episode 38 王都への爆撃
ある意味私の転機となったあの日から1ヶ月経ちました。
あんな事があったからか、正直ミツルギさんに逢うのはめちゃくちゃ気まずいんですよね。感謝はめちゃくちゃしているのですけど。
私が荒れた理由まで考えてくれるんだから頭があがりませんでしたよ、正直ゆんゆんにどう説明しようかまったく思い浮かばなかったので。
あれからはミツルギさんが率先してパーティに誘ってくださるのですがあの方のレベル45とちょっと離れすぎてることもあって遠慮しがちなのですよね、気にしないから大丈夫と言われてもこちらが気にするのですよ、こちらのレベルに合わせてもらう訳にもいかないですからね。ミノタウロスの時は緊急でかつ冒険者の集まりが悪かったので例外なのです。
ちなみにあの防衛戦以降1ヶ月が経ちますが魔王軍が攻めてくる様子は今のところまったくありません。風の噂では私の
さて、今日はというと…なんと王室から私とゆんゆんに名指しでクエストの依頼がはいったのです。ギルドから聞いた時はびっくりしましたよ。どんな依頼なのかドキドキしながらも今は王城へと向かっています。…というのも指定した時間に王城に来るようにとしか書かれてなかった。
「一体どんな依頼なんだろうね…?」
ゆんゆんは相変わらずのおどおどした様子で私に聞くけど皆目見当も付かないのが本音である。というよりこの子は防衛戦とかミノタウロス戦とかやる時はバリバリやる子なのに普段はこの調子。多分本人に自覚はないのだろうけど追い込まれたら本気を出すタイプなんだろう。
とりあえず依頼主が依頼主なので万が一にも遅刻する訳にも行かないから普段朝が弱い私も今日は早起きでしたよ。いつもならゆんゆんが起こしてくれてますもん。
朝食も本来宿で食べられるんだけど私達のとった宿の料理はハズレの部類だったようで正直あまり美味しくない。なので昼夜は外で食べて朝食はゆんゆんが作ってくれてます。14歳にして完全に新妻みたいなことしてるんですけど見た目は育ってるから違和感がまったくない。さぞいいお嫁さんになることでしょう、旦那になる人が羨ましいことこの上ない。こうやって一緒に歩いてても誰が見ても私のが歳下と思ってるんでしょうねぃ、まったく妬ましい。
「…なんでどんな依頼か聞いたらそんな目で見られてるの私…?」
それは自分の胸に聞いてみよう。二つの意味で。と口では言わないけど目で訴えておいた。
というか私のこの身体はちゃんと成長するのだろうか。この世界に来て身長や体重をまったく測ったことがないのでわからないのだけど自分としては転生してからこの7ヶ月特に変わった気はまったくしないし胸もまったく大きくならない。…今度アクア様に会ったら聞いてみよう。絶望的な答えが帰ってこないことを心から願うばかりである。
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そんなこんなで王城に到着するなりこちらに気がついた守衛の人が駆け寄ってきた。守衛の人が向かってくるのは後ろめたいことがなくてもなんとなく怖い。
「アリス様とゆんゆん様ですね、お待ちしておりました。シンフォニア卿が中でお待ちです、ご同道願います」
こちらの依頼書を見せるまでもなく応対されてしまった。話が早くてたすかるのだけど。私とゆんゆんはお願いしますとぺこりと頭を下げて守衛さんの後を着いていく。ちなみにシンフォニア卿って人はクレアさんのことだ。これも後から知ったのだけどこの国のもっとも偉い貴族の1人にあたるらしい。偉い人とはわかっていたけどつくづく凄い方に目をつけられたものである。アイリスの件で知り合ってから城で働くよう勧誘されたり、防衛戦では普段クレアさんとか来ることはまずないのに私達を見にわざわざ出てきたのだから。
「アリスさん、ゆんゆんさん!お久しぶりです!」
以前の広く綺麗な応接間に案内されて中にはいると同時にこちらに駆け寄ったのはアイリスだった。約1ヶ月ぶりとなる再会に私とゆんゆんも笑顔になる。
「コホン、アイリス様、お行儀が悪いですよ。王女が客人の元へ駆け寄るようなことがあってはなりません」
そんなアイリスの後ろから着いてくるように近づき咳払いをして咎めたのはクレアさん。それを聞いたアイリスは少し不服そうではあるものの、渋々ながら下がり応接間のソファーに腰掛けた。
「よく来てくれたな、まずは座って欲しい。…客人にお茶を出してくれるか?」
「畏まりました」
クレアさんが後ろにいるメイドさんに目配せすると、メイドさんは丁寧に会釈して既に用意されていた高級そうなポットでティーカップに紅茶を淹れていく。それらが人数分テーブルに置かれるとメイドさんは計算されたように狂いもなく元の位置に戻る。
やはりこういう場は苦手である。私もゆんゆんも変に緊張してしまうのだけど王城という場所故にそれくらいは覚悟していた。問題は依頼内容なのである。
「依頼は簡単だが責任は大きいぞ…、それはここにいるアイリス様の護衛だ」
「…っ!?」
ゆんゆんが思わず口に含んだ紅茶を吹きかけギリギリ我慢した。…危なかった。そのまま吹いていたらアイリスの顔に直撃してその場でクレアさんの抜刀により首が飛ぶのは避けられない。私はまだリザレクションを取得してないのだからいきなり死亡フラグを出さないでもらいたい。実際リザレクションなんて王都でも使い手は1人か2人しかいないらしいのだが。とりあえず私達は詳細を聞く事にした。
「君達がアイリス様と出会った日に、私とアイリス様でちょっとした約束をしただろう?アイリス様の外出のことを」
その話を聞いて内心冷や汗をかいた。今思えばアイリス様に余計な事を教えた罪で罰せられててもおかしくはない。私が教えたのは今のところバレてはいないようだけど。
「確か…クレアさんやレインさんが護衛につくことで週に1回だけ外出を許可するという…?」
「あぁそれだ。そこで問題なのだが…私もレインも忙しくてな、アイリス様に付き添いたい気持ちは強いのだがほぼ日中ずっと城を空けるとなると少し難しいのだ、そこで私は君達に目をつけた。防衛戦でも実力は見させてもらったし近隣の村のミノタウロスも討伐してくれた事は聞いている、それだけの実績があれば護衛としては申し分はない」
…ごめんなさい、ミノタウロスの件は私はほとんど何もしてません。ミツルギさんのお力がほとんどです。とは流石に言えないし、ゆんゆんも討伐はしてるから気まずいものの何も言わずにいた。
「できればこれから毎週やってくれたらこちらとしては有難い、無論報酬もだす」
そう言いながらもクレアさんは1枚の用紙を私達に見えるようにテーブルに置いた。そしてそれを見るなり私もゆんゆんも絶句した。
「…い、いくらなんでもこんなに頂けません!」
その額250万エリスである。しかも各と書いてあるので私とゆんゆんで合計500万エリス。それを毎週だから生活するだけならそれだけしていれば物価の高い王都でも遊んで暮らせることは間違いない。貴族様とは金銭感覚がおかしいのだろうか?
