どうでもいい話ですがSimejiという変換アプリをいれてまして、今ゆんゆんって入れたらキーボード上にゆんゆんがいっぱい降ってきて思わず吹きました()
王城正門前。
夕闇が夜へと変わりそうになり、太陽と月が同時に端々に顔を見せている。正門前には2人の守衛がいるだけで他には誰も見当たらない。
そんな静かな場所に、突然出現した4人に守衛は驚き警戒する。だがその姿を見るなり問題ないと判断すれば今までより姿勢を正し敬礼をしている。
問題ないと判断されたのは当然ゆんゆんがテレポート登録をしているのを知っているからだ。本来一介の冒険者が王城の傍にテレポート登録するなど許されるはずがないのだがゆんゆんは特例である。何よりアイリスの安全の為の処置なのだからとクレアが勧めたほどなのだから。
敬礼する守衛に返礼し、門をくぐり扉の前の誰もいない場所でゆんゆんは申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
「ごめんなさいっ!私がもっと早くテレポートを使っていたら…!」
泣きそうな顔と声で言うゆんゆんだけどこの中に責め立てる者は誰もいない。三人からしてみれば当然である、ゆんゆんのおかげでこうして逃げることが出来たのだから。
「ゆんゆん、サイレントが来たのはこちらも予想外でしたし仕方ありません、私としては今回はいい教訓になりましたよ、それにダクネスもいてくれて助かりました」
「そうですよゆんゆんさん、今ここにいるのはゆんゆんさんのお陰です」
今回の件は本当に運が良かったとしか言えない。…おそらく単純にあの8人を倒すだけで終わるのであればそれはアイリスだけでも可能かもしれない。だがアイリスはあくまで護衛対象なのだ、先程はゆんゆんを守る為に動いてくれたがそれすらも運が良い。今回のアイリスは偶然にも武装していたのだから。
アイリスが武装してなければ、ダクネスが居なかったら、魔法が使えずほぼ無抵抗な2人では多勢に無勢、まず間違いなくアリスとアイリスは連れ去られていて更に誘拐対象ではないゆんゆんは下手をしたら殺されていてもおかしくはない。
アリスとしてもいい教訓で済ませられるような問題ではないと理解はしていた。だけど本心でもあるし、こうして全員無事でいられたのなら次に活かすことが出来るのだから。何よりもアイリスが言うようにテレポートを持つゆんゆんがいなければどうなっていたかわからないのだから。
「アイリス様…」
突如ダクネスはその場で片膝をつき頭を下げる。凛々しくもありそれは騎士として慣れた動きながら丁寧であり夕日に染まるその姿は絵画のようにも見えた。
「此度は私の友人、ゆんゆんを救っていただき誠にありがとうございました…同時にアイリス様に剣を抜かせた償いは…必ず…」
「顔を上げてください、ララティーナ」
対するアイリスもまた、風貌は騎士のようにありながらその眼差しと声は慈愛に満ちていた。ゆっくりとダクネスに近づき、そしてその肩に自らの手を置く。
「いいですか?ゆんゆんさんは私にとっても大切なお友達なのです、ですからそれに対して何かを言う必要はありません」
「…アイリス様?」
ダクネスは違和感を感じた。目の前のアイリス王女が誰かと被って見えたのだ。そしてその被って見えたのは誰なのか、ダクネスはすぐに理解し、思考を巡らせて…戦慄した。もはや2人にお友達と言われてめちゃくちゃ嬉しそうにしているゆんゆんなど眼中にすら無い。
「お友達は助け合うものです、そのお友達のピンチを救うのは至極当然なのですよ?私、お友達を助ける為なら…なんだってします!」
…
…当時2人に護衛を任せたクレアは安堵していた。アリスとゆんゆんの人柄からまずアイリスに悪影響を及ぼすことはないだろうと。
そしてそれはダクネスとて同じだった。身の回りの…自分のパーティメンバーに比べたら余程の常識人。問題など全くない。その考えが問題だったと気が付いてしまった。まず比較対象がある意味レベルが高すぎた。
アリスとゆんゆんに感化されたアイリスは、何よりもお友達を大切にする。したいと思う、そう感化された。…一般的な思考であればそれは悪い事でもないが一国の王女の思考としては…はっきり言ってしまえば非常に宜しくない。
…もしもアリスやゆんゆんが死んでしまったら…アイリスは悲しみ、その原因に憤怒するだろう。
…例えるなら三國志。樊城の戦いで関羽や張飛を失なった蜀の優しき盟主劉備は義兄弟を失った悲しみと憤怒で復讐鬼へと変貌してしまった。その義兄弟を大切に思う優しき心が故に。
