内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 27 友達の定義

 

馬車に乗り、アクセルの街が遠のいていく。

めぐみんの呼び出しにカズマ君とアクア様、ダクネスも見送りに来てくれて、アクセルの正門前で手を振ってくれていた。私とゆんゆんは馬車から上半身を乗り出して感慨深く思いながらも、手を振って返した。

ゆんゆんは元々紅魔の里から帰還したばかりだったので荷物自体は鞄から出さずにそのまま持ってきた形になる。それにしても本当に着いてきても良かったのだろうか。めぐみんともしばらく逢えなくなってしまうのに。

 

「も、もちろんですよ。パーティメンバーなのもありますし、最近だとアクセルでは私もクエストを受けづらくなってましたから…それにテレポートさえ覚えたら1度アクセルに帰って登録しようかと思ってます。これで私もアリスさんもいつでもアクセルに行けるようになりますよ」

 

テレポート…馬車で何日もかかる距離を一瞬で移動するとは羨ましいスキルである。ちなみにアークウィザードのスキルなのでアークプリーストは取得できなかった。非常に残念である。あるいは転生特典スキルに道具が作成可能なアルケミストスキルがあれば良かったのだけど残念ながらなかった。あれがあればテレポートのような魔法は使えなくてもセーブポイントという名前の登録した街にワープできる効果のあるアイテムを精製できたのだけど。それ以外にも各種ポーションや一時的に能力値を増加させるアイテムなど材料さえあればいくらでも作れたのだが。

とはいえ無い物ねだりをしても仕方ないので割愛しよう。

 

それにしてもゆんゆんは大丈夫なのでしょうか…?

 

「えっ?私がどうかしました?」

 

ゆんゆんは紅魔の里から帰還したてでめぐみんの爆裂魔法に付き合い、そしてドタバタ準備して今また王都に向かっている訳なのだけど疲れてないのだろうか?というか普通に心配になった。

 

「私なんかを心配してくれるんですか…?ありがとうございます、…そうですね、正直に言いますと今かなり眠いです」

 

だから何故いちいち自分を下に見た物言いをするのだろうと思いつつ、今は休んで欲しかったので寝て欲しいと進言した。どうせ数日はこの馬車で過ごすのだし今から寝ても問題はない。

 

「それもそうですけど…私…お友達と馬車に乗るだなんて初めてなので…なんだか勿体なくて…それにアリスさんに悪いような気も」

 

私は内心呆れながらも首を横に振った。友達が睡眠不足になるほうがよほど嫌なのである。ゆんゆんは1度立場を逆にして考えてもらいたいものです。

 

「立場を逆に…考えたこともなかったです。ただお友達は、大事にしたいじゃないですか」

 

…つまりゆんゆんは友達を自分より上に見てしまっているのだろうか?だけどそれは友達と言えるのだろうか。少なくとも私の感性でのそれは友達とは言えないまである。…今は言わなかったけど多分ゆんゆんの中では『私なんかとお友達になってくれた人は』という語句がはいりそうでもある。とりあえず今は休んで欲しい、と私が告げればゆんゆんは申し訳なさそうに頷いた。

 

「……そうですね、確かにアリスさんが私の為に無理していたら、それは嫌かもしれないです、わかりました、ではおやす…………すぅ…すぅ…」

 

相当眠かったのだろうか、喋り終わる前に眠ってしまったゆんゆんを見て私はただ溜息をついていた。普段のクエストや買い物など付き合ってもらってた時にはあまり意識していなかったけど改めて見るとここまでひどいとは。…せっかく2人きりになれたいい機会でもある、1度ゆんゆんにその辺の友達の定義を見直してもらおう。そう心に決めたのだった。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「おや?連れのお嬢ちゃんは寝たのかい?まぁ今はアクセルに近いから構わんが王都側に近づいてきたらよろしく頼むよ?」

 

御者のおじさんの声だけが聞こえてきた。実はこの馬車旅、護衛のクエストも兼ねていたりする。そうすればお金がかからず王都にいけるので冒険者としてはそれくらいが丁度いい。ただ何日もかかる馬車の護衛はかなり大変だと聞いたので私とゆんゆんは1人は護衛として、1人は客として馬車に乗り込んでいる。交代で起きていれば楽にもなるし護衛と客で差し引き若干お金がかかるもののそれでも普通に客として乗るよりはかなり節約できる。王都の方が物価が高いと噂で聞いたのでできるだけ消費を抑えたかったのが正直なところではあるけど。

ちなみに馬車の護衛は2種類存在する。1つは敵感知スキル必須であり常に馬車の外で警戒しながら着いて行く人、もう1つは普段は馬車に乗っていて緊急時のみ戦闘に駆り出される人。私は後者にしている。というより敵感知スキルなんて盗賊のスキルなのでもっていない。そして馬車は街道沿いに走るので危険になる可能性は低い。よって敵感知スキルのある人の報酬は高めな代わりに緊急時のみの戦闘での私の報酬は雀の涙、仮に何回戦闘があろうと報酬に変わりはない。そんなシステムだったが、私はとくに気にしていなかった。

 

「お嬢ちゃんの活躍は遠目ながら見てたよ、いざという時は期待しているよ」

 

