…めちゃくちゃ緊張しました。
まさか一緒にいた子がこの国の王女様とか思うはずもないし、王都初日から何故こんな爆弾イベントが発生してるのでしょうかね、いや王女様とお友達になれたと考えたら決して悪い事ではないのだけど何故か誘拐犯扱いされてたし物騒な国ですね。どこかで聞いたベルゼルグは脳筋って言葉の意味がようやくわかった気がする。言わないけど。
いざ事情聴取を受けるとしゃべるのは私ばかり、ゆんゆんもうちょい頑張って!私本来こんなガツガツおしゃべりするキャラではないのですよ。おまけに誘拐犯云々と関係の薄いような質問までくるし、もっと単刀直入に誘拐犯ですか?と聞いてくれたらそれで終わるのではないか、とも思ったけど遠回しに色々聞くのは誘拐犯じゃなくても別の思惑を探る為なのかもしれない、別にやましい事は何一つしてませんので何聞かれても問題はないんですけど。
そんなこんなで無事終わったのでふと落ち着いたら私は嘘を見抜く魔道具に興味津々でした。試しにゆんゆんが嫌いですって言ってみたらチリーンとなってゆんゆんが真っ赤になっててほっこりした。
…嘘を見抜く魔道具…ふと考えて、私はゆんゆんに自分が王都に来た本当の理由を告げた。お友達を守れるようになりたい。だけど1人ではどうにもならない。守りたいけど守られたい、だから私はゆんゆんに聞いてみた。私と一緒に戦ってくれますか?と。
ゆんゆんはそれに心地よい返事をしてくれて、凄く嬉しかった。けどやってしまった。
クレアさんがいることをすっかり忘れててベルディア戦の話をしてしまった。どうしよう、ややこしい事にならなきゃいいんだけどと思ってたらアイリス王女様のご登場。
王族としての正装なのかわからないけど綺麗な装飾のティアラに純白のドレスはまさに王女様って感じでした。とはいえ王女様との接し方なんて私にはわかりません。とりあえず変に態度変えるのもおかしいかなと普通に接してみたらクレアさんがめちゃくちゃこわかった、なんか腰にある剣を握って今にも抜きそうだったし内心冷や汗ものでしたよ。そうだ、困った時はゆんゆんに振っておこうとゆんゆんに振ったらアイリスちゃんとはお友達ですから!とまさかのちゃん付けに私もびっくり、いや呼び捨てにしてた私も私なんだけど。だけどアイリスは凄く嬉しそうにしてたからこれでいいのかな、クレアさんも気付いたら怒りが収まっていたみたいだし。
ただこれで帰れると思ったらそういう訳でもありませんでした。ふいに私がベルディア戦のお話をしたせいで私はベルディア討伐の詳しい話をアイリスに強請られてお話することになりました。
そんなこんなで今は場所を変えて普通に豪華な応接間に案内されてご丁寧に紅茶までいただきました。
とはいえベルディア戦をそのまま話したら一部ひどいので少し内容をいじったというか端折ってお話しました。ベルディア戦の詳しい話はゆんゆんも知らなかったみたいでアイリスとクレアさんとゆんゆんは私の話をじっと聞いてました。…そんな中でやはりと言うべきか、1番興味をもたれたのは私のスキルでした。そしてアイリスの気になる発言も。
「なるほど、話には聞いていましたがララティーナも活躍していたのですね」
……はて?ララティーナとは誰だろう?戦った私達5人の中にはそんな名前の人はいないはずだった。けど聞こうとしたらゆんゆんに先を越されてしまった。
「ヘルインフェルノ…って凄そう…私は覚えてないけど、アークウィザードのスキルにもインフェルノという火属性の上級スキルはあるけど…」
ヘルインフェルノはバーストに火属性が加わった元のゲームでは最上級魔法の1つだったりするし名前が似てるのは偶然なんだけど。バースト自体の範囲が物凄いので見た目だけならめちゃくちゃ派手で流石のめぐみんも猛抗議してたのを思い出した。
「やはり信じられないな、それ程の魔法でありながら味方や地形に何も影響を与えないとは…、それが真実なら街中に魔物が攻めてきても、防衛で乱戦になったとしても多用できる素晴らしいスキルではあるが…」
「私、是非そのスキルを見てみたいです!」
アイリスはそのつぶらな瞳をキラキラさせていた。正直王族に自身の力を見せてしまうのは目立ちたくない私としては非常によろしくないのだけど断れるような流れでもない。とはいえまさか街中でやる訳にもいかないし、まさか王女様を連れて街の外まで行く訳にもいかない。
「私も興味がある、賢者殿さえよければそのスキル、ここの訓練所でやってみてくれないか?今の時間なら誰も使ってはいないだろうし広さも充分にある」
やはり退路はないようで。私はしぶしぶながらも首を縦にふると、アイリスとゆんゆんはとても嬉しそうにしていて、クレアさんに着いていき訓練所へ向かうことにした。
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訓練所は言われた通り凄く広かった。地面は硬い砂利で踏んだ感じでは学校の校庭のような。壁は石造りであちこちに練習用なのか剣や槍が立てかけられていた。
さて、とりあえずスキルを使うにしても私のスキルは私が敵対したものと私に敵対するもの、どちらかがないと発動はできないのだけど壊していいものはあるのでしょうか。
「それならあそこの…あれを好きにして構わない」
クレアが指したのは藁で包まれた棒のようなもの。おそらく木剣とかで叩いて訓練するサンドバッグのようなものだろう。それは他のと比べてボロボロになっていたので処分するにはちょうどいいのか体良くゴミ掃除に使われている気もしたけど私は杖を構えて、行きます。と告げると魔法を詠唱した。
いつものように駆け巡る私の周囲の魔法陣は杖にセットされたフレアタイトのおかげで赤くなり、連動するように杖の中心のフレアタイトが赤く輝く。
《ヘルインフェルノ》
私から扇状に放たれたマグマの熱風は広い訓練所の中の全てを飲み込み尽くした。標的にしていた棒は即座に跡形もなくなり、更に広すぎる範囲のマグマはクレアやアイリス、ゆんゆんまで巻き込んでいた。見た目上では。
「…ぜ、全然熱くありませんね…」
「こんな凄まじいマグマなのになんともない…夢でも見ているようだ…」
「一体どんな術式をしたらこんな出鱈目な構築ができるのですか!?凄すぎますよこれ!?」
…………ん?
