内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 33 王都でのクエスト

 

王都初日からまさかの王女様と鉢合わせしたあの日から早くも4日目。私とゆんゆんは予定通り3日目までは衣食住の完全な確保と周辺の散策に時間を費やしました。

 

初日で出会ったクレアさんの発言で気が付いてたのだけどゆんゆんは14歳になっていた。いつの間に?と聞いてみたら紅魔の里に帰ってる間に迎えてしまったらしいので、大分遅れてしまったけどささやかながら私は誕生日パーティをすることにした。

 

するとゆんゆん、ガチ泣き。

 

一体どうしたのか聞いたところ、彼女は誕生日パーティをお友達がしてくれた事が生まれて初めてだったらしい。…とはいえ、誕生日パーティってそこまでお友達同士でやるものかな?と私は首を傾げたけど。両親に祝ってもらったことならあるけどわざわざお友達が来て祝ってもらったことはない。…ネットゲーム内でならめちゃくちゃ祝ってもらった事があるけど。

…いや、落ち着こう。何故か悲しくなってきたけど落ち着こう。

別にお友達がいなかった訳でもないし。…あ、でも…。この世界に来てから感じたお友達という人は……やっぱり前世にはいなかったかもしれない。

 

だって…いたら…ね。…多分…私はこの世界に来ていないと思うから。

 

…とりあえず盛大にお祝いしましたよ。お友達相手にこういう事をするのは初めてだったのでどうしたらいいかわからなかったし、料理は作れないしで大変だったけど、可愛いクマのぬいぐるみをプレゼントして、大きなイチゴのケーキを買って、2人だけだったけど宿でお祝いしました。

最初は泣いてたゆんゆんだったけど、凄く嬉しそうにしてたから、とりあえずやって良かったと思えた。ただ惜しかったのはアクセルにいた時に祝えたらなぁ、と。ダスト、リーン、キース、テイラーさんとか、めぐみんに、ゆんゆんとは面識がまだないけどカズマ君やアクア様、ダクネスにクリス。いっぱい祝ってくれそうな人がいたんだけどなぁ。

 

とりあえずゆんゆんがテレポートを覚えたら、1度アクセルに戻ってみようかな。まだ来て間もないのに気が早いかな?

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

王都3日目にゆんゆんの遅れたお誕生日祝いをして、次の日からはようやく王都でのクエストをスタートさせようと4日目の今日、冒険者ギルドに来てみました。

 

改めて依頼書を見ると…これはきつい、が正直な感想。

何故なら1日で終われるようなクエストがまずない。アクセルのように気楽に半日とかで終われるようなものがない。理由としては移動時間や討伐ノルマの数などがある。

 

ワイバーンが街道に巣を作りました。3日以内に20匹以上討伐お願いします、報酬80万エリス、推薦レベル30(4人以上のパーティ推薦)

 

マンティコアの討伐、洞窟にいるマンティコアの尾を10本採取してください。報酬60万エリス、推薦レベル35(3人以上のパーティ推薦)

 

などなど…アクセルでやった白虎狼が可愛く見えるようなクエストばかりが並んでいた。ちなみに今のふたつがもっとも低難易度である。

 

流石にこれは後衛職2人じゃきつい。せめて前衛職が1人欲しい。

 

金銭面で考えたら余裕があるから私はクエストを受けなくても問題はないけどゆんゆんはそうは行かない。それに私はレベルをあげたくてこの王都に来たのだから金銭面は二の次だったりする。

 

後は前衛職の人を見つけてパーティに誘うという選択もある…にはあるのだけど…。

今見た通りこの王都のクエストは推薦レベルが高いものばかり。なので既にパーティを結成した上で冒険者ギルドに集まる人が多い。アクセルのように酒場がないから待つのも苦痛である。

 

そんなわけで中々クエストを始めることができないでいた。とりあえず今提示した2件だとできそうなのはマンティコアのほうだけどここでも問題がある。

マンティコアは洞窟内にいる。つまりはダンジョンだ。

ゲームのように気軽にダンジョンに入る訳にもいかない。ダンジョンの中は暗く、罠などもあり、何より魔物の庭である故に奇襲などもありえるのでそれらに役立つスキルが必要になる。

これらをほとんど解決できるのは盗賊。敵感知スキルに罠感知スキル、罠抜けスキル、鍵開けスキルと便利なスキルが豊富、ダンジョンに行くなら盗賊1人は入れることが鉄則とまで言われているらしい。あとはアーチャー系統の人が持つ暗視スキルがあれば完璧。

