内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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三章 ―王都へ―
episode 26 旅立ち


ベルディア討伐を成功させたその日。駆け出し冒険者の街アクセルは歓喜の渦に包まれた。それも当然、数百年ぶりともなるらしい魔王軍幹部の討伐、それもこの世界の主要戦力が揃っている王都ではなく、駆け出し冒険者の街アクセルでなのだから。

 

その歓喜は1日中終わることのなく、夜になればあちらこちらで盛大に祝われることとなった。

今回の功績者である冒険者、カズマ君のパーティと私はその狂喜の中心に駆り出されることになるものの、私は目立つのが苦手なので早々に逃げるように祝いの席という名の冒険者ギルドで開かれた宴会から抜け出し、自分の部屋へと帰ってきていた。単純にカズマ君達に押し付けたともいう。

 

さて、そんな私は長く使っていた宿で何をしているかというと、荷造りだった。決意に揺らぎはない、せっかく出逢えた仲間達と離れ離れになるのは寂しいけどこのままアクセルにいても私は何も変わらない。レベルもついに30になってしまっていた。どうやらベルディア戦での大量のアンデットナイトを倒した際に上がっていたらしい。このレベルでアクセルに居座っていても私の力がこれ以上伸びることはないだろうからそれもまた決意を固めた原因の1つでもある。

 

荷造りとはいえ、宿にあった家具のほとんどは元々備え付けられていたもの。破損してたりしたら弁償もあるけど見る限りではそのようなこともない。せいぜい買い揃えた服とか装飾品くらいで細かいものは王都で買い直すなりしたらいい。それらを全て大きめのトランクのような鞄に詰め込んでいると、最後に入れようとしていた青白いワンピースに目が止まる。

 

それは冒険者となって初めて依頼をこなした日にリーンに選んでもらったもの。もう半年以上経つのかと感慨深くもなる。リーン達テイラーパーティ一行は今クエストで街から出ていて問題なくクエストが終われば明日には帰ってくる予定になっている。ベルディア戦で姿がなかったのはそれが理由だった。

 

少しだけ気が重くなる。今ならやめようと思えばやめられる。まだ誰にも旅立つことは言っていない。…そうだ、別に誰かに言われた訳でもない、ならもう少しだけこのアクセルの街にいてもいいのではないか…。

 

…そう、考えながらも、私は鞄に思い出のワンピースをしまいこむと、勢いのまま閉じた。

それでは駄目だとわかっているから。もう、あんな恐怖は味わいたくなかったから。友達を失いかねない恐怖を。

 

それに比べたら、別れによる辛さなんて些細なことなのだから。不思議と涙は出なかった、こんな感傷を抱いていたなら、いつもの私ならとっくに泣いているはずなのに。少しは成長できたと前向きにとらえても…いいですよね。

 

 

 

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「そうか…寂しくなるな…」

 

冒険者ギルドに来ていた。そこでまず出会ったのはダクネス。私が今の心境と今後の目標の為に王都へ行く事を告げるとしんみりした様子で項垂れていた。

 

「だがカズマが言っていたんだ、私達のパーティもいずれは魔王を倒すのを目標にしている。今はカズマのレベルもあるからまだこの街にいるが、いずれ王都に赴くことになるだろう。だから永遠の別れではない。また相見える時を楽しみにしている」

 

そう告げるダクネスは凛としていて立派な美しい騎士そのものなのだけど…つくづくあの性癖が残念でしかないと思うと、何故かその輝きは薄まって見えてしまった。本当に勿体ない…。

 

「おい、何故そこでそんな軽蔑した目で見るんだ、今はそんな場面じゃないだろう!?むしろもっと見てくれ!」

 

私が早々にその場を後にしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

……

 

 

 

「…そうか、そろそろだろうと思っていたが、ようやく決意したか」

 

「アリス…」

 

冒険者ギルドを見渡してみるとテイラーとリーンが2人でいた。リーンはともかくテイラーの体格は割と目立つのですぐ見つかった。そして私が事情を説明するなり、リーンは俯いているがテイラーの表情は変わることはなかった。予想していたのだろうか。

 

「あぁ、とくに最近のクエストはレベルもあってアリスを外さざるを得ないことも少なくはなかったからな。先日のベルディアの件の話も聞いた。不在だったとはいえ、何もできなかった事が悔しくて仕方なかった。寂しくはなるが、王都に行くのなら俺としては賛成だ、その方がアリスの為にもなるだろう」

 

