内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 39 謎の魔晶石

 

爆心地から逃げようとしているのか、高貴な身なりの人や執事、メイドらしき人などとすれ違いながらも私は爆発したと思われる屋敷の前に到着していた。慌てて走ったので軽く肩で息をし呼吸を整えながら周囲を見渡すと、門前には壮年の守衛の人が2人ほどいて、他に人影は見えなかった。

これが火事とかならば野次馬が集まりそうなものなのだが、起こったのは爆発、まだ爆発するのではないかと避難していて人が少ないのではないかと予測できたし、実際それは先程見た通りだ。

肝心の屋敷…だったものを見上げるように見てみる。それはほぼ瓦礫の山のようになっていて、中に入ることは難しそうだ…それが大人なら。

よく見てみると私1人ならなんとか潜れそうな隙間は数箇所見受けられる、中に入って人がいれば治療することは可能かもしれない。私は自然な足取りで屋敷内に入ろうとした。

 

「君、ここは危ないから入っては駄目だ!」

 

そんな私にすぐに気が付いたのか、守衛の人が駆け寄ってきた。私はすぐさま冒険者カードを取りだし、自身がアークプリーストであることを告げた。

 

「…君のような少女がアークプリースト…?まさかその容姿…噂に聞く【蒼の賢者】なのか?」

 

怪訝な表情をされてしまった。だが不本意な異名も今役に立てば何でも良かった。守衛のおじさんはどうするか迷っているようでいて、それに不審に思ったのか、もう1人の守衛さんがこちらに近付いてきた。

 

「どうした?そのような子供に構っている場合じゃ…」

 

「いや待ってくれ、これを見て欲しい」

 

手に持ったままだった冒険者カードを見せてなにやら小声で話し始めた。どちらにせよ結論を急いで欲しいのだけど。仮に中に人が残っていたとしたらあまり猶予はないのだから。

そんなことを思っていたら、最初に話しかけた守衛さんは私に冒険者カードを返すと、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「正直ありがたい、今調べ始めたばかりで状況もよくわかっていないのだ、協力してもらえるか?ただ中に入るのは危険だからやめておいた方がいい」

 

私はコクリと頷くとそのまま隙間に向けて早足で移動した。やめておけと言っているのに行こうとしている私を見て2人の守衛さんは慌てた様子を見せるがこちらとしては最初から中にはいるつもりはない、その隙間から中を覗くだけである。

 

私は瓦礫の隙間から中を覗き込んでみるが、当然ながら瓦礫のせいで中は暗くほとんど何も見えなかった。これでは余計に中にはいるのも危険だと判断した私は隙間の中に声をかけてみた。

 

「……だ、誰かいるのか…?早く助けろ…!」

 

すると偉そうなおじさんの声が聞こえてくる。その声は怒声を含んだようでもありなんとなく弱々しくも感じる。助けたいのはやまやまだけど中の様子がわからないと動くのは難しい。助けろと言うことは自身で動く事はできないのだろうと推測はできるものの、それだけでは足りない。私は中の状況を聞いてみた。

 

「…ちっ……ワシは今瓦礫で足を挟んでしまい動くことはできん…他?…ワシの周りにはメイドと執事が1人ずついたが…そんなことはいい、さっさとワシを助けろ!!」

 

帰ってきたのは舌打ち、続いて自分の状態から言って自分のお世話をしてくれている人を気にしない様子で自分を優先するその言い方には嫌悪感しかでないのだが人間危なくなると自身を優先するものなのかもしれないと自分に言い聞かせてた。その声にも嫌悪感がないと言えば嘘になる。私とて15歳の年端のゆかぬ学生でしかなかった存在、生理的に受け付けないのだ。

何よりも私はどこかで期待していたのかもしれない、自分のことはいいから使用人を助けてやってくれ!なんて言うようなドラマチックな台詞を。勝手に期待しただけと言われたらそれまでだがこうも真逆で返されると落胆も大きい。

…それでもなんとか状況を整理できた。…そして私にはこれをどうにかできる方法がある。

 

私は立ち上がると背中の杖を取りだし、構えると詠唱を開始した。白い魔法陣が私の周囲を駆け巡る。

 

「なっ!?この状況で魔法!?どうするつもりだ!?」

 

「いや、蒼の賢者の魔法は確か…」

 

後ろにいた守衛さん2人が声を出すが事態は一刻を争う、構っている暇はない。私は詠唱の終わりを確認すると杖を掲げて使い慣れたその魔法を唱える。

 

《ストーム》

 

瓦礫の山の中に魔法陣が光ると同時に瓦礫の下から極大の竜巻が出現し、一部の瓦礫を上空に吹き飛ばす。あくまで一部なのは私がその一部の瓦礫だけにしか敵意を向けていなかった為。よって私は、どかせたい瓦礫に次々と敵意を向けていく。中から絶叫が聞こえてくるが気にしない。

するとそれは奇妙な光景になった。すぐにでも何もかもを吹き飛ばしてしまいそうな中で、瓦礫がひとつ、またひとつと上空に飛ばされていくのだ。ストームが終わりそうになれば再びストームを使う。こうしないとせっかくどかせて上空に飛んでいる瓦礫がまた落ちてきてしまう。…ただこの結果は私の思っていたのと大分誤差があった。

瓦礫はストームで破壊されて小さくはなっているものの、まだまだ落ちたら危険な大きさだった。想定では瓦礫を粉々してから吹っ飛ばすつもりでいたのに面倒なやり方になってしまったと私は内心舌打ちしていた。おそらく建物自体が頑丈な造りだったのだろう。…そしてそれを繰り返すうちにようやく人影が見えてくる。私はストームにより瓦礫を飛ばしながら守衛さんに頼んだ。

