食事も終わり、座り込むなり歓談をしていた。こういった野宿はこの世界に来てから初めてでは無い。テイラーさんのパーティにいた頃に既に何度か経験していたので、慣れた…とまでは言わないけど特に躊躇することなどはなかった。それにこうやって仲間と会話していると割と楽しいものでもある。設備を最小限にしたキャンプのようなものだった。
「さて、今からだと後6時間くらいで夜が明けると思うから2時間ずつ交代で見張りを立てて寝るとしようか。順番としてはゆんゆん、私、アリスでいいかな」
「え…でもそれだとクリスさんが…」
ゆんゆんが躊躇う理由は単純に真ん中であるクリスが1番満足に休めないから。それも当然だろう。2時間寝てまた2時間起きてまた2時間寝るなんて下手したら逆に疲れそうなのだから。
「いや、これがベストなんだよ。今魔力が1番残ってるのはゆんゆんだし、1番魔力の消費が激しいのはアリスだからアリスはすぐにでも休む…べき…」
《マナリチャージフィールド》
私がそれを唱えると、青白い光が私達3人を包み込む。魔力の回復を促進するそれは1時間もあれば魔力を全快することができる。クリスはこれを忘れてたのだろうか?
「いや…忘れていた訳じゃないけど…いやなんか本当チートだよねそれ、マナポーション売ってる人に謝ったほうがいいよ?」
そうは言われてもそれを言ってしまえばヒール使う度にポーション売りに謝らなければならないのだろうか?実際こういったスキルがあるのだから仕方ないとしか言えない。
「はいはい、とりあえず順番はそのまま!話は終わりー!ほら休むよー!ゆんゆんよろしくねー!」
何故か知らないけど拗ねてしまった。クリスは投げやりに告げるとマナリチャージの範囲から出ない程度に少し離れてそのまま毛布にくるまってしまった。
(あ、あの、多分だけど先輩っぽく振る舞いたかったんじゃないかな…?ほら、ここに来る前に私のことは先輩と呼んでもいいよ、とか言ってたし…)
ゆんゆんの耳打ちに私はなるほどと納得した。確かにそんなことも言っていたし最初はせんぱーい♪と呼んで遊んでいた。悪い事したかなと思うも後の祭りである。個人的には私のことを心配してくれてたようなので大丈夫とアピールしたかっただけなのだけど。
リーンが言っていたようにこのフィールドにはリラックス効果もあるので私はゆんゆんに後はよろしくお願いしますと告げると早々に眠りについた。
……
それから合計で3日間。このように休んでは狩りを繰り返して、ようやく10本目のマンティコアの尾を手に入れる事ができた。その間に狩ったマンティコアの数は40にも及ぶ。これで1人当たり20万エリスの利益は…はっきり言うと割に合わない。アクセルで報酬5万の依頼を4つした方が絶対に楽だと断言できるからだ。
「なんとか終わったね…本当はもっと奥に行けばもう少し早く終わったかもしれないんだけどね…」
「私もテレポートさえあれば少なくとも夜は宿で寝たりできるようになるんですよね…取れるようになったら最優先でとります…うぅ、帰ったらすぐにお風呂に入りたいです…」
言ってしまえばこれならワイバーン退治の方が楽だったのかもしれない、ワイバーンがどの程度の強さかは知らないけどおそらく推薦レベルからしてマンティコアとそう変わらないだろう。あちらなら20狩ればいいだけで終わっていたものの、それもまた後の祭りである。まぁアクセルでも割に合わないと感じる依頼は何回かあったし今回はハズレということになるのだろう。
だけど収穫もあった。マンティコアを狩ることで私はレベル31に、ゆんゆんはレベル28になっていた。とりあえず強くなりたいと思う私としてはそれが1番の収穫であった。
