2日後の朝、カズマの屋敷にて。
居間のソファでぐったり寛ぐカズマ、その隣で黒い子猫をわちゃわちゃと撫でてるめぐみん、居間の隅にあるポーション棚ではアリスとゆんゆんが品定めをしている。そんな中居間に入って来たアクアは、ソファの後ろからポーション棚にいる2人を不思議そうに一瞥したと思えば、興味本位な様子のままソファに座るカズマに声を掛けた。
「ねえねえカズマさん」
「はいはいカズマさんです」
「あの2人どう思う?」
「……というと?」
アクアが疑問視した2人とは今まさにキールのダンジョンに向かう為の準備をしているアリスとゆんゆんである。一見ダンジョンに持っていく物の確認などを入念に行っているだけにも見える。
「いいですかカズマ」
「はいカズマです」
「分かりませんか?普段より距離が近いしあの指に光るものを見てください」
「言われてみれば……ってペアリング!?」
仲睦まじく会話するアリスとゆんゆんのそれぞれの左手の人差し指には小さな透明色の宝石が乗っていてそれを特殊な金属で包んでいるように見える指輪が見える。それは素人目から見ても高額であろうと思わせるものだった。それを見たカズマは小声ながら驚愕する。
「えっ?何?まさかあいつらってそういう関係!?女の子同士で!?」
「まぁ流石にそれはないのですが」
「えっ?違うの?めぐみんなんで分かるの??」
アクアは混乱するようにめぐみんの目に顔を向けるとめぐみんは無表情な様子で黒い子猫を片手で撫でながら2人の手に目を配った。
「いいですか?カズマが思っているような関係ならまず指輪をつける位置は左手の薬指になるはずです、ですが2人は左手の人差し指につけています」
「ふむふむ、言われてみればそうね、それでどう違うの?」
「左手の人差し指は積極性を引き出したり精神力を高める意味合いがあります、まぁ2人ともに性格や魔法使いなのを考慮したら妥当な位置につけてますね」
淡々と話すめぐみんだが若干不機嫌そうな様子にカズマは首を傾げる。そして妙な震えを起こしたと思えば黒い子猫はめぐみんから逃げるように離れていった。
「へぇー、それでめぐみんはなんでそんなにイライラしてんだ?」
「別にそういう訳ではありませんが何故かゆんゆんが幸せそうだと落ち着きません、爆発しろって思います。もう打ちますね?爆裂魔法」
「何でだよ!?どんだけ性根腐ってんだよ!?友達が幸せそうなら一緒に喜んでやれよ!?」
「なにおう!?カズマにだけは性根が腐ってるとか言われたくありません!」
徐に杖を掲げるめぐみんからスティールを使うまでもなく杖をぶんどるカズマ。冗談のように言うが本当にやりかねないのがめぐみんなので怒鳴りながらもカズマにとっては命懸けであるし、反論するめぐみんの意見もまたごもっともな話である。
「何してるのよめぐみんったら…」
「アクア様とめぐみんはダンジョン前でお留守番らしいですから…その鬱憤をカズマ君に晴らしているのでは…?」
一方2人はダンジョンに持っていくポーションなどを纏めていた。毒消しのポーションなどアリスやアクアが入れば必要はないが先日用意していなかった沈黙を回復できるポーションなども視野に入れていた。
状態異常を回復できるポーションがあるのならアクセサリーなどいらないのではないかと思われがちだが、この世界のポーションは基本的に相場が高い。傷を治すポーションでさえ万単位が当たり前。例えばウィズの店で売っていてアリスもよく買うマナポーションの効果は、微量の魔力を回復する程度にも関わらず3万エリスもする。そんな高価な物をクエストで順次使っていたら完全に赤字である。王都のクエストでプリーストが優遇される理由の1つにもなっている。
だが今回は魔王軍幹部であるバニルとの戦い、出し惜しみする訳にもいかないだろう。
今回のパーティメンバーはダクネス、カズマ、ゆんゆん、アリスの4人になった。
アクアはアンデッドを呼び寄せる体質故に、めぐみんに至っては爆裂魔法しか撃てず、ダンジョンの中で撃つ訳にもいかないので順当なメンツであるとも言える。
「カズマ、わかってますよね?必ずバニルとやらをダンジョン入口まで誘き出すのですよ?」
「わかってるよ、アクアもめぐみんも魔王軍幹部で悪魔が相手なら有効な攻撃手段があるからな」
当然この2人が真っ当な理由で納得するはずもないのでこのような手筈となっているのはカズマの口実によるものである、同時にカズマの日頃の苦労が伺えた瞬間でもある。
「おや?めぐみんのそばにいなくていいのですか?ちょむすけ」
「にゃー」
正座座りで鞄に荷物を詰めていたアリスの足の上にちょこんと黒い子猫ちょむすけが座り甘えるようにその愛らしい顔をアリスのお腹にすりすりとしていた。これにはアリスも癒されまくりである。そっとその頭を撫でると気持ち良さそうにつぶらな瞳を閉じ、されるがままになっていた。
「めぐみん、この子ください」
「駄目に決まってるでしょう!?大体ちょむすけを知ってから何回目ですかそれは!?」
「だってこの額の十字架とか私とお揃いじゃないですか、私の為にいるような子猫じゃないですか、この蝙蝠みたいな羽根が本当に猫なのか疑問ですが可愛いからセーフです、可愛いは正義です」
「どうでもいいですが一緒に住んでる限りはいつでもそうやって可愛がれるでしょう?それで我慢してください」
めぐみんの言葉にアリスは頬を膨らませながらもちょむすけを撫で続ける。
