入口が見つかるなり中へとはいる。
場所はエントランスといったところだろうか、中はとても広いものの、昼間にも関わらず薄暗く、静かで、確かにそこに何かがいるようには見えなかった。
左右に階段があり、その階段はどちらから通っても同じ中央階段へと続いているように見えた。
めぐみんは迷いなく右側から登っていき、私はあちこちを見渡しながらもめぐみんに着いて行く。
浅い中央階段を登ると、そこから見えるのは広間、そして最奥にある玉座…そして…確かに見える人影。
私とめぐみんはそれを見据えたと同時に動きを止め、逃げることもせずにただ立ち尽くしていた。
「…ふん、何者かが来たと思えば小娘が2人か。」
重厚な男性の声が城内に響き渡る。まだ遠目でしか見えないにも関わらず、確かに感じた威圧感。それが重荷になり、私とめぐみんはまったく動けなかったのだから。
甘く見ていた。見つけたらすぐ逃げればいいなどと思っていた先程の自分をビンタしてやりたい。そんなことを思っていると、脚鎧の独特な音が聞こえる。ガチャリ、ガチャリとこちらへ向けて近付いてくる。
「…ほう…小娘は小娘だが…タダのガキじゃないな。アークプリーストにアークウィザードか…。」
ふと私の手に何かがぶつかる感触があった。ふとそれを自分の手で確かめるとそれはめぐみんの手だった。
軽くにぎると、一瞬ビクッと反応したがめぐみんは何も言わない、ただその手からは震えだけが感じられた。
だから私は、ゆっくりと優しくその手をにぎった。大丈夫、大丈夫だから、と祈りをこめて。本当はそんな余裕なんてないのに。まるで自分に言い聞かせるように。
少しずつ、震えは和らいでいく。それを確認すると、私はそっと手を離した。
…そして、静かに背中にある杖を握りしめた。
今ここで戦えるのは私しかいない。ここは城内、めぐみんの爆裂魔法を使えばあっけなく崩壊してしまい全員ぺちゃんこになってしまうだろう。
めぐみんに逃げてください、と告げたかった。だけど私から声はでなかった。
怖かった。こんなにも恐怖を感じたのは初めてのクエストで遭遇した白虎狼以来だ。…いや、この恐怖はそれ以上だ。考えるまでもなくまだ鎧しか見えない男はあの時の白虎狼よりも格上なのだろうから。
「くっくっく、なるほど、わざわざ出向いてくるだけはある。駆け出しの街など捨ておくつもりだったが…どちらも中々の魔力のようだな。」
こちらに近付く男の全貌はようやく明らかになる。
漆黒の全身鎧、そして首から上が存在しない。右手に巨大な剣を持ち、左腕には兜付きの頭が抱えられていた。
「俺はベルディア。魔王軍幹部の1人、デュラハンのベルディアだ。暇潰し程度にはなってくれよ?」
「いえ、帰ります。」
「…は?」
めぐみんの一声に空気が壊れた感覚がした。まさかの返答にベルディアから変な声があがっている。
「ですから帰ります。まさか魔王軍の幹部ともあろう方がこんな小娘2人を相手にしようなどと思いませんよね。大体私達は偶然ここに探検にきただけで魔王軍の幹部がいるなんて知りませんでしたので、それでは失礼します。」
めぐみんはギクシャクした動きで後ろに向こうとする。だけど傍から見てそれで帰れるとは思えない。
「くっくっく…ハッハッハ!!確かに、魔王軍幹部である前に俺は騎士だ。戦えもしない女子供まで手を出すつもりはない。…だが。」
ベルディアは威圧するように私達に目を向ける。赤い眼光は不気味でしかなく、恐怖を呼び起こすには充分なそれだった。
「力を持つ者なら話は別だ…ぐっ!?」
《ターンアンデッド》
アークプリーストのスキル、アンデッドに特攻を持つアークプリーストの少ない攻撃魔法だった。十字架状の杖から放たれた白い光の球体はまっすぐベルディアの身体を焼いた。
「…くっくっく、そっちのアークプリーストの小娘はやる気らしいな。さぁこい!お前の力を俺に見せてみろ!!」
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攻撃したことは愚策でしかなかった。
いや、策ですらない。例えるなら、恐怖に震えた犬がワンワンと威嚇するように吠える、あの程度のもの。
恐怖で支配された私の身体は気が付けば勝手に動いていた。
にも関わらず使ったスキルが滅多に使わないアークプリーストのスキル、ターンアンデッド。本当に慣れのみで動いていたなら私は迷わず転生特典スキルを使っていたはずだから。
スキルレベルの大してあげてないターンアンデッドの効果はいまひとつどころではなかった。まるでゴムボールでも投げつけているかのような手応えの無さ、相手が本当にアンデッドなのか疑問にすらなる。
だけど、今は…これでいい。私の攻撃がターンアンデッドだけだと認識させれば、生まれる余裕、そして油断。
…私の攻撃は、その時に全てを賭ける。
ターンアンデッドを皮切りに私はベルディアから距離をとる、そしてまたターンアンデッド、近付く相手から離れてまたターンアンデッドの繰り返し。
「随分素早いな小娘、だが馬鹿にしてるのか?その程度で俺を浄化できると思っているのか?」
欠片ほども思ってないが私は終始無言で攻撃を繰り返す。アークプリーストに転職した時に無駄と思えた敏捷性は確かに今ここで役に立っていた。それでも無駄打ちは魔力を無駄にするのでできる限り抑えて。
この世界で初めてするであろうソロ戦闘。だけどゲームの中ではいくらでもやってきた。ベルディアに似たボスもいた、その時どんな動きをしていたか、考える、思い出す。
まるでシューティングゲーム。離れては撃ち、回避に徹する。
だけどこのままこれを繰り返すことに意味はあまりない。むしろこちらが不利になる。アンデッドに疲労なんてないけどこちらにはあるのだからこのままこれが続いたら死ぬのは間違いなく私だ。
こわい、怖い、恐い…死にたくない。もう死ぬのは嫌。あの大きな剣を直撃で受けたら私はまず助からないという確信がある。
生きたい、守りたい、ただそれだけの為に、避ける、撃つ、離れる。
私がやられたら、次はめぐみんになってしまう。それだけは嫌…!
