内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 3 アクシズ教のプリースト

人通りのまばらな住宅街の一角、1つの民家の玄関口をノックする女性を見つけた私は、なんだろう?と興味本位で見に来ていた。

 

「すみませんー!開けてくださーい!大変なんですー!!」

 

女性の身なりは私にとって微妙に親近感を覚える感じのものだった。私より少し控え目な青が基調とされた修道服…修道服として見たら派手な部類かもしれない。さらにセミロングながらも私と同じ色の、ウェーブがかかった金髪の女性。

 

その言葉とは裏腹に落ち着いた様子のまま、声だけを出して住民を呼び出していた。そして引き戸の扉がガラッと開かれた。

 

 

「んん?なんだよプリーストの姉ちゃん、何が大変なんだ?」

 

出てきたのは仕事が終わったばかりなのか、少し汚れが目立つ作業者っぽい服を着たガタイのいい中年男性だ。女性は男性がでてくるなり迫真した顔でとんでもないことを言った。

 

 

「貴方のこの家!!悪霊が住み着いてますわ!!」

 

「……は?」

 

男性は突然の悪霊話に呆然としている。

 

「どこか体調が悪いとかありませんかっ!?夜なかなか眠れないとかありませんか!?」

 

「……い、いや、とくにねぇけど」

 

男性はただその勢いに押されまくりだ。そんな男性に構うことなく、女性は質問を続けた。

 

「…では、ひたすら走り続けると疲れてきたり、夜になると眠くなったりしませんか!?」

 

「…………そりゃするけど…そんなの誰でもそうじゃ…」

 

男性が肯定したその瞬間、女性のコバルトブルーの瞳が妖しく光った。

 

「そうでしょうそうでしょう!!それはまさしくっっ、悪霊の仕業ですっ!!もしこのままほっといたら…貴方、1週間以内に死にますよ!」

 

「は、はぁ?」

 

 

「聞こえなかったのですか!?このままほっといたら!貴方は5日以内に死にます!!」

 

「なんで期間短くなった!?」

 

 

「あら、聞こえているではありませんか。そうですよね、死にたくないですよね!?そんな貴方に朗報をお持ちしました!!アクシズ教団に入りなさい!入信しなさい!ちょうどここに都合良く入信書もあるわ!あとはこれにサインするだけっっ!それで貴方は、悪霊から護られるのよ!!さぁはやく!死にたくないでしょ!!はやく!はやく!はーやーくーっ!!」

 

 

最初は悪霊から守ってあげたい通りすがりのプリーストさんだったのに、どうやら宗教勧誘することが本来の目的なようで早口で威嚇するように入信書とペンを押し付けるその姿はたくましくも恐ろしい。できれば関わりたくない。はやいうちに離れたほうがよさそうだ。それにしてもアクシズ教…?どこかで聞いたような気がする。

 

「ええいなんか話が通じないと思ったら、アクシズ教団の人間かよ!?おら帰れ!俺の家は代々エリス信徒なんだよ!!」

 

「まぁ!?あの悪名高いエリス教ですって!?悪いことは言わないから改宗しなさい!!このままだと貴方3日以内に死ぬわよ!!」

 

「するかバカ!!おらとっとと帰れ!」

 

バタン!と勢いよく扉は閉められる。

 

「きゃーー!?誰か来てー!!ここの住人に、胸を触られたのー!セクハラよー!?」

 

「おい、ふざけんな!?!?指1本触ってねぇじゃねぇか!」

 

私は唖然としたままその場を窺っていた。これはいくらなんでもひどすぎる。

このままではあのおじさんは衛兵なり警察なりに連れていかれそうだ。流石に見過ごすのは良心が痛む。もし警察が来るようなら私が出ていっておじさんの無罪を証明してあげよう。…と思い覗いていたのだけど騒ぎを聞いて駆けつけた衛兵の人は女性の顔を見るなりやれやれまたか、と言った表情をして何も言わず立ち去ってしまった。おじさんはそれを見るなり軽く安堵してまた勢いよく扉を閉めた。

 

 

…普通はおじさんを捕まえないのなら女性のほうになんらかの注意なりあるはずなのにそれもないことで私の中で女性の危険度はかなりあがっていく。つまり彼女は衛兵の人ですら関わりを避ける人間なのだ。

 

 

「ちっ……あら?」

 

その瞬間だった。

 

自身の頭の中で警報が鳴る。今すぐここから逃げろと。疲れも空腹も関係ない、逃げろと。それは騒ぎの中心にいたプリーストの女性とふいに目が合ってしまったことで大きく警告を告げる。

 

大丈夫、距離にして50mは離れている。いますぐ全力で後ろを向いて逃げれば間に合う。そしてそう思うとほぼ同時に私は背後に目を向け…

 

 

目を向けようとした方向からガシッ!!と片手を両手で包むように掴まれた。ビクッと全身に悪寒が駆け巡る。一体誰が?この街にはこんな風に気安くしてくる友人どころか、知り合いは1人足りとも私にはいない。その答えは振り向いた先にある。そしてその相手の顔を見て、私は絶句した。

