内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

4 / 183
episode 4 私の名前とアルバイト

ようやく説明という名の説得が終わると、とりあえずせっかく作ったので冷める前に食べて、と言われたのでありがたく食事を頂くことにした。

 

パンと野菜スープという少し質素なものではあったけど特に好き嫌いはなく、むしろ長時間何も食べてなかったので胃に優しそうな食事となり、私としてはむしろありがたいくらいのものとなった。

 

「パンはいっぱいあるから、遠慮なく食べてね。それはそれとして、私ったら早とちりしちゃって、ごめんなさいね。もぐもぐ…」

 

どうなるかと思っていたものの、意外にもあっさりとあちらの落ち度を認めてくれたプリーストのお姉さんはばつが悪そうな顔をしながらもパンを食べていた。

 

「だけどそれでもこうしてロリ美少女と2人きりでお食事できるのも、よく考えたら充分なご褒美よね!!あぁ、アクア様っ、ありがとうございますっっ!!」

 

話を聞きながらも私は女神アクアのことを思い出していた。そういえばあの人は私のこの姿を見るなりアクシズ教を頼りなさいみたいなことを言っていた気がした。自分の中で不自然な形をしたパズルのピースが半ば強引に繋ぎあわさった感じがして、それは逆にスッキリしない。

 

それはそれとして、いい加減そのロリ美少女って呼び方をなんとかしてもらいたいものです、と何気なく呟いた。

 

「そうは言われても…私は貴女の名前をまだ聞いてないし……あ、というか私もまだ自己紹介してなかったわね」

 

凄く今更な感じもしたがそれはお互い様だろう。お互い食事をしながらの自己紹介というのも考えものである。こちらとしては普段はそこまででないのだけどまる半日近く何も食べてなかったのだからそれくらいは許してほしい。

 

「私はアクセル1の美人プリースト…セシリーよっ!気軽に、セシリーお姉ちゃんって呼んでいいからねっ!」

 

…とりあえず今まで通りお姉さんと呼ぶことにしておこう。それにしても私の名前…、かぁ。

 

私の名前は。有栖川 梨花。でもそれは前世の名前。姿が変わった今の姿には相応しくない気もした。有栖川って苗字は珍しくはあるけど、とりあえず見れば日本人とは見えるだろう。多分。

そんな日本人の名前を、金髪の目がブルーになった私が名乗るのも変な話だ。

 

だから私は、意識以外がゲームのキャラクターになった私は、元の身体だけでなく、元の名前までも捨ててしまおう。だから私はこう名乗る。

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈アリスです、よろしくお願いします。

 

 

 

 

有栖川だからアリス。実に安直である。だけど仕方ないよね。実際ゲームでの名前もアリスだったんだから。

 

 

「アリスちゃんって言うのね、えぇ、改めてよろしく。それで貴女は。これからどうするの?」

 

セシリーのその質問に私は沈黙した。時計がないのでわからないけど既に夜は深けている。多分20時前後だろうと予測している。ご飯をもらって話しているうちに随分と時間が経ってしまった。とはいえここから出ていったところで行く宛てもない。お金もない。

 

「アリスちゃんさえよければ、1泊くらいならして行っても、お姉ちゃんは構わないわよ。ただアリスちゃんはアクシズ教徒ってわけじゃないから無料って訳にはいかないけど…、馬小屋と変わらない程度のお布施で構わないわ。」

 

それは私にとって非常にありがたい提案ではあるのだけど…今の私は無一文なのだ。ここに泊まるとしてもお金を払うことはできない。

 

「えっ?お金がないって…アリスちゃんって、遠くから旅してここまできたのよね?」

 

グサリと痛いところをつかれた。勘のいいお姉さんは嫌いだよ。だけど少し考えたら誰もがそう疑問に思うだろう。嘘で塗り固めた事柄なんて、こんな風に穴だらけになるのは仕方がない。だけどその程度の疑問ならいくらでもごまかしはきく。

 

「旅の途中で財布を落として…。そ、それはご愁傷さまね…」

 

これが即思いついてなおかつ無理のない嘘だろう。私がそれで安堵するのも束の間、セシリーは困ったような表情をしていた。

 

「だけどアリスちゃんって、冒険者になりにきたんでしょ?確か冒険者になる為には1000エリスくらい必要になるはずよ、登録料とかで。」

 

お姉さんのその言葉は再び私にグサリと痛いところに突き刺さる。もはや死体蹴りに近い。もうやめて!アリスのライフはとっくにゼロよ!