「…アリスがパーティを抜けても、私達が友達なのは変わらないんだから!辛くなったらいつでも帰ってきなさいよ!」

 

振り絞ったようなリーンの言葉に、私は嬉しくなっていた。勿論簡単に帰るつもりはないけど、確かに私が帰る場所はここにあるんだ…と思うと自然と涙ぐんでいた。これ以上話をしていると泣いてしまいかねないと思った私は、懸命にそうならないように務めつつ、ダストとキースにもよろしくと告げると2人から別れた。

 

 

 

 

 

「なるほど…王都へと旅立つのですね。…あ、すみません少々お待ちください」

 

ギルド受付のルナさんに事情を告げるとルナさんは窓口奥に入ってしまった。とりあえず受付が混んでたりしたら仕事の邪魔になるので遠慮するつもりだったが今は閑古鳥が鳴いてる状態だったのでせっかくだからと話しかけてみたのだ。

 

「お待たせしました。こちらを王都の冒険者ギルドの職員に渡してもらえますか?」

 

ルナさんが差し出したのは一通の便箋…手紙だろうか?というか拠点を移すのにそういったシステムがあったのだろうか?それならそれで話しかけたのは正解ではあったと思うけど。とりあえず私は大して気にすることなくその便箋を受け取った。

 

「アリスさん、今までアクセルでの活動お疲れ様でした。ギルドスタッフ一同これからのアリスさんの王都での活躍に期待しております」

 

ルナさんはそう言って丁寧に頭を下げた。営業的なものだろうけどそれにはルナさんのちゃんとした心がこもっているように思えて嬉しく思った。決して頭を下げた時に揺れたものをみて内心殺気立ってなどいない。裏の感情も空気を読めるはずだ、多分、きっと。

 

 

 

 

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「えぇ!?それ本気なの!?」

 

「いやそれは驚いたけど、なんでアクアはそこまでショックを受けてるんだ?」

 

「当たり前じゃない!アリスがいなくなったら誰が私を女神として崇めるのよ!カズマも少しはアリスを見習ってもっと私を敬いなさいよ、尊敬しなさいよ!」

 

「そうして欲しければまず日頃の行いから正せ?いやもう手遅れだけどな!完全に諦めてるけどな!」

 

今はカズマ君達がいた馬小屋にいた。私が話をした途端に喧嘩を始める2人はやっぱりなんだかんだで仲がいい気がする。…本当に、羨ましい。

 

「羨ましいって…いやアリスの気持ちは前に聞いたけどさ、実際めちゃくちゃ大変だからな?未だに後悔する時あるからな?あれだ、隣の芝生は青くみえるもんなんだよ。少なくとも俺はアリスの力の方がよっぽど羨ましい」

 

「なんですってぇ!?」

 

「本音を言って何が悪いんだよ!?…あー、とりあえず元気でな」

 

「そこは俺もすぐに追いつくから待ってろ、くらい言いなさいよ」

 

「最弱冒険者の俺に何を期待してんの?そーいうのはアリスやこの前の…マツラギさん?だったか?あーいう人に任せるよ」

 

終始苦笑しか出来なかった私だけどマツラギさんって人は初耳だった。マツラギさん……日本人の苗字に聞こえなくもないけど…まさか?

 

「あぁ、俺達と同じだ。王都に行くなら逢えるかもな」

 

まさかの私達以外の日本人の転生者だった。未だにカズマ君以外の転生者には出会ったことのない私にとって出逢うのが楽しみだなぁと楽観的に考えながら私は馬小屋を後にした。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

他にもウィズさんのお店やセシリーお姉ちゃん、お世話になった人々のところへあちこち回っていたら王都行きの馬車の出発時間に近くなってきていた。既に1時間もないことを首にぶら下げた懐中時計で確認するなり私はアクセルの街の馬車待合所に行くことになった。

 

結局めぐみんは見つからなかった。別れの挨拶をしたかったのだけど仕方ない。一応カズマ君達には私の事は言ったから伝わるとは思うけど…と、そう思っていたらアクセルに入ってくる見たことのある人物が見えた。

 

あの黒とピンクの服装は…ゆんゆんだった。よくみると背中からは更に見慣れたとんがり帽子も見える。ゆんゆんもこちらを見つけたのだろう。こちらに向きを変えて歩いてくるのが見えた。

 

 

「あ、アリスさん!お久しぶりです!聞いてくださいよめぐみんたらひどいんですよ!」

 