「何を言っている?この国の第一王女アイリス様の護衛なのだぞ?」
言いたい事は分かるのだけど王都の中で日中アイリスの傍にいるだけでこんなに貰えていいわけが無い。ゆんゆんもそれは同意見のようだ、私達2人は顔を見合わせてひとつの結論を出した。……この依頼の拒否という選択だ。
「……本気で言っているのか?」
その答えは予想外だったのだろう。穏やかな顔つきだったクレアさんはきつい目線でこちらを睨んでいた。隣に座るアイリスも不安そうにこちらを伺っている。
…依頼は拒否する。だけどアイリスを連れて王都の街中を日中過ごすのはまったく問題はない。
「……どういう事だ?君達は何を言っている?」
「クレアさん。…私達はアイリスちゃんと、お友達なんです。お友達と一緒に街で遊ぶのに、お金なんて必要ありません」
私はゆんゆんの言葉に当然のように頷いた。分かりやすく言ってしまえば依頼は受けるけど報酬はいりません、…でも構わないけどお友達と遊ぶのに依頼なんてお仕事めいた口実を加えたくない。勿論遊ぶと言っても仮にこの依頼を受けた時と同じようにアイリスを危険に晒すことはないことを誓うつもりである。
「…ふふっ、そういう事か。それはすまなかった、冒険者というものはそういう者だと認識していたのでな、どうか許して欲しい」
「…では…?」
クレアさんが丁寧に頭を下げると、横にいたアイリスは目を輝かせていた。ややこしい言い回しをしたせいか不安にさせてしまったようだ。
「…それはそれとして…今は構わないがその呼び方は城の者の前ではあまりしてくれるなよ?色々と問題が起きるからな」
と、クレアさんから決まり事を押し付けられた。
街中ではイリスと呼ぶ事。クレアさんやレインさん以外のお城の人間がいる時はアイリス様、アイリス王女と呼ぶ事。王都の外へは絶対に出ない事。何かあればすぐ城に連れて帰ること。夕刻までには帰還すること。などなど。仕方ないとはいえ過保護なものばかりであった。
こうして私とゆんゆんは週1回、日中アイリスと王都の街で遊ぶことになりました。
……
早速と言う事で私とゆんゆん、アイリスは城を出て、今は貴族の屋敷が並ぶエリアにいた。どれも無駄に大きいので場所をとりすぎな気がするが貴族の屋敷故に仕方ない。
この城下町は王城を囲むように貴族の屋敷が並び、さらにその外周に一般的な住宅街、商業、工業街、そして城壁といった感じになっているので王城に行くには貴族のエリアを通らなければならない。
今のアイリスの格好は王女とわからないように違う服装にしている。青を基調とした服に帽子、ミドルスカートと動きやすそうでもありパッと見では王女には見えないだろう。
さて何処に行こうか…と思い3人で話していたらそれは起こった。
貴族の屋敷が1件、突然大爆発を起こしたのだ。位置は私達がいる場所からなんとか視認できる程度だったので私達に被害はまったくなかったが何事かと周囲が慌ただしくなる。王都の中心部に近いこんな場所で爆発が起こる…これは異常事態以外の何ものでもなかった。
ゆんゆんとアイリスは爆発して煙が上がっている貴族の屋敷を不安そうに見つめていた。…アイリスには大変残念だけど今日の外出は中止せざるを得ないだろう、先程の約束にもあったように何かあれば城に連れて帰るが充分にあてはまるのだから。この爆破がテロ行為などの可能性もある以上このまま遊びに行く訳にもいかないし爆発した家の人が心配だ。怪我をしているならそれこそアークプリーストである私の出番である。
それを2人に告げると、アイリスは残念そうに俯いていたけど状況が状況なので渋々ながら了承してくれた。私はゆんゆんにアイリスを王城に帰すことをお願いして、爆発した貴族の屋敷へと1人駆けて行った。