 

「そこで可愛いアリスちゃんに、セシリーお姉ちゃんから提案がありまぁす」

 

項垂れてた私にお姉さんは凄くいい笑顔で私の肩をぽんぽんと叩いてきた。

 

「アリスちゃん、良かったら明日1日ここで働かない?やってくれたら今夜は無料で泊まってもいいし、出来高制にはなるけどお給料もだせるわ。最低でも冒険者登録できるくらいは普通に払うから、そこは安心してちょうだい!」

 

それは私にとってまさに千載一遇の申し出ではあった。今夜の寝床を確保でき、更に給料ももらえる。…それはいいのだけどどうしても気になることが2つある。1つはもちろんその仕事の内容。出来高制と言われても何をやればいいのだろうか?パッと思いついたのは聖水の販売とかだろうか?そしてもう1つ。

 

…はっきり言うと今日でてきた食事、そして古ぼけた家具、極めつけはこのボロボロの教会。どう贔屓目に見ても給料が払えるような環境には見えない。本当に払えるのだろうか。

 

「仕事の内容はー。受けるまでの秘密♪お金については大丈夫よ。生活がボロボロなのは私個人のせいで、アクシズ教団そのものにはお金はあるから!」

 

アクシズ教については話の合間合間に耳にタコができそうなほど聞かされている。そして話をする度に私の目の前に入信書を押し付けてくる。それも私がアクシズ教徒でないと知って即時である。今のところ華麗に受け流してる。多分どんな理由をつけても夕方前の勧誘を見る限り意味の無いことだろう。だからこういうのは無言で受け流す。

 

「やーん、アリスちゃんのいけずぅぅ」

 

そうしていたらあちらも無言の勧誘をしてくるようになった。セシリーお姉ちゃんはたくましすぎだよ……と、私はただため息をついた。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

結果から言えば私はセシリーの提案を受けることにした。何をやらされるかはわからないままだったけどそれだけでは断る理由にはならない。私の答えを聞いたセシリーはそうこなくっちゃと満足そうに喜びをあらわにしていた。

 

「それじゃあ早速明日してもらうことを教えましょう…アリスちゃんが明日やることは……これよ!!」

 

バンっと勢いのままテーブルに1枚の紙が置かれた。それを見るなり私は首を傾げる、何故ならテーブルに置かれたその紙は先程から飽きるくらい押し付けられてるアクシズ教への入信書なのだから。

 

まさか私に入信しろと言うことなのか?と一瞬過ぎるがそれはないと断言できる。何故なら出来高制という言葉があったから。入信書、そして出来高制。こうなると答えは1つしかない。

 

つまり…セシリーは明日私にアクシズ教の勧誘の手伝いをしろと言っているのだろう。

 

「うふふふ、アリスちゃんは賢いわね、その通りよ!そして安心なさい!明日の為に今から寝るまで!私がアクシズ教の勧誘の極意を基礎から教えてあげるのだから!!」

 

ゾワッと背筋に悪寒が走った。わーい、めちゃくちゃやりたくなーい。

多分今の私の瞳に光はあまりないと思われる。感じたのは虚無感と脱力感である。

 

こうしてせしりーおねーちゃんと、わたしはねるまでやくにじかんほど、かんゆうするためのもーとっくんをしたのであったまる

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、アクセルの街の入口に見える中央広場。大きな噴水は冒険者の待ち合わせスポットとしても使われやすく、四六時中この場所は人が多く、また人の入れ替わりが激しい。まさに勧誘などをするにはうってつけの場所だ。

 

うってつけなのはうってつけなんだけど、じゃあ勧誘するかとなると色々な葛藤や羞恥心があるもので。

 

今回私がセシリーから教えて貰った《奥義》そのものは簡単なものだった。羞恥心とかを差し引けば。実行する人が限られるものの、勧誘する台詞も少ない、ましてや短期決戦。してその内容とは

 

 

あ、あの…

 

「うん?お嬢ちゃん、どうしたんだい?」

 

アクシズ教に…入って…くれませんか?

 

「えっ、しゅ、宗教かい?いやそういうのは…」

 

はいって…くれないんですか……?

 

「う、ううっ…わ、わかった、はいる、はいるからそんな顔しないでくれ…!」

 

あ……ありがとうございます…!

 

 

 

 

 

台詞だけにするとこうなる。しかし。ここにどんな状態かを入れると。

 

 

獲物を定めるとまず話しかける。

 

そして両手を祈るように絡ませて上目遣いで勧誘する。

 

大抵はこれだけでは落ちないので涙目になる。

 

今回はここで折れてくれたけどここでも折れなかった場合は離れていこうとする人を見ながら涙を流しはじめる。これにより獲物に罪悪感を与える。

 

これでも折れなければセシリーお姉ちゃんが登場してそいつを人でなし扱いする。アクシズ教をよく知ってる人ならまだしも今ひっかかった人のようによく知らない人がターゲットになるとこれで9割は落ちます。なおここまでの動作が無表情でやれるはずもなくめちゃくちゃ恥ずかしいので頬あたりは真っ赤になってますがむしろそれがいいとは昨夜練習した時に涙目上目遣いを見せたら鼻血と涙を流しながら無言でサムズアップして太鼓判を押してくれたセシリーお姉ちゃんの談である。

 

ちなみにそう簡単に涙なんてでないので予めクリエイトウォーターで目に軽く水をいれてます。綺麗な水なので意外と目が痛くない。

 

 

なお、アクシズ教をよく知る一部のエリス教徒はこの勧誘を見て悪魔の所業だと言ったとかなんとか。さらに一部では私の事をアクシズ教のリーサルウェポンと呼んだらしいが私の耳に届くことはなかった。…私がこのアルバイトで報酬を得る代わりに大事な物を失っていることに気が付くのはもう少し後の話だったり。

 

余談であるが無事(?)勧誘した方々は私がお礼を言った時の笑顔で満たされた顔をしていたとかなんとか。ごめんなさい、天然物じゃなくて作り物なんです。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。