アレクセイ・バーネス・アルダープ
今回大爆発を起こした屋敷の所有者であり、アクセルの街の領主。その名前は調べれば調べるほど悪評しか出回っておらず、何故今もまだ普通に上位貴族の一角として君臨できているのか疑問でしかない。ただ言えるのは彼はあちらこちらから恨みを持たれており、今回の屋敷倒壊もその恨みによる犯行ではないかと有力視されていたようだ。爆発した物を調べたところ、非常に希少なものであるコロナタイトと呼ばれるエネルギー結晶体であることが判明した。そのような希少なものだとすると出処はかなり限られるという。…ところまでが私があの事件の後にクレアさんから得た情報だった。
その時にコロナタイトについて私はクレアさんに聞いたのだけど、何がどうなったのか分からないがコロナタイトの欠片の所有権は屋敷を爆発された被害者であるアルダープになったそうだ。どうやらコロナタイト自体の価値がかなり大きいものらしい。…それならそれで1番大きな結晶体を私に報酬として渡したことを無かったことにしそうなものなのだけど…これも後から知ったことだけど蒼の賢者はシンフォニア卿のお気に入りであると貴族の間では吹聴されているらしい。そうなればアルダープとしても安易に手を出すことはできずにいる為に今の所返却云々は言われていない。自分の知らないところで自分の名前が大きくなりすぎである。私個人の地位が高くなった訳ではないけど、クレアさんと関わることで自然と蒼の賢者にはシンフォニア家という後ろ盾があるように広まっているらしい、そんなことは全くないのだけど。地位やら名誉やら興味が全くない私としては嘆かわしいことこの上ない。そんな希少なものなら私も普通に返して構わないのだけどクレアさん曰く受け取っておけとのこと。クレアさんですらも、アルダープには良い印象を持っていないようだし、私の後ろ盾になってる噂も悪いようには捉えていなかった。
そんなこんなの話があってコロナタイトの出処まではまだ判明していないらしく、私としてはもはや無関係なので忘れ去ろうとしていた。
……
それから数日後、私はゆんゆんとともに王都にあるテレポートサービスに並んでいる。
テレポートサービスとは、文字通りテレポートでの移動を使い他の街などに行けるサービスで、馬車よりも値が張る代わりに一瞬で目的地に到着できるサービスである。ゆんゆんがテレポートを覚えて割と時間が経つのだけど未だにアクセルに戻っていなかったので、登録しに行こうという話になっていたのだ、前々から予定していたのだけど、依頼などで中々きっかけが掴めずようやくという形になった。1ヶ月と少ししか経っていないのだけど王都での生活が目まぐるしすぎてもっと長くいたかのような錯覚すら覚える。再会したい人がたくさんいるし、今回のアクセルへの帰還は私にとってまるで里帰りのような心境だった。
「めぐみんやリーンさん、元気にしてるかなぁ」
その心境はゆんゆんも同じようでワクワクしている様子が見てとれた。その両手には大量のお土産として、王都で売っているケーキやクッキーなどのお菓子の数々。馬車で帰るならクッキーはともかくケーキなどは難しいが今回はテレポートによる移動なので一瞬だ、王都での有名なお店のものなのできっと喜んでもらえるだろう。
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無事テレポートにより、私とゆんゆんはアクセルの街の正門前に到着した。アクセルの街にはテレポートサービスはないので完全に片道になるのだけどそこはゆんゆんがいるので今から王都に戻ろうとしても一瞬で行けてしまう、本当に便利なスキルである。
さてと周囲を見渡して………私は絶句した。
「……あれは…?」
正門から少し離れた位置に、とてもこの中世をモチーフとしたような世界には相応しくない巨大な黒い物体の残骸が私とゆんゆんの目に入る。
それはあちこち既に破壊されているが、原型を思い描こうとしたらおそらく蜘蛛のような形をしていそうだ。そしてそれは全て機械のようなロボットのようなそんな印象を受けた。
「おや?あんた達は確か…」
ふと声がかかった方向に私とゆんゆんは振り向く。そこには以前私とゆんゆんを王都まで連れて行ってくれた御者さんがいた。馬車も近くにあるのでこれから出発するのだろうか。
「お久しぶりです、その節はどうも…あ、あの、あれは一体…?」
「んん?なんだ知らないのか。あれはデストロイヤーだ」
「デ、デストロイヤー!?デストロイヤーって、あのデストロイヤーですか!?」
「あぁ、王都までは話が行ってなかったのかい?先日アクセルに向かってきたこいつは、ご覧の通り討伐されたってわけだ」
「デストロイヤーを討伐…しかも駆け出しの街アクセルで…!?」
ゆんゆんは興奮した様子でいるけどこちらとしては完全に置いてきぼりである。私はただひたすらに御者さんとゆんゆんの表情を交互に見渡していた。ですとろいやーって何??としか出てこない。
「機動要塞デストロイヤーよ、あれが通過したらアクシズ教徒以外は塵も残らないって言われているのよ」
機動要塞って時点で世界観がぶち壊しすぎる。この中世ファンタジーっぽい世界はいつの間にSF系の世界とコラボしたのだろうか。更に言うとどれだけ世間の人々はアクシズ教徒を人間扱いしていないのだろうか、でも何が起きてもセシリーお姉ちゃんとかは無事のような気がしないでもないから何も言えない。そんな事を考えて頭を抱えていたら御者さんは出発の時間らしく馬車に乗り込んでしまっていた。とりあえず詳しい話はアクセルの中で誰かに聞こうと切り替えると、私とゆんゆんはアクセルの街の中に入っていった。
