内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 35 魔剣の勇者

 

 

 

初参戦の王都防衛戦は2時間もかからない内に魔王軍の撤退という形で幕を閉じた。私は前線に近い位置まで移動した後にクレアさんの手前何もしない訳にはいかずもう一度《エターナルブリザード》を撃ち、魔王軍の前線をほぼ壊滅させた。

ゆんゆんもまた、広範囲に攻撃が可能なスキル、ライト・オブ・セイバーにより順調に魔王軍を撃破していった。結果的にほぼ見ているだけだったクレアさんだったけど私とゆんゆんの奮闘に満足したのか終わったと同時に褒めたたえてくれた。

 

そしてここまで目立ってしまうと既に【蒼の賢者】と一部で有名になっていたその異名は王都中に轟くことになるのは言うまでもなく、ゆんゆんはゆんゆんでその蒼の賢者の相棒として活動しているまでが王都中に知られることになってしまった。

 

 

レベルが上がったのは嬉しいのだけど…その代わり大切な何かを失ってしまった感がパないです。というか元々アクセルを出るのを決めた最終的なきっかけはベルディア戦でめちゃくちゃ目立っちゃったことが何より大きい気がする。そう考えたら王都もあまり長居はできないかもしれない。まだ来てから1週間も経ってないのになんということでしょう、世界が私に優しくない。自業自得?あ、はい、返す言葉もございません。

 

 

「やぁやぁ、2人ともお疲れ様!すごい活躍だったね」

 

「クリスさん!?何処に行ってたんですか!?心配したんですよ!?」

 

王都内に入るなりクリスがひょこっと出てきた。ゆんゆんに同意するように私もクリスを見ていたけど本当に何処にいってたんだろう?

 

「ごめんごめん、さっきいたクレアって人さ…なんで2人と知り合いなのか知らないけど…私はちょっと苦手でさ…」

 

なんだか話辛そうに言うクリスに違和感があったけど確かにクレアさんとクリスはなんとなく相性が悪そうな気がしないでもない。片や堅物エリート騎士、片や自由な盗賊、某怪盗と某警部みたいな構図が自然と浮かんでしまった。

まぁ誰にでも苦手とする相手くらいはいるだろうと私もゆんゆんもそれに関しては特に追求することもなかった。

 

「とりあえず色々あったけど、お風呂はいってギルドに報告しないとね。あ、報告は防衛戦の分も忘れずにね!」

 

目まぐるしく戦いの中にいたせいか、戦う前まで疲労感しかなかったことを思い出すと…私とゆんゆんは自然とその場に背中合わせに座り込んだ。

 

「…なんかふと思い出したら…すごく疲れました…もうここで寝ていいですか…?」

 

「いや駄目だよ!?こんな道の真ん中で寝てたら怒られちゃうよ!?」

 

私としても今回はゆんゆんに同意しかできなかった。こんなに戦いにあけくれたのは初めてかもしれない。なんかもうどうでもいいから休みたかった。

 

「アリスまで…ほら、まずは宿に行くよ?連れていくんだから私もお風呂借りるからね!」

 

そう言うなり私とゆんゆんはクリスに引きづられるように宿へと向かうのだった。おやすみなさい…

 

「だから寝ないでよ!?」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

数日後。

 

私とゆんゆんは冒険者ギルドに来ていた。今までと違うのはギルドに入るなり視線がめちゃくちゃささる。これダメージあるんじゃないかと疑うくらいには刺さりまくってました。あの防衛戦が終わり、2つほど依頼を終えた私とゆんゆんのレベルはそれぞれ36と33。防衛戦で得た経験値が美味しすぎた結果でもある。…アクセルにいたままだったらまずこうはなっていない。ゆんゆんも無事テレポートを取得でき、私も念願だったセイクリッド・ハイネス・ヒールやセイクリッド・ブレイクスペルを取得した。少しはアクア様に近付けたかな?とちょっとした自信もついてきていた。ゆんゆんもテレポートを覚えたことだし、王都で名前が広がりすぎたので一時的に沈静化を狙うためにも、近々アクセルに1度帰ろうかとそんな話もゆんゆんとしていた。

 

そんな中…私とゆんゆんはギルドに入るなり他とは違ったクエストの募集を見かけた。

 

 

 

緊急・ミノタウロスの討伐依頼

 

王都から東にある小さな村がミノタウロスに襲われて被害がでています。このままだと村が滅んでしまうので至急討伐お願いします。ミノタウロスの数は10体ほど確認されてますが、どれくらいいるかは不明です。全滅させるか追い払うかお願いします。

 

報酬各100万エリス (推薦レベル40)

 

……正直、この依頼を見た時に衝撃を受けた。まず冒険者に依頼する前にさっさと国が兵隊を率いて討伐に向かったりはしないのだろうか?が1番に出た感想。…ただ忘れてはいけないのが、この国は常に魔王軍に攻撃されていること。この国の国王は、自ら兵を率いて魔王軍との戦いの遠征に出ているらしい。それでいて今他の兵隊がその村の救助に迎えば、この国の防御は更に手薄になるだろう。魔王軍がいつ攻めてくるのかわからない以上は防衛を疎かにする訳にもいかない。だからこそ兵を割くことができない故にこうやって冒険者ギルドに緊急依頼として出された。この報酬の出処はこの国そのものだと言われたら納得である。

 

これは緊急クエストなのでギルド側が人数を募っているものだ。そうなると推薦レベルに届いていない私とゆんゆんでは受けるのは難しそうだ。受けたい気持ちは強いのだが。

 

「アリス、その…あそこの人がそのミノタウロスの討伐に私達も来て欲しいと言っているのだけど…」

 

ゆんゆんがこちらに駆け寄りながらもそう告げる、何やら気まずそうにしているように見えるけどどうしたんだろう?

