてしまうことの罪悪感があるくらいだろうか。

それでも今から他の冒険者を呼びに行く余裕はない。よって私は許されるはずである。なので遠慮なくやってしまいましょう。

 

 

「…風よ、舞い上がれ!!《ストーム》!!」

 

手加減をしたいのであえて杖を使わず、属性付与も行わず放ったのはストーム。私の声に応えるように暴風が巻き起こり竜巻を生成する、それは固まっていたキャベツ達を一気に飲み込んでいく。上手く加減ができたようでキャベツ達は軽く切り刻まれた後に目を回してその場で転がっていく。一部のキャベツはそのまま舞い上がり防壁の奥…つまり街の中に落ちていったがまぁ問題はないだろう、あの状態ならキャベツはそのまま落ちて動けなくなるはず。

落下先に誰かいるかもと想定したが今はギルドのアナウンスで避難指示は終わっているので外に出ている人はいないと思われる。

 

 

「後は……あれですか……」

 

キャベツがここまで大量に1箇所に集まっているとなれば、そのキャベツを狙うモンスターもまたそのキャベツを追うのは当然の事。20~30前後の数の獣型のモンスターが視認できた。それは私が倒したキャベツを横取りするつもりなのか、私に目もくれず防壁の傍のキャベツに向かっているようだ。

 

「今度は加減する必要ないですね…」

 

杖を構える、せっかくだから新調したフレアタイトの魔晶石を使ってみようと杖に装着。距離もまだある、今から始めても詠唱は間に合う、実に安全で余裕すらもてる。それがあんな大量の数のモンスターがやってきているにも関わらず落ち着いて対処できている理由なのかもしれない。

 

しかしあのキャベツが越えた防壁の先には何があるのだろう、既にかなりの数のキャベツの侵入を許しているはずだ、すぐに向かわなければ。そう思いながらも、私はモンスターの掃討を急ぐ、すると新調したフレアタイトの魔晶石はかつてない美しい輝きを放ったのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

―サキュバスの店前―

 

 

防壁を越えたキャベツ達は次々とカズマ達に襲いかかる。食べられてたまるものかと必死の抵抗を見せる為にそうしているというのがキャベツの通説ではあるものの、今回ばかりはそれが異なって見えていた。

 

「なぁ、俺キャベツについてはあまり詳しくないんだけどさ、そもそもこいつらってこんな風に壁を越えたりするものなのか?少なくとも去年収穫した時にはこんな動きしてなかったと思うんだけど」

 

「私が知る限りではありえないですよ!あるのはあくまで生存本能くらいで仲間と協力して壁を越えるなんて聞いた事がありませーん!」

 

「それだけ動きながらもよくそんな流暢に話せるものね、舌を噛むわよ?」

 

「お前も手伝えよ!?見た目からしてキャベツくらい余裕だろーが!!」

 

「何言ってんのよ、私が動いたら誰がこの子を守るの?それに…!こいつら…!…さっきからこっちにしか…!…来てないんだけど!!ちゃんと逃さず倒しなさいよ!」

 

 

ちゅんちゅん丸で迎撃するカズマに、箒で叩き落とすロリーサ、そしてそれを後方で眺めていたメリッサだったが、カズマとロリーサが倒し漏らしたキャベツは全てメリッサへと向かっていた。最初は傍観していたメリッサだったが、向かってくるキャベツを見れば右手にはダガーにしては大きく剣にしては小さめな曲刀を手に、襲いかかるキャベツをひとつ、またひとつと華麗に切り落としていく。

 

やはりおかしい。もしかしたらメリッサがキャベツの気を引く何かを隠し持っているのだろうか。いやキャベツになんらかの好みがあるなんて話は聞いた事がない。

 

そう思っていたら異変が起こる。

 

「…な、ななななんですかあれはぁ!?」

 

「た、竜巻?どうなっているの?こんな風の少ないところであそこだけ…?」

 

防壁の上から見えたのは巨大な竜巻、勿論アリスの魔法によるものだがロリーサとメリッサはそんな事を知らない。

 

「いや…あれは魔法だ!壁の向こう側から援護してくれてるやつがいる!」

 

「竜巻を起こす魔法なんて見た事ないですけど!?」

 

とはいえ今の状態で援護はありがたいものでしかなかった。守るべき者がいる状態で終わりが見えない戦いなど例え弱いキャベツが相手でも遠慮したいものだ。

そしてカズマには確信があった。あの竜巻の魔法はおそらくストーム…つまりアリスの魔法であると。この襲撃も無事に終わるだろうしアンリの件も解決して無事に連れ戻せる。

 

 

――しかしここで予想外な事態が起こった。

 

「あ……め、めめめメリッサさん!!危ないですよ!!逃げて!!」

 

「……?…なんなの…っ!?」

 

竜巻により舞い上がった大量のキャベツは一斉に空中に投げ出されて…、そして不幸にもメリッサの頭上から落下していく。その数はかなりの数だ、とても曲刀ひとつで捌ける数ではない、だからこそ逃げてとロリーサは警告した。

 

「…くっ!!」

 

「…そうかアンリが!?」

 

メリッサだけなら避ける事は難しくはなかった。だが今メリッサのすぐ傍にはアンリがいる。このままではキャベツ達の下敷きになってしまう。

緊張感がないかもしれないが甘く見てはいけない、新鮮で実の詰まったキャベツはとても堅い。それが空から落ちてくるとなると重力も重なって例えるならボーリングの玉が降ってくるようなものなのである、小さな子供が頭など当たり所が悪ければ即死もありえるのだ。

 

「メリッサさん!!」

 

「アンリ!!」

 

結果的にメリッサはその場でしゃがんでアンリを抱きしめてキャベツから身を守るように自身を盾にするしかできなかった――。

 

 

 

 

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