……
私はゆんゆんにデストロイヤーについて詳しく聞いていた。
機動要塞デストロイヤー。
小さめのお城程度には大きいそれは、この世界の天災と言われている。かつて科学が発達した国が対魔王軍決戦兵器として作ったものであるが、完成と同時に謎の暴走を起こし、世界中を走り回っている。動力には無限に等しいエネルギーを確保可能なコロナタイトが使われており、内蔵されている装備は対接近用に作り出されるゴーレム、遠距離狙撃が可能な巨大なボウガン、そして何よりも強いのはデストロイヤーの巨大な胴体と8本の蜘蛛の足そのものを馬並に早い速度の移動による蹂躙。
防御面も硬い金属が使われていて物理攻撃は効果が薄く、では魔法ならと言われたらそうでもない、対魔法障壁…つまりバリアーが常備されている。
対魔王軍決戦兵器なのに肝心の魔王城は結界で守られているので、被害にあうのはそれ以外というなんとも言えない兵器だそうな。
なるほど、そんな無敵の兵器が駆け出し冒険者の街のアクセルで破壊されたとなれば確かにその驚きは納得である。だけどこの街には駆け出し?と聞かれるとちょっと首を傾げたくなる人も割と居たりする。最たる例は水の女神アクア様だろう。あの人は知力が少し残念なこと以外はスペックがやばすぎる。更に爆裂魔法の申し子めぐみんもいる。あの爆裂魔法ならバリアーさえなんとかできたらどうにかなりそうにも思える。
ただそれ以前に思うのはそんな天災がアクセルを襲おうとしていたのにも関わらず、まったく知らずに何もできなかった事は個人的に悔しい。この世界に来てから半年も過ごした街なのだから思い入れは強い。私は少しだけ居心地が悪そうにアクセルの街を歩いていた。
さて、とりあえずはゆんゆんもいるしめぐみんに逢いたいところなのだけど何処にいるのだろう?彼女はカズマ君と違って宿で生活していたような気がするけど…1人を探すよりも冒険者ギルドに行った方がてっとり早いと感じたので私はそれをゆんゆんに提案してみた。
「そうね、王都の冒険者ギルドに慣れてきたけど私はやっぱりアクセルの冒険者ギルドの雰囲気が好きだし」
時刻はまだ早朝ながらも私は朝食をまだ食べてなかった。今日アクセルに来ると決めてからは是非ともアクセルの冒険者ギルドに併設された酒場のサンドイッチとミルクティーを頂きたいものである。お値段もリーズナブルで味もよし。ゆんゆんの言葉に頷くと私は冒険者ギルドへと歩を進めていった。
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「アリスさん!ゆんゆんさんも!ご無沙汰してます!」
冒険者ギルドに入るなり窓口前で清掃していたルナさんが駆け寄ってきてくれた。まだ早朝だからかギルド内は閑散としているものの、このアットホームな空気は王都の冒険者ギルドではまず味わえない。ゆんゆんもそれは同じのようで綻んだ表情をしていた。
「お久しぶりです、ルナさん…と言ってもまだ1ヶ月くらいしか経ってませんけど…」
「そうなんですよね…たった1ヶ月なんですよね…そのたった1ヶ月でも貴女達の噂はここまで届いてますよ、蒼の賢者さん♪」
少し意地悪っぽい言い方で言う笑顔なルナさんに私は苦笑した。ここでも初心者殺し殺しやらアークウィザードプリーストやら変な異名をつけられて愚痴を言ったことがあるせいか、私が異名自体を微妙に思ってることを知っているからこそ出てくる言い方だ。ゆんゆんは羨ましそうにこちらを見てるけどできるなら代わって欲しいまである。
「ふふっ、少し意地悪な言い方でしたね。ですがたった1ヶ月でここまで名声が届くなんて魔剣の勇者ミツルギさん以来ですよ」
「あ、ミツルギさんでしたら私達もパーティを組んだことがあります、凄く強い人でしたよ」
談笑しながらも私はギルド内に他に知り合いがいないか見ているが…早朝だからか冒険者の数はほぼ見えない。これは少し妙に感じた。確かに私がいた頃も早朝の冒険者ギルドはそこまで人はいないものの、今日は少し少なすぎる気もする。まるで冒険者ギルドの休業日にお邪魔してしまったのかと錯覚するほどだけど当然ながら冒険者ギルドに休業日なんてものはない。
「あー…そ、それはですね…」
理由をなんとなく聞いてみればルナさんは言いにくそうにしながら目線を逸らした。何か特別な理由でもあるのだろうか?
理由として思い浮かぶのはまずアクセルの正門前にあったデストロイヤーの残骸。あれの懸賞金はかなりのものらしい。報酬がはいって真面目に働く人が減ったのだろうか?
「い、いえ。デストロイヤーについてはほとんどカズマさんのパーティで倒したので他の冒険者の方に報酬が出ることはありませんでしたが…その…」
「カズマさんって…確かめぐみんが入ってる!?」
これはまた驚きの答えが帰ってきた。あんな大きな機械をカズマ君のパーティだけで倒したというのだからゆんゆんは勿論私も驚くのは言うまでもない。
まあ先程も予想したようにカズマ君のパーティにはアクア様やめぐみんもいることだし驚くものの、できっこないとまでは思わない。ではこの閑散としたのには別に理由があるということになる。そして私もゆんゆんも、その理由を聞いた時に耳を疑うことになった。
「その…リーダーのカズマさんがですね…国家転覆罪で捕まってしまったんです…」