 

「今のうちに中にいる人を助けだせって…こ、この竜巻の中にはいるのか…?」

 

「た、確かに噂通り…人に被害は出ていないようだが…」

 

2人の守衛さんは狼狽えながらも竜巻の中に突入し、唯一しゃべれていた貴族のおじさんを抱えるなり外へと移動する。…個人的には先に使用人の人を助けてもらいたいのだけど聞くからに性格の悪そうな貴族のおじさんのことだ、ろくな事を言わないに決まっている。…私情を挟まないと決めた以上もはやどちらでもいいのだけどストームの消費魔力は割と大きいのだ。レベルがあがり魔力があがった今だからこうして連発できるけどそれでも限界はある。早めに救出してもらいたいものである。

 

続いて残り2人の使用人の人達を救出を終えるなり私は魔法の詠唱を停止した。周囲に離れることを告げると、竜巻が消えると同時に多少細かくなった程度の瓦礫がどかどかと元の場所へと落下した。そしてそのうちの1つが私の頭にぶつかった。

 

…痛い…。キーンと感じる痛みを我慢しながらも思わずしゃがみこんで頭をさする。どうやらたんこぶができたようだ、それは軽く膨れ上がっていた。…そして頭に当たったものを見て…私は興味本位で拾い上げた。

 

手にしたそれはテニスボールくらいの大きさで明らかに割れた感じになっている黄色っぽい色の魔晶石だった。ただ魔晶石とはいえ私が常時しているように綺麗な形ではないし大きいのでこのままでは杖にはめこんだりは難しそうだし効果が分からないものをむやみに使いたくはない。この家にあったものだろうか?ただそれは焼けたように燻り、綺麗な光沢はまったくない。それでも僅かに魔力を感じた。…とりあえず私はそれを持ったまま救出された人の元へと移動した。

 

 

 

 

 

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救助した3人の元に近付く。守衛さんの話では使用人は2人ともかろうじて生きてるらしい。私は急ぎ足でその人達に近付くとすぐさま回復魔法を使った。

 

《ハイネスヒール》

 

エメラルドグリーンの光が使用人さん達を包み込むと彼らの顔色は少しずつ良くなって行く。本当はセイクリッド・ハイネス・ヒールと洒落こみたいのだけど大分ストームを使ってしまった。まだ終わってないのに魔力切れで倒れる訳にもいかないので保険での処置である。

 

「このワシを差し置いて使用人を治療するなど…ふざけてるのか?」

 

ふざけているのはどう考えても貴方です、と言いたかったけど私はぐっと堪えた。こんな場面で言い争っても何も意味は無いし貴族なんかに目を付けられてもろくな事にはならない確信がある。何よりこうして姿を見て余計に嫌悪感は増す。如何にも太った偉そうな貴族。見た目からしてやはり生理的に受け付けない。

私は重病の方を優先しただけです、と告げれば貴族のおじさんは、ふんっ、と不機嫌そうに顔を背けた。もはやただの子供でしかない。これほどヒールしたくない人もいないと思うのだけど私情を殺しておじさんに近付くと足を怪我していたのでヒールをしておいた。守衛さんが貴族のおじさんに聞いた話だと屋敷には今いる3人しかいなかったらしいのでひとまずこれで終わりのようだ。頑張ったよ私、よく我慢したよ私。

 

とりあえず怪我を治したところで私は先程飛んできた魔晶石のようなものを貴族のおじさんに見せてみた。

 

「…ん?なんだそれは?ワシは知らんぞ。魔晶石のようだが色は汚らしいしどうせ安物だろう、勝手に持って行くがいい、報酬代わりだ」

 

……自分の物でもないのに報酬代わりに差し出すのは正直どうなのだろうか。とことん腐った貴族様だ。そしてこれを報酬にすることで他の何かを要求させないようにしているのだろう。嫌悪感からかそんな風にとことん悪く考えてしまう自分にすら嫌気が刺してくる。元々報酬欲しさにやったことではないから報酬自体はどうでもいいのだけど救助活動してここまで気分が悪くなるとは思わなかったのが本音である。まぁ貰えるなら貰ってしまおうと投げやりめいた考えには至った。

 

とは言え魔晶石その物に私は詳しくはない。近々アクセルに帰るつもりなのでその時にウィズさんにでも見てもらおうと、その魔晶石らしきものを懐にしまいこんだ。……と、ここで思い至る。

 

この魔晶石…貴族のおじさんは知らないと言っていた。という事はもしかしてこの魔晶石はもしかしたら今回の大爆発の原因ではないだろうか?と私は先程の瓦礫の山に向かい辺りを見渡してみた。

 

すると私が拾ったものより小さいが、それはそこら中に落ちていた。やはりこれが爆発の原因である可能性が高い。1番大きいのは貴族のおじさんが私にくれたので遠慮なく貰っておくとして、その他のものは証拠品として守衛さんに渡しておこう。我ながらちゃっかりしたものである。

 

すると周囲が騒がしくなってきた。王城からようやく援軍が到着したのか、10人近い兵士達がいた。その後ろに見覚えのある子を見かけた。…もちろんゆんゆんだ。どうやらゆんゆんが話をして兵士の方々を連れてきてくれたようだ。

 

ここでやれる事はもうない。守衛さんには既に複数の魔晶石の欠片を渡している。私はゆんゆんの方に向かい歩いていった。とりあえずお腹空いたのでご飯でも行きたいなぁと思いながら。

 

 

…後に結果として大爆発の原因がこの魔晶石であることが確定する。そして新たな騒動に巻き込まれることを、この時の私は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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