―カズマ君の屋敷・リビング―
「アンリちゃん!!無事だったのね!!良かった!!」
「やれやれ、大人しい子と思っていましたがこうして見ると随分と行動的なのですね、こめっこを思い出しましたよ」
屋敷に帰るなり出迎えてくれたのはゆんゆんとめぐみん。ゆんゆんは不安そうな顔つきから一転、瞳を潤ませながらアンリの元へと駆け付けてその小さな身体を抱きしめた。
「ふふっ、まぁ無事に見つかって良かった。大人しくて行動的なのは、もしかしたら保護者に似たのかもしれないしな」
「ははっ、それは言えてるかもしれないね、でも本当に無事で良かったよ」
「うっ…ご迷惑をおかけしました…」
ダクネスが穏やかに言えば、ミツルギさんも同意する。これには私も何かを返す事もできずに謝る事しかできない。
「まさか勘違いしていたなんてね…、結局ちょむちゃんは此処にいるし」
「なー?」
ふと見ればリビングには大勢の人がいる。屋敷の人間だけではなく、エシリアやリア達アクセルハーツの面々まで。
エシリアはちょむすけを抱き抱えながらそう呟けば、ちょむすけはその腕の中で不思議そうに首を傾げた、多分状況が分かっていないのだろう。
そして私はそのエシリア達の存在に気が付くなり、事態はかなり大きくなっていた事に改めて自覚することになった。
「まさかエシリアやリア達も手伝ってくれてたなんて…」
「別に気にすることないし、今夜の夕飯でもご馳走してくれればね」
「……エシリア…なんだか強かになりましたね…」
環境がそうさせたのだろうか。さも当然とばかりに言ってくるエシリアには違和感を覚える。これは私がアリスとして変わっていったようにエシリアもまたそうなっているのか、あるいは相手が『私』だから遠慮がないだけかもしれない。…多分後者だろう。
「ふふっ、エシリアはこう言っているが本当に気にする必要はない、これで以前の借りを少しでも返せたと思えばそれだけでもこちらとしては救われる……と、言いたいところなのだが…」
「……?」
穏やかな様子から、どこか気まずそうに頬をかくリア。それに釣られるように後ろの2人、エーリカにシエロもどことなく気まずそうに見える。
「その…だな、私達は早々にアンリとは出逢っていたんだ、だけどアンリはちょむちゃんを探してると言っていたから…」
「ボク達はそのままちょむすけちゃんの捜索を手伝っていたんです…」
「うっ…まぁ…そう言われると…その上そのままアンリを見失ったから、ぶっちゃけ状況をややこしくしただけというか…」
「で、でもでも、仕方ないじゃない!私達だって頑張ってアンリの期待に応えようと頑張ったのよ!」
在り方を重視している3人と、過程を重視しているエーリカ。だけどここは素直に結果を重視してもらいたい。そう思えば気まずそうな4人に私は自然な笑顔で接することができた。
「終わりよければすべてよしと言いますし、それでも私は皆さんに感謝してますから。夕飯くらいで喜んでもらえるのでしたら、是非ご馳走させてください」
「あははっ、流石アリス、話せばわかる!」
「こらこらエシリア、お前とアリスが旧知の仲なのは聞いているが親しき仲にも礼儀ありだ。あまり調子に乗らないようにな?」
「…はぁい…」
そんな会話を聞いていれば再び私には自然と笑みが零れた。今のエシリアとリアはまるでゆんゆんに怒られている私のようだな、と。もっとも旧知の仲というのは違和感が半端ないのだけど、旧知どころか元々は同じ自分である訳だし。まぁそんな事を言える訳もないのでできるだけ顔に出ないようにするしかない。
『……ちょむちゃん――!』
「あっ」
「なー?」
ゆんゆんに抱きしめられていたアンリはちょむすけに気が付くなりエシリアの抱えているちょむすけの元へと走る。するとちょむすけもまたアンリに気が付いてエシリアの腕から飛び降りた。
可愛い×可愛いである。頬擦りしているのを見れば自然と言葉を失い癒されてしまう。なんだかんだあったがこれで全て解決かと思えば安堵の息を吐いてしまう。
あとは……――。
「この猫がちょむちゃんね……あぁ、なんて可愛いのかしら…♪」
