内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 52 バニルのダンジョン

 

緊張が高まる中、暗視スキルを持つカズマが先頭になり続くようにダクネス、ゆんゆん、アリスと一列で狭く暗い入口へと足を踏み入れる。

 

「今のところ敵感知も罠感知も大丈夫そうだけど…え、これマジで俺が先頭で行くの!?」

 

「だから言ってるだろうカズマ、私が先頭に出ると!!」

 

「駄目です、敵感知と暗視、罠感知と揃っているカズマ君なら1番安全ですのでこのままお願いします」

 

言いながらもアリスは関心していた。こうしてアーチャースキルの暗視と盗賊スキルの敵感知と罠感知を全て持つ冒険者という職業は思った以上に優秀だ。確かに一般的に戦闘になると他職に遅れをとるかもしれないがクエストは戦闘だけではない。少なくともダンジョンにおいてカズマ以上に頼れる存在をアリスは知らなかった。

 

しばらく歩くと松明のような灯りが見え、ひとつのフロアにでた4人は周囲を確認する。カズマが何も言わないので今の所は安全なんだろう。…と、皆が思っていたらカズマはピクリと反応した。

 

「正面に2匹!!反応が強いぞ!!」

 

カズマが叫ぶとともに待っていたぞとダクネスが前に出て白銀の剣を両手で構えた。赤い眼光が見えたと思えば湧き出てきたのは人間の顔に獅子の身体に蝙蝠の羽根と蠍の尾…マンティコアが(つが)いで姿を現した。

 

「なんだこの合成獣みたいのは!?」

 

「マンティコアの番いかっ、見るのは初めてだが問題はない、さぁ来い!」

 

襲いかかるマンティコア2匹、それも番い。ダクネスは即座にデコイを使いマンティコアを待ち構えた。その直後

 

「地獄の炎よっ!荒れ狂えっ!上級火炎魔法(インフェルノ)!!」

 

「…天空より墜ちろ、炎獄の槍…《ヴァルカン》!」

 

ゆんゆんの放つ上級火炎魔法は片方を極大の炎で焼き付くし、アリスの放つフレアタイトにより火属性が追加されたランサー(ヴァルカン)は炎を帯びた巨大な槍を召喚しもう片方のマンティコアに直撃すると、どちらの攻撃もそれらを撃破することに成功した。そしてそれを確認するなり一息ついたゆんゆんの目はキラキラと輝いてた。

 

「ねぇアリス?アリスの魔法って普段口頭の詠唱はなかったよね?今のは?」

 

「……めぐみんが考えてくれたのです…うぅ…恥ずかしい…」

 

「そんな事ないわ!凄くカッコよかったわよ!」

 

詠唱を後悔しているのか顔を赤くして俯くアリスにゆんゆんは紅魔族の琴線に触れたのかそのキラキラした眼差しを変えずに羨望の気持ちでアリスを称えていた。

 

「流石だな2人とも、こんな強そうな魔獣が一撃なんて……ダクネス?」

 

褒めたたえようとしたカズマだったがダクネスの異変に気が付く。ダクネスはその場で立ち尽くし仁王立ちの状態でプルプルと震えていた。そんなダクネスを見たカズマは諦めたように察した。

 

「…先へ進もう…」

 

振り絞って出たダクネスの言葉はそれだけだった。それを聞いたアリスもゆんゆんもまたカズマと同様に察した。

ダクネスは攻撃を喰らいたかったのだ。初めて見るマンティコアという魔獣の攻撃を肌で感じてみたかったのだ。見れば歯噛みまでしていたダクネスの顔はよく見えないが悔しそうにしているのがわかる。その性癖故に。

 

「…いや、お前らは何も悪くない、悪くないからそんな気まずそうな顔をする必要はないからな??むしろ気にせずどんどん頼む」

 

「「あ、はい…」」

 

カズマの言葉にアリスとゆんゆんは共に気まずそうに返事を返すしかできなかった。

 

 

 

……

 

 

 

 

ザッザッ…と、力強い足音がダンジョン内に響く。ダクネスのものだった。またも狭い通路を通っているのだが今回は灯りがある為に通路は見通すことができ、それならカズマの暗視スキルがなくても大丈夫だろうとダクネスが先陣を切ってでたのだが先程のことがありダクネスは不機嫌そうにしていた。

 

「…お前な…気持ちは全くわからないから共感はできないしわかりたくもないが状況を考えろ?相手は魔王軍の幹部なんだぞ?だったら道中の魔物なんてあっさり終わった方がいいに決まってるだろ?」

 

「カズマが何を言っているのかわからないな、私は至って正常だぞ?…そう、ただ盾としての役割の果たせないまま終わったことを騎士として嘆いているだけだ!」

 

「明らかに今思い付きましたって言い方してんじゃ………敵感知に反応きたぞ!また大きいのが2匹だ!…アリス、ゆんゆん!後ろだ!」

 

呆れ顔で着いてきていたアリスとゆんゆんだがカズマの一声でハッと頭を切り替える。狭い通路でありながら灯りはあるので視認することは容易だった、バッサバッサと音が聞こえてくると自然とアリスとゆんゆんは構えた。

 

「えっ…?グリフォン!?」

 

ゆんゆんの驚嘆とともに姿を見せたのは鷲の頭に獅子の胴体と手足、鳥の翼を羽ばたかせていたグリフォンというマンティコアと同じ程度の強さと大きさの魔物。

 

「アリス、ゆんゆん、下がるんだ!お前達は私がしっかり守って…」

 

「…猛き燃えて舞踊れ…紅蓮の嵐よ…《フレアテンペスト》!!」

 

