正門前に向かうと既に数多くの冒険者が集まっていた。たのもしくも思う反面、それは不安をも呼ぶ。アクセルの街は駆け出し冒険者の街。そこにいる八割以上は駆け出し冒険者だ。まず魔王軍幹部を相手にして生きていられるはずがない。
と、いうよりそう考えたらギルドのアナウンスの正気を疑う。それとも戦えない人の中には駆け出しも含まれているのだろうか?
実際見渡してみるとやはり駆け出し冒険者の方が目立って見える、あくまで装備の質などから見た偏見ではあるが。そんなのことを思っていたら、強烈な怒号が聞こえてきた。
「貴様ら!!ふざけるな!!貴様らは支援職のアークプリーストにも関わらずたった1人で仲間を守る為に俺と戦った勇敢な年端の行かぬ少女を見捨てるというのか!?そうでないのならば何故城にこないのだこの人でなし共がぁぁぁ!?」
…うん、うん?
「美しい少女だった、幼いながらに凛とした顔立ち、仲間を守りたいという信念、そして素晴らしき才能、そんな少女が死にゆこうという中、貴様らは何をやっている!?これが人でなしでないのならなんだと言うのだ!?」
…
えっ、何これ?なんでベタ誉めされてるの!?めちゃくちゃ恥ずかしいんでやめてもらえません!?てか名前言われてないのになんで半分くらいの人が私を見てるの!?あ、アークプリーストなんてこの街にほとんどいませんでしたよ!そりゃ私を見ちゃいますよね、てか貴方魔王軍幹部の方ですよね!?なんで私元凶の方に心配されてるの!?これ傍から見たらただのいい人じゃないですか色々おかしいですよ!?
…と言ってる場合でもないのでとりあえず私はゆっくりと気まずそうにベルディアの見える位置まで出てみた。当然のごとくめちゃくちゃ注目を集めるので耳まで真っ赤になっていた。新手の罰ゲームにしか感じない。そんな私が出てきた途端にベルディアの動きが止まった。その顔は見えないけど酷く驚いている様子に見受けられた。
「……んぁ?…ぇ?……はぁぁぁ!?!?なんで生きてるの!?なんで呪い解けてるの!?」
「ぷーくすくす、ねぇどんな気持ち?絶対解かれないと思ってた呪いが解かれた気分ってどんな気持ち?あーおかしぷーくすくす」
「ば、馬鹿なことを言うな!?王都のアークプリーストでも解くことのできない呪いだぞ!?駆け出しの街にそんな力量があるやつがいてたまるか!?」
と、言われても実際解けてるのでこちらからはこれ以上何も言えないまである。ちなみに呪いのことをどうこう言われても私が死の宣告を受けたことを知ってるのは私以外だとめぐみんとアクア様とカズマ君だけなのでそれ以外の人に言われてもなんのこっちゃな話なのですよ。
だけど死の宣告をした張本人であるベルディアからして見ればそれが今解けてることは見ただけでわかるだろう。それを把握したようでベルディアは沈黙してしまった。そんな中、カズマ君がその場で声を投げかけた。
「で?そっちの言いたい事は解決したんだし帰ったらどうだ?」
…一応魔王軍幹部が街に攻めてきたという名目なのに帰れとはまた予想外で呆れた溜息しか出てこない。当然ベルディアはそのまま帰る訳もなかった。
「…馬鹿を言うな。あれから毎日毎日…毎日毎日毎日毎日城に爆裂魔法を撃ち込んで来たやつはどこのどいつだ!?なんでそんな陰湿なことするの?やられる度に修繕するのどれだけ大変かわかってんの?」
…仮にアクセルの街で検索サイトがあれば爆裂魔法と入力してヒットする人物は1人しかいないだろう。あの後そんなことしてたの?と半ば呆れた目線を私はそっとめぐみんに向けた。すると私の隣にいためぐみんはそのまま前へと歩いて行く。そしていつものようにマントを翻し、マナタイトの杖を掲げてポーズを決めた。
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、爆裂魔法を極めし者……!魔王軍幹部のベルディア、まんまと私の策に嵌りましたね!」
「…貴様はあの時のアークウィザード…策だと?」
「その通りです、お示しした通り我が魔法は爆裂魔法。城では撃ちたくてうずうずしていたと言うのに随分と好き勝手言ってくれましたね!貴方の言う腑抜けが放つ爆裂魔法、どれほどのものか身をもって味わうがいい!」
完全に調子を取り戻したのはいいのだけどこちらの手の内を明かす必要もないだろうにと私はなんとも言えない顔をしていた。まぁこの方がめぐみんらしくはあるのだけど。
「ふん、気に食わんが挑発には乗ってやろう。アンデッドナイト!」