 

 

「あらあらー、明日じゃありませんでしたのー?お待ちしておりましたわ!我がアクシズ教の同志っ!!」

 

私の手を掴んだその人は、今の今までおじさんを強制勧誘しようとしていたプリーストのお姉さんでした。

 

 

 

 

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「まったく、見ていたのでしたら気軽に声をかけてくれてもよかったのですよ?でもこんな所で会えるなんて。もしかして、来たばかりで道に迷ってました?それにしても本部からの見習いプリーストなんてどんな子が来るのかと思ってましたが…まさかのっ、まさかのロリ美少女!!それもこれも熱心に布教活動をしている私へのご褒美なのですねっ!生きててよかったっ!アクア様っ、ありがとうございますっっ!!」

 

 

…現在、私は放心状態のまま、このプリーストのお姉さんに手を繋がれながら引っ張られるように連行されてます。誰か助けて。

 

そして連れていかれている最中に気が付く。どうもこのお姉さんは私を誰かと勘違いしてるようで。ただ話しかけづらい。先程のイカれた勧誘を見てしまった後だと余計にその感情は強くなる。それでもこのまま勘違いで拘束されているわけにも行かないので私は控え目に満開の笑顔で私を引っ張るお姉さんに声をかける。声をかけると言っても「あ、あの…」程度の遠慮しがちな感じだ。若干コミュ障な自分がにくい。途中すれ違う人たちは私とお姉さんを見るなりその反応は蔑むような同情するような…あるいは服装のせいで私も同類と思われているのか私を見るなりうわぁ…と引き気味な人まで現れる始末。

 

そう、お姉さんに勘違いされているのもおそらく私のこのゴシックプリーストの青色の服装が原因だろう。こんなことなら同デザインの赤色のやつもあったのでそちらにしておけばよかったと思うも後の祭りである。だって青の方が可愛かったんだもの。

 

「あらあら日が暮れてきましたわね、帰ったら食事にしましょうか、うん、お姉さん腕によりをかけちゃうわ!」

 

…気が付けば時刻は既に夕刻。空一面はオレンジ色に染まりつつあった。予定も何もぶち壊しである。今晩宿どうしよう…。

 

…あ、でも食事をご馳走してくれるみたい、これだけはめちゃくちゃ嬉しい。まさに地獄に仏。だってもうお腹ペコペコだもの、仕方ないよね。

 

 

 

 

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そうこう考えるうちにアクシズ教の教会らしき場所に到着し、私は引っ張られたまま中に入ると裏手にキッチン隣の部屋にある古ぼけた木製の椅子に座らされた。

 

「ではでは、大した物は作れませんが適当に作って持ってきますので、貴女はここに座って水でも飲みながら待っててくださいね」

 

鼻歌混じりな口調でそういうと、お姉さんは空のコップをテーブルに置き、『クリエイトウォーター』と唱える。するとコップにはなみなみと綺麗な水が注がれる。そのままキッチンへと向かうお姉さんを尻目に、私は今の現象を静かに驚いてみていた。

 

今のが魔法…?とおそるおそるコップを手に取り口に運ぶ。魔法というよりは手品を見た気分だったけどそれ以上に食欲が勝って気が付けば飲んでいた。よく冷えた水が、ずっと何も通してなかった私の喉を潤わせる。これだけでも救われた気分になった。

 

時間にして20分ほどだろうか、両手で鍋を持ったお姉さんが機嫌良さそうにはいってきた。そしてポケットにいれてた一通の手紙を取り出した。

 

「今日ははるばるアルカンレティアからお疲れ様でしたっ、お仕事は明日からするとしまして、今日はゆっくりしてください。」

 

エプロンをつけたまま笑顔でお姉さんが言う…のだけど、やはり自分にはまったく心当たりがなかった。まずアルカンレティアって何?ってレベルである。

 

と、いうよりいい加減に誤解を解かないとまずい気もしてきてる。先程の鬼のような勧誘ぶりを見るからして、私が無関係の他人だと知った時にどんなことになるのか想像がつかない。もっとも何を言われようと私は強引にここに連れてこられただけなので、徹底反論する構えではある。それを口にだせるかは今のところ不明だけど。

 

「そうそう、さっきポストをみたら、本部から手紙が届いてましたっ、きっと貴女のことが書いてあるとは思いますけど、とりあえず読んでみますね。」

 

私は思わず目を細めた。…それは100%絶対にない。その本部とやらを全く知らないのに、その手紙に私のことが書かれていたらホラーどころの話ではない。ただその内容次第では私が無関係なことがわかるかもしれない。説明の手間が省ける。寧ろそうであってほしい。

 

「ふむふむ…プリースト見習い研修の件、中止のお知らせ……えっ?」

 

祈りが通じたのか、それは私がここにいることの矛盾を知らせるものであったようだ。どういうことなの?と首を傾げるお姉さんに、ようやくと言うところか、私は声をかけて説明を始めた。

 

私は冒険者になる為にこの街に来ただけの者です、と。

 

 

 

 

 

 

 

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