ダクネスが庇うようにアリス達の前にでたと同時にアリスが放ったストーム(フレアテンペスト)による超極大の炎の竜巻は2匹のグリフォンを引き寄せると切り裂きながらもその身を焦がす。黒焦げになったグリフォンはどちらも息絶えたようでその場で倒れ伏した。一方アリスは未だに詠唱に抵抗があるのか恥ずかしげにしながらも疑問を口にした。

 

「…妙ですね、グリフォンが普通にいるはずがないです」

 

「ん?なんでだよ?ダンジョンなんだから色んな魔物がいるだろ?」

 

「違うんです、カズマさんも依頼書を見た事ありませんか?グリフォンとマンティコアは普段から縄張り争いをするほどの犬猿の仲なんです、こんな風に同じダンジョンにいることはまずありません」

 

ゆんゆんの説明を聞いてカズマは確かにと頷く。アクセルのギルドの提示板でも高難易度クエストとして確かにあったのを見た事があったのを思い出したのだ。今いる場所はマンティコアと遭遇した場所からあまり離れていないことも考えるとそれは不自然なことだ。

 

「…おそらく今のグリフォンは私達が通った後に何処かから転移してきたのだろう。いやそんな事はどうでもいい、重要なことではない」

 

「…お前な…今のは位置的にも仕方ないだろ?」

 

もはやダクネスが何を考えているのか理解しているカズマの突っ込みは早かった。アリスとゆんゆんもこれには苦笑するしかできない。

 

その後もワイバーンやら王都でクエストを受けるとメジャーとも言え、なおかつダクネスが戦ったこと…もとい攻撃されたことのない魔物が少数で出てくるものの、王都での活動がメインであるアリスとゆんゆんにとっては敵ではなく、ダクネスが攻撃を喰らう前にその全てをあっさり撃破してしまった。

 

なお、相変わらずアリスは詠唱を口頭でしていた。めぐみん発案の詠唱をそのまま。勿論アリスはそんなことをしなくても魔法は使えるので本来しなくてもいいことなのだがこれには理由がある。

アリスの魔法は魔法陣からの槍や竜巻などなど、召喚によるものが多い。それはイメージすることで術式が構築されるので単純になんとなく撃つよりも口で言うことでよりイメージしやすくなるのだ。実際に詠唱はスムーズに進み、若干ではあるが魔法の威力も高まっていた。決してめぐみんの自己満足なだけではない真っ当な理由があるからこそ、アリスも恥ずかしながら詠唱をすることをやめなかった。慣れたいという気持ちも大きいのかもしれない。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

「ふふっ…」

 

 

ダクネスは不敵に笑っていた。

 

それは決して穏やかなものではない、和やかなものでもない…何かが切れるような音とともに出た笑いなのだから。

 

「アリス!!ゆんゆん!!貴様ら…ぶっ殺してやるっ!!」

 

「「えぇぇぇ!?」」

 

「なんでだよ!?」

 

ダクネスがキレた。

 

鬼の形相でアリスとゆんゆんを追うダクネス。

 

必死に逃げるアリスとゆんゆん。

 

容赦なくダクネスを後ろからドロップキックするカズマ。

 

その場で倒されるダクネス。それはもう、盛大に前のめりに。

 

「…何をするカズマ!?味方を攻撃するなど正気か!?…いいぞもっとやれ!」

 

「鏡見てもう1回言えよ!!マジで何やってんの!?それとやらねーよ!?」

 

「お前に私の気持ちが分かるか!?まるで次々と出てくる御馳走が消えていくようなこの気持ちが分かるか!?」

 

「永遠に理解できねーよ!?アリスとゆんゆんが何をした!?」

 

性癖の暴走とはかくも恐ろしい。次に魔物が出てきたらダクネスに任せた方が良さそうだと、アリスとゆんゆんは心からそう思った。

 

……思ったのだがこれ以上とくに魔物が出てくることはなく、しばらく歩くと下へと続く階段が見えてきた。どうやらまだまだゴールは先らしい。既に疲労を隠しもしない様子のパーティ一同ながら、アリスは考える素振りを見せたと思えばその疑問を口にした。

 

「皆さん思い出してください、このダンジョンは誰のダンジョンですか?」

 

「「「あっ」」」

 

アリスの言葉に誰もが反応し、全員は何も言わずに固まってしまった。面識がなくても有名な悪魔であるバニルがどんな悪魔かくらいは皆知っているか事前に聞いていた。…このダンジョンはバニルのダンジョン、つまりあの羞恥やらの感情と好む悪魔のダンジョンなのだ。ダクネスの様子を見て今頃フハハハハと高笑いをしているに違いないし、そうなるとこのダンジョンのマンティコアとグリフォンがどちらも出てくるという異質なことにもなんとなく頷ける。先程のダクネスが言ったように魔道具で転移でもさせたのだろう。あくまで出てきた魔物はどれも1.2匹の少数だったことからも、あの魔物らが元々この場に生息している訳では無いことは充分に予測できるものなのだから。

 

「くっ…やはり悪魔などろくなのがいないな…!!」

 

ダクネスが怒りの声をあげるが他3人のダクネスへの視線は実に冷めていた。

 

「いやお前が性癖自重すれば済むだけの話だろ、ララティーナ」

 

「そうですよ、少しは自重してください、ララティーナお嬢様」

 

「え、えっと…私もそう思いますララティーナさん」

 

次々と飛んでくるララティーナコールにダクネスは完全に恥辱に飲まれて両手で顔を覆いその場にしゃがみこんでしまった。

 

「ララティーナと呼ぶなぁぁぁ!!!」

 

これすらも見通す悪魔の狙い通りなのだろうかと思えば、ダクネス以外の3人は諦めと苦笑しか出てこないのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

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