暗視スキルがなくても松明や魔法で明るくする方法もあるにはあるけどこれは魔物に自分の位置を教えるだけでもあったりするので危険である。…そして当然ながら、私にもゆんゆんにもそれらのスキルは一切ない。しかも後衛職なので奇襲でも受けようものなら即座にアウト。

確かに強くはなりたいけど命の危険に晒す訳にはいかない、それで自分やゆんゆんが死んだりしたら本末転倒にも程がある。そう思っていたら…

 

「あれ?アリス、久しぶりだね、王都に来てたんだ?」

 

聞き覚えのある声に私はふと振り返るとそこには美しい銀髪で頬に傷のついていて軽装にケープとマフラーを巻いた少女…クリスがそこにいた。

 

今の私にはクリスが女神様のように見えた。おそらく私の目は期待と希望でキラキラしているに違いない。

 

「えぇ!?……いやだなもう、女神様だなんて大袈裟だよ、…それで隣の子は?」

 

大袈裟なのはクリスのような気もする、女神様って表現しただけでここまで驚かなくてもいいのにと私は首を傾げる。そして隣の子、ゆんゆんはそれを聞くなりいつも通りの反応をした。

 

「わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、上級魔法を操る者!やがて、紅魔の里の長となる者!」

 

…もしかして初対面の人と出会い話す度に毎回これをやるのかと私は内心頭を抱えた。それもギルドの中で声高々と言うものだから周囲の人はなんだなんだとこちらに注目する始末。これには私もクリスも苦笑しかできない。

 

「…あ、うん、よろしく…その…ちょっと目立っちゃってるし一旦喫茶店にでもはいろうか?」

 

「っ!?ごめんなさい、ごめんなさいっ…!」

 

顔を赤くして謝るゆんゆんの背中をぽんぽんと叩いて慰めながらも私達3人は冒険者ギルドを後にした。

 

 

……

 

 

 

 

「なるほどねー、確かに後衛職2人だけだとよほどレベルが高くないと少し厳しいかもしれないね」

 

近場にあった喫茶店に入って私とゆんゆんはクリスに王都にいる経緯を説明した。…それにしてもクリスはどうして王都にいるのだろうか?てっきり活動拠点はアクセルとばかり思っていたのだけど。

 

「私がアクセルで活動してたのは友達のダクネスがいたからだよ。あの子は王都で行動するのに色々と問題があったりするから…あ、この辺は事情が特殊だから深くは聞かないでね?…まぁそんなダクネスも今や無事に固定パーティを見つけたみたいだからね、今の私は王都メインで活動してるわけ」

 

「王都で活動って…おひとりでですか…?」

 

「もちろんたまに王都の冒険者と組む時もあるけど基本は1人だね、確かに受けられるクエストは中々ないけどこの王都ではアクセルより難易度が高い代わりに報酬もかなりいいから、クエスト自体が少なくても稼ぐならやっぱりこっちかな」

 

「そ、そうなんですか…そ、その…」

 

ゆんゆんは私をチラチラと見ながらもクリスに何か言いたいようだったが私は何も言わずにジュースを飲んでいた。相手は私の知り合いではあるから確かに私が言えば話は早いのだけどクリスならよほど事情がない限りは手伝ってくれる可能性は高い。だからこそあえてゆんゆんに任せた。主に交渉という経験値稼ぎの為に。

 

「も、もし良かったら…私達と一緒にパーティを組んでくりぇましぇんか!」

 

…惜しい、噛んでしまった。慌てて「く、くれませんか?!」と言い直すゆんゆんはめちゃくちゃ可愛くてホッコリしたのは言うまでもない。対象であるクリスも楽しそうにクスクスと笑っていた。

 

「んー…私も王都ではクエスト以外にも色々やってるから常に組むのは無理だけど、こうやってたまに出会った時なら構わないよ、アリスの強さは知ってるし、ゆんゆんもアークウィザードなんでしょ?ならこちらとしてもありがたいよ」

 

正に渡りに船である。ただクリスも盗賊職であり前衛という訳でもないので、若干の不安はあるものの、それでもあのまま私とゆんゆんでクエストを受けるよりは全然マシだし王都でのクエストは完全にクリスが先輩だ。色々勉強させてもらおう。そんな想いから私は笑顔で、こちらでもまたよろしくお願いします♪と告げたのだった。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「バインド!!」

 

「行きますっ!カースド・ライトニング!!」

 

