―王都・ドワーフの鍛冶屋―
「だから!ここをこうしてこうするのよ!」
「そんな説明で分かる訳ねぇだろうが!!」
「なんでわかんないのよ!!真の職人ならもっとこう感覚的に分かりなさいよ!!」
アクア様が発端で始まったのは簡単に言えば神器造り講座。出来上がったゆんゆんの新武器を見たアクア様が待ったの声をかけたのだ。これにより私とミツルギさんは完全に蚊帳の外である。ただ見ていることしかできない。
現状どうなっているか説明すると口論を続けるアクア様とドワーフのおじさんが2人してゆんゆんの手をそれぞれとってまるで手相でもみるように見ている。
それだけならまだいいのだがアクア様とドワーフのおじさんに挟まれてどちらも譲らぬ口論になっている、ゆんゆんとしては逃げ場がない。というより2人ともゆんゆんの杖の為に口論しているようなものなので逃げる訳にもいかない。
そもそも事の発端はゆんゆんの新武器である杖をアクア様が見てからだった。
丁寧に加工された細長い魔晶石、それに細かい装飾となったワイバーンの爪が掴むように飾られていて魔法金属で作られた柄の部分、と、シンプルな出来栄えではあったがゆんゆんはお気に召していたようだったのだが何故かアクア様は気に入らなかったらしい。最初は聞く耳を持たなかったドワーフさんであったが躍起になったアクア様が私とミツルギさんの武器を強引に見せてしまい更にその製作者は自身だと暴露してしまう始末。それによりこの頑固なドワーフさんも驚きながらも話を聞く事になり今に至る。
そして今アクア様がドワーフさんに提案しているのが『制約』を付与することである。
制約と言えば簡単に言うと一部の神器の大きな特徴と言える。
例えばミツルギさんの扱う魔剣グラム、これはミツルギさん本人が扱えばとんでもない攻撃力を誇る文字通り魔剣となる訳なのだがミツルギさん以外が扱えば少し強い程度の普通の剣にしかならないらしい。これはミツルギさんが扱えば全く問題はないが他の人からすればただの珍しい剣にしかならないのだ。つまりはデメリット。マイナス効果を付与する事によりその武器の力をより高めるというものだ。
これは私の元やっていたゲームでも存在した。武器などを自作できたあのゲームではその効果さえも自身で決める事ができたのだ。ただしその装備の種類により制限が存在していて一定数値までしか上げることができないのである。
その制限を増やす方法にマイナス効果を付与することが一般的だったのだ。
ちなみに私の杖はその効果をしっかりと継承していた。int値…つまり知力や魔法攻撃力を強化できる代償としてstr値(筋力)や物理攻撃力などは杖を装備していると下がるのだ。実際に私がこの杖で殴ったところでダメージはほとんどないのだけど私としては物理攻撃力など全く必要としていないのでデメリットとしてはあまり関係はない。そしてこの効果は私自身にしか現れないようで、どうやら私の杖にもミツルギさんの魔剣グラムと同様に使用者制限か設けられている。
つまりアクア様の作ってきた神器は私がやっていたゲームでの自作装備と似通ったところがあるのだろう。
どうもアクア様はそういった制約をゆんゆんの杖にもつけたいらしい……のだけど、それは大丈夫なのだろうか。
ウィズさん曰くこのドワーフさんはこの世界でも指折りの鍛治職人らしい。そんな人でさえそんな製法は知らないのだからおそらくそういった制約などはこの世界では有り得ないことなのだろう。
つまりそれはアクア様のような神様の技術である。それを下界で生きているヒトに教えてしまっても問題はないのだろうか。エリス様は何も言わないのだろうか、私には分からないし分かりようもない。
分かりようもないのだが結果としてゆんゆんの新杖が強化されることになるのならこちらとしては喜ばしい事でもあるので私からアクア様へと確認をとることはない。問題があっても責任をとるのはアクア様になるだろうし、なんて思ってしまえば少し薄情な気もするけど今行われている女神様の技術講習は私はもちろん、ゆんゆんが頼んだ訳でもドワーフのおじさんが頼んだ訳でもないのだからそれは仕方ない。