来るまではダークな感じのクールビューティーなお姉さんだったメリッサさんなのだが、ちょむすけとアンリの可愛さコラボを見るなり愛しそうに見つめながら悶絶していらっしゃる。来るまでにこの街には私に用があって来たと聞いたものの、一体何が目的なのだろうか。
……まぁこうして見る限り悪い人ではないようだし、話は聞くだけ聞いてみるつもりではある。
……
―カズマ君の屋敷・リビング―
落ち着くまで時間がかかったものの、エシリア達の約束は夜に改めてという事でこの場は一旦帰ってもらった。アンリはあんな事があったばかりなのでリビングの隅でちょむすけと戯れてもらっている。そして私達のパーティに用があるとのことなのでカズマ君達にも退出してもらった……というよりカズマ君はアクア様に会うなり物凄い怒鳴りながらアクア様を連れてどこかに行ってしまった、理由はさっぱり分からないがアクア様がまるで我が子のように大事そうに抱きしめていた大きな卵が何か関係があるのだろうか?気にはなるものの、まずはメリッサさんの話を聞かなければ。
「あ、あの……口に合うかわかりませんが、紅茶です」
「あらありがとう、いただくわ」
ゆんゆんが人数分のお茶をテーブルに置けば、そのまま私の隣に座る。位置的に大きなソファに私とゆんゆん、対面にメリッサさんが座り、間のソファにミツルギさんが座っている。
「それで……お話というのは?」
「……そうね、単刀直入に言うわ、私を貴方達のパーティに入れてほしいのよ」
「……理由を聞いても?」
悠々と紅茶を口に運ぶメリッサさんを前に私達の目は一瞬だけ見開いたと思う。予想だにしていなかった言葉が出てきたのだから当然だろう、そして私は流れるように自然にそう返した。
「単純な話よ、今や王都でも一番の実力と実績を持つパーティなんだもの、王族にまで顔がきいて魔王軍の幹部討伐の実績もある、そんなパーティに入りたいと思うのは冒険者としておかしなことかしら?」
「…買いかぶりすぎですよ、王族に顔なんてききませんし、魔王軍の幹部討伐も私達だけの力ではありません。先程まで一緒にいたカズマ君達がいたからこそです」
どうもこのメリッサさんの底が見えない、確かに悪い人ではないとは思うのだけど、正直少しだけ苦手意識が芽生えているのは先程あのお店の前で怒られてしまったからだろうか、後ろめたさに近いものがある。
…ちなみにこのようにパーティに入れてくれという話、実は初めてではない。
王都で活動していれば腕自慢の冒険者は結構な数がいる。王都で目立った活動をしている私達のパーティに入りたいという人は過去に何人も声をかけられてきたのだ。
……にも関わらず、今現在私達のパーティには私とゆんゆんとミツルギさんの3人だけである、その現状がそれら全ての加入希望者が入る事のなかった事の証明にもなる。
以前も言った気がするが基本的にこの世界の冒険者とは俗に言えばなんでも屋みたいなものだ、それは冒険者ギルドの依頼内容が証明している。そしてそれは自分達の生活の為、果てはお金の為に活動している人が多い。
確かにギルドでの依頼はモンスターの討伐だったり、危険な場所への素材採取だったりが多いがそれはあくまで依頼の一部である。中には逃げ出したペットを探してくれとか、子供に剣術を教えてくれとか、ピンからキリまで存在する。勿論危険なものほど報酬が良いのでそういう意味では人気のある職業と言えるかもしれない、だからこそ危険な討伐依頼などを率先してやっている私達の実入りはかなりいい。よってお金目当ての冒険者が私達のパーティへと駆けつけようとするのだが、問題はそこにある。
私達のパーティは、生活の為でもお金目当てでもない。レベルアップの為に依頼をこなしている。何故レベルアップをしているか、私としては大切な友人を守りたいから王都まで赴いている訳だが、それにより行く果ては魔王の討伐だろう。
ゆんゆんの理由は正直よくわからないが、ミツルギさんにとってそれは女神様から賜った使命だと日頃豪語しているくらいだ。だからこそ私達の最終目標は魔王の討伐と銘打っている。
ところが残念なことに、それはこの世界の冒険者にとってまるで夢物語のように捉えられてしまうのだがそれも仕方ないだろう。
