裁判の日の前日、私はなんとかカズマ君の無罪を証明したくて様々なことを調べたものの、それは完全に手詰まりだった。
刑務所からの帰り道、私はダクネスにカズマ君の言っていたことを聞いてみた…が、ダクネスからは「私から言える事じゃないから話をしておく」と言われた。どうやら思ったより深刻な問題のようだ。
カズマ君にはベルディア以外の魔王軍の幹部と面識がある。そして勿論それは表側には出せない。更に言えばダクネスと私の2人だけでも話しにくく、許可を得る必要がある。つまり…
その魔王軍の幹部は意外と身近に存在していて普段はその正体を隠している。
カズマ君のパーティは基本アクセルの街にいるのでまさかアクセルの街にいる…?と考えるものの、流石に魔王軍の幹部ともなればおそらく人間ではない。そんな人がアクセルの街にいただろうか?今のところ人外は女神アクア様くらいしか思い浮かばなかった。まさかアクア様が魔王軍幹部な訳がないし本人に言ったらめちゃくちゃ怒られそうだ。
もう1つヒントが舞い降りた。カズマ君が言えないということはその魔王軍の幹部を庇っている。つまりその魔王軍の幹部は友好的な存在。
魔王軍の幹部ということは勿論強いはず。…整理しよう。
カズマ君達と友好的で、強い力を持つ。これがどちらも当てはまる人は…
ダクネスは引き続き今日もカズマ君を救う為に情報を集めるというので私はダクネスと別れた後に魔道具店を訪れていた。…ウィズ魔道具店と看板があり、今は真昼間だけど営業はしていないようだ。状況が状況だし仕方ない。…そう思いながらも扉をノックしてみる。
コンコン…
すると中から僅かながらに足音が聞こえる。ゆっくりとした足取りで、こちらに近付くなりその扉が開かれ、カウベルがチリンチリンと鳴る。
だけど出てきたのはウィズさんでは無かった。長身で黒いタキシードを着ていて…黒髪に顔には白と黒の仮面をつけている人。多分男性かと思われる。
「む?すまないが今は休業中でな、あいにくポンコツ店主は留守なのだ」
ウィズさんはいないらしい。そう思うと肩を落として帰ろうとして…すぐに足を止める。
…いやこの人誰?が最初の反応だった。ウィズさんのお店はアクセルに居た頃はそこそこ通っていた。今持っているフレアタイトの魔晶石はもちろん、ここには良質なマナポーションなどもあるのでよく買っていたのだ。それ以外は触りすらしなかったけど。まぁ軽く常連だったけど今私の前にいる人は見たことが無かった。ポンコツ店主呼ばわりはウィズさんには悪いけど否定はしない。
「吾輩か?吾輩は見通す悪魔のバニル、ポンコツ店主の友人のようなものだ」
…私の目は点になった。
当たり前のように悪魔とか言ってるんですけどどういうこと!?今のところ敵意みたいのは感じないけどどう考えても駆け出し冒険者の街でエンカウントしていい存在じゃないよね!?しかもバニルって言ったこの人!?バニルってあの魔王軍幹部のバニルさん!?確定じゃないですか!?その友人ってことはウィズさん魔王軍の幹部確定じゃないですか!?
以前にも言った気がするけど魔王軍とその幹部については私なりに調べたことがある。バニルは討伐報酬2億エリスくらいの賞金首だったはずだ。自称魔王より強いかもしれない見通す悪魔のバニル。恥辱やらの感情が好物で比較的害はないらしい。…私が知っているのはその程度のことだった。
「…ふむ…なるほどな」
私が呆然としていたらバニルは私をじっと見つめている。害はないとあっても魔王軍の幹部だ、私は自然と警戒するように身体に力をいれていた。背中の杖はいつでも取り出せるようにして見つめ返すようにバニルを見ていた。
「そう警戒するな、蒼の賢者と呼ばれしアークプリーストの少女よ。まずは中に入るがいい」
一方のバニルは本当に敵意がないのか、こちらの警戒体制をあっけらかんと流して扉を開ききるとそのまま店内に入ってしまった。
見通す悪魔というのは本当なのだろう。何も言ってないのに私を蒼の賢者と呼ぶ辺りは。私は警戒を解かないまま、ゆっくりと店内に入ることにした。
……
店内に入ると右手にはテーブルと椅子があり、バニルは茶を淹れるので待っていろと告げると店奥に入っていってしまった。…正直困惑しかしていなかったがとりあえずテーブルの傍にある椅子にちょこんと腰掛ける。見慣れた店内なのにやけに重苦しいのは自身の心情の問題だろう、はっきり言えば腰掛けたにも関わらずまったく落ち着く事ができない。
「ちっ、あのポンコツ店主め、ロクな茶葉を置いてないな…すまぬな、文字通り粗茶であるが飲むがいい」
テーブルに丁寧に置かれるティーカップ。中身は紅茶のようだ。どうでもいいけどなんで私はこんなにもてなされているのだろう?