「ふん、ちょこまかと。いい加減諦めたらどうだ?」
ふとベルディアは攻撃の手を止めた。私はそれに合わせて距離をとったまま杖を構える。
「確かに小娘にしてはやる。レベルをあげればより高みに登れるだろう。だが今はどうだ?貴様の攻撃は俺には蚊ほどにしか効かぬ。所詮支援職のアークプリーストではこの程度のものだ。それに…」
ベルディアは入口で立ち尽くしていただけのめぐみんに目線を寄せる。
「攻撃はむしろお前の仕事だろう?アークウィザードの小娘よ。それとも仲間がこれだけ頑張っているのに貴様は何もできない腑抜けか?」
「ぐっ…」
めぐみんは悔しさのあまり歯噛みする。そのマナタイトの杖を両手で握りしめ、だけど彼女は何も出来ない。やる訳にはいかない。せめてここが外であれば彼女にもチャンスはあったがそれを考えるだけ無駄であった。
「ふん、動かずか。もういい。」
ベルディアはこちらに向き直ると、頭を天井に投げた。
「これで終わらせる。」
その頭は赤く淀みを持って不気味な光を放つとその赤は眼のようななにかを形成した。効果はわからない。またベルディアが突撃してくる。
私はターンアンデッドを放つと同時にまた距離をとろうとする。けど…
「もらったぞ!!」
ベルディアはまるで私がそちらに避けるのをわかっていたかのように真っ直ぐに突っ込んできた。これには私も予想外で反応が遅れる。
おそらくあの赤い眼の効果なのだろうかと思いながらも私は緊急回避をとった。
《インパクト》
自身の周囲に放つ衝撃波。すぐ傍まで来ていたベルディアはそれを受けて怯む。
「何!?俺の魔眼で読めないだと!?」
この隙だけは逃す訳にはいかない。既に準備は終えていた。杖にはフレアタイトの魔晶石が赤く光っていた。アンデッドの弱点…それは光と火。ならこれでいけるはず。
《フレアテンペスト》
ストームに火の属性が加わったそれは炎の超極大の竜巻になる。ベルディアを飲み込む。更に天井に投げていた頭をも吸い込む。
「ぐおぉぉぉ!?!?」
ベルディアの叫びが城内に響く。だけど相手は魔王軍幹部、これだけで終わらせるつもりはない。
《ヴァルカン》
火属性を加えたランサー。炎を帯びた巨大な槍がまだ終わらない竜巻の中に突き刺さる。そして巻き起こる爆発。
既にベルディアの叫びは聞こえなくなっていた。私は連続の大技に魔力切れが近く、肩で息をしていた。そんな時だった。
「アリス!?」
めぐみんの悲痛の叫びが聞こえるとともに迫り来る黒い塊。私はハッとして少ない魔力を絞り出した。
《ファイアウォール》
火属性が付与されたウォールは不可視ではなくなるが火の壁となり私の周囲を覆った。なんとか間に合った、それは黒い塊が来る直前だった。そう安堵したのだけど…ウォールは大して効果を発揮せず、気付けば私は腹部から激痛を感じたと思えばその場から吹っ飛ばされていた。
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「アリス!!」
たまらずめぐみんは走り駆け寄った。慣れない鉄の味が口いっぱいに広がるのを感じるとそれを吐き出す。血液だった、内臓までいっているのだろうか、激痛が止まらない。
「…見事だったぞ、アークプリーストの小娘。」
黒い塊の正体、ベルディアはそのまま剣を降ろして立ち尽くしていた。
「正直驚いたぞ。まさかあんな隠し玉があるとはな。アンデッドの弱点である火に目をつけたのは正しい。実際こちらもかなり危なかった。だが…」
ベルディアは剣を取り直すと、めぐみんは震えるように私を胸に抱いてベルディアを睨みつけていた。
「残念だったな。俺の鎧には魔王様の加護がかかっている。これのおかげで俺に光や火の攻撃は効かぬ。…まったく効かないわけではないがな。」
まるで冷却するようにベルディアの身体からは煙があがっていた。確かにノーダメージではないらしい。
「そんな貴様にご褒美だ。これをくれてやる。」
ベルディアの手からは黒い炎があがり、そしてそれを私に向けると、私の身体が感じたことのない虚無感を呼ぶ、そしてその時私の意識は事切れた。
…薄れる意識の中にベルディアの声がわずかに残った。
「それは『死の宣告』こいつを喰らったやつは、一週間以内に死ぬ。」
episode2で触れていますが転生特典スキルはフィナウとインパクト、補助スキルを除き属性が付与されると名前が変わります。