クリスが手前の…人の顔と獅子の身体、蠍の尻尾を持つ魔獣マンティコアをバインドで拘束して一時的に動きを制限、その間にゆんゆんの黒い大きな雷…上級魔法であるカースド・ライトニングが的確にマンティコアを貫いた。

 

あの後ギルドに戻り受けたのはマンティコアの討伐、及びマンティコアの尾を10本集めるクエスト。最初は不安ではあったものの、いざやってみたらクリスは本当に頼もしかった。敵感知スキルや潜伏スキルで先制をとり、見つけるなりバインドで拘束、そして私やゆんゆんが魔法で殲滅。予想以上に理にかなったやり方だった。

 

「敵感知スキルに3匹くらい反応があるよ!気を付けて!」

 

クリスが言うとともに現れるマンティコアの群れ、バインドで1匹ずつ拘束していたら間に合わない。

 

「ワイヤートラップ!」

 

マンティコアの足下から飛び出すワイヤーは群れで動くマンティコアを数秒足止めするものの、すぐに引きちぎって動き出す。だけどその数秒があれば私としては充分だ。

 

《フリーズサイクロン》

 

アクア様より賜った水の魔晶石をセットした私はストームを詠唱し、放つ。それはマンティコアの群れをまとめて氷の竜巻で巻き込む。元のゲームでのマンティコアは火属性だったのでこっちでもそうかなと思い試してみたが大当たりだったようだ。3匹のマンティコアは竜巻が消えるとともにその場に倒れ伏した。

 

ふうと一息つくとクリスは次々と器用に倒れたマンティコアの尾をナイフで切って回収して判別し…4本のうちの3本をその場に投げ捨てた。

 

「当たりは1本だけですか…」

 

「ここはまだ浅い階層だからかな、なかなか大きなマンティコアはいないみたいだね」

 

というのもこのクエスト…マンティコアの尾ならなんでもいい訳ではなかった。一定以上の大きさの尾でなければクエスト品として受理されない。現状12匹ものマンティコアを狩りしたのにも関わらず当たりの尾は3本だけ。浅い階層にいるのは比較的マンティコアの数が少ないから。奥に入ればいいのだけど当然危険度は増す。

そして12匹という数は地味に多い。上級魔法でなんとか倒せる程度には強いマンティコアだ、途中たまに軽傷を負ってヒールなどをしていたせいで魔力も残り少なかった。

 

「私も敵感知スキルとかで常時魔力を消費してるからぼちぼちきついかな。今日はこれくらいにして、外に出て野宿の準備をしようか」

 

こうやって洞窟の外に出て野宿、そして寝る時は魔物の襲撃に備えて交代で見張りとして起きておく。全員が充分に回復したらまた洞窟にはいりマンティコアの討伐の繰り返し。運が良ければ2.3日で終わる感じのクエストであった。

 

 

……

 

 

洞窟を出ると外は既に暗くなり、闇夜に紛れた星々が綺麗にその空を彩っていた。クリスは収納用の魔道具を取り出すと、そこから人数分の毛布やらなんやら取り出していく。ゆんゆんもまた、収納用の魔道具から大きめのバスケットと水筒を取り出すなり、手頃な岩場をテーブル代わりにして皆が食べられるように置いていった。

 

「それは?」

 

「えっと…、サンドイッチを作ってきました。日持ちが効く食料ばかりだと飽きちゃうかなと思いまして…」

 

クリスが首を傾げるなり聞くと、ゆんゆんは恥ずかしそうにしながらも岩場にそれらを並べていく。私はその付近にティンダーと呼ばれる初期魔法スキルで薪に火を起こすなりゆんゆんのそばへと向かった。

 

「それはありがたいね、日を跨ぐクエストだと食事は簡潔になりがちだし」

 

クリスに同意だった。馬車でも食べたけど日持ちする食料となると固めのパンに干し肉、あとは果物が多い。固めのパンは文字通り固くて食べにくく、干し肉は固い上に塩っ辛い。必然的に私の馬車旅の後半は果物ばかりになっていた。ゆんゆんはアクセルにいた頃でも、丸一日かかるようなクエストならこうしてお弁当を作ってくれていたので私としては初めてではなかった。可愛らしくてスタイル抜群で料理もできる、同じ女としては本当に妬ましい限りである。

 

「…なんでだろう…褒められてるはずなのに嬉しくない…」

 

「…あはは…」

 

何故か俯くゆんゆんと、乾いた笑いしかでないクリスの姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

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