ベルディアの掛け声とともにベルディアの周囲には黒い影のようなものがいくつも出現する。そしてベルディアの命令が始まる前に動き出した。
「ん?おい、何処へ行く!?」
「…え?ちょっと、なんでこっちにくるのよ!?」
アンデッドナイトは全てアクア様の方に向きを変えて突撃していく。…そういえばカズマ君からアンデッドを呼び寄せるとは聞いた事があるけどまさか主人の言う事を聞かないほどとは。
「ちょ、ちょっと数が多いー!?」
必死に逃げるアクア様。それを追うアンデッドナイトの大群。とりあえず助けないと。
ベルディアには効き目が薄かったものの、まさか配下まで魔王様の加護とやらはないだろうと思い、私はフレアタイトの魔晶石を杖に取り付け、詠唱を始めた。これだけ広範囲なら…これが1番効率がいい。
《ヘルインフェルノ》
これが最後の転生特典スキル。《バースト》の火属性が付与されたもの。私から扇状の広範囲に展開されるマグマの塊は超速で広がり、全てのアンデッドを巻き込んだ後にベルディアをも飲み込む。マグマはぶつかるとともに小爆発を起こし、次々とアンデッドナイトを溶かして行った。
「馬鹿な…以前も思ったがアークプリーストの貴様が何故このような強力な攻撃魔法を使える!?」
「ちょっとアリス!?何ちゃっかり目立ちまくってるんですか!?私の見せ場を取らないでもらおうか!」
あ。と思うのも後の祭り。ついいつものように攻撃スキルを使ってしまった。それも自身にとって1番派手なやつを。というより初めて使ったので範囲くらいはゲームで理解していたものの、ここまで派手だと思わなかったのもある。
おかげで街にいる大量の観客兼冒険者からは凄まじい歓声があがってる。
「あれが噂のスキルか!?マジでアークウィザード以上じゃねーか!?」
「あんなに小さい子なのに凄いわ!」
「あれが『アークウィザードプリーストのアリス』か!?」
……うん、この戦いが終わったら私…旅に出よう。改めて心に誓った瞬間である。とりあえずめぐみんの出番はこんな取り巻きではないですよ、と言いくるめておいた。
「言われてみればそうですね。わかりました、トドメはおまかせください。」
「はぁぁぁ!」
草原を駆ける1人の騎士。ダクネスはベルディアに真っ向から突撃した。そして体制を立て直したアクアはダクネスの背後から走る。ベルディアは真っ向から走り来るダクネスを見据えて迎撃を試みようとした。
「喰らいなさい!ターンアンデッド!」
ダクネスに気を取られたベルディアはアクアのターンアンデッドを直撃で頭に喰らう。
「ぐぉぉぉ!?!?」
それによりベルディアは悲痛の叫びをあげる。ターンアンデッドの着弾した場所からは浄化の煙があがる。だがアクアは気に入らなかったようだ。
「なんか大して効いてないわね、どうなってるのかしら?」
「いや、めちゃくちゃ痛そうに見えるんだが。」
…カズマ君はそうは言うけど私もターンアンデッドを撃ったことがあるのでアクア様の気持ちはよくわかった。アンデッドが喰らうという想定よりも効いていないのだ。そして私が撃ったターンアンデッドは怯みすらしないのにアクア様が撃ったターンアンデッドはベルディアを苦痛に歪ませるには充分の威力。私は内心歯噛みしていた。これが女神様と私との差なのか、と。勿論女神様と自分を比べること自体烏滸がましいことはわかっている。それでも強くなりたいと意識しだした私にはそのアクア様との圧倒的な差が悔しくもあった。
激昂したベルディアはカズマとアクアに向かいその剣を大振りに振り上げた。ダクネスはそれを両手で持った剣で受け止める。
「ぐう…!?」
ダクネスは少しずつ押されていた。それを見たカズマは援護するように相手の腕に持つ顔に向けて撃った。ダメージにはならないが気を反らせるくらいにはなると思って。
「クリエイトウォーター!」
「ぐっ!?」
それを見たベルディアは大袈裟に距離をとった。半ば強引にダクネスから引くように後ろへと下がる。カズマの撃ったクリエイトウォーターは地面への水やりに変わる。
違和感があった。アクア様の撃ったターンアンデッドすら避けることなく喰らったのに今のクリエイトウォーターごときを無理矢理避けたのだ。カズマはその違和感が拭いきれなかった。一方ダクネスは下がったベルディアへと距離を詰めその両手に握られた剣を大振りに振るう。それは当然のごとく空を斬るのだがカズマは再びベルディア目掛けて撃つ。
「クリエイトウォーター!クリエイトウォーター!」
「うおっ!?」
2連続の水鉄砲はどちらも惜しい位置までいくものの、ベルディアには避けられる。それを見てカズマは確信した。
