内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 19 ジャージ姿の少年

そろそろアクセルの街をでるべきなのかもしれない。

 

そう思った理由は、女神様のことをふと思い出したから。

 

私はこの街でただ楽しく過ごす為に転生したわけではない。あくまで魔王を倒すという使命があったりもする。もっともまったく乗り気ではないけど。

 

その理由はこの街が基本的に凄く平和なので、魔王なんてものが本当にいるのかすら怪しく感じているから。

 

とりあえず下準備としてなら、この街で充分過ごしてきた。今の私のレベルは26。だいぶ強くなってしまった。

 

でもまぁ……30になったら考えよう。うん。

 

とまぁ基本的にのんびりなのが私の信条なので。はい。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「えっと…すみません。アリスさんのレベルを考えたらこの依頼はちょっと…。」

 

困った顔の営業スマイルのルナさんの言葉に、私はわかりました、と単調に告げてとぼとぼと酒場のカウンター席につく。

 

いつものように初心者殺しの討伐依頼を見つけたのだけど推薦レベルより11も高い私はとうとうギルド側から依頼を受けるのを断られてしまったのだ。

基本的に推薦レベルから10離れると無理な様子で、5くらいなら討伐人数次第ではといった感じ。

 

とりあえず依頼だけ受けて誰か一緒にやる人を探そうと思っていただけにこれには参った。そして今日この依頼ができないとなると今のところやれるクエストがない。そんな私はやっぱり王都に行くべきなのかなぁ、と憂鬱気味に考えていた。

 

そんな時だった。

 

冒険者ギルドに、2人の若い男女がはいってきた。それを見て私は驚愕した。

 

 

1人は深緑色のジャージを着た茶髪の男の子である。おそらく同い年か少し上くらいの。

 

ジャージ…そう、ジャージである。あんな服を目撃するのは半年ぶりである。当然ながらあの服は日本でみかけるあのジャージなのだから。

 

その男の子だけでも驚くのに、もう1人はまさに度肝を抜かされた。

 

水色の長い、軽く癖のある特徴的な髪…青色のドレスっぽい服に透明の羽衣のようなヒラヒラを纏ったかわいらしくもあり美人とも言える女の子。

 

その人はまるで…いや、まさに私の願いを聞き私をこの姿にしてこの世界に転生させた女神アクア様と瓜二つだったのだから。

 

様子を見ていると2人はまっすぐ窓口に向かう。冒険者だったのだろうか?アクセルの街は広い。半年いる私でも完全に把握できてはいない。私が知らない冒険者などまだまだいるだろう。…それともこれから冒険者登録をするのだろうか?

気が付けば私はその2人に興味深々だった。これほど興味を惹かれる人は初めてかもしれない。

 

しばらくして、力なくとぼとぼと歩く2人は、がらがらの酒場のテーブル席に座ると、とくに注文をすることもなく座ったまま意気消沈していた。

 

私は一体どうしたのだろう?と、ルナさんのいる窓口へと向かい話を聞いてみた。

 

「先程の2人ですか?冒険者登録をしにきたようなんですが…お金がなかったようですね…。」

 

ルナさんの困った口調に私はそのままお礼を言って席に戻る。そして私は考えていた。

 

確信はもてないけど、もしかしたらあの男の子は私と同じ転生者ではないだろうか?

 

私以外に転生者がいることは既にわかっていた。今のところ私は他の転生者に出会ったことはないけど、ふと虚ろな記憶を頼りにすると、転生する前に見たカタログ。あれには確かに(済)と書かれた武器や装備がいくつかあった。つまり私の前に転生した人が貰っていったのだろう。

 

つまりあの男の子は転生者で、一緒にいる女の子はもしかしたら男の子の転生特典。見た目からして瓜二つだから、女神様の分身とか下僕とかそういうのかと予想した。転生するのに仲間を望んだとかなら可能性はありえる。男の子だし、可愛い女の子の仲間がほしい、とか言ったのかもしれない。

お金がないのも転生したばかりなら納得がいく、私も最初は無一文だったしあの辛さは共感すらできる。

 

そうなると私の後輩だ。それなら助ける理由としては充分である。

私はカウンター席を立つと、近寄り難い空気をしている2人のテーブル席へとドキドキしながら歩を進めた。

 

 

 

 

 

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すみません、相席してもよろしいですか?

