2話までは主人公の説明回に近いかもしれない…
ちょっとした浮遊感を感じる。そしてそれがなくなり、地面に降り立つことができた。足への抵抗は少なくて、意識しなければわからないくらいの、その先程までの足場の変化。同時に襲いかかる視界への眩しい光。
眩しそうにその光を片手で遮る。そして目を開くと、その光は遮るほどのものでもないと気が付く。どうやら今まで薄暗い場所にいたから、背景の変化に目がびっくりしただけのようだ。
わすがながらに吹く風は、自身の長いツインテールと、膝まで届いたスカートをわずかに揺らした気がした。少し鼻に感じたのは緑。踏みしめた草原から漂うものだろうか。
草原。そう、見渡す限りの緑の絨毯、頭上にはほとんど雲のない青色の空に心地よく輝く太陽。
少なくとも自身が生まれてこの方、私はこんな広大で綺麗な大地を見たことがなかった。その光景は間違いなくここが日本ではないと思えるだけの背景だったのだから。
そしてようやく、今更になって意識は覚醒した。ぼんやりとした私でも、今のこれが夢ではないことくらい、察するには充分すぎるものだ。
心地よく流れる風、足首くらいまで伸び育った草々の緑の香り。その周囲に自身の知る電柱などの人工物は一切存在しない。あえて見える人工物と言えば今いる場所から遠目に見える城壁のような壁に丸く囲まれ、赤や黄色の屋根が見える街と、更にその遠くに微かに見える崖上の如何にもRPGですと語りかけるような存在感をだす西洋風のお城くらいのものだろう。
比喩通り夢にまでみたゲームの中の世界のような光景に、自然と足取りは軽くなる。1歩、また1歩と歩く。間違いなく今の自分はプラスにしか感じない高揚感だけで動いている。ドキドキする、実際鼓動は高まっている。ワクワクしている、初めて遊園地に来た時のような、これからへの期待。
とりあえず街なんだろうと思われる場所へと、ゆっくりと歩を進める。
…それが自身に眠る、不安と絶望を押し隠していることは、頭の片隅にすらなく、私はまだ遠くにある街だけを見据え、段々と早足になっていたのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
足取り軽かったのも最初だけの話。歩幅こそ変わらないものの、その速度は大分落ちていた。別に疲れたわけではない。今の自分の身体が、自分のやってたゲームのキャラクターを元に作られたのであれば、そのステータスは知力5:体力2.5:敏捷性2.5の比率で振っていたのを思い出す。多少は耐久性がある程度の、れっきとした後衛、魔法使いのステータスだ。調整がどの程度されているかはわからないが、元の世界の自分は典型的な文系少女。運動はあまり得意ではなかった。よって昔の自分ならとっくに軽く息を吐く程度は歩いたつもりではあるのだが、そんな疲労感はまったく感じない。では何故速度を落としたのかは、自身の背中の違和感が気になったからだ。
その背負っていた物を背に手を回すことで握りしめ、何も抵抗のないまま自分が視認できるように前へと出す。
手にしたそれは杖だった。自分の背丈と同じくらいの長さで、十字架に細かい装飾がなされたそれは、自分が初めて見る芸術品だ。しかしゲーム内ではいつも見慣れた杖。重そうな見た目に反してそれは非常に軽い。竹箒でももったかのような軽さ。間違いなくこの杖は鈍器のように叩いたりするのには不向きであろう。先端が十字架になっていて、その中央には魔石をはめ込む場所がある…のだが…、どこを探しても宝石、魔石の類は見当たらなかった。
ここで杖の説明をしよう。この杖がゲームの中の仕様のままだとしたら、魔石がない今の状態は本領を発揮しているとは言えない。
魔石の効果は属性、火、水、風、雷、土といったものである。私のやっていたゲームの仕様として、何も補助もなしに使える属性魔法というのは存在しないのだ。例えばアローという名前のスキルがある。それは宙に出現させた魔法陣から数発の魔法の矢を放つというそのゲームの初期魔法スキルである。スキルレベルや自身のステータスにより、いくらでも強くなり、序盤どころかベテランになってまでも重宝するスキルである。その魔法を更に強くするなら、戦うモンスターの弱点属性である属性を付与することである。そして属性を付与するのに必要なのが魔石なのだ。例えば火の魔石を杖に装着してアローを唱えれば、それは炎を纏ったファイアアローとなり敵を貫き燃やす。水の魔石を装着して放てば魔法の矢は氷の刃、アイスアローとなる。
また、属性以外にも魔力を高める魔石とかもあったりするのだが、今やそれすらもない。このままでは普通の杖だ。とはいえこれが何も調整されてないゲーム仕様のままの状態であれば、魔石はなくても魔法攻撃力を高めるだけの強さはあるはずだ。少ないお小遣いを使って課金して、最大レベルまで精錬、強化、エンチャントという能力付与までしているのだ。あくまで、仕様がそのままの状態ならの話だが。このゲーム仕様がどこまで調整されているかはわからないが、それは考えても仕方ない。じっくり観察した杖を背中に戻すと、私は再び早足でまだ遠い街へと歩を進めるのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