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「ようやく帰り着いたね、2人ともお疲れ様。どうだった?王都の初クエストは?」
「…今までアクセルというぬるま湯に漬かっていたことがよくわかった気がします…」
王都の正門前。ゆんゆんと私は連日の戦いでへとへとの状態だった。そんな中クリスだけはケロッとした様子でいるのを見ると流石の一言だった。先輩と敬いたくなることこの上なしまであった。
「あははっ、まぁ今回は割に合わないハズレクエストだったけど、2人にはいい経験にはなったんじゃないかな?」
クリスが笑いながらそんな事を言った…その時だった。
『魔王軍急襲警報!魔王軍急襲警報!』
周辺の空気が重苦しいものへと変わると感じた瞬間、突如周囲は混乱に包まれる。
『魔王軍急襲警報!守衛、及び冒険者の方々は正門前へ、非戦闘員の方々及び街の皆様は大至急避難してください』
守衛らしき人達はガチャガチャと鎧の音をたてて正門前に並んでいく。冒険者らしき人達は並ぶ訳では無いがその周囲に転々と集まっている。また、戦えそうにない商人のような風貌の人、街の人と見られる人達は早々に城壁の中へと駆けていく。
「あちゃー…時期的にそろそろかと思ってたけど…まさかこのタイミングとはね…」
クリスはバツの悪そうな顔をし、周囲を見渡しながら頭をかいていた。ゆんゆんは不安そうに辺りを見回している。
「あの…これって…」
「王都に来たなら当然聞いたことがあるでしょ?この国は常に魔王軍から攻撃を受けているって」
そう、この国は魔王軍から襲撃を受けている。
聞いた話ではあるが間隔は月に1回か2回程度で、時には万に近い魔王軍の軍隊が攻めよってくる。守衛、及び冒険者はそれらが来る度に現状返り討ちにしている。…これは実際に起こっているから慌てるものなのだけど、ゲームに置き換えたらレイドボスのような一種のイベントのようなものだ。定期的に襲ってくる魔王軍。それらを打ち倒す冒険者という名のユーザー。魔王軍というくらいだから敵はそれなりに強いだろう。それが敷き詰めるように集まり攻めてくる…一体どれくらいの経験値が稼げるだろうか、想像もつかない。
こんな事を何も知らない人に言えば激怒するだろう。だけど強くなりたいと思う私には是が非にでも参加はしたいと思える。私には超広範囲のスキル、バーストがあるのだから。……とはいえ、流石に今は勘弁して欲しかったのが本音である。何故なら私達はたった今クエストを終えて帰還したばかり。これからまず3日間クリエイトウォーターで洗ってきた身体を洗うためにお風呂にはいって、ギルドに報告して、あとは打ち上げでもしようか、という空気だったのに色々と台無しである。
「やはりいたか、諸君らの活躍、期待しているぞ」
ふと声がしたので振り返るとそこには金髪に前髪の一部に青のメッシュがかかった一見貴族の男装のような女性の騎士…クレアさんがいた。
「クレアさん!?どうしてここに?もしかして今回の防衛に参加するのですか?アイリス王女の護衛は大丈夫なんです?」
「アイリス様ならレインがいるからな、何も心配はいらない。今回私がここに来たのは賢者殿と紅魔族の君に興味があってな」
ゆんゆんの焦燥しつつの質問にクレアさんは表情を変えないまま応える。心配がいらないというのは毎度起こるこの防衛戦でそこまで攻め込まれたことがないという実績も含まれるのだろう。…というかこれ私が参加することが確定しちゃってる流れなんですけど。流石にクエスト帰りでへとへとなのでしんどいのですけど。この襲撃が異常事態というのなら無理にでも参加はするのだけどこれはそうじゃない、日常なのだから。だからこそ先程のようにレイドボスのようなゲーム的な発想が浮かんでしまう。
「が、頑張ります…!」
