突然告げられたそれは私を混乱させるのに充分すぎるものだった。
何故デストロイヤーを倒したことが国家転覆罪になるのだろう?完全に真逆の対応である。デストロイヤーについて話はゆんゆんからしっかり聞いている、英雄視されるなら理解出来るしそれが自然の流れだ。なのにも関わらず国家転覆罪。国を陥れる行為ということなのだろうか?…ということはデストロイヤー云々は無関係で、それ以外でカズマ君が何かをやらかしたのだろうか?とはいえカズマ君の性格や人柄は私なりに分かってはいる。私は被害にあったことは無いけど確かにセクハラめいた事をすることもあるらしい話は聞いてるし仲間から鬼畜扱いされる場面もある。だけど私にはカズマ君が国を陥れるようなことをする動機もメリットもないように思えた。
「その話、私も混ぜてもらおうか!」
甲高い声が早朝の静かな冒険者ギルド内に響き、私達はギルドの入口に向きその声の主を見た。そこには小柄ながら堂々とその場に立ち杖を掲げてマントを翻し、片方眼帯で片方の赤い目を光らせるめぐみんがいた。
「めぐみん!」
「久しぶりですねアリス。ついでにゆんゆんも」
「ついでってなによ!?…ってそうじゃなくてっ!めぐみんのパーティのリーダーさんが捕まったってどういう事なの!?」
「まったく、王都で少しはメンタルが鍛えられたかと期待してみればゆんゆんはやはりゆんゆんでしたか、話はしますがその前に朝食をとらせてください、深夜に爆裂魔法を撃ったので正直くたくたです」
言い方はいつものめぐみんながら、確かに今のめぐみんは少しふらついているように見える。おそらくようやく歩けるようになったからだろうか。というより何故深夜に爆裂魔法を撃つ必要性があるのか余計に謎が増える始末。
《マナリチャージフィールド》
その場でいつものこれを展開すればその範囲はギリギリめぐみんに届き安らいだような顔を見せていた。
「あぁ…これですこれです…はやくカズマにも覚えてもらいたいものです」
とりあえずそのカズマ君の話をしてもらわないとこちらとしてはどうしようもない。仮にデストロイヤーが関係するにせよしないにせよ、パーティメンバーであるめぐみんならある程度の事情は把握しているはずだ。
それにめぐみんの言う事にも一理ある、私がここに来たのは顔見せもあるが朝食を摂る為でもあったのだから。
こうして私とゆんゆんは話を聞く為に酒場のテーブルにつくことにした。
……
テーブルにつき、私は3人分のサンドイッチとミルクティーを注文した。久しぶりにゆっくりメニューを見てもいいのだけど状況が状況だしそのような余裕もあまりない。余裕がないのに朝食摂ってる場合かと言われたら返す言葉がないけど。
だされたサンドイッチの具材はハンバーグ。それに千切りされたキャベツが多めに入っている。朝から重いなとは感じなくもないけど今いるこの場所は冒険者ギルド。クエスト前に朝食を摂る冒険者もいるのでスタミナがつくようにとのギルドの配慮なのかもしれない。重いのを考えなければハンバーグが入っても値段は変わらないのでそれだけを考えたらお得感はある。
ちなみに今もマナリチャージは使用中なのでテーブルを覆うように青白い光が立ち上り、若干ながら異質な光景になっていることでルナさんは苦笑していたが今のギルドはほぼ人がいないので許して貰えた。
「さて…何処からお話しましょうか…とりあえずカズマが捕まったのはデストロイヤー戦が原因で間違いありません」
「一体あの時何があったのですか?」
ルナさんも詳細までは知らないようでテーブルの傍に立ったまま話を聞こうとしていた。一応このギルドの職員である以上は私達とともに椅子に座り話を聞く訳にもいかないのでこの状態なのだろう。
「とりあえず2人は何も知らないのでデストロイヤー戦について簡潔に話していきましょうか」
そう言うなりめぐみんはデストロイヤーとの戦いを大まかではあるものの、話し方はまるで英雄伝を話すような誇張されている場面もありながらではあったが私達はその詳細を知る事ができた。
デストロイヤーがアクセルの街に迫っている。その脅威に街の人は逃げる事を最優先しようとしたし、めぐみんやアクア様もそれは同じだった。だけどダクネスは違った。この街をなんとしても守ろうとしてこの街に残ると言い出したらしい。
更に意外な事に、カズマ君も残ると言った。せっかく手に入れた屋敷を手放してたまるか!と言っていたらしい。屋敷…?ベルディア戦の報酬で買ったのだろうか?と疑問に思ったが話の腰を折るのも悪いので何も聞かなかった。