やがて街ははっきり視認できるほどまで見えてくる。今まで誰も見えなかった自身の周囲には、街道を走る馬車や、私と同じようにゆっくりと歩を進める人影が見えてくる。その姿は正にRPGといった見た目の鎧姿だったり、動きやすそうな軽装に腰にナイフをぶら下げてたり、三角帽子にローブを羽織ったりと、RPGを遊んだことがある人なら誰でもどんな職業をしているのかわかるものだった。
そして門らしきものが見える。傍らには鎧兜を身につけ槍を持つ壮年の男性が見えた。
近づくに連れて意識してしまう。街にはいるのに取り調べとかあるのか?あるいは通行証がないと街にはいれないとかがあるのではないか、若干ながらも不安になったのだ。
そして通りかかると案の定その衛兵らしき男の人はこちらを一瞥し、声をかけてきた。
「おや?お嬢ちゃん、見ない顔だね?この街は初めてかい?」
私は流れるように頭をさげ、こんにちわ、と挨拶した。ただ緊張からか、若干ぎこちなくなってしまったけど言葉を返せただけよしとしよう。
こうやって歩きながらここまで来るまでに自分なりに色々と考えてはいた。この世界で生きるのに欠かせないものは衣食住以外にもある。
それが自身の身分証明だ。
まさかバカ正直に異世界から来ましたなんて言えるはずがない。少なくとも自分が逆の立場なら頭がおかしくなったのかと心配してしまうだろう。
だから私は、そのまま遠くから旅してここまできた。と余計な情報を出さないように簡潔に話をした。
「なるほど、という事はお嬢ちゃんも冒険者になりにきたのかね。若いのに大したもんだ。」
笑顔でそう応えた衛兵のおじさんから警戒する様子は見受けられない、私は心の中でホッと安堵した。同時に冒険者という単語は頭に強く残った。今この街に来た目的は特にない。ならまずはそれから考えてもいいのかな?とひとつの選択肢にはしようと思えた。
「ここは駆け出し冒険者の街、『アクセル』だ、歓迎するよ、お嬢ちゃん。」
そのまま門をくぐり抜けて街へと進む。さて、その街の光景に私は目を奪われた。周囲には赤、黄、緑のパステルカラーの屋根の家々が並び中央には大きな噴水、ちょっとした広場になっているようだ。家々に並ぶように露店のような屋台も並ぶ。そして先程街の外で見かけたような服装の人々だけでなく、如何にも村人ファッションといった装いの人も多く見受けられる。それを見て再び私の中のドキドキとワクワクは加速していく。まず何をすればいいのか考えるまでもなく、私はその町の中を歩いていくのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
お店並ぶ商業街を軒並み歩き回り、住宅街らしき場所へとはいり、公園らしき広場があったのでそこのベンチに座り一息つく。
さすがに数時間歩きっぱなしだと疲労も出始める。それにお腹もすいてきていた。
街に着いたのはいいのだけど…することは沢山ある。それは生きる為の衣食住の確保。
住居はしばらくは宿暮らしになるだろう。食べる為にも食べ物を買うなりしなければいけないだろう。そしてそれにはお金が必要だ。
私の手荷物は今身に付けているゴシックプリーストのドレス以外だと背中にある杖のみである。お金なんて1円もありはしないしまさか杖を売る訳にもいかない。
…もとより『円』があってもまったく意味はない。この世界のこの地域のお金の単位は『エリス』なのだから。
それは商業街を渡り歩くことで知ることができた。武器や魔道具の値段を見てもピンと来なかったが、食べ物なんかは日本にいた時のと比較することができる。やや誤差はあるかもしれないが1エリスは日本円に換算したら凡そ1円なのだろう。安いものならパンひとつ100エリスとかで売っているのを見てそう結論付けた。
問題は通貨の価値はわかったものの、それを得る方法がまだ得られていないのだ。まだ日はでているがおそらく時間は午後にさしかかっていると予想している。このままではまずい。なんとか日が沈むまでにお金なり食料なり宿なり確保しなければ。宿は最悪野宿になりそうだが生まれて15年間野宿などキャンプくらいしかしたことがない。それも1人でなんて尚更だ。
とりあえずどこか忙しそうなお店にはいって日雇いで働かせてもらうよう交渉して金銭を得るなどしてみようか。もちろんそれもやったことはないので不安ばかりが残り、頭の中は混乱してきていた。どうしようどうしようと頭の中で連呼する。不安が渦巻いてくる。…そんな精神状態の私は休憩を言い訳にして中々動けないでいた。そんな時だった。
付近の住居から騒がしげな女の人の声が聞こえてきたのは。
今回紹介した主人公の武器の性能については完全にオリジナル要素です。