「ひどいとはなんですか、ただ爆裂魔法撃ちに行くのに付き合ってもらったただけでしょう」

 

「私さっき紅魔の里から帰ってきたばかりなんだけど!?」

 

流石この2人だ、何気ない会話で状況が大体把握できてしまった。追記してしまうとめぐみんが友達の頼みが聞けないのですかとかなんとか言って無理矢理着いていかせたのだろう。

 

「おやアリス、そんな大荷物で今から旅行でも行くのです?」

 

めぐみんの疑問にゆんゆんも私の荷物を見て首を傾げていた。なんだか言い難い状況になってしまった気もするけど元々別れを言うつもりだったので私はそのまま説明した。ゆんゆんも居るならむしろ都合がいいとも考えながら。

 

私は今日アクセルを出て王都に行くことにしたこと、理由としてはレベル30になってしまったのでアクセルでやっていくには辛い事にしておいた。嘘は言っていない。

 

「30…ですか、随分と差をつけられてしまいましたがそういうことなら仕方ないですね」

 

ゆんゆんの背にいるめぐみんは納得している様子ではあるものの、ゆんゆんは何も言わず黙ったままだった。…よく見るとゆんゆんは震えているように見える。それを見て私は確信した。

 

…ゆんゆんとは出会ってから友達となり、ほぼ半固定パーティとして一緒にやってきた間柄だ。もしかしたら何も相談もなしに私がアクセルを去ることを怒っているのかもしれない。私はゆんゆんの様子を伺いながらも謝罪することを考えていた。しかしゆんゆんから出た言葉は驚くべき言葉だった。

 

 

 

「でしたら……私も一緒に行きます!」

 

「っ!?…ちょっとゆんゆんいきなり何を言っているのですか!?」

 

私はめぐみんに同意した。いくら友達だからと行ってもそこまで私に付き合う必要はないのだから。ただ本音を言ってしまえば…そう言ってくれたことが何よりも嬉しかった。

 

「一緒に行くにしてもレベルは足りてるのですか!?中途半端なレベルで行っても足手まといにしかなりませんよ?」

 

「……ふふっ…めぐみんちょっとごめんね」

 

ゆんゆんは断りを入れるとめぐみんを待合所のベンチに座らせて、自身の冒険者カードを私とめぐみんに見せつけた。

 

「……っ!?レベル26!?」

 

驚愕に染まるめぐみんだけどレベルについてはそこまで驚かなかった。何故なら私とゆんゆんで組む時は大抵ゆんゆんの魔法の方がメイン火力になることが多かったのでその分ゆんゆんに経験値が多く行ってただろうし。めぐみんは1日1回爆裂魔法しかできないからレベルをあげにくいのもあるのでレベル差が開くのは当然とも言える。

 

「もう少ししたらスキルにテレポートも覚えられるわ、…アリスさん…私達はパーティですよね?同じパーティのアリスさんが王都に行くのなら、私も着いていきたいです」

 

 

…そこまで言われたら断る理由もなかった。…だけど問題は多い。後1時間もしない内に馬車が出発してしまう。ゆんゆんが今から準備をするとして間に合いそうにはない。それに馬車の席が空いてるかどうかの問題もある。めぐみんも動けないのでそのままにはできない。…どうもこれは馬車を1便遅らせたほうがよさそうだ。

 

「あっ…ご、ごめんなさい私のせいで」

 

ゆんゆんは何を言っているのだろう。お友達が私に着いてきてくれるなんて言ってくれてるのにそうしない理由はないのに。…正直不安でいっぱいだったから、本当に、本当に嬉しかったのだから。

 

「アリスさん…」

 

「……まぁいいでしょう。ですが覚えておいてください、次に会うまでに私は爆裂魔法を更に極めてみせます。それこそ魔王軍幹部すら一撃で倒せるくらいに!…とりあえず行くのはいいのですがちゃんと私の事は運んでってくださいね」

 

ベルディア戦のことを気にしていたのだろうか、確かにトドメとはならなかったもののあれがきっかけで討伐に至ったのは間違いないというのに。…とりあえずめぐみんは爆裂魔法の威力ではなくて爆裂魔法を使っても倒れないように強くなるべきな気もするけど人間である限り流石にそれは難しいだろうか、とか考えながらも、私達は1便遅らせた馬車に間に合うように、慌ただしく準備をするのであった。

 

 





ゆんゆんが仲間になった!やったぁ

追記。episode1にアリスのキャラクター画像と、episode17にフィナウ詠唱画像追加しました。
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