 

「それがその指名してる人がね…この王都でも有名な【魔剣の勇者】さんらしいの名前は…」

 

「君が最近話題になっている【蒼の賢者】さんかい?初めまして、僕の名前は…」

 

ゆんゆんが話してるとその背後からゆっくりと近づく青年が見えてきて、その顔を見るなり……私は絶句した。

 

おそらく私の目に光は今、灯っていない。

青い全身鎧に茶髪にサークレットをつけた青年。顔立ちは整っていて誰もがイケメンと賞賛するだろう。そんな人を…

 

私は…彼を知っていた。

 

「ミツルギだ、今回のミノタウロス、早急に叩かなければと思っていたんだ。どうかよろしく頼む」

 

「で、でも、私達で大丈夫なんでしょうか…?その、レベルも足りてないのですが…」

 

ゆんゆんの言葉を無視して、響夜…先輩…。と私は小さく口に出してしまっていた。小刻みに震えていたのが自分でもよくわかった。どうしよう、私はどうしたらいいのだろうと脳内で必死に訴えた。彼の顔をまともに見れなかった。だけど必死に落ち着くように私は自己紹介をした。

 

「アリス……?どうしたの…?」

 

明らかに隠しきれていなかった私の状態には流石にゆんゆんも気が付いた。もちろんそれはミツルギさんも一緒だった。

 

「…今…君は響夜先輩と…そう言わなかったか?どうして僕のことを?」

 

「ど、どうしたんですか?その、貴方は魔剣の勇者さんなんですよね?でしたら、その、この国では有名ですし、知っていてもおかしくはないと…」

 

「…いや、そういうことじゃなくて……話してる場合でもないか。こうしてる間にもミノタウロスは村を襲撃しているだろう。どうか君達の力を貸してほしい、レベルについては気にしないでくれ、ギルド側が何か言うなら僕が説得するさ。君達の防衛戦での活躍は僕も遠巻きながら見させてもらった、だからこそお願いしたいんだ」

 

「も、もちろんです!アリス、本当に大丈夫?」

 

…私は少しだけ間を空けて、大きく呼吸をして、息を整えた。…そうだ、今はこんな事を考えている場合じゃない。村が襲われているのだから。

私はふと落ち着いたそぶりを見せるとそのまま首を縦に振った。

 

「…心配だが今は時間が惜しい、【蒼の賢者】の力、当てにさせてもらうよ」

 

普段なら異名に嫌悪感を持ったりする私だけど今はそんな状態ではなかった。彼の声が聞こえる度に心臓が押し潰されてるような錯覚を覚えた。彼は私に気が付いていない。落ち着こう…、今の私はアリスなんだ。

 

有栖川梨花ではないのだから…

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

ゆんゆんのテレポートで村から1番近いと思われる場所にとんだ。運が良かった。最近そこで依頼をこなしていてゆんゆんはテレポート登録したままだったのだから。村とは目と鼻の先。そしてその村からはもくもくと煙があがっているのが見えた。

 

「ありがとう…さあ、行こうか…手遅れにならなければいいけど…」

 

ミツルギは腰に携えていた魔剣グラムを抜いて村へと駆ける、その走りからは早く助けたいという気持ちが伝わるようだ。ゆんゆんもまた、そんな彼の後に続くように走り…ふと違和感を感じて後ろを振り返る。

 

「アリス?…アリス!?」

 

ゆんゆんの呼ぶ声に私は俯いていた頭をハッとしてあげた。色々と考えているうちにテレポートで飛ばされていたことにも気が付いていなかった。

 

「本当に大丈夫なの…?今のアリス…全然大丈夫そうに見えないわよ…?」

 

切り替えないと。心からそう思った。今はそれどころじゃない、罪の無い村の人達が襲われているのだから…助けないと。私はゆんゆんに謝罪すると同時に大分離されてしまったミツルギの後を追う。それを見たゆんゆんは未だに私の事を心配するように見たままそれに続いた。

 

 

 

……

 

 

 

結果として、ミノタウロスは7割ほどがミツルギさんが倒してしまった。

 

ゆんゆんは残りの3割。私はといえば精々序盤の支援魔法と軽傷を負った2人にヒールをしたくらい。

 

村は救われたし、ミツルギさんも私に何か言うことはなかった。

 

ただゆんゆんは私の事を事ある度に心配そうに見ていた。

 

 

この依頼を終えて王都の冒険者ギルドに帰り、報告した際に私は大したことはできなかったから、と報酬の受け取りを拒否し、静かにゆんゆんを置いて冒険者ギルドから逃げるように出ていった。

 

「アリス!?」

 

ゆんゆんの叫ぶような呼び声が聞こえたけど、今の私にはゆんゆんに合わせる顔がなかった。もちろん、その横で動揺するミツルギさんにも…。

 

……

 

 

 

 

……私は結局、まだ有栖川梨花でもあるらしい。

 

 

 

 

 

 

……御剣響夜……キョウヤ先輩、彼は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……私が…自殺することになった……きっかけの人なのだから……

 

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