「それは丁重にもてなさなければなるまい?何せこんな店に300万エリスもの大金を落としていくようなお得意様だ」
300万エリス…それは今も私が持つフレアタイトの魔晶石のことだろう。とことん見通されている。私は少し警戒を解き、出された紅茶をゆっくりと口に含む。どうやら言葉に一切嘘はないらしい。その紅茶は安物の茶葉なのかわからないけど私好みの味に感じた。これも見通したのでしょうか?
「それで、汝はポンコツ店主に何の用があってここに来たのだ?」
あ、そこは見通してくれないですか。…とはいえ私はなんとなくここに来たものの、ウィズさんに対してどうするつもりだったのだろう。ウィズさんは魔王軍の幹部なんですか?とかまさか聞ける訳もない。…いやカズマ君達と普通に交流しているところを見る限りはカズマ君の名前を出せば割とあっさりネタばらししてくれそうな気もするけど。…私は何となく寄ってみただけです、と返すも、バニルは妙に興味ありそうに私を見ている。
「なるほどな、汝は今絶望しているようだ、もっともそれは吾輩の好みの悪感情ではないがな…そんな汝に助言をくれてやろう」
今度は見通したのですかね。なんだか対応が面倒臭いなぁとは思いつつも絶望していた自覚はある。はてさて助言とはなんなのだろうか?私は目をパチクリさせながら聞いてみた。
「無いものは作ればいい、言葉で遊べ、攻めたなら緩めるな…以上だ」
私はキョトンとしか出来なかった。まったく意味がわからない。ふと顎に手を置き考えるそぶりをみせて私は思い悩む。全てを明日の裁判に当ててみると…
無いもの…?私に今無いものはカズマ君を救えるもの…。それがないなら作る…?
言葉で遊ぶ…?…つまりは言い回し方で優位に立てばいい…?
攻めたなら緩めるな…?作ったもの、言葉で遊んだもの、所詮どちらもハリボテでしかない。だからそれらが瓦解する前に攻めたてる……!?
まるで脳内にあるパズルのピースが思い思いのままに繋がっていくような感覚が私の中に確かに存在した。途端に思考がクリアになる。…まだ具体的な考えは構築されていない。だけど私の中には確かに明日の裁判の方程式が刻まれていた。
「ほう、頭の回転がはやいではないか。礼など要らぬ、元々は吾輩の友人を庇っている面もあるようだからな、ならば友人として手を貸しただけに過ぎぬ」
なんなんだろうこの悪魔さん。普通に良い人にしか見えないのだけど。悪魔じゃなくて天使じゃないだろうか?何よりも大分気持ちが楽になった。ここに来てよかったと思えた瞬間でもある。
「それはそうと毎晩寝る前に胸をマッサージして大きくしたいと望む少女よ、見通したところ、効果はほとんどないからやめておくことをオススメするぞ?……これはこれは大変美味な悪感情、ご馳走様である♪」
なんなんだろうこの悪魔。普通にセクハラにしか感じないんだけど。悪魔ってレベルじゃないくらい悪魔なんですけど。何よりも羞恥心でいっぱいで顔を上げられないんですけど。ここに来るんじゃなかったと嘆いた瞬間でもある。
ゆんゆんでさえ知らないはずの秘密をあっさり暴かれ、日頃の努力と未来への希望を同時に無くした私は赤裸々顔なまま何も言えないで、この場を立ち去ることにしたのだった。
…というか身近の子が大きすぎるのですよ!?しかも歳下であれで更に最近また大きくなったとか聞いた時には裏の感情が暴走モード突入待ったナシ状態でしたよ!剣と魔法の世界なら胸を大きくする魔法くらいあってよちくせう!
店を出た後の私の内心の嘆きに呼応するように、ウィズ魔法店からフハハハハハハととても嬉しそうな笑い声が聞こえた気がしたのは多分幻聴ではないのだろう。私あの人嫌いかも。人じゃなくて悪魔でした。
そんな感情しか持てなかったけれど、彼の助言のおかげでカズマ君は次の日、完全勝訴という形で救われることになるのでした。