そしてカズマ君はデストロイヤーの特徴を知るなり次々と作戦を立案していき、途中駆けつけた魔道具店の店主ウィズさんの参戦によりその作戦の成功はより現実味を帯びるようになった。
まずはアクア様のセイクリッド・ブレイクスペルで魔法障壁を破壊。
成功したらめぐみんとウィズさんの2人で爆裂魔法を使い破壊する。…ウィズさんが昔名の知れたアークウィザードだったのは知っていたけどまさか爆裂魔法までも使えるとは思わなかったのでこの話は私やゆんゆんを素直に驚かせた。
これでデストロイヤーは完全に足を失い、作戦は成功したかに見えた…が、まだ終わらなかった。動けなくなったデストロイヤーは自爆する警報を鳴らしたのだ。それにより逃げようとするも、ダクネスはそれでも街を守る為に引かなかった。説得するがそれでもダクネスは応じず、デストロイヤーの内部に突入してしまう。それを見たウィズさんは動力源さえどうにかできれば自爆を止められるかもしれないと言い、もはやそれしか手が無かったのでカズマ君はアクア様とウィズさんを連れてダクネスを追った。
ここからめぐみんは場に居なかったので細かい様子はわからないが、中にある動力源…コロナタイトは暴走していて爆発間近だったらしく、手段としてはウィズさんのランダムテレポートしか思い浮かばなかった…らしい。
…ここまで聞いて私の中で点と点が繋がってしまっていた。
カズマ君の指示によりウィズさんのランダムテレポートで飛ばされたコロナタイト…。コロナタイトなんて伝説級らしき物がそういくつもあるはずがない、時期もピッタリ一致する。
つまり王都で起きた大爆発の原因は、言うまでもなくそのランダムテレポートによるコロナタイトなのだろう。
なるほど、結果として見れば屋敷が倒壊しただけで怪我人は出ていない。いや、出ていたが私が治療した。ただ爆発した位置的には王城の目と鼻の先…これが国家転覆罪となった理由なのだろう。私的に思うのは国家転覆罪ではなく国家転覆未遂なのだと思うけど。
私はこれを聞いて深く考えた。この世界の裁判がどのようなのかはわからないがおそらく王都で見た嘘に反応する魔道具を使う可能性は高い、それなら無罪、あるいはカズマ君の罪を減らせる可能性はあるのではないか。
……それにしてもそれが深夜に爆裂魔法を撃ったことはどう関係あるのだろう?
「大きな声では言えませんがカズマを脱獄させる為です、私が爆裂魔法により刑務所の所員の注意を引いてる間にアクアが手引きする予定でしたが残念ながら失敗しています」
…むしろ失敗して良かったのではないだろうか?脱獄なんてしようものならそれはカズマ君が罪を認めたと思われても仕方ないし今後カズマ君がまともに冒険者生活を送れなくなってしまう。犯罪者として追われることになってしまうのだから。カズマ君のパーティで唯一良識のあると思われるダクネスは止めなかったのだろうか?
…カズマ君の幸運値はかなり高いらしいが今回は運が無かったのだろうか…いや、爆破現場の傍に私がいた事はある意味運が良かったと言えなくもない、あの場に私がいなかった場合死者が出ていた可能性はあったしあの屋敷はストームですら簡単には壊れない様子だったのでコロナタイトの爆発が屋敷1件に留まったのも屋敷の頑丈さ故にだ、考えようによっては幸運ともとれる。死者の有無によっては心象も違ってくるし、あれが普通の屋敷とかならまだ広範囲に被害が出ていた可能性は高いのだから。
とりあえずもう少し情報が欲しいし私にも全く無関係ではない。実際に被害が出た現場にいたのだから上手くいけばカズマ君の弁護が可能かもしれない。
私はアクア様とダクネスがどうしているのかめぐみんに聞いてみた。
「アクアは屋敷で寝てます、ダクネスは裁判の為に色々と手を打っているようです、詳しくは聞く暇もなかったのですがダクネスはそういう方面に顔が効くらしいです」
…その2人ならダクネスに会った方が何かしら収穫はあるかもしれないけど今は私とゆんゆんの持つお土産をどうにかしたいと考え、私はルナさんに皆さんで食べてください♪とケーキを1箱渡し、めぐみんに屋敷に連れてってもらうことにした。
……
アクセルの郊外、墓地の近くにあるその屋敷はとても大きかった。築何年かは素人目では分からないがそれなりに経っていると思われるものの、その大きさはかなりのもので、とても10代の冒険者の所有物には見えない。扉を開ければメイドか執事あたりの使用人が丁寧に挨拶してきそうだ。
めぐみんが言うには元々幽霊屋敷だったのを格安で購入して、除霊することで住めるようにしたとのこと。確かに女神アクア様がいるのだから余裕で可能そうではある。
中に入っても立派な造りで部屋も多い、めぐみんやダクネスも住んでいるらしいがそれは道徳的にいいのだろうかとは思ったものの、自分には無関係なので深く追求はしなかった。本人達がいいのならいいのですよきっと。
入ってすぐにソファーでだらけるアクア様を見つけたので今はお土産のケーキを食べて貰っていた。
「もぐもぐ…んーー、おいひー♪」
「確かにこの味わいはアクセルのケーキでは味わえませんね、あ、もう1つ頂きます」
「あ、私も♪」
「めぐみんさっきサンドイッチ食べてたよね?まだ食べるの…?」
「何を言っているのですかゆんゆんは、甘いものは別腹ってアクアが言ってましたもぐもぐ、…それにケーキなんてそんなに日持ちしないのですからさっさと食べてしまうべきです、もぐもぐ」
割と多めに買ってきたケーキだがアクア様とめぐみんの2人で半分以上はなくなってしまっていた。その様子には流石に私とゆんゆんも苦笑しつつドン引きである。できたらせめてダクネスの分は残しておいてほしいのだけど。他の人はクッキーを配るしかなさそうだ。
「もぐもぐ……ねぇ、そういえばさ、アリスの隣にいる子は誰なの?見たところ紅魔族みたいだけど」
「あ、すみません挨拶が遅れました、紅魔族のゆんゆんです」
「ふーん、ゆんゆんね、よろしく……ん?」
アクアは何故かわからないが違和感を感じた。何がおかしいのだろうか、今の会話の流れは特におかしなことはない、ごく普通のものである。……むしろ普通であることがおかしいと気が付いたのはめぐみんが先だった。
「ゆんゆん!?なんですかその腑抜けた挨拶は!?いつもの紅魔族流の名乗りはどうしました!?」
「……めぐみん、私はもうあの挨拶はしないわ」
「ゆんゆん!?」
この世のものを見ているとは思えないような目線を向けるめぐみんだけどそこまでなのだろうか?凡人である私には到底理解出来そうにない。…よくよく考えたらゆんゆんはミツルギさんの時には既にあの名乗りはしてなかったような気がする。とりあえずめぐみんにとっては爆弾発言だったらしい。
「族長の娘ともあろう者が何を言ってるのですか!?」
「違うわめぐみん、族長の娘だからよ!!」
「っ!?」
「アリスに相談したことがあるの、王都でこの名乗りは正直どうなのかなって…そしたらアリスは言ってくれたのよ、無理にする必要はないって。…だけど私だって紅魔族であり族長の娘…だからしなければいけないと思ってた…でもアリスは言ってくれたの!恥ずかしいならゆんゆんが紅魔族の長になった時に廃止にしたらいいんじゃないですか?って、それは目からドラゴンの鱗が落ちたような気分だったわ!」
正直紅魔族の名乗りなんて全く興味なかった私は当時適当にそう言ったのだけど…、ゆんゆんのその台詞を聞いた途端、めぐみんは私に飛びかかり、勢いのままに私のツインテールを掴んで引っ張った。…っ!?痛いです痛いです痛いです!?!?
「アリス!?貴女何ゆんゆんに余計な事を吹き込んでるのです!?わかっているのですか!?貴女は紅魔族のアイデンティティを崩壊させようとしてるのですよ!?」
「めぐみんやめて!?アリスが痛がってるでしょ!?」
「…っ!?ゆんゆんが呼び捨て!?いつの間に呼び捨てする間柄にまで!?アリスだけはそんな人じゃないと信じてましたのに!?これは裏切り行為ですよ!!」
もはや支離滅裂で何を言いたいのかわからないし余計に私のツインテールを引っ張る力が強くなる。いやとれちゃうからと思うほど痛いから本当にやめてほしい。…私はそっとめぐみんの眼帯を抓るように持ち、思い切り引っ張った。…温厚な私だって怒るのですよ?
「…っ!?ま、待ってください!?アリスはそんなカズマみたいな鬼畜なことはしませんよね?それめちゃくちゃ痛いですから…やめっ…やめろー!?ヤメロー!?」
めぐみんの言葉を聞きながら笑顔で眼帯を引っ張る力を強める。多分今の私は目が笑っていない状態だ。…そして私は思いのまま、その眼帯から手を離した。
…パチーン!!と大きな音がした。
「いったいっ!?目がぁぁぁ!?!?」
目を両手で抑えて悶絶するめぐみんを横目にゆんゆんはぼそりと呟いた。
「…話が進まない……」
「いつもの事ね、ゆんゆんもケーキ食べたら?」
そして終始マイペースでケーキを頬張るアクア様であった。
めぐみんのヤメローヤメローが狂おしいほど好きです()