「だからー、あえてマイナス面を作る事でプラスになる領域を増やす訳よ!そうすることで武器の長所を更に引き出すことができるわ!伝導する魔力もゆんゆんの魔力専用にするようにすれば効率が良くなるの!」
「……お前さんは一体何者なんだ?そんなやり方長年生きてきて初めて聞いたぞ」
「'私が誰かなんてどうでもいいのよ!今はこの杖をどこまで強くできるのか、そこを考えなさい!!」
…どうやら完全にアクア様の職人魂に火がついているようだ。ドワーフさんに何者だと聞かれたのはこちらとしても焦った、いつものアクア様なら間髪入れずに女神だと自称するだろうしそうなるとドワーフさんがどう反応しようが厄介でしかないことは間違いない。
ただひとつ、この状況から分かることがひとつだけ存在する。
「……ミツルギさん、どうやらしばらくは終わりそうにないですね…」
「…そうだね…」
私達2人はただ見ている事しかできないのである。まさか職人二人に捕まったゆんゆんを置いて此処を出るわけにもいかないしそうしようとすればゆんゆんは涙目になってこちらに訴えてきそうまである。
――結果、この職人講義は約2時間に渡り繰り広げられるのだった――。
このすば。
―王都の冒険者ギルド―
結果として言えばゆんゆんの新杖のデビューはもう少し後になってしまった。アクア様から新たな製法を学んだドワーフさんは若い頃の熱意が戻ってきたかのようだと燃えに燃えていたのでゆんゆんの新杖はより強くなってゆんゆんの元へ届く事になるのだろう。というよりアクア様が関わった時点でそれは神器と言っても過言ではない。
強化されるのなら私達としては問題ない、なのだがどうしても気にはなったのでアンリの服の材料を購入しながらそれとなくアクア様に聞いてみた、神器の製法をこの世界に住む者に教えちゃって問題ないのかと。
そうすればアクア様からは滝のような汗が流れてはぐらかすように服の材料の選別に戻ってしまう、やはりまずかったようだ。「だ、だだだ大丈夫よ、あの人には他言無用を念押ししておいたし神器の製法はあれだけじゃないし」とまるで自身を納得させるように言っていた。まぁそれ以上私が突っ込んだところで何も意味はないので言わなかったけど服の材料選びに集中してほしいのはこちらとしては望むところなのでよしとしておこう。アンリが私とお揃いの服を着るのが今から楽しみである。
そんなこんなで王都の品の豊富さにより材料はすぐに集まった、20万という想定していた予算は余裕でオーバーしてしまったが私としては何も問題はない。なんなら10倍かけても惜しくないくらいあるけどそれを言うとまた私の金銭感覚のおかしさが露呈してしまうので心の内に留めておこう。一応自覚しているだけまともなのだろう、うん、そうに違いない。
そして今いる場所は王都の冒険者ギルド。用事も済んだし後はクエストを一件受けるつもりだ。入るなり私達はギルド内にいた冒険者達から注目を浴びる事になる。なんならひそひそと話し声まで聞こえてくる始末なのだがいつもの事なので慣れてしまった。
「…なーんかあちこちから見られてるわね」
「……いつもの事ですよ」
慣れないのはアクア様くらいだろう。王都でのカズマ君のパーティはまだまだデビューしたてで大きな実績をあげた訳でもない。魔王軍の幹部を倒した功績でその名前は知られているものの当人達の顔までは王都では認知されていない。はやくしっかりと王都で名を売って私達の存在を薄めてほしいものである…なんてめぐみんが聞いたら怒りそうな事を思ってしまうが目立ちたくない私としては割と切実だったりする。
「せっかく注目を集めているのなら花鳥風月でもやろうかしら?アクセルでは好評だしこっちでも盛り上がると思うの」
「絶対にやめてください」
「えー、なんでよー?」
私の即座のツッコミにアクア様は納得行かない様子でむくれていたがそれだけは勘弁してほしい。ただでさえ目立っているのに余計に目立ってしまうことは間違いない。それ以前に何故選択肢として宴会芸があがってしまうのかが私には理解できない。