ふと知らない女の人の声が聞こえてきた。よく見ると紺色の帽子をかぶったブロンド髪の若い女の人がそこにいた。見た感じは魔法職のように見えるけどどなたなのでしょう?
「えっ?わ、私…アイリス様と一緒にずっといたのですが…」
ということはあの簡素な応接間からずっといたことになる。魔法職にも関わらず盗賊の隠密スキルが使えるのだろうか?流石王都の魔法使いと私は素直に賞賛した。
「えぇ!?そんなことできませんよ!?」
「あ、すみません、紹介を忘れていましたね、こちらはレインと言いまして、私の先生兼護衛をしてくださってる方です」
レインと呼ばれた女の人はその紹介に続くように丁寧に会釈した。それにしても身内であるアイリスからも忘れられているとはなんとも不遇な人である。私は自然に同情の視線を向けていた。
「そんな目で見ないでください…!コホン…お初にお目にかかります賢者殿、ご紹介頂いた通りでアークウィザードのレインと申します」
とりあえず自己紹介を返したけどその賢者殿というのは真面目にやめて欲しいのだけどクレアさんといいこの人といいなんとなく言いづらい。まぁ王城なんて一介の冒険者である私なんかが早々来るわけもないし今だけだと考えたらどうでもいいか、とも思えてしまった。
……
それからスキルについて散々聞かれたけど原理やら術式やら私にわかるはずもなく、前の言い訳である一族に伝わる一子相伝のスキルなのであまり口外はできないと突っぱねておいた。非常に残念そうにしていたレインさんの表情に心が痛むけど教えようにも私もわからないのだから教えようがないのだ。
更にクレアさんからは王城で働かないかとまさかの勧誘を受けたのだけど私はあくまで冒険者だしそれを受けたらゆんゆんを1人にしてしまうので丁重にお断りしておいた。これもまたアイリスが残念そうにしてただけに心が痛む。…ただアイリスについてはこのまま帰ってしまえば何も変わらない。今回抜け出したことでアイリスへの監視の目がより強くなるだろう、それでまた幽閉に近い状態になるのはアイリスが可哀想すぎる。
だから私は、こっそりアイリスを呼んだ。
「どうしましたか?アリスさん」
アイリスは今後外に出たいのだろうか?今のままでは何も変わらないし自分からもっとわがままになって外に出たいとアピールすべきではないだろうか。
「…それはそうなのですが……もちろん何度か外に出たいと言ったのですが…クレアは中々聞いてくれなくて…」
…なるほど、つまりクレアさんが許可を出せばどうにでもなるのか。と私は口角を僅かに上げた。ならば私の某美人プリーストさんから教わった秘伝のスキルがあればなんとかなるかもしれない。
「そ、そのようなスキルがあるのですか?私、知りたいです!」
このスキルを使うには可愛さ、幼さが必須となる。アイリスは見事にそれらをクリアしている。ならば後はクレアさんを堕とすだけである。私は秘伝のスキルを丁寧にアイリスに伝授することにした。
そして場所はお城の正門前。決戦の時は来た。私達の見送りにアイリスは勿論、クレアさんとレインさんもいた。1度認識したらわかるようになるとはやはりレインさんは無意識に隠密スキルを使っているのではないかと疑ったけど今の本題はアイリスである。私はその様子を静かに見守ることにした。
「クレア、話があります」
「…アイリス様?今は客人の前なのですが、急を要することなのですか?」
「はい…私は…私は外にでたいのです、お城の外はとても楽しかったです。…どうか私に外出の許可を頂けませんか?」
「アイリス様…それは…」
やはりクレアさんはアイリスに弱いようだ。困った顔をしたまま目を逸らしている。実際王女様が気軽に外に遊びに行ける訳がないのはわかっている。だけどこれは秘伝を使えば間違いなくいけると私は確信した。私のクリエイトウォーターで準備は終わっている。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈お願いします、クレア……
その瞬間、クレアさんは紅の流水を吹き出して吹っ飛ばされるようにその場で倒れた。…アイリス…恐ろしい子…!
「ク、クレア様ぁぁ!?」「クレア!?」
レインさんが倒れたクレアさんを介抱し、アイリスはただ驚き、私はゆんゆんの呆れたようななんともいえない視線を必死に目線を逸らして避けていた。私は悪くないです、はい、私は悪くないです。大事なことなので2回言いました。
なお、結果的にアイリスの外出については週1回護衛でクレアさんとレインさんのどちらかが着くことでなんとか許されたそうな。ただしレインさんからはアイリスの秘伝《涙目上目遣い》は禁止されることとなったのだった。
余談ではあるが、倒れたクレアさんはレインさんが見たこともない幸せそうな笑みを浮かべていたとかなんとか。