カズマ君と女神様の2人と出会って1週間が経った。
噂で聞いた話ではあるけどカズマ君は冒険者、女神様はアークプリーストになったらしい。
とくにアークプリーストになったと言う話は即私の耳に嫌でもはいってきた。半年前の私以来の冒険者登録時の即アークプリースト転職なのだから。
とはいえ私は彼女の正体を直接聞いているのでまったく驚きはない、むしろこれで下位職だった方がビックリする。
そしてカズマ君の冒険者。これにも納得はいく。直接聞いた訳では無いけどカズマ君の転生特典はどういう経緯でそうなったのかさっぱりだけどおそらく女神様なのだろう。てことはカズマ君自体には何もチートは施されていない普通の学生と予想される。体育会系の体つきにも見えなかったし、もしも私が元の姿のまま何も特典を受け取らずに登録したら私も冒険者になってた自信がある。文系少女とはいえ、学校の成績は中の中くらいだったし、ルックスはアクア様が可愛いって言ってくれたのは嬉しかったけど自己評価するなら中の中、言うまでもなく運動は苦手で料理もできない、ただゲームが好きなだけの女の子。それが有栖川梨花だったのだから。
さて、彼らと会ったあの日に私はちょっとしたイタズラをしました。
アクア様に忘れられてて軽くイラッときたので本当に軽い気持ちだったのですが。
私の予定ではあの後のカズマ君の行動は2パターンでした。
1、アクア様に相談する。
あの子日本のこと知ってたぞ!?的なノリで言ってくれたらアクア様ももしかしたら思い出したんじゃないかなーという願望。
2、私に聞きに来る。
そりゃこの世界でいきなり現れた女の子が日本のこと知ってるそぶり見せたら気になるよ、何故知ってるのか!?と問いただすはず。少なくとも私ならそうする。
私はあの時名乗ったし、自分で言うのも嫌だけど私はアクセルの冒険者としてそこそこ有名なので、私の事を探そうと思えば割と簡単に見つかるはず。
なのに。
なのにまったく何も無い。
どんな形でもいい、再び私に聞いてきたならあっさり私は転生者でーす♪と名乗るつもり満々なんだけど、まったく何も無い。
答えは簡単。私の予想以上にカズマ君がヘタレだったということ。
1週間ですよ、冒険者になったなら流石に冒険者ギルドで何回か顔を合わせますよ。
だけどカズマ君はあれ以来私を避けてる感じがする。私が何をしたのでしょうか。ぐすん。いやしっかりやってるんだけど日本について仄めかしただけじゃないですか。
なんでイタズラした側がこんなにモヤモヤしているのでしょう、慣れないことはするものではないということなのでしょうか。
というより冷静になったらカズマ君まったく関係ないよね。私がイラッときたのアクア様だし、本当にごめんなさい。
うん、とりあえず…カズマ君とお話をしよう。
私はそう決意して、いつものゴシックプリースト服を着ると、自宅である宿の扉を開いた。
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「待っていたよ、子猫ちゃん。」
冒険者ギルドに向かって行くと、私はすぐにカズマ君を発見した。何故かギルドの裏路地に入って行くのが見えたので、何も疑いもなくそれを追った。そして裏路地の奥に入り曲がったところで…ジャージ姿で余裕な顔で、余裕な口調で見下すように私にそう言った。
……どういうこと…?私はカズマ君が不気味に見えた。
「簡単な話だよ、君は俺を待っていたんだろ?だから逆に俺が待たせたのさ。」
その視線に、私はただ動けずにいて、確信めいたものを感じていた。…多分私の考えは全て。カズマ君に読まれている、と。
転生者だからといっても彼自体にチートは何も無い、更に冒険者という最弱職、それにより無意識にあまくみていたのは事実かもしれない。私は歯噛みした。
「まず君が俺を待っていると確信したのはあの時の言葉だ。わざわざ日本に来た方を歓迎したかった、だったかな。君は意識してなかったみたいだけど、どうも俺には日本って単語を強調してるように聞こえていた。だから俺には日本という単語で俺の事を誘っていると思った。つまり俺から行かなくても、君のほうから来る。…そして日本を知っているとなると可能性としては俺と同じ日本人の転生者。だけど君はどう見ても日本人には見えない、その答え合わせはアクアがしてくれたよ。」
なんだか探偵の推理を聞いている気分だった。だけどこちらが犯人役なのはなんとなく心に刺さる、そんな大それたことをしたつもりはないのだけど。
「アクアが言うには転生特典を使えば見た目なんかも変えられる…多分性別なんかもな…つまり。」
…………んん?