ダクネスは三國志など知る由もないが、それに似たような未来を想像してしまった、友人という一個人の為に国が動く訳にはいかないのだ。
…今ならまだ間に合う。自身の考えすぎかもしれない、確かに友人を大切に思う気持ちは素晴らしいものだ、だが何事も行き過ぎてはいけない。
ダクネスは決意した。なんとか自分の手でアイリスの方向性を正してみせようと…。
……
王城に入るとすぐにクレアが出迎えた。そしてアイリスの姿や他の3人の疲労した様子から尋常ではないことを察したクレアは険しい顔つきになっていた。今回の襲撃は報告せざるを得ない、それだけ大きな問題だ。何故あのような場所に行ったのか、分からないこともある。
「以上が、今日起こったことの全てになります…」
応接間に通された3人はクレアに全てを説明した。
アイリスの姿は3人の冒険者姿に馴染む為にアイリスが自ら着ていたことから、先程起こった賊の誘拐狙いの襲撃まで。話を全て聞いたクレアだがそれでも険しい顔つきは変わらなかった。
「…ダスティネス卿には迷惑をかけて申し訳ない…。それで気になることがある、何故沈黙の効果が切れて即座に撤退した?諸君らの腕なら生け捕りにして口を割らせることもできたのではないか?」
それは確かにできないことは無かった。魔法さえ問題なく使えればアリスかゆんゆんどちらかがいただけでも負ける事はなかっただろう。
「…全てはアイリスの身の安全の為です」
「ほう…?」
「確かに不可能ではなかったと思います。ですがあの場では不確定要素が多すぎました。敵はあの8人だけだったのか?もしかしたら増援が来たかもしれません。サイレントの魔道具をまた使われる可能性もありました、ですので何よりもアイリスの身を1番に考えた結果です」
アリスは淡々とながら正直に話した。それをクレアは納得するように頷きながら聞いていた、クレアとしては満足の行く答えだったようだ。何よりもこれはゆんゆんと事前に打ち合わせしていた結果なのだ。だからこそアリスのウォールに合わせるようにゆんゆんはテレポートをスムーズに行えた。
「そうか…話はわかった。…それで心苦しいのだが…この件が明るみに出るまではアイリス様の外出の件は今後禁止とする」
「…っ!」
横から聞いていたアイリスはとても残念そうに落ち込んでいたがこうなってしまえばやむを得ないだろう。あの賊は誰かから雇われているように感じたことから黒幕がいる。その黒幕が見つからない限りはどうにもならないしアイリスが危険に晒されるのをクレア達がよしとするはずもないのだから。
そんなアイリスの表情にクレアは気まずそうにしていた。確かに外出はできないがせめて、と言葉を続けた。
「君達に頼みたいんだ。たまにで構わないから…この王城に、アイリス様に会いに来てくれないか?」
「も、もちろんです!」
即座にゆんゆんが反応し、アリスも頷く。それを聞いたアイリスからは暗かった表情が明るくなったように思える。アイリスにとってももはや外出云々よりお友達と会う事の方が楽しみになっていた。
そんな様子をダクネスは複雑な感情で見ていたが、クレアはそれを不思議に思うだけで特に気にする様子もなかった。
…
クレアやアイリスと別れ王城を出たアリスは考えていた。
不可解な事が多すぎると。
まず今回の襲撃について、賊の目的は何者かに指示されての金髪の子供の誘拐。この言い方はつまりアイリスのことを王女とは思っていない。そもそも王女誘拐を企むのならば率直にアイリス王女と教えればいい。
可能性としては今回の賊があくまで金髪の子供を誘拐するという名目で動いたことで、それが王女誘拐となれば賊が事の大きさに萎縮するかもしれないのであえて王女の事を伏せていたということも考えられる。
…だけどもしそうじゃないとしたら?金髪の子供がアリスの事の可能性は全くないのか?ただアリスが誘拐される理由も根拠も浮かばないしこの考えは推測でしかない。これをダクネスやクレアに話して捜査を混乱させる訳にもいかない。
それにアイリスがあの場所に誘導された方法も謎のままだ。アイリス自身があの場所まで行ったのは本意ではなかったのだから誘導されたのは間違いない。だがどうやって?この世界の魔法については詳しく調べたことのあるアリスだがそのような魔法は見た事も聞いた事もない。魔法のエキスパートである紅魔族のゆんゆんならば何か知っているだろうか?