このちょむすけ、全身真っ黒の子猫の様相でありながら額には赤い十字架、更に背中には蝙蝠のような小さな羽根が生えているのでアリスとしては本当に猫なのか疑問でしかないのだが秋刀魚が畑で採れてキャベツが空を飛ぶ異世界なんだ、これくらいの誤差はあるだろうと深く考えることなく受け入れている。
「私はクロって名前にしたかったのに…」
「ちょむすけ可愛いじゃないですか、ただメスなので違和感はありますけど」
めぐみんのネーミングセンスはアリスにとって心擽られるものが多い。皆が微妙な顔をする中本気で可愛いと思っている。最近ではカズマが新調した刀の名前、ちゅんちゅん丸。これもまた心底カズマが嫌がるなかアリスだけは可愛いと褒めたたえていた。
ちなみに紅魔族の独特な名前ですらアリスは可愛らしいと思っている。兎に角可愛いものが大好きな一面はめぐみんとゆんゆん以外を微妙な顔にさせたのは言うまでもない。
そんな癒しの時間は終わりだと告げるように、新たに扉が開かれる。
「皆準備は終わっているか?そろそろ行こうと思うのだが…」
ダクネスが勢いのまま居間に入ると全員に目配せする。準備は終わりちょむすけと戯れてたアリスはそっと床にちょむすけを降ろすと立ち上がる。頷くことで返事とする。
ゆんゆんもまた準備は終わったとベルトポーチの紐を閉めた。そしてカズマはあまりやる気そうには見えないものの、ゆっくりソファから立ち上がるとふうと息を吐いた。
「それじゃアリス、ゆんゆん、今日は宜しくな。そっちのが高レベルだし、頼らせてもらうぜ」
「こちらこそ頼りにしてますよ、リーダー。期待してますからね♪」
「いやそれならリーダー譲るわ、最弱職に何期待してんだアリスは?」
「ご謙遜を、このパーティでカズマ君以外がリーダーなんて考えていないですよ」
アリスにそう言われるとカズマはそっと頬を掻く。アリスのからかい無しの純粋な気持ちが届いたようだ。半ば諦めたような顔をしたと思えば、それでもいつものクエストよりは幾分かマシだろうと確信がカズマにはあった。
何せ今回は余計なことをしでかす駄女神と、我慢のできない爆裂娘と入れ替わりで王都で大活躍している2人が加入しているのだ、これがカズマにとって心強い以外何が浮かぶというのか。そう思えば自然とカズマにもやる気はでてくる。そのやる気は他パーティにも伝わる、ただ2名を除いて。
「ま、私はどうせお留守番ですし?ちょむすけと戯れておきますよ」
「私もどーせお留守番だしー?いっそ酒場で飲んでいようかしら?」
「着いてきたいと思うならデメリット解消しようとしろよ!?」
どうやらカズマの口実は完璧ではなかったようだ。いじける2人にカズマ以外の面々は苦笑するしかできなかった。
……
キールのダンジョン
アクセルから最も近い位置に存在するこのダンジョンは本来初心者向けとされていて、アリスもまたテイラー達のパーティにいた頃には出向いたことのあるダンジョンである。だが近頃謎の自爆モンスターが乱入しているとの通報が冒険者ギルドに寄せられており、ギルドから立ち入り禁止を余儀なくされている。
その原因はいつの間にかアリスの背中にあったバニルからの挑戦状によりわかっていた。
ただ立ち入り禁止の状態で立ち入るのも後々面倒そうなので、冒険者ギルドには許可を取り、調査という名目で立ち入ることになった。
このダンジョンの階層は地下2階。そこまで深くもないので単純に攻略するだけなら半日もかからないのが一般的だ。だが新たな階層が発見されたらしく、そこには元のダンジョンの持ち主、キールがリッチー化して存在していたのを、以前カズマとアクアが浄化したらしい。
そんなダンジョンを進む4人は、あまりにも何もない状態に拍子抜けしていた。
「挑戦状にはトラップやらモンスターやら書いていたが…ここに来るまで見事に何もなかったな…」
そこは既にキールのダンジョンの2階奥。ダクネスを先頭にしてカズマが敵感知、罠感知をしながら続き、アリスとゆんゆんもそれに続く。更にカズマが来たことのあるキールがいた部屋に入る。
「…なんだこれ?前はこんなのなかったぞ?」
「…これはどういう事だ…?」
部屋の隅には大穴が空けられていた。奥には深淵より深し闇しか見えず、とても初心者向けとは思えない雰囲気を誰もが感じた。思わずカズマがごくりと唾を飲む。
ふと木で作られた看板が目に入れば皆がそれに注目した。
そこには『バニルのダンジョン』と丸文字で書かれていて看板の端には白と黒の仮面の絵までがある。そんなコミカルな看板はこの雰囲気に全く似合っておらず、逆に不気味でしかなかった。
…どうやらカズマ達はまだ入口にすら入ってなかったらしい。
見れば下へと続く階段を、ダクネスはワクワクしながら、カズマとゆんゆんは震えながら、そしてアリスは無表情で見えない闇を見つめていた。
おまけ(本編とあまり関係ありません)
「時にアクア様、貴女に再会したら是非とも聞きたいことがあったのですが」
「うん?どうしたのよアリス、神妙な顔をしちゃって」
「この姿になれたのはアクア様のおかげです、ですが1つだけ不満があるとすれば…前世より胸が小さいんですがそれについて」
「…貴女episode1読んできなさいよ、貴女なんて言ってる?」
「えっ」
「私はゲームのキャラクターそのものにしてほしいとは聞いたけど胸をどうこうしろとかは言われてないわよ?」
「…あっ」
アクア完全勝利