「嫌だよ!?俺は行かないからな!ようやく裁判から解放されてなんでまたすぐに魔王軍幹部となんか戦わなきゃいけないんだよ!?」
屋敷に戻ると全員集まっていたので私とめぐみんが見た手紙を皆に見せると真っ先にカズマ君のこれが飛んできた。気持ちはわからなくもないけど行かないなら行かないで面倒なことになるからできれば来て欲しいのだけど。
「まったく往生際の悪い男ですね、そもそも私達のパーティの最終目標は魔王討伐でしょう?ならこれは避けられないもののはずですが」
「ボスイベントの間隔が短すぎるんだよ!これがソシャゲなら運営に抗議してるレベルだぞ!?」
「カズマはたまに本当に訳の分からない事を言うな…、だがトラップもあるダンジョンとなるとカズマは来てくれないとパーティとしては困りものだ」
「お前は俺が罠感知したら解除する前に飛び込んで行くだろうが!!どっちが困りものだよ!?このドM!!」
「ば、馬鹿な事を言うな!あれは偶然…そう、本当に偶然運が悪く引っかかってしまっただけだ!大体私がドMなどと…んっ…」
「……今興奮したろ?」
「こ、こここここ興奮してなどいない!!」
ご覧の有様である。ただダクネスが言うようにこの中で罠感知を持っているのはカズマ君だけだしこちらとしても来て欲しいのは事実。クリスに頼むのも悪くないけど彼女はこの件は無関係だしそもそも彼女は神出鬼没だからなかなか出会えない。
「まったくこれだから引きニートは、悪魔がこの女神である私に喧嘩売ってきてるのよ?行くに決まってんじゃないの!」
「…いや、仮に行くとしてもお前は留守番な?あと引きニートってのをやめろ?」
「はぁ!?なんでよ!?この優秀なアークプリーストである私が行かなくてどうするつもりよ!!」
「お前が来たらダンジョン中のアンデッドが群がって襲ってくるじゃねぇか!!それにアークプリーストならそこにお前より飛び抜けて優秀なアリスがいるからお前はいらん」
「……っ!?ちょっとなんでそんなこと言うのよ!?私いつも頑張ってるのよ!?謝って!!謝ってよ…うわぁぁぁん!!ゆんゆんーー!カズマがひどいのぉぉぉぉ」
まずアクア様より飛び抜けて優秀とか有り得ないので勘弁して頂きたい。一方アクアに泣きつかれたゆんゆんは何故か動揺しながら私を見ていた。…何が言いたいのだろうか?
「……いやその…そういえばアリスってアークプリーストだったんだなぁ…って」
「言われてみればそうですね、基本アリスは攻撃魔法主体ですから忘れてました、何故アークプリーストなんです?」
ぐさりと突き刺さるものを感じた瞬間だった、完全に飛び火である。まさかのゆんゆんの裏切りに全私が泣いた。何故と聞かれても攻撃スキルは最初からあったから支援回復魔法を使えるようになりたくてアークプリーストになったとしか言えない。それにカズマ君達と組んだ時は私なんかより優秀なアークプリースト様がいるので攻撃に専念しているだけなのだから。
《セイクリッド・ハイネス・ヒール》
眩いエメラルドグリーンの光が部屋の中の全員を包み込むと、皆を癒すように瞬き続ける。
「…なんで使ったの?」
「あ、さっきタンスにぶつけた足の小指の痛みがひいた」
なんでと言われてもゆんゆんが忘れているようだから思い出させようと使ってみただけである。なんならもう一度使っても構わない。呪われているならセイクリッド・ブレイクスペルでもいいくらいだ。そしてカズマ君よかったね。あれ地味に痛いもんね。
「えっと…その、ごめん…いやいらないから!?私どこも怪我してないから!?」
私はゆんゆんにひたすらヒールを連打した。きっと脳細胞が傷ついて忘れているに違いない。治してあげなくては。おっと逃げた、追いかけなければ。
「何これ!?別に痛くないのになんか怖い!?アリスはアークプリーストだから!立派なアークプリーストだからぁぁ!!」
「…ヒールを使って追いかけ回すとは新しいですね…」
「…何気に彼女もアークプリーストであることを誇りに思っているのだろう、だがもし私にやる時は攻撃スキルで頼むぞ」
呆れ顔で言うめぐみんと穏やかな真顔で言うダクネスだけど…いや真顔で言われてもやりませんよ!?いい加減少しは自重を覚えて欲しい。というか出会う度に遠慮がなくなってて次に会うのに恐怖すら感じるまである。あ、既に一緒に住んでるからいつでも会えますね♪…やだぁぁ!?