「わかっている、君は男だろ!!そんな可愛い見た目をしていようが俺は騙されないぞ!!」
……
……
もはや何も言えなかった。予想の斜め上すぎてどう回答したらいいのかわからないまである。私はただ無言で首を横に振った。
「だから無理に否定する必要はないって、安心してくれ。このことは誰にも言わないからさ。」
否定も何も性別は変えてないのだ。どうすれば納得してくれるのか、考えていたら気付いたら涙目になっていた。なんとなく昔ゲーム内でネカマ呼ばわりされたことを思い出したのもあるかもしれない。
「男にそんな顔されてもなんとも思わないぜ、いい加減演技はやめとけよ。」
「ちょっとカズマ、あんたこんなところで何してんのよ?」
ふと気が付くと私の背後には女神アクアがいた。どうやら私の顔にはまだ気が付いてないみたいだ。
「ちょうどいい所に来たなアクア。さぁ答えてくれ、転生特典で性転換は可能なんだろ?」
「できないわよ。」
「ほらなやっぱり……え?」
「だから、できないわよ。身体に性別があるように、魂にも性別があるの。だから見た目だけは変えられるけど本当の性別だけは変えられないわ。転生後は魂の性別で生まれるはずだし、この世界にはそんな技術ないし。それがどうかしたの?」
「…………。」
カズマは何も言わず滝のように汗を流している。私は耐えきれず既に涙を流している、ひっくひっくと癇癪を起こして。自分のメンタルの弱さが嫌になっていた。…そんな時だった。
「カズマてめぇぇぇ!!!」
私の前を誰かが疾走してカズマ君をぶん殴る。……この声はダストだ。
「何うちの大事なパーティメンバー泣かしてんだてめぇ!!」
ダストに続くようにキースが駆けつけた。
「なにあんた私のアリスを泣かせてんのよ!!」
気持ちは嬉しいけどリーンのではない。
「アリス、もう大丈夫だ、心配するな。」
テイラーさんだった。私の肩をポンポンと叩くと応戦していった。
「う、え、あ、ちょ、ちょっと待って!?ぎゃぁぁぁぁ!?」
カズマ君の絶叫が、路地裏に響き渡った。
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どうやらダスト達は私が路地裏に入っていったのを目撃した人がいてその人から私の事を聞いて不審に思い駆けつけたようだった。私はようやく泣き止むと、カズマ君とアクアさんと話がしたいので3人で話をさせてほしいと言うとダスト達はしぶしぶギルド内に戻ってくれた。
「本当にすみませんでした!!」
今はひたすらにカズマ君が土下座して謝っていた。済んだことだしもういいと言っているのだけど。
「それにしてもあんたご飯に冒険者登録までお金出してくれた相手に男呼ばわりって控えめに言ってクズね。」
「…すみませんでした…。」
話が進まない…。とりあえずなんとか話を変えたかった私は女神アクアに向き直し聞いた、私のことを覚えていませんか?と。
「…う、うーん…確かにその姿はどこかで見たような…あ。…あー!そうよ思い出したわ!確かにいたわよ!ゲームのキャラクターそのものにしてほしいって言ってた女の子が!」
「…お前がそもそも覚えていれば俺はこんなことには…」
「クズマさーん、何か言ったー?」
「なんでもないです、はい。」
カズマ君はずっと土下座しっぱなしだった。いい加減頭をあげてほしいのだけど。…そもそも何故私を男だと思う結論に至ったのだろう?
「い、いや、それはその…こんなに可愛い子が俺なんかに親切にしてくれるわけが無い、何か裏があると考えたらその…自分でもわからないうちにこんな発想に…」
「完全にヒキニートの発想ね。」
「ヒキニートって言うな!?」
「んまぁ、それはそれとして、私のせいで嫌な想いさせちゃったみたいだし、ごめんね。もう忘れないから!」
カズマ君の叫びはおいといて、アクアさんは丁寧に頭を下げてくれた。私は慌てるようにそれを止めさせた。流石に女神様に頭を下げてもらうのは恐れ多い。
「それじゃ、今回はこれくらいにしとくってことで♪」
…私としても構わないのだけどそのアクア様の切り替えのはやさに何も言えなかった。飄々とした態度でカズマ君を引っ張り起こす。
「ほら、もういいって言ってるんだから、帰るわよ。」
「あ、あの…本当にごめん!今度お金返すからさ、お金がダメなら飯でも奢らせてくれ。」
改めてのカズマ君の謝罪に、私は笑顔でご飯楽しみにしてます♪と告げるのだった。
一応書いておきますが転生で性転換が不可能という設定は当然ながらこの小説のみの独自設定となります。決して他のTS系作品を否定しているつもりはないので誤解なきようお願いします。