「みんな水だ!こいつの弱点は水だ!!」
「ぐっ!?」
図星だったのか反射的な反応を寄せるベルディアには、街の冒険者から次々とクリエイトウォーターが放たれる。ほとんどがクリエイトウォーターなことから運悪く中級水魔法を使える人はいないようだ。だがそんな水鉄砲ですらベルディアには脅威なのか、執拗に回避している。
私はダクネスに目配せする。同時に杖にはめこんだフレアタイトの魔晶石を取り外すとアクア様からもらった水の魔晶石をセットし、詠唱を開始する。ダクネスが理解したかのようにベルディアに突撃し、注意をひく。そのタイミングでノーマークとなった私は思いのままに魔法を放つ。
《エターナルブリザード》
吹雪のように私から扇状に射出される絶対零度の超範囲。先程の《バースト》の水属性付与により生まれた凍てつく爆風はベルディアに避ける術を与えない。ベルディアの足がとまる。必死に耐えているのがわかる。そして止まっているのなら、彼女の出番だ。ダクネスはちゃんと理解していたようだ。すぐ様ベルディアから離れ、カズマ達も距離をとる。
「待ってましたよこの時を!我が破壊の魔力よ、かの邪悪なる死霊に終焉を!いざ我が盟友の仇を討たん!…エクスプロージョン!!」
赤い爆弾がベルディアの頭上から落ちると、それは大きな爆風と爆音を呼び極大に弾け飛ぶ。見事に真芯を捉えた爆発は確かにベルディアに直撃した。…それはいいのだけど盟友とは誰の事なのか。もし私なら勝手に殺さないでほしいものである。
「ぐぅぅ…!?」
爆裂魔法の直撃を喰らってもまだベルディアは生きていた。この結果にめぐみんは歯噛みしながらも魔力切れにより倒れる。だがベルディアはかなり弱っているようだった。
「貴様ら…絶対に許さんぞ…!!」
ベルディアは自身の頭を上に投げた。それは不気味な赤い光を纏い始める。
だけどその技は既に見ていた。多分未来予知のような効果と予測したそれは既にカズマ君達に伝えていた。弱っていて頭は離れた。カズマ君にとっての正念場はここだった。
「スティーール!!」
両手を掲げて飛び出したカズマ君のスティール。武器をとれれば御の字。鎧を取れても魔王の加護とやらを無効にできる。果たして結果は…。
カズマ君は手にしたそれを見て邪悪な笑みを浮かべた。そして何を取ったのかはすぐに理解できた。天よりあった赤い存在感がなくなったのだ。つまり…
「あの…頭返してくれません…?」
気まずそうなベルディアの声が周囲に伝わる。既に魔王軍幹部とかそういった威厳はとっくにゼロである。
「アリス!ウォールだ!」
突然のカズマ君の声に私は反射的にウォールを唱えた。なんなのこれ、と内心混乱しながらも。
《アクアスクリーン》
ウォールに水属性がかかったそれは魔方陣から水の壁を生み出す。それに向かいカズマ君は……持っていたものを投げてきた。
投げられたそれは私の水の壁に弾き飛ばされる。ボスにウォールは効かないけどこれだけなら効くようである。おそらく本体扱いではないからだろう。
「ウォール!!」
カズマ君もウォールを唱えた。弾き飛ばされたそれはカズマ君のウォールに当たり弾き飛ばされる、私の水の壁へ…。
繰り返される衝突。まるでそれが…ベルディアの頭がピンボールみたいに私の水の壁とカズマ君のウォールを行ったり来たりする。当然魔法なのでダメージもある。ウォールをこんな風に使うなんて想像もしなかった。私は思わず内心ドン引きしていた。ただこの大道芸の巻き添えは二度と加担したくはないと思った。
「あばばばばばばばば」
繰り返される衝突によりベルディアの声はひどいことになっていた。これは本当にひどい。
「大分弱っただろ!?アクア、やれるか!?」
弱ってるどころか既に虫の息な気がしないでもないし頭がこのような状態で思考できるわけもなく、ベルディアの身体は静止したままだった。アクア様はそれに走り近づき渾身の魔法をお見舞いした。
「セイクリッド…ターンアンデッド!!」
浄化の光がベルディアの身体全てを包み、それはベルディアの存在そのものを根源から消し去ることに成功した。ピンボール扱いされていたので断末魔すらも許されないその様に、私はなんとなくベルディアに同情したのだった。
《バースト》転生特典スキルその10にあたる作中最後のスキル。フィナウに並ぶ最上級攻撃魔法スキルだが威力はストームより少し上くらいで消費魔力もストームより少し上程度。ただその攻撃範囲は全魔法スキル中最高を誇る。その魔法に火属性を付与したものがヘルインフェルノ。水属性を加えたものがエターナルブリザードになる。