「…
「いえ、そもそもカズマがきっかけですからね?無自覚なんです?馬鹿なんです?あぁ、馬鹿でしたね」
「うるせーよ!?」
本当に話が進まないとため息をつきたかったが気が付けば私もその原因の一端を担ってたことに気づくとやっぱりため息をついた。はやくもこのパーティのペースに引き込まれているけど…なんだかんだ楽しいからいいやとも思えてしまった。
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翌日の早朝。散々駄々をこねたカズマ君だったけどなんとか行くことにこじつける事ができた。とはいえ私とゆんゆんは今王都にいる。ゆんゆんのテレポートで飛んだからだ。何故ならば今日は週に1度のアイリスと遊ぶ日。よってバニルの挑戦は明日以降に持ち越しである。なお今回は同道する人がもう1人いた。
「…やはりテレポートは便利だな。しかし…本当に…本当にアイリス様の護衛をしているのか…?」
ダクネスだった。昨日ゆんゆんがつい口を滑らせたことでダクネスは飲んでいた紅茶を盛大に吹き出しめぐみんに直撃して何故かめぐみんがゆんゆんを追いかけ回すという惨劇が起こったりしてダクネスの正体を知っている私はそのきっかけを1から説明することにしたのだ。まぁクレアさんと同格の貴族なら心配するのもわかる、実際もう何度もアイリスを送り出しているクレアさんも毎度のことのように心配そうにしているし。
「あまり護衛とまで意識してないのが本音かもしれないです…最初はそうだったんですが、その…アイリスちゃんも護衛を意識していると勘づいちゃうのか気を使わせちゃうんですよね…」
ちなみに私は最初から100%遊ぶ気でしかなく護衛なんて全く意識していない。普通に遊んでいるだけである。そもそもこれは依頼ではあったものの依頼ではない。お仕事ではない。つまりお休みなのだ、お友達と遊ぶだけなのだ。勿論何かが起こればお友達として助けるのは当然のことでもあるしそれで何度も問題なく過ごせているので今にもダクネスが胃に穴が空きそうな顔をしているのが理解できない。
「…いや確かにわかる、お前達の言うことも一理ある、だが忘れないでくれ…アイリス様はこの国の第一王女なんだぞ…?万が一でも何かあれば国が傾く事態になりかねないしそうなればお前達も当然無事ではすまないのだぞ…?」
完全に見解の相違である。確かにダクネスの言うこともわからなくはない。だけど仮にアイリスに何かあった際に1番に国がどうとか私達がどうとか出てくるのは遺憾でもある。まずはアイリス本人が大事に決まっているのだから。いくら第一王女と言えどそれ以前にアイリスは1人の人間なのだから。身分、境遇云々よりもまずは1人の人間アイリスを大事にしたいという考えは理解してもらえないのだろうか?
「…悪いが理解することはできないな。それは私とアリスの境遇の違いだろう。間違っているとまでは言わないがこの際2番目でもいい、私の言う事も取り入れてくれ…。それに誤解をして欲しくないのだが私とてアイリス様本人も大事に思っている」
…どうやら熱くなりすぎたのかもしれない。気が付いたらダクネスと言い争っているかのような雰囲気になってしまった。ゆんゆんは何も言えず心配そうに私とダクネスの様子を伺っていた。
思えば何故こうも言い合っていたのか自分でもわからなくなってしまった。何故ダクネスがアイリス本人を蔑ろにしている前提になってしまっていたのだろうか?そう思ったら私は慌てるように謝罪していた。
「あ、あの、どちらもアイリスちゃんを大事に思ってる事は変わらないと思うから、だからその…」
「…そうだな、私としても少し熱がはいってしまったようだ。この空気のままアイリス様に会うわけにもいかないしな…こちらこそすまなかった」
とりあえずクールダウンする為にもアイスクリームでも食べていくとしよう。
ウィズさんの時といい、最近の私はどこかおかしい気がする。…昔の私ならこう面と向かって誰かに自分の想いをぶつけるなんてまずできなかったし考えられない。裁判の時だってそうだ。いくらカズマ君の為と必死になっていたとしてもあんな大勢の前で喋れるようなメンタルはなかったはずなのだが。
……多分理由はゆんゆんかもしれない。
基本的に私もゆんゆんもどちらも元々は引っ込み思案な側だ。だけどどちらもそれだと何も進まず、なんとかするしかないと必死に足掻いて…、私なんかの為に王都まで着いてきてくれたゆんゆんの為に頑張りたくて、それが1番現れたのは多分アイリスと出会って誘拐疑惑で捕まった時だろう。
そんなゆんゆんもまた、私に頼ってばかりではいけないと思ったのか、少しずつ自分を前に出すようになったと思う。
私達は王都に来て1ヶ月と少ししか経っていなかったけど、それでも確かに大きく変われていたようだ。
今の私なら、きっと大丈夫。迫る魔王軍幹部との戦いとなるけど、今の私なら頑張れる。ベルディアの時のような苦悩はもう味わいたくない。
絶対に皆を守ってみせると、心からそう思えた――
……
少し寄り道して落ち着いた私達は、改めて王城に到着。すると憲兵の方々はダクネスを見るなり姿勢を正してビシッと敬礼した。これには私はともかくゆんゆんはびっくりである。
おろおろしているゆんゆんはさておき、城の中に入ると待ち構えていたようにすぐにアイリスが飛び出してきた。
「お待ちしてました!さぁ行きま……ララティーナ!?」
「ご無沙汰してます、アイリス様。今日はこの2人に同道しまして、私も共に行こうかと思い馳せ参じました」
その場で姿勢を下ろし丁寧に告げるダクネスを見て思った。誰だこの人はと。常にこうあれば尊敬できる騎士であり貴族様なのに。何故ドM属性なんて追加してしまったんだと思っても仕方ない。
それはそれとして私は違和感を感じていた。それは今のアイリスの格好にだ。当然外出するのでお城で召されている純白のドレスではないが以前の青を基調とした服装でもない。
「これですか?皆さんは冒険者なのですよね?でしたら私もそのようなスタイルでいた方が自然と思いまして♪」
とても楽しそうにアイリスは自身の纏う衣装を見せつける。それはカチューシャに動きやすそうな軽鎧風の服、足鎧までついて腰にはどう見ても普通じゃない剣が携えていた。
……そのまま冒険に出てもおかしくないスタイルだった。
何故か分からないが嫌な予感がしたのは…きっと目の前のダクネスも私の隣のゆんゆんも同じだろうな、と自然に思った。