「ゆんゆん、人の思考を操る魔法などはあるのですか?」
「……アイリスちゃんの件よね?…私も考えたけど精神誘導系統の魔法は全くない訳じゃないけど…今はほとんど現存しないはず…、それもかなり至近距離でやるならまだしもあんな周囲に誰もいない状況だと…」
ゆんゆんは思い出すように思考を巡らせるが現実的ではないらしい。専門外なダクネスはただ黙って聞いていたが自然と疑問を声に出した。
「例えばそれが人間ではないとしたらどうだ?」
「…っ!それなら可能性はあるけど…でもまさかそんな…」
「…その方面も考えた方がよさそうですね…」
つまり人為的な力から外れた存在が関与している可能性すらあるということになるその事実はゆんゆんとアリスを恐怖で震え上がらせた。それと同時にふと思い浮かぶ…人智を越えた力を持つ者、偶然にもその存在は身近にいて近々対峙する予定でもある。
魔王軍の幹部にして見通す悪魔のバニル。…勿論人智を越えた存在なら他にも同じく魔王軍の幹部であるリッチーのウィズ、あるいは水の女神アクアもいる。
だが形式的にこの事件は一国の王女が絡んだ事件だ、クレアにも当然他言無用と念を押されているのでアクアやウィズに安易に話していいことではない。だが見通す悪魔のバニルならこちらが言うまでもなくこの件は把握している可能性がある。ならばこの件を聞ける存在はアリスの周囲にはバニルしか浮かばなかった。
……
アリスにとって考える事も多かったがそれ以上に即座にやることができたアリスはゆんゆんとダクネスも連れて王都の魔道具のお店に来ていた。アリスやゆんゆんにとって沈黙の状態異常は今更ながら脅威であると認識したのだから善は急げ、それに対抗できる魔道具やアクセサリーを買う事に何も躊躇はない。…ウィズの店で買う事も考慮したアリスだったがアリスは知っていた、あの店にまともすぎるものはほとんど揃っていないことを。
「あるにはあったけど……高いね…」
そのアクセサリーは宝石でも売るかのようにガラスケースの中に飾られていた。沈黙耐性を50%増加させる指輪、お値段1000万エリス。
完全に対策できるならともかくこの効果で1000万エリスはちょっと手を出しにくいがどうやらこの世界では完全に状態異常対策をできるものは神器くらいしかないのだという。神器など滅多にお目にかかれる物ではないし今できる最大限の対策をするとなればアリスとしては買わない理由はどこにもなく、それを2つ購入してゆんゆんに片方を手渡そうとしていた。
「…アリス?まさかとは思うけど…」
「ゆんゆんの言いたい事は分かります、こんな高価すぎる物はもらえないとでも言うのでしょう?ですが私と今後もパーティを組むのでしたら受け取ってもらいますよ?これはゆんゆんへのプレゼントではなくパーティメンバーとしての装備品なのですから」
そんな様子をダクネスは気恥しそうに見ていた。確かにアリスの言う事は間違っていない、あの襲撃の際にこの指輪があれば確率にはなるがもっと安全に事を成せた可能性が高いのだから。…とはいえ同じ形の指輪は2人の仲の良さを見せつけるようにも見えるし見る人によってはそれ以上にも見えなくはない。ダクネスの気恥しさはそこからきていたしゆんゆんもそれに気付くと顔を赤くしていた。指輪というアクセサリーの持つ意味は日本でもこの世界でもあまり違いはないようだからそれは仕方の無いことだった。
「……えっと、それなら…借りるだけ、うん、借りるだけだからね!」
「…?よく分かりませんが装備してくださるならそれで構いませんよ?」
一方のアリスはそこまで考えていない様子でただ首を傾げていた。ゆんゆんはそれを指にはめるなりどことなく幸せそうにしていたのだがアリスがその意味を知ることはないままだった。