ゆんゆんは背中に携えていたショートロッドを手に持ち構えた。どうやらゆんゆんはやる気らしい。私だけじゃなくてゆんゆん自身も見られていることへの緊張からか、その動きは少し固いけどいつものゆんゆんなら無理ですと訴えるパターンなのだけど…これはおそらく私とゆんゆんの考え方の違いだろう。
私は先程も言ったように日常である以上はこの襲撃を危惧してはいない。一方ゆんゆんは王都を守りたいという想いからの正義感で動いている。もし負けたら国が滅びる、お友達のアイリスも無事ではすまない。そんな想いはゆんゆんを見るだけで嫌でも感じ取れたし、おそらく私の発想がドライすぎるのだろう。
…私は諦めたように背中にある杖を取り出した。そしてクリスのいた場所へ目を向けると…既にそこにクリスはいなかった。
「あれ?クリスさん何処に行ったのかな?」
「誰か探しているのか?あいにくだが時間はあまりないぞ」
クレアさんが言うとほぼ同時に周囲が騒がしくなってきた。怒号のようなものも聞こえたと思えば…それはまさに魔王軍の進撃の音だった。前衛の守衛や冒険者達は既に走り立ち向かっている。まさに乱戦に近い状態になりつつあった。だけど私にはそんなものは関係ない。私はクレアさんに今回の敵の詳細を尋ねた。
「今回は火属性の魔物が多いらしい。火を纏ったり、吹いたりするのが多数見受けられている」
やれやれ弱点属性まで決まっているとはまさにゲームのレイドボスみたいな感じだなと私は内心苦笑した。そして火属性ならアクア様より賜った魔晶石がある。
私は水の魔晶石を杖にはめこむ。そして魔物の姿が見えてきて…詠唱を開始した。
「おいお前!?何をやっている!?この状態で攻撃魔法を撃つつもりか!?」
「誰かあの少女を止めろ!!味方が巻き込まれるぞ!?」
「あの子ってアークプリーストだろ?ギルドで見たことあるぜ、支援魔法じゃないのか?」
「私はアークプリーストですがあのような詠唱は知りませんよ!?」
……あー、うん。そりゃそうなりますよね。私の詠唱により生まれる魔法陣に多くの人が注目していた。…これは考えてなかった。いや、少し冷静になれば考えられる事態のはずなのに私は何をしているのだろう?…ともあれ、詠唱しているからにはもはや魔法は止まらないし、クレアさんもゆんゆんも固唾を飲んで見守ってる。
《エターナルブリザード》
私を中心に放たれる絶対零度の猛吹雪は扇状に展開し、それはどこまでも伸びていく。守衛や冒険者を巻き込んだ脅威の大寒波は次々と魔王軍の部隊を凍らせ、砕き、破壊して行く。巻き込まれたと錯覚した守衛や冒険者はそれによりしばらく混乱していた。
「うわぁぁ、凍る!?!?…………あれ?」
「なんだこれ…?魔物だけがどんどん凍っていく…」
がやがやとあちらこちらで声が上がっている。私はその状態に完全に固まっていた。そして誰かが声をあげた。
「……っ!皆の者今が好機だ!一気に攻めたてろ!!」
「「「.……お、おぉぉぉ!!」」」
喋り方からして守衛の人なのだろうか、その人の掛け声で守衛や冒険者の前衛部隊は一気に押し攻める。後衛部隊もそれに続くように駆け足で進む。
「…ここまでとはな…大したものだ」
「す、すごい…あんなに遠くまで…」
ふと冒険者カードの討伐モンスター履歴を見た。…マンティコアから何も倒してなかった私の討伐履歴は…197匹増えていた。そしてレベルが33になっていた。……これはおいしすぎるのだけど…間違いなくめちゃくちゃ目立ってるんだけどどうしよう。
「まだ前線には数多くの魔王軍がいるだろう、まだいけるか?」
「わ、私も頑張りますっ…!」
私とゆんゆんはクレアさんに背中を押されるように、前線へと駆けていくことになった…。も、もう帰りたいのだけど…。