おそらくベルディア戦のことを言っているのだろうと私は恥ずかしげにおまかせくださいと返しながらも苦笑していた。王都では目立たないようにしないと、と半ば諦めるように少しずつ変わる風景を楽しんでいた。

 

 

……

 

 

 

「お、おはようございます…すみません私ったら…馬車に乗るなり寝ちゃったりして…護衛のこともあるのに…」

 

起きる早々にゆんゆんは申し訳なさそうにしていたけど既に馬車に乗って数時間、とくに戦闘があったわけでもなかったので私としては問題なかったしそれでゆんゆんが眠れたならこちらとしても満足である。

それはそれとして、私はゆんゆんにどうしても聞きたいことがあった。

 

「私にですか?」

 

ゆんゆんは予想がつかないようでキョトンとしていた。ただ目覚めたてでハッキリしていないようにも見えたけど疑問自体は簡単なものである。私はゆんゆんのことを大切なお友達と思っているけどゆんゆんにとって私は何なのだろうかな?と。

 

「え、えぇ!?私にとってもアリスさんは大切なお友達ですよ!?どうしてそんな事を聞くんですか!?」

 

予想外な質問すぎたのかゆんゆんは取り乱していた。その回答は予想できていたし嬉しいのだけどそれならそれで敬語はやめて普通に話をしてくれたらいいのに、とは前々から思っていたりする。

 

「え、えっとそれは…アリスさんのほうが歳は上ですし…そ、それにアリスさんだって大抵は敬語じゃないですか?」

 

なるほど、確かにゆんゆんの言う事も一理あった。だけど年上とはいえ1か2しか違わないし私の場合は誰彼構わず敬語にほぼ固定されているもののゆんゆんはそうではない。少なくともめぐみんと話しているゆんゆんに敬語は見当たらないのだから。何より人により使い分けする敬語というのは友達観点から見て壁があるような感じもする。

 

「そ、それはめぐみんは幼い頃からの付き合いですし………い、いひゃいれふ!?あにつるんでつか!?」

 

話している最中にも関わらず私のゆんゆんの両頬を両手で抓って引っ張っていた。なるほど、なら私もめぐみんのようにゆんゆんと接したらめぐみんと同じ接し方になるのだろうか。そう考えながらも私の瞳はゆんゆんの頬の下にある2つの大きな膨らみを見るなり邪悪に目を光らせた。

 

「……っ!?わ、わかりました……わかったからそれだけはやめてぇ!?」

 

半ば強引に私の頬抓りから逃れたゆんゆんはその2つの膨らみを両腕でガードしながら牽制していた。私は内心舌打ちしながらもそれでよしと笑って応えた。

 

「……なんだかアリスさんの……アリスの意外な一面を見た気がするわ…」

 

さん付けに反応して再び目を光らせると慌て言葉遣いを変えるゆんゆんは地味に面白かった。まぁ元々対等な関係でいたかったのが1番なので少し荒療治な気もするけどこれで変わってくれたらいいなぁと思いながらも私はちょっとした罪悪感から謝罪した。まぁ逆にそうされたら嫌ではあるし。たとえ同性でも。

ちなみにゆんゆんじゃないとこんなことはできない。私もどちらかと言えばゆんゆん側の性質の女の子なので。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

2日が経ち位置的には王都側に傾いてきた現在、微妙に飽きてきた食事をしていた。とくに目立った魔物の遭遇などもなく、平和そのものだった。敵感知スキルもまったく反応がないようで外に見える護衛の人も欠伸をしていることが伺える。食事に飽きたとは品目に問題がある。基本日持ちする固めのパンや干し肉などがメインになる。水はクリエイトウォーターの魔法でどうにでもなるものの、あまり食が進まないことは言うまでもない。…そんな中私とゆんゆんは王都に着いてからどうするかを話し合っていた。

 

「まずは宿をとって、それから冒険者ギルドを探して、周辺を散策する感じになるのかな…」

 

とりあえずゆんゆんの言うように王都に居着くつもりなので1番は生活基盤の確保になるだろう。私はもちろんゆんゆんも王都は初めて行く場所になるのでまずは迷わないように何が何処にあるのかの把握もしたい。それらが落ち着いてようやく冒険者ギルドで依頼を受けてお金を稼ぐ、そんな感じだろうか。アクセルと王都という違いはあれどそれはアクセルに初めて来た時に私もゆんゆんもやってきたことだ。

それに王都に着いて即クエストを受けようなんてことも考えてはいない。長く泊まれる宿を見つけ次第3日ほどは観光に使ってもいいかなと考えていた。お金はそこそこあるし、堅苦しい旅でもないのだから冒険者としての気楽な感性を充分に利用するつもりだ。

 

「どうなることかと思ったけど観光と考えたら楽しそうよね。私お友達と観光なんて初めてだから今から楽しみで…」

 

まだぎこちない気もするけどゆんゆんは普通に話してくれるようになった。なによりのんびり観光なんて1人で王都行きを決めた時にはまったく考えていなかったので私としても楽しみだった。つくづくゆんゆんが来てくれて本当に良かったと思えた瞬間でもある。もちろんただ遊びに行く訳でもない、当初の目的は強くなりたくて王都に行くことにしたのだから。これからどうなるのか想像もつかないけど、ゆんゆんがいてくれたことで今は決して少なくはない希望を持てて王都に向かえていた。

 

 

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