この世界では魔王どころか、その幹部でさえもまともな討伐を成された事は少なくとも数百年はなかったのだから、まず私達のように魔王の討伐を目的として活動しているパーティは見た事がない、私達以外だとカズマ君のパーティくらいだろうか。もっともそのリーダーのカズマ君にはそんな気があるようには見受けられないが。そんな話になると決まって「最弱冒険者に何期待してんだ?そんなのはアリスやミッツさんに任せるよ」と返す始末である。
だから、それをメリッサさんに告げれば今回もこの話は終わりを告げるだろう、そんな確信があった。
「見たところ貴方達は火力は充分かもしれないけど、ダンジョンの罠とかはどうしてるの?私なら盗賊ほど上手くはないけどそういう対処も可能よ、それに足を引っ張らない自信もあるわ」
「……まぁ確かにその点での人手不足は考えてはいましたが」
これは本心だ。だからこそ私はもう一人のメンバーとしてクリスを仲間に加えたいと考えていた。王都でもソロで活動が可能で人柄も良く、何より顔見知りであるが故にゆんゆんとも仲良くやれそうだ。
…とまぁ思っていた訳ではあるがそれもクリスの正体が判明するまでの話である。女神エリス様と発覚した今となってはこの計画は完全にお蔵入りだ。
そもそもレンジャーという職業は盗賊の派生職業と聞いたことがある。実際ダンジョン探索では盗賊という職業は便利でありパーティに1人は欲しいくらいはあるほど。派生した理由は単純、盗賊という名前そのものだ。
そのネーミングはお世辞にも聞こえが良いとは言えないだろう、だからこそダンジョンなどの探索を主体としたレンジャーという職業が生まれたのだとか。
特性としては盗賊のようにスティールや鍵開けはできないが罠を探知、解除する事はできる。またアーチャーの弓スキルに暗視スキルや、戦士の剣スキルなども覚える事が可能。もっとも機動性重視故に短剣を使う者が多いが、いわゆるマルチスタイルな職業なのだ。
「あら?なら話は早いじゃない、王都でなら私もたまに活動しているし、レベルで足を引っ張るつもりはないわ」
「…ちなみにレベルを伺っても…?」
「46よ」
「…!」
このレベルには私達3人とも素直に驚いた。盗賊やレンジャーという職業での戦闘は物理的な支援が多いので私達に比べてレベルあげが難しい。本来支援職である私もそれは難しいはずなのだが私の場合は転生特典の魔法があるので除外するとして、レベル40を越える盗賊やレンジャーは王都でも中々見かけるものではない。
「凄い…」
「……こちらとしては歓迎したいレベルではありますが…」
「…まだ何かあるのかしら?」
もしかしたら私の言い方が気に入らなかったのかもしれない、メリッサさんは少しばかり不機嫌そうに見えた。
不快にさせたのなら申し訳ないのだがこちらとしてはしっかりとこちらの意図を伝えなければならない。言いにくそうに口ごもった私を見て、代わりに話を進めたのはミツルギさんだった。
「いや、こちらとしては問題ない。 あえてあげるならメリッサさん、貴女がこちらのパーティの方針に納得できるかどうかなんだ」
「…?回りくどいのは好きじゃないの、手っ取り早く言ってくれる?」
「私達のパーティの最終目標は魔王の討伐です、私達のパーティに入るのでしたら、その目的の共有をしてもらうことになります」
「……っ!?…それ、本気で言ってるの?」
ここに来て初めてメリッサさんの表情が歪んだ。ちなみにその表情は過去私達のパーティに入りたいと言ってきた冒険者達とほぼ同じ顔をしていた。
……まぁ、それも当然と言えば当然だろう。国を挙げて達成出来ていない偉業を一介の冒険者がやろうと言うのだから。
失礼ながらメリッサさんを見るにそういうタイプにはとてもではないが見えない。どちらかと言うとそういった事を鼻で笑うタイプだと思っている。
だがこちらは勿論本気である、いざ魔王や魔王軍の幹部との戦いになった時に、そんな話は聞いていないからと抜けられても困るのである、よって私達のパーティに入るのであればそれだけは絶対に承諾してもらわなければならないのだ。
メリッサさんは本気で言っているの?と聞きながらも、こちらが答えるまでもなく本気なのは理解できるだろう。それは私達3人の真剣な様相と、過去の魔王軍幹部討伐の実績が物語っているのだから――。