 

私は2人のテーブル席の前に立つと男の子のほうに顔を向けて話しかけた。

 

「えっ?席はどこも空いてるわよ?」

 

男の子の対面に座る女神様に似た女の子が不思議そうに首を傾げる。その声までも、その女の子は女神様によく似ていた。私は苦笑しながら、1人では寂しいのでお話したくって、と返す。

 

「あ、はい。よかったらどうぞ。」

 

緊張した様子で男の子が告げると、私はありがとうございます♪と笑顔で告げる。男の子の顔は赤くなっていた。

 

「ちょっと何緊張してんのよカズマさん、もしかして自分にモテ期きた!とか思ってない?ありえないからね?鏡見て言ってね?」

 

「うるせーよお前は黙ってろ!?んなこたわかってんだよ!!……と、ごめん大声出して。それで君は?俺たちに何か用なのか?」

 

なんかダストに似てるなぁと思いつつも私はとりあえず、とウェイトレスさんを呼ぶ。

 

「はい、ご注文ですか?」

 

私はミルクティーとサンドイッチを3人前注文した。ウェイトレスさんは笑顔でかしこまりましたーと告げるとキッチンに向かっていく。

 

「えっとあの…俺ら金ないんだけど。」

 

気まずそうな男の子に私は笑顔のまま、このまま席に座っててもお店に迷惑なので適当に注文しました、お金は大丈夫ですので食べてください。と告げると、自分たちの外から見た様子が痛いほど理解できたのか、男の子は私が来る前より沈んでいた。

 

「…あ、はい。すみません、ご馳走になります…。」

 

「なるほどね、私はわかったわ。」

 

もはやライフがゼロの様子の男の子をまったく気にしない様子で女の子は立ち上がった。そしてめんどくさいことを言った。

 

「貴女のその服装…貴女はアクシズ教徒ね!間違いないわ!」

 

 

…何故そうなったのだろうかと私は頭を抱えた。というより2ヶ月もかけてせっかく払拭したのにまた掘り起こすのはやめていただきたい、割と切実に。

 

そんなことを思っている最中も女の子の発言は続く。

 

「仕方ないわね、今回は特別に私の正体をおしえてあげるわっ、私の名前はアクア。アクシズ教の御神体、女神アクアよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ぇ?

 

 

 

 

私は放心状態になった。いやなんでこんなところにいるの!?てか分身か下僕かと思っていたのにまさかの本人!?それならそれで私に初対面の反応してるのはもしかして私忘れられてる!?こんなの絶対おかしいよ…!?様々な感情が入り乱れ、私は混乱した。

 

 

「あー、ごめんごめん、気にしなくていいから!?こいつ自分のこと女神とか言っちゃう頭のおかしいやつだから!」

 

慌てた様子で言う男の子は女神様を無理矢理座らせてヒソヒソと話し出した。

 

「バカ!女神なんて名乗って信じてもらえる訳ないだろうが!頭のおかしい可哀想な人と思われるだけだぞ!」

 

「はぁ?誰が頭がおかしいよ!?私は正真正銘女神よ!嘘は言っていないわ!?」

 

 

ヒソヒソ言っているつもりなのだろうけど丸聞こえである。そんな中、注文したサンドイッチとミルクティーが届くも、私は今の衝撃的な出来事にそれらがまったく口にはいる気がしなかった。

 

 

 

 

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なんとか落ち着いた私は自己紹介を終える。男の子の名前はサトウカズマ。ほぼ転生者で日本人であると確定と見ていいだろう。

 

そんな中、私の中には悪い感情が生まれていた。とはいえちょっとした可愛いイタズラ心である。

 

理由としては私の目の前の女神様が私のことに未だに気が付いてないから。

 

もしかしたら本物の女神様ではないか?という可能性も実は頭の片隅にはあった、それほどまでに似ていたのだから。だからその場合は私を見てなんらかの反応を起こす。だからそのまま私も転生者であることを告げてお友達になりたいなとか思っていたのだ。海外旅行に行って日本人に出会った時のような気持ち的にはそんな感じである。

だけど予想外なことにアクア様は私のことを完全に忘れていた。仕方ないのかもしれない、私以外にも転生者、および天国やら日本へ転生やらいくらでもしてきたのだろう、私は所詮星々の中のひとつに過ぎないのだろう。

だけど所詮私は15歳のまだまだ子供な少女なのですよ、仕方ないとは思えてもなんとなく納得いかないこともあるのですよ。

 

もちろん危害を加えるつもりはないしできたら仲良くしたいとは思っていた。

 

だから、ちょっとしたイタズラなのである。

 

 

 

 

 

 

私は食事が終わるなり2人の前に1000エリス硬貨を2枚おく。よかったら使ってくださいと笑顔で言って立ち上がるとここから去ろうとしていた。

 

「ま、まってくれ!気持ちは嬉しいけどなんで俺たちにここまでしてくれるんだ?」

 

カズマ君のその声に私は振り向き、そっと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈わざわざ日本から来た方を歓迎したかっただけですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はそのまま立ち去った。カズマ君はなんでそれを…?と戦慄していた。まるで少年漫画の主人公のようなその顔に私は内心くすくす笑いながら冒険者ギルドを後にするのだった。

 

 

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