「あら、姿がないから今日は来ないと思ってたわ、先日は世話になったわね」
「…!メリッサさん、それはこちらの台詞ですよ」
そんな事を思っていたら私達の目の前には先日世話になったメリッサさんがいた。姿がないと言っている事からあの日以降王都の冒険者ギルドに来ては私達の事を捜していたのかもしれない。
先日条件付きでパーティに加入したメリッサさん、その条件というのが単純に固定パーティではなく、お互いに必要な際に声をかけて組むようにするといったものだった。
あの時話した内容に、やはり彼女としてはお金の為に冒険者をやっている面が強いらしい。まぁそれに関してこちらからマイナスなイメージは湧かない、何故ならこの世界の冒険者とはお金稼ぎ目的が当然であり私達のようなスタイルが一般的ではないのだ。最終的にそのお金になるのなら相手が魔王だろうが幹部だろうが問題はないとのこと。
実際魔王軍の幹部ともなればその討伐報酬は億越えが当たり前なのだ、当然危険なのだからこそその報酬なのだ。危険度を見れば通常ならばメリッサさんも遠慮したかもしれないが私達には既に4回もの幹部討伐の実績がある。だからこそメリッサさんも加入することに決めた訳だが。
ならば固定でもいいのではないかと思うも、あくまでも私達のパーティとは基本的に方針が合わないからだろう。メリッサさんは元々ソロでクエストに挑む事の方が多く、行動を縛られすぎるのは好きでは無いらしい、なのでこちらのパーティに加入したいとは言ったものの、メリッサさんとしては初めから固定は考えていなかったようだ。
正式な固定メンバーでは無い事は残念ではあるけど、その職業はレンジャー、盗賊職に近い特徴をもつ私達に唯一足りない存在である。
私達の知り合いなどから気軽にパーティを組んでくれそうな人は少ない、せいぜいカズマ君やクリス、最終手段としてアンリがあがるくらいだろうか。
だがカズマ君はカズマ君で自身のパーティがあり、クリスは神出鬼没、アンリは単純に危険な目に合わせたくないので誰を選ぶにしても難しい。なので今回メリッサさんが加入してくれたのは私達にとって渡りに船だったことは言うまでもない。たとえクエストへの目的が違おうがより安全にクエストをこなせるようになる事は私達としては非常にありがたいのである。
ただまぁ意識の違いがあれば、勿論デメリットも生まれるわけで。
「……せっかくだから早速一緒にと思ったけど…、そっちは一人多いみたいね、また機会があったらよろしく頼むわ」
メリッサさんはアクア様の存在に気が付くなり軽い挨拶で終わらせてその場を立ち去る。
「あ…、すみません、次回はよろしくお願いします」
「ど、どうしたんだろう?」
メリッサさんは私の声にこちらを向く事無く片手を振って反応しつつギルドの奥へと歩いて行く。そんなあっさりした対応に疑問に思うゆんゆんだったがその理由は単純である。人数が増えればその分クエストによる報酬が減ってしまうからだろう。
アクア様を除く私達としてはレベルアップの為にクエストを受けているので重要視されるのは報酬よりも安全性なのだが報酬目当てであるなら5人パーティという取り分の減少はあまりよろしくない。基本的にパーティは何人でもいいのだが報酬やバランスを考慮してパーティ人数は4人までなのが一般的な暗黙の了解になっている。だからこそ既にアクア様がいる事を確認したメリッサさんはあっさり身を引いたのだろう。
まぁアクア様が先約で入ってたのでこれは仕方ない。さてさて何か美味しいクエストはあるだろうかと私達は依頼書の貼られている掲示板へと移動しようとするも、すぐにそれは止められた。
「ぼ、冒険者、アリスさんのパーティの皆様ですね」
「……はい?」
早足で近付いてきたのはギルドの職員の若い女の人、痩せ型で大人しそうな印象を受ける如何にも事務職といった様相。ブロンドの長い髪は邪魔にならないように束ねられているそんな女性だが若干ながら焦りの様子が見受けられる感じがした。
もしかしたらまた何かあったのだろうか?強ばった表情の職員の女の人の登場に、私はその空気に呑まれたかのような生返事しかできなかったのだから――。