内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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カズマ君視点


episode 43 緊急クエスト『カズマ君の無罪を勝ち取れ』後編

 

 

 

俺の名前は佐藤和真、日本から来た転生者だ。

色々あって、このろくでもない世界に来てしまった。特典として連れてきた女神は頭が残念だし、ようやく仲間になった爆裂娘は爆裂魔法しか使えないくせに1日1回しか撃てないし、次に仲間になったクルセイダーは攻撃が当たらない上に自ら攻撃を無駄に受けたがるドMだし。

そんな俺だけど、なんだかんだでうまくやってきたし、慣れてきた今ではこいつらが居てくれて良かった、なんて柄にもなく思う時もあった。

同じ転生者であるアリスには最初は酷い事を言ってしまったものの、彼女は変わらず接してくれてかなりお世話になった。普段鬼畜だのクズだの言われている俺だが、彼女にだけは頭が上がらない。

 

魔王軍の幹部のベルディアと戦った時、俺たちの誰か1人でも欠けていたらまず勝てなかったかもしれない。勝てたとしても、あちこちに被害を出して借金を背負っていた未来しか見えない。…実際にベルディアを討伐した時にもらった6000万エリスは…アクアがウィズの店で高価でかつ産廃な魔道具をぶっ壊して弁償したり、めぐみんがふいに撃った爆裂魔法でつい郊外の建物やらをぶっ壊して弁償したり、他にも色々不幸なことが起こってあっという間になくなってしまった。勿論アクアの分もだしめぐみんの分は既にほとんど実家に仕送りしたらしいし、ダクネスなんかエリス教の教会に全額寄付したっていうからな。6000万エリスが入った次の日に曰く付きの屋敷を格安で買えていて本当によかった。それがなきゃ本当に何も残らなかったからな。

 

そんな中襲ってきたのは、機動要塞デストロイヤーとかいうどう聞いても日本人が名付けたであろう天災。せっかく買った俺の唯一の財産を失ってたまるかと出向いたものの、そいつは簡単には倒せなかった。ウィズの助けがなきゃ完全に詰んでたな。

 

なんだかんだでデストロイヤーは俺たちのパーティとウィズだけで倒せた。後はそれの報酬待ちでウハウハ状態だったんだが…次に俺を待っていたのは地獄だった。

 

俺の指示でウィズがランダムテレポートで送ったコロナタイト。そいつは王都の貴族様の屋敷を爆破してしまったらしい。それが王都だったことも問題があったみたいで、俺は国家転覆罪っていう濡れ衣を着せられてしまった。

 

そうして牢屋で過ごしていたら、アクアが脱走を計画してきやがった。気持ちは嬉しいけど今逃げたら罪を認めるようなものだろうが、と俺はそれをするつもりはなかった。

そしてセナとかいう巨乳堅物検察官から尋問されて…俺はポカをやってしまった。魔王軍の幹部と関わったことはあるか?と聞かれて、ないと答えたらベルが鳴ったからだ。そしてそれは俺にとって覚えがある。その魔王軍幹部ってのは、俺にドレインタッチを教えてくれた魔道具店の店主ウィズのことだからな。いくらなんでもウィズのことを魔王軍の幹部とバラす訳には行かない。

 

そんなこんなで詰んだと思っていたら…アリスが面会に来た。

彼女は真剣な面持ちでずっと俺に質問を続けた。俺がポカやった話をしたらアリスは確かに動揺していた。おそらく彼女はウィズが魔王軍の幹部であることを知らないのだろう。彼女なら俺たちのように受け入れるとは思うけど、そりゃ知らなきゃあんな顔になるよな。

…だけどアリスは去り際に、絶対に助けますから!と強く言ってくれた。それは虚勢だとすぐにわかったけど…アリスの必死な気持ちが、なんだか嬉しくなった。そうだよな…アクアも、めぐみんも、ダクネスも、諦めてはいない。そんな中俺だけが諦めるってのは、違うよな…。

 

ダメで元々だ、こうなったらどこまでも足掻いてやる。…そんな気持ちのまま、俺は裁判に行くことになった。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

裁判会場の風景は俺の想像していた通りのものだった。

裁判長が一番高い位置にいて、その下には司会のように進行する検察官のセナ。そして俺から見て左側には、金髪の太った中年親父の偉そうな貴族…こいつが多分アルダープってやつだろう。そして右側には俺の弁護人。アクアとダクネス、めぐみんとアリスまでもがいてくれた。こんな事は言いたくないがその中で頼れそうなのはダクネスとアリスだけだ。もはやこの2人に俺の命運はかかっていると見ていい。

 

…そしてその裁判を囲むように…360°野球の観客席のような場所には傍聴人が見える。ほとんどが見知った顔だった。ダストやリーン…リーンの横にいるピンクと黒の衣装の子は見たことがないけどこっちを心配そうに見ていた。他にもテイラー、キースもいれば名前は知らない赤髪の女の子とか…アクセルの冒険者ギルドで見知った奴らはほぼみんな来ているように見えた。

 

観衆が多いこともあって、裁判所内はざわざわと声が飛び交う。そんな声をかき消すように裁判長はハンマーをカンカンと鳴らした。

 

「静粛に!静粛に!…これより、被告人サトウカズマの裁判を行う!」

 

とうとう始まっちまった。だが俺は諦めてはいない。諦めたらそこで裁判は終了なんだよ、大体俺に罪がない証拠も充分にあるんだ。

 

「裁判長、領主という立場の存在を脅かした今回の事件は、まさに国家を揺るがしかねない事態です。何よりもあの領主の屋敷は王城のすぐ側にあり、王都ベルゼルグを狙った可能性もあります。以上のことから、被告人サトウカズマに国家転覆罪の適用を求めます」

 

「異議あり!今回の事件はデストロイヤーの自爆からアクセルの街を守るために止むを得なく行った不慮の事故です!弁護人として無罪を求めます!」

 

すかさずめぐみんが言ってくれた。捕まった時は割と薄情だったのに今のめぐみんには真剣さが伝わってくる。

 

「そうよそうよ、何より領主や王城を狙ったって証拠がどこにあるのよ!」

 

「証拠も何も、実際に被害が出ている」

 

「だ、だからそれは不幸な事故だって…」

 

「その不幸な事故を装って今回の事件を起こした可能性もあるだろう?」

 

黙って聞いていればさっきからずっと話は平行線のままだ。大体疑いばかりでそれらに証拠がないのはどちらも同じだろうが。

 

「大体、カズマは国家転覆罪なんて起こせるような人間ではない」

 

「そうよ、ヘタレのカズマさんをなめないでよね!根拠を持ってきなさいよ!」

 

一体こいつらはどっちの味方なんだと俺はただ問い詰めたかった。なんで味方のはずの人の言葉で俺はいちいちダメージ受けてるんだ?

 

「根拠か…いいでしょう。サトウカズマのパーティはほぼ毎日のようにアクセル近隣に爆裂魔法を放ち地形や生態系を変えるだけでなく、建造物までも破壊」

 

「うぐっ」

 

あ、めぐみん詰んだ。ていうかそれ俺じゃなくてめぐみんだろうがとツッコミたいがサトウカズマのパーティとなってるから俺が責任を負うことになるのな。もう爆裂散歩はさせないと心に誓ったのは言うまでもない。

 

「更にデストロイヤー戦にて、サトウカズマはアンデッドのスキル、ドレインタッチを使ったと報告もある。これは魔王軍と繋がりがある証拠にもなる!」

 

くそっ…痛い所を突いてくる。ドレインタッチはウィズから教えてもらい取得したスキルだ、だからこの件に関しては誤魔化しが効かない。黙秘権を行使するしか俺に手はなかった。

 

「ひとつ、よろしいでしょうか?」

 

「君は確か蒼の賢者の……質問を許可する」

 

「目の前に嘘を見抜く魔道具があります、ですからそこにカズマ君がテロリストでも魔王軍の手先でもない、と証言したら良いのではないでしょうか?」

 

ナイスだアリス!ずっと黙っていたから不安になったが、それはチャンスを待っていたんだな!俺はアリスが言うと同時に、この裁判会場の誰にでも聞こえるように声高々と発した。

 

俺はテロリストでも、魔王軍の手先でもない!!

 

その瞬間、ベルは鳴らず…裁判会場は静寂に包まれた。大体…この発言はこの裁判の前に既に言っているんだけどな。

 

「そ、そんな!?」

 

検察官のセナが驚愕の表情を浮かべている。一気にいい流れになってきた。このまま俺の無実を証明できれば…!

 

…そう思って…思い出す。それは俺が尋問の時にやらかしたポカ。あれは…どう説明すればいい!?ここまで来てウィズを売る訳にも行かない…。これがうまく誤魔化せなければ、俺は…

 

「ふむ…これでは証拠として不充分ですな…被告人サトウカズマは無罪…」

 

そんな俺の心配をよそに裁判長は俺に無罪をくだそうとしていた。だけどずっと黙ってたこの領主が不敵に笑ってやがる。

 

「ダメだ。こいつは有罪だ」

 

案の定アルダープから待ったの声がかかる。裁判長はそのまま動きを止めて震えるようにアルダープの顔色を伺っている。…くそっ、なんだよこれ!?こんなのが許されていいわけがねぇ!

 

「ワシとしても全うな理由はあるのだよ」

 

アルダープはそう言うなり検察官のセナに目配せした。それを見てハッとしたかと思えば、セナは水を得た魚のようにはするどい視線を取り戻していた。

 

「…そうでしたね、ではサトウカズマ。被告人は魔王軍の幹部と関わったことがあるとされている、これについてはどう言い訳する?」

 

周囲がざわめく。無理もない、ウィズが魔王軍の幹部であることを知っているのは俺たちのパーティメンバーだけだ。そしてウィズのことをバラす訳にもいかない。これが説明できなければ…俺は国家転覆罪とやらからは逃れられても魔王軍幹部と交流があると別の罪をかぶせられかねない。

 

「それなら私が説明しますね」

 

その声はアリスだ。俺は思わず彼女を睨むように見てしまった。いや俺だけじゃない、アクアやダクネス、めぐみんも慌てているように見える。まさかアリスは…ウィズのことをバラすつもりなのか!?

 

「魔王軍の幹部と関わったことがあるか、ですよね?…それならカズマ君だけじゃなく、私もありますよ?」

 

更に周囲がざわめいた。アリス、お前は何を言ってるんだ?今だけは理解ができない。これじゃウィズのことをバラさなかったら俺だけじゃなくてアリスだって捕まってしまう可能性が高いのに…。

 

「…貴様、どういうことだ?」

 

ガチャガチャと音が聞こえる。地面に足鎧がぶつかる独特の音だ。アリスの発言で兵士の人達が確保の為に動き出したのか?どうするつもりだよ…!?

そんな俺の想いは間違いなく絶望に向いていた。

 

 

 

 

 

「それは関わったこと(・・・・・・)ならありますよ?魔王軍の幹部ベルディアとの戦闘という意味で、ですけど」

 

 

 

さぁっっと血の気が引くのを感じた。言われてみれば確かにそうだ。関わるという意味ならベルディアとの戦闘も間違ってはいない。だけどそれは屁理屈に聞こえなくもない。そう聞こえないようにする為なのか、アリスは口を止めない。

 

「そもそもカズマ君は先程テロリストでも魔王軍の手先でもないと既に証明していますし、それで説明はつきますよ」

 

「…で、では、ドレインタッチはどう説明するつもりだ?」

 

「…そんなの簡単じゃないですか、魔物のドレインタッチを見て覚えた。そうですよね?カズマ君」

 

…言い方は悪いが確かにリッチーであるウィズは魔物だ。それにアリスの質問は必要最低限にしているからこれなら俺でも答えられる。…俺はその質問に間髪入れずに返事をした。当然、ベルは鳴らない。

 

「だそうですよ?戦った魔物からスキルを得るのは職業である冒険者としては一般的なことだと思いますけど」

 

そして俺が返事をした後に詳細を加える。これもうまい。戦った魔物からと質問に入れられてたらベルは間違いなく鳴っていた。ここで大事なのはあくまでその対象である魔物と敵対であることを示せたことだ。ドレインタッチを取得してることが問題じゃなくてそれを親密に教えてもらったことが問題になるからな。この方法もこれだけなら指摘される可能性があった。だけど最初に俺はテロリストでも魔王軍の手先でもないと公言して真実であることが確定している、その力は強い。

 

その瞬間、手札がなくなったセナはその場で崩れ落ちた。完全にこちらの勝ちだ…!

 

「ふんっ…冒険者風情がいい気になりおって…まだ終わってはおらんぞ」

 

ちっ…俺は目立たない程度に舌打ちした。どうやらここまでなってもこのアルダープは諦めていないらしい。

 

「あぁ、認めよう。確かにここまで来たらお前に国家転覆罪は適応されない…だが…」

 

アルダープがしゃべると同時にまた静寂に包まれる。これ以上何があるのか分からないが国家転覆罪はないと認めたんだから少なくとも死罪とかにはならないだろう。

 

「それでもワシの屋敷を破壊した賠償請求はできるのだよ」

 

「それは必要ありません」

 

「…っ!?」

 

アルダープの言葉を遮るようにアリスが発言した。なんか気が付いたらドヤ顔してて可愛かった。

 

「爆破された際に発生したコロナタイトの欠片…あれらは全て貴方が回収してますよね?あれの価値でしたら屋敷の分はなんとかなると私は聞いていますが?」

 

「ぐっぐぐっ…どこでそんな事を…」

 

「シンフォニア卿からですけど」

 

「…っ!?」

 

 

何故かアルダープはもはや何も言い返せないのか悔しそうに歯噛みしているだけでいた。シンフォニア卿ってのが誰だか知らないけど。それを見たダクネスは畳み掛けるように声を発した。

 

「弁護人として発言する、今の証言を纏めよう。確かにカズマはランダムテレポートという博打によりアルダープ殿の屋敷を爆破する結果となった。だがそれをしなければアクセルの街は悲惨な末路になっていただろう、そしてその屋敷の賠償については送り込まれたコロナタイトという形で補填がとれている。屋敷が爆破されたという精神的被害はあるものの、彼はアクセルの街の領主だ、まさかそれを許さないとは言うまい。更にカズマについては今までの供述で魔王軍と無関係であることは証明されている…これ以上、カズマに罪を咎める者がこの中にいるのだろうか?」

 

長々と続くダクネスの演説に、一時沈黙するが、次第に傍聴席のあちらこちらから擁護の声が木霊した。元より皆根っからの気持ちは同じだったようで、この状況に異を唱える人はいなかった。それは検察官のセナ、そしてアルダープは…狼狽えた様子で何かをうわ言のように呟いていた。

 

「…これは…どうなっている…何故だ……マクスは何をしている…!?」

 

微かながらの声だったし傍聴席が騒がしかったが、俺はアルダープの言葉を確かに聞いた。マクス?一体なんの事だ?

それについてはさっぱりわからないしそれよりも…どうやらまた借金生活になるのかと思いきや、これすらもアリスに救われたようだ。周囲の視線はほぼ全て裁判長に集まっていた。呆然としていた裁判長は咳払いをして…

 

「…被告人サトウカズマは無罪とする」

 

その一言で、まるで祭りが始まったかのような大歓声が裁判会場を包み込んだ。…俺は自然とその場でガッツポーズを決めていた。

 

 

 

…は、いいのだが。

 

勝訴が決まった瞬間、俺のパーティメンバーの3人は全員がアリスの方に駆け寄り、勝利を喜んでいた。

 

アクアは抱擁して、めぐみんはハイタッチして、ダクネスは珍しく凛々しい顔で握手していた、いやそりゃアリスのおかげなのは認めるけどもう少し俺にも何かあってよくないか??むしろそこ俺のポジションじゃないか??

 

そして傍聴席からのアリスコール。あれ?俺は??

 

 

 

…ふっ。

 

 

 

 

 

……ちきしょー!!!!

 

 

 

 

そんな俺の叫びは、誰にも